《たーにんぐ・ぽいんと




一度は失われてしまった彼の温もりに駆け寄って。縋りつくようにかきついて。
「…私…私、譲くんのことが好きだよ…!」
あの夜、伝えきれなかった言葉を、やっとのことで私は告げた。

「先輩…」
こくり、と咽喉を鳴らすような音がしたあと。





「―――先輩、こんな朝っぱらから俺をからかうのはよしてくださいよ」
やがて彼の口から飛び出した、あまりにあっけらかんとした答えに、その場で私は突っ伏した。


「かっ…! からかってなんかないよ! 今のはほんとに! ほんとの!! 私の正直な気持ちなんだってば!!」
「…先輩は、優しい人ですね。だからこそ俺を苦しめ―――…いえ、何でもありません」

ああっ、このセリフのパターンはいつかの夜、鎌倉で聞いた…!

「―――だから! 違うんだってば! 私が言いたいのはね、譲くんが考えてるみたいなそういう意味じゃなくて…!」
「分かってます。…俺も、先輩に幼馴染としてそんなふうに大切に思ってもらえるなんて、とても嬉しいです」


…むか。


とたん、ぴたりと動きを止めた私の状態の、何をどう解釈したのか。譲くんの手が宥めるようにそっと私の背を撫でた。
「ああ、こんなに震えて…よっぽど怖い夢だったんですね」
「…あのね、譲くん。念のためにここで解説させてもらうと、この場合私の言う『好き』っていうのはちゃんと特別な意味で―――」
「ええ、よく分かってますよ。俺が仲間としてここにいるって確認せずにはいられなくなるほど、夢で心細い思いをしたってことでしょう?」


むかむかむか。


…譲くん。いつだったかあなたが私に言った『自分の気持ちに気づいていてこんなことをするのか』ってセリフだけど。…私ね、今、この場で。当の、あなたに。そっくりそのまま叩き返したい気分よ…?

密かに怒りのボルテージをぐんぐんと上げていく私の心中も知らず、目の前の端正な顔が柔らかく微笑んだ。
「さあ、もうすぐ朝ご飯ができますから。元気を出してください。朝から先輩がそんな顔をしていたら、皆が心配します。気分を切り替えるためにも、もう一度お手水で顔を洗ってきたほうがいいですよ?」
まるでお母さんのような口調で言い含めると。さりげなく私の手を押しのけ、身を離そうとする。
その瞬間。


―――ぶち。


私のなかで何かが焼き切れたような音がして。
同時に、頭のなかから、日頃の自分の行いを反省しようとか、粘って地道な説得を続けようなどといった、殊勝かつ理性的な考えが遙か彼方へと綺麗に吹っ飛んでいくのが分かった。

…そう。そうやってあくまで、乙女の一世一代の告白をあっさり流しておしまいにしようってわけね。 ―――いいわ。そっちがその気なら。

私はこめかみに浮かびかけた青筋をぐっと押さえこむと。譲くんを見上げ、とっておきの笑みを浮かべた。
「…うん、分かった。それじゃ私、今からちょっと行ってくるね」
いったん踵を返しかけて、すぐに何か思い出したように振り返り。
「―――あ、でも…、その前にちょっとだけいい?」
くいくいと手招きをし、こちらにかがんでほしいと無言で訴える。
「…? 今度は一体何です?」
怪訝そうに目線のあたりまで降りてきた譲くんの顔を、今やすっかり鍛え抜かれた反射神経で、素早く手で捉え。
「!! 先ぱ―――」






―――噛み付くように、自分の唇を目的の位置へと落とした。






…これが私にとって、譲くんとの新しい関係の始まり。

私こと春日望美、十七歳。故あって剣をとっては京随一を目指す、花も恥らう乙女(自称)。
本日、かの人のご近所の幼馴染から、押しかけ恋人へ。

運命のターニングポイントを、私は今、確かに回りきろうとしていた。




遙かのマンガを読んでいたら、ふと降りてきたネタです。一途に神子ちゃんを想い続けて十ウン年。にもかかわらず、長年彼女にイタイ目に合わされて、という、お気の毒さでは天白虎歴代ナンバーワンのゆんたん。そのお陰で例の告白イベントでも聞く耳持ちゃしなかったゆんたん。ある意味神子不信と言ってもいいほどの彼に対し、神子ちゃんが告白をしたなら、こういう展開もアリなんじゃないかと思いまして。その瞬間頭に浮かびあがってきたのが、このお話のラストシーンでした。
そんな訳で、お話としてはありがちかもですが、ウチの神子ちゃんにしては珍しいお話に。…それにしてもこのお話、一応やるこたやってるっていうのに、ちーっとも色気がないですなぁ。とほほ(泣)

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