《外法帖異伝・ボサツ様がみてる》
其之陸(陰之參)
それは直感としかいいようのないもの。
あの人の身に起きたであろう異変を感じ取って、私はあの村への道を急ぐ。
ただ一度連れ去られただけの村。
深い森の中、強固な結界に守られた鬼たちの村へ。
でも結界が一体何の役に立つというの?
この世に私たちを隔てられるものなんて、なにもないのに。
あの人と私の間には陽の光だって入り込むことは不可能。
夜の闇も私達を遮ることなど出来やしない。
私の足が迷いもせずに、真っ直ぐにあの村へと向かっているのがその証拠。
遙か後方に足音が聞こえる。
あれは龍閃組の皆が私を追ってくる音。
無駄な時ばかり足が速くて、肝心な時にはなんて遅いのかしら。
いいえ、私の足の動きだって速くはない。
いっそ翼が欲しい。
空を飛んで、あの人を助けに行きたい…!
前方に見える一際高い杉の木はあの村の目印。
その根方に感じる禍々しい氣から、私はあの人を護らねばならない。
ついでにあの人が大切にしている鬼の村の人々も。
たとえ一度は私たちを引き裂いた憎い相手でも、全てを赦すのが主の教え。
そしてあの時手に入れ損ねた幸せを、今度こそ二人の手で掴みましょう。
今行きます、愛しい悪太郎さん!
◇◆◇
「若、嵐王改めてお願いしたき儀がございます。先程はお赦しいただいた我が身なれど、やはり罪は罪。どうかこの村を離れることをお許し下さい」
「ならぬ。ここに留まり我等に力を貸すこともまた贖罪。村を離れることは許さぬ」
「若…」
「俺も同感だ、嵐王。お前にはまだまだして貰わねばならぬ事も多い」
「尚雲…」
あの時、何故か内藤新宿から駆けつけた龍閃組の先陣を切って村に現れた菩薩眼の娘。
その形相、猛々しい氣の凄まじさに下忍の一人が震えながら呟いた言葉が九桐の耳に焼き付いて離れない。
「ここは安達ヶ原じゃねぇ…あんな恐ろしい鬼女はいねぇ筈だ…なまんだぶ…なまんだぶ…」
嵐王の肩に置いた九桐の手に、知らずのうちに力が籠もる。
「…一人だけ逃げることは許さない。特にあの女からは、な」
一見和解した鬼道衆内の仲間割れ、新局面を迎える?
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