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14/06/2002
大韓の民意

2試合
仁川
晴れ

決戦の日である。連れが帰国したFさんと午後1時半に待ち合わせ。街へ出て、スンドゥブを食べる。かなり辛いが出汁がよく効いていてなかなかおいしい。30年の歴史がある店だそうで、少々値段も高い。品のいいアジュンマが何人か働いている。

そのまま僕が泊まっている宿の隣にあるホフ(ビール居酒屋)へ行き、15時半からの日本戦を観戦。


日本 2-0 チュニジア。最初アイスティーを頼んだが韓国独特のアイス***は甘いということを忘れていた。甘ったるくてなかなか飲めない。僕たちのすぐ横では韓国代表の赤いTシャツにジャケットという出で立ちの欧州人らしいオヤジがビールを飲んでいる。試合の方は日本が支配してはいたが決定機はなかなか訪れない。じっと画面を見ているうちに前半が終わり、やはり緊張して喉が渇くのかあんなに甘ったるくて飲めそうもなかったアイスティーもなくなってしまった。とりあえず、前半を見る限り、1位か2位か分からないがグループリーグは抜けられそうな感はした。

ホフにてハーフタイム、「ビールでも飲んじゃう?」とどちらからともなく声が出てビールを頼むことに。先ほどのおやじはもうビールは4本目。そのうえ、韓国でR16戦を戦うアイルランド人が4人入ってきて、正しいフットボール観戦をはじめていたのでこちらも感化されたということもある。面白かったのが、この店は料金は後払いなのだが、彼らはパブの風習そのままにキャッシュ・オン・デリバリーで支払いをしていること。韓国人の店員もそれにきちんと対応している。ケンチャナヨなのか、欧米人に弱い大韓の事大主義の結果なのか。

後半がはじまる。市川そして、森島が出た。「森島は長居だから活躍しそうだ」などと思いはじめる間もなく後半開始早々ファーストタッチで点を決める。これで決まりだろう。チュニジアが日本から3点とるとは考えられない。安堵する僕たち。カスビールのあいかわらず薄い味も、はっきりとわかってきた。日本はますます良い。森島が再び頭でゴールを脅かすがポストに嫌われる。これなら欧州のファンも納得する試合なのではないだろうか。「ここまで来たんだなあ」と感慨にふけっていると市川からいいタイミングでクロスが。そこに中田が飛び込みヘッドで2点目。決まった。となりの親父も拍手をしてくれて、いつのまにかいた韓国人のオヤジもサインを送ってくる。

試合終了。ついにグループリーグを抜けた。次の相手は宮城でトルコ。これは、なかなか良い試合になりそうだ。その日、僕は大田に行くつもりだから、つまり今日ポルトガルが1位抜けしてイタリアとの試合を見に行くつもりだから、その試合は高速バスターミナルで見ることにしよう、と思う。


店を出て鐘閣駅から1号線で仁川行の電車に乗る。そろそろ通勤帰りの人々が乗っているということもあるだろうけれど、なにより今日は韓国戦。レプリカや赤いRedsTシャツを着たファンが多い。試合開始3時間前でこの混雑というのは試合を見る人もだが、どう考えても、仁川のスタジアムそばで盛り上がろうという人も多いのではないだろうか。僕としてはポルトガルと韓国が抜ければ丸く収まるわけで、とりあえずそういった順位争いを加味したフットボールを見られれば。と、考えながら、プピョン(富平)駅まで混雑する車内のつり革につかまっていた。

プピョン駅に着き仁川市営地下鉄に乗るために地下のホームへ降りていくとそこはたいへんなことになっていた。大韓精神がいかんなく発揮された無秩序の中の秩序。目前のことに集中する若者を中心とした韓国人であふれている。誘導やら入場規制はない。とにかく誰でもそこまで行って来たら乗る。それだけだ。こちらも遠慮していては乗れなくなってしまう。とにかく来た電車に乗り込む。東京の通勤電車の混雑よりひどいと連れがいう。この時間でこれだけの人がいるということは、やはりどう考えても試合を見に来た人だけではない。スタジアム周辺で行われるパブリックビューイング目当ての客だ。とんでもないことになってしまった。

構内まさにすし詰めの電車がムンハキョンギジャン駅にやっと到着する。ドアサイドにいた僕たちは混雑に巻き込まれないようにダッシュで階段を駆け上がる。しかしコンコースにも、すでに、人、人、人の波。ただ、この駅は改札の数も多く、階段も広くとってあるので、とりあえずすんなりと地上へと上がることはできた。しかし、惨状は続く。今度はおそらく待ち合わせの客たちが地下鉄の入口付近でごったがえしている。人の林を掻き分けてスタジアムを目指す。とにかく早く入場しよう。考えていたのはそれだけだ。


入場待ちやっと入場口に到着。外国人専用と書かれた入口に並ぶ。しかし、すでにその列の前には韓国人がたくさんいる。ハングルでも書いてあるのだがそんなことかまっていられないのだ。隣はバッグなどがない人々用の入口になっているのだが、こちらもおかまいなしで大きな荷物を持った韓国人がどんどん並ぶ。これぞ大韓だ。後ろにいたポルトガル人カップルなども僕と同じようなことを考えたらしく、しきりにブツブツ文句を云っている。前に並んだイングランド人らしいふたりはこの状態に「ステューピッドゥ」と声を荒げる。いやはや、そんなことを云っても無駄なのだ。これぞ大韓なのだから。僕は長年の経験でこういった場合の韓国人の行動に慣れているので、諦め半分で笑っているしかない。10分後やっと入場。Fさんと帰りに落ち合う場所を確認して、彼はカテゴリー1の席へ。僕はポルトガル側のカテゴリー3の北側の席へと向かった。

red devilsスタジアムの北側を回りこんで歩いていく。「テーハンミングッ」の大合唱がすでに聞こえる。嫌な感じがする。まさかなあ。しかし、入ってみると、まさに、そのまさかだった。当然ほぼスタジアム全部が真っ赤ではあったが、なんと韓国代表のサポーター集団が北側ゴール裏全面を使っていたのだ。なんなんだ??これは??。もしも危険国同士の試合だったら血を見るぞ。「ポルトガルからわざわざ極東のよく知らない国まで来る人間は多くないのだから、俺たちがいつも使っている北側を使うのはかまわないだろう」ということなのかもしれないが、いやはやなんとも。水原や全州で会ったポルトガルTSTを買った日本人の若い子達も困惑気味だ。席にはゴール裏全面を使って「テ・ハン・ミン・グ」とハングルで人文字を作るためのダンボールが貼りつけてある。大韓精神ここに極まれリ。ホームだから何やってもいいのだ(苦笑)。ということで、韓国サポーターの少々聞き飽きた大声援の中で試合を見ることになってしまった。


ポルトガル 0-1 韓国。今日もドイス・ボランチのポルトガルだが韓国の大声援の超アウェイの中、なかなか形を作れずに韓国に押し込まれる展開。フィーゴもぴったりとマークされてなかなか前で仕事をさせてもらえない。そんな中、ジョアン・ピントがレッドカードで退場。やはりあの韓国の応援に圧倒されたのか。結局、前半は0対0。とにかく勝たねばならないポルトガル。10人なったが、なんとか得点を、と思う。もちろん韓国にも抜けてもらいたいのはやまやまなのだが…。気になったのが全州ではポルトガルの応援をしてフィーゴ、フィーゴと叫んでいた日本人の何人かの若者が今日は大声をあげて「て〜はみんぐっ」と叫んでいたことか。どっちでもいいのだろうか?。考えてみれば、僕も両チームが抜けることを願ってはいるのだが。

と、そんなハーフタイム、あたりでアメリカが0対2で負けているという報が入る。このまま0対0でいけば、韓国が1位、ポルトガルが2位。韓国からすれば1位抜けした場合イタリアとの対戦となるのだから、ここはポルトガルに負け2位となりR16でメヒコとの対戦を選ぶということも出来る。なんとも、非常に贅沢な状況になってきている。そのうえ、国をあげてあれだけ敵愾心を燃やしていた憎んでも憎みきれないアメリカを蹴落とすチャンスだ。さらに世界中に少なくはないであろうポルトガルの試合を決勝トーナメントで見たいと願う人々の望みもかなえられる。

負けることを良しとしないのはどの国でも同じだが、この場合は違う。ポルトガルに負けたところでフットボールファンは韓国が弱いなどとは云わわけがない。逆にフットボールを分かっているチームとして尊敬の念を持つだろう。負けて得を取るということもある。これぞフットボールなのだ。

後半、ポルトガルに二人目の退場者が出る。これで9人になってしまった。だが、点は取れなくてもなんとか守り切れるのではないだろうか。そう、どこにでも携帯電話もテレビもあるこの時代。情報は行き渡っており、今何をすべきかは両チームとも、分かっているはず。必要な結果は、もちろん引き分けである。そして韓国も贔屓する僕としては、ここは負けろ、と願っていた。もちろんR16を考えてだ。

大極旗が、しかし、なんということか、僕は大韓精神の本質を忘れていた。目の前のことで燃え上がり他のことは考えられない人々が多くを占めるこの国の本質を。そしてその人々を満足させなければならない韓国代表を。その瞬間、陳腐な表現は覚悟して云うが、目を疑った。信じられなかった。反対側のゴール裏でのあの瞬間を。パク・チソンが若かったというだけではないだろう。韓国代表の選手が、スタジアムのサポーターが、そしてほとんどの韓国国民が願っていたのだろう。いや、そうでなければ、あの状況下で得点するなどと云った行為は考えられないのだ。おそらく韓国の選手たちはポーランド対アメリカの状況を知らなかったのかもしれない。しかし、結果は結果だ。


韓国の得点からしばらくしてFさんから電話が入り、すでにスタジアムを出て、待ち合わせ場所にいるという。彼は信じられないモノを見てしまったと呆れて出てしまったようだ。僕ももうそろそろ出ようかと思っていたので好都合だ。そそくさとスタジアムを後にして、地下鉄に乗りプピョンへ。すでに仁川周辺にいた韓国のファンが途中の駅で乗ってきて車内はかなりの混雑になっている。プピョンの駅もすでにたいへんな人だかりだ。僕たちは一駅仁川方面へ戻って座って帰ることにした。

車内では放心状態で口数も少なかった僕たちは、約45分後チョンノサムガ(鐘路三街)の駅に到着。あたりは、覚悟はしていたが案の定、お祭り騒ぎ。「てー・はん・みん・ぐ」の大合唱があちこちで起こり、鐘路は車道を走り回る若者たちをバスと車が掻き分けて進んでいくといった按配。運転手は怒っているのではなく、クラクションで「てー・はん・みん・ぐ」である。花火があちこちで打ち上がる。ここぞとばかり、爆発する人々がそこにいる。


ゴール裏もちろん、16強入りは喜ぶべきことだ。確かに。しかし、アメリカの16強入りは悔しくないのだろうか。僕は悔しい。その上ポルトガルが終わるなんて。信じられない結果だ。この結果が意味するところは世界ではひとつだ。韓国国民はアメリカが好きなのだ。もちろん目の前の勝利を良しとする大韓精神がすべてをぶち壊したのだが、世界はそんなことは知らない。

試合を冷静に振り返ってみれば、さすがにレッドカード2枚で9人なってしまっては試合になるわけがない。それよりなにより初戦の対戦相手のアメリカを舐めていたということもポルトガルの失敗だったといえる。これは正当な結果なのかもしれない。強いものが勝つという正論からすれば。

だけれど、それでも、だ。この結果は不幸としかいいようがない。喜んだのは韓国人だけ。ポルトガル人と今のポルトガルの試合をひとつでも見たいと願う人は悲嘆に暮れ、アメリカ人のほとんどは「So what?」でしかない。そしてR16の試合のひとつはゴールドカップの決勝戦だ。いや考えてみれば、韓国にとってもR16の相手がイタリアというのはどうなのだろうか。わからない。しかし、すごいことになってしまった。

そんなことを考えてはみたものの、とにかく、お腹がすいたので、アグチム(アンコウの唐辛子炒め)を食べる。辛いがおいしい。食べならがら話していたのだけれど、もしかしたら日本が勝たずに引き分けで抜けていたら韓国は勝たなかったのではないか、と。これはありえる。大韓精神が日本より下になることを許すわけがない。日本が勝ったなら勝利しかない。日本より下になることは断じて許されない。総得点では負けるがそんなことは関係ないのだ。


ソウル市内いま、こう書いていてふと思う。韓国ではフットボールは行われていないのかもしれないと。日本は「サッカー」から「フットボール」へと変容しつつある。少なくともピッチの上では。そう、韓国で行われている「フットボール」と似たスポーツは大韓精神のもとに育まれた「ちゅっく」なのではないか。今日の結果は「フットボール」ではないけれど、「ちゅっく」と「フットボール」の異種格闘技戦だったと思えば、ありえないことではないのかもしれない。ということで、僕のポルトガルTSTでのR16の試合はグループ1位のチームの試合を見ることになった。それは韓国。相手はイタリア。「ちゅっく」対「カルチョ」である。

旅館への道すがら、まだ花火が飛び交い、「て〜はんみんぐ」の声は朝が来るまでソウルの街にこだましていた。