平成13年6月10日シンポジウム「在宅ケアを定着させるために」要旨 

記録 堂垂伸治


 シンポジウムは多くの聴衆が参加され、また現場で実際に汗を流して仕事をされている方々の発言で貴重で為になる話しが多いものでした。後日その詳細もここにアップする予定でおりますが、今回は私がお聞きした範囲で要旨という形で掲載致します。(もちろん本内容に関しては私が責任を持つもので、記憶違いや誤解がありましたらご容赦下さい。)
*コーディネーター 苛原 実氏 医師(いらはら診療所 理事長)
*司 会      和田 忠志氏 医師(あおぞら診療所 院長)
* シンポジスト  
   福嶋 浩彦氏 市長(我孫子市)
   堂垂 伸治 医師(緑星会どうたれ内科診療所 理事長)
   池田 徹氏 介護保険事業者(生活クラブ生活協同組合 理事長)
   宮崎 和加子氏 訪問看護婦(特医財健和会訪問看護ステーション統括所長)
   服部 万里子氏 ケアマネジャー(城西国際大学 教授)

*シンポジスト基調発言
福嶋 浩彦氏 市長(我孫子市)
 介護保険が始まるに先立ち、平成12年3月に、我孫子市では独自に「痴呆性高齢者の調査」を行った。それは痴呆性高齢者の24時間の生活に関して計2日間、15分間のタイムスタディであった。30世帯から聞き取り調査を、5世帯から泊り込み調査を行った。その結果、家族が痴呆性高齢者に費やしている時間は13時間14分で声かけや見守りの時間が長いことがわかった。家族が自分のものとして使える時間は3時間29分しかなかった。以上から我孫子市は痴呆の認定にあたり介護認定の2次判定に際し、まず要介護3からスタートする制度とした。
 スタート直前のことであり、現場も苦労したが、審査会委員の協力も得られた。当時の厚生省との交渉も大変であったが、介護保険の主権者は市民で、責任者は市長にあるので、がんばって対処してきた。
 今後はコンピュータによる1次判定からの見直しが必要である。
 また今後我孫子市としては、ホームヘルパーをもっと使ってもらえるような制度やプログラム作りを心がけ、痴呆性老人に対するヘルパーの研修も必要と考えている。

服部 万里子氏 ケアマネジャー(城西国際大学 教授)
 私は渋谷区でNPO法人を設立し、ケアマネジャーの仕事をしています。ケアマネジャーは本来、中立・公正で特定事業者の利用や利益を誘導する事は禁止されています。私は、ケアマネジャー業務はサービス提供者から独立して行うべきという考えでおります。
 サービス事業者とケアマネ事業が併設されていると、サービス事業者による要介護者の囲い込みや、サービスの競争が無くなり寡占化が進み、質の低下を来たし、いわゆる「おいしい所だけをとる」という問題が生じます。
 「NPO渋谷介護サポートセンター」では、現在約100件のマネージメントを行っていますが、導入したサービス事業者は33件、顧客満足度は88%で、それぞれ全国平均の6〜10件、渋谷区における満足度の61%を上回っており、独立型であるがゆえに、地域の最適なサービスを導入しやすく利用者のためになると考えています。
 しかしながら現在の介護保険のケアマネジャーへの報酬では財政運営上は困難で、寄付金に頼らなければやってゆけないのが実情です。今後地域への働きかけや政策の提言、協働関係の構築が必要と考えています。また業務が忙しい、サービス担当者会議が開けない、ケアプランとサービスの調整機能が未熟などの問題点も感じています。

池田 徹氏 介護保険事業者(生活クラブ生活協同組合 理事長)
 私たちは94年に訪問介護を有償ボランティアで開始して活動してきたが、介護保険が開始される事に伴い、00年から介護の分野に"事業として"参加することとした。21のケアグループがあったが、アンケートをとった結果が「事業参加」を表明するものであった。その際、あえて「心のケア」という言葉を避けて、「介護の技術をしっかり身に付けよう」という方向を打ち出した。
 現在、9箇所の事業所で計2万時間の介護を行っており、財政的にも成り立っている。
 また95年から準備し、八街市に特別養護老人ホーム「風の村」を5年がかりで完成した。既存のものをいろいろ調査したが、「自分が住むとしたら」という考えで建設し、57室からなり、グループホームが8個集まった形とした。
 今後ケアの標準化の作業が必要で、自分たちのサービス自体を評価する自主監査制度を考えている。それにはまずケアについての手順を整理する事が必要と思う。
 在宅ケアを定着させるには、第1に充実したケアプランが必要なこと、第2にホームヘルプサービスの報酬単価を一本化すること、特に身体介護と家事援助は一体的に行われておりこの点を政治や厚生労働省に考慮していただきたい。また
第3に、既存施設を活用し「施設の在宅化」を行うべきである。

宮崎和加子氏 訪問看護婦(健和会訪問看護ステーション統括所長)
 健和会は16箇所の訪問看護ステーションを有し、現在1600人の在宅患者さん、1000人のケアマネージメントを行っています。私は現在、痴呆性高齢者のグループホームの立ち上げに関与していますが、また教わることが多い日々です。
 寝たきり老人の歴史を振り返ると様々のことが見えてきます。
 寝たきり・痴呆老人は介護保険の枠内だけでなく幅広く捉えるべきです。
 寝たきり・痴呆老人へのケアの捉え方はこれまで極めて貧困といえ、もっと豊かに対処すべきです。
 また介護はプロが中心となって行うべきで、介護にたずさわっている人々は現状では未熟といえるのではないでしょうか?
 さらに介護保険は現状では「家族支援」のためにしかなっておらず、本来の患者さん・要介護者本位の形にしてゆかねばならないと考えます。

堂垂 伸治 医師(どうたれ内科診療所 院長)
在宅医療を阻む要因は、3つある。それは@急性期医療の内容、A増悪期に入院する際の管理、B施設入所の問題である。関わるものとしては要介護者の重症化と介護者の弱体化を防止しなければならない。
 平成13年4月に行った松戸市医師会会員向けの「在宅ケアに関するアンケート調査」からは、依頼に応じて訪問診療を行う先生方も結構おられるので、関係事業者が主治医に積極的に依頼してみる価値がある。松戸市では、介護保険の対象者数は約5000人であり、医師の関わりはまだまだ不十分で、特に要介護度の高い医学的管理が必要と予測される要介護者の方への関わりが今後望まれる。今後、在宅医療・訪問診療に関する情報公開に向けて努力したい。
具体的には、T.既存建築物の有効再利用、U.介護保険運営協議会に対する提案や監視、V.施設ケアは限界という認識で「高齢者を地域で看て行く」という共通理解が必要、W.地域ネットワークシステムの構築が問われている、X.医師育成過程の改革(医学教育、卒後教育)、Y.一般市民へのかかりつけ医および在宅ケアの再認識、 Z.保険点数上の誘導、[.要介護認定の改訂を改訂して介護者と要介護者の社会的要因も勘案して判定するべき、等を提案・提言したい。

シンポジウムを終えての感想
 我孫子市はさらに在宅ケアの推進を目指して、支給限度額を超えて利用した場合にその超過分の5割を市が負担する制度や、住宅改修への援助なども手厚くする方向である。我孫子市長の熱意と手腕と政策に敬服するところ大であった。このように各市町村は自らの工夫と努力が可能なのが介護保険であり、正に「地方分権の試金石」である。ひるがえって当松戸市ではこうした積極的な意思表示は未だ認められない。あくまでも実務的な執行のみで、首長から市民への「温もりを感じる」メッセージは為されていない。秋田県鷹巣町の岩川徹町長の「介護保険の成否は結局、市町村長がやる気になるかならないかの問題」という言葉を今ー度思い出すところである。
 また討論では、「ケアマネジャ―は併設型が良いか、独立型が良いか」が議論された。併設型は様々のサービスの提供している人々が一体化しており多量の情報が入り、要介護者の全体像が判りやすいという論理であった。また経営的な観点から独立型と併設型では単価を分けるべきであるとも主張された。私はこの点に関しては、調剤薬局の「調剤基本料」の考え方の導入が適当ではないかと考えます。この調剤基本料とは、「特定の保険医療機関からの処方箋の集中度が70%」以下と以上で調剤報酬に差を設け、同一の医療機関に偏らないように点数傾斜をもたせています。ケアプランの作製報酬もこの考えで、単一業者との関わりが一定の率を超える居宅介護支援事業者には制限した点数を配分し、多くの業者との関わりをもっている事業者を優遇する形をとるべきであると考えます。
 第3に、席上、介護保険以前のサービス量を介護保険に当てはめたら「100人中30人で基準限度額を超えていた―したがって基準限度額の引き上げが必要」との考えが語られた。しかし私はこれには―語弊があるかもしれませんが―「それはサービス過剰だったのではないか、やりすぎだったのだ」と率直に疑問を感じました。今日、地場にサービス業者が増えているのは好ましいことではありますが、過当な競争や過剰なサービスの提供は財政的な問題に行き着きます。医療保険の分野では、アメリカの2.3倍のCT台数が「検査漬け医療」の象徴として語られているように、過剰な設備投資は保険財政の健全な運営を妨げ、ひいては国民の負担となってのしかかってきます。環境問題でもそうであるように、もはや「限られた資源や財源をどう有効に使うか」という発想が必要な時代だと考えます。せめて介護保険の分野では節度ある財政運営を期待できないものでしょうか?その成否は市町村ごとに直接的な数字が出てきますので、「賢明な運営」が必要と考えます。
 第4に、私はやはり地域ネットワークの構築を訴えつづけたいと考えます。顔と顔をつき合わせた交流や情報のやりとりは、何倍もの効力を生むはずです。在宅ケアの現状は厳しいものがありますが、地域の力で解決可能な事柄も多々あります。小・中学校の高齢者への開放などは地域住民の協力がないと進みません。PTAや教育委員会・学校関係者の協力も必要ですし、地元政治家や首長の姿勢も大事でしょう。改造に際しては、建築家や建築業者も関わってまいります。専門職のみならず市民も加わったネットワークが、正に「介護保険を契機に地域社会の再構築」につながるものと考えます。