あなたのソバにいなくてもいい
アナタノソバニイタイ

あなたのその力強い瞳に私が写っていなくても
アナタノソノヒトミニ、ワタシノスガタヲウツシテホシイ

ただ、アナタを見ていられれば
タダ、ミテイルダケナンテイヤ

愛してくれなくても良い
ワタシヲアイシテホシイ

それが、私の
ソレガ、ワタシノ

本当の心……?
ホントウノココロ


偽りと本音


暖かい、むしろ暑いくらいの太陽の光がサンサンと降り注ぐ中

―― そんなもの関係ないわっ!

とでも言うように、テニスコートを囲んでいるフェンスの周りに
女子生徒達が群がっている。
聞いているこっちが恥ずかしくなるくらいの黄色い声で
キャーキャーと叫ぶその叫びの中に「キャーっ! 不二クーンっ」だの
「手塚君、カッコいい!」だのという声が聞きとれた。

そして胸を騒がせるのは「リョーマく〜ん、こっち向いて!」と言う甘い声


いってしまえばいつもの光景。
それを、すでに空となった とある教室から見つめている人影があった。

少女の名は……竜崎 桜乃

「はぁ……やっぱり男テニの人は、人気あるなぁ」

そうつぶやいている当の本人にも、男テニの中に気になっている人はいる。
いるのだが、テニスコートがあの状態。
しかも、本人が比較的、内気な性格であることも手伝って近づこうとも近づけないのだ。

時々、男テニの顧問であるおばあちゃん・竜崎 すみれに
自分が孫と言うこともあり用事を預かった時に近づくことは出来るが
これも滅多にあるものではない。

はぁ……

何度目かも分からないくらいの溜息は風にさらわれて消えていく。

外へと意識を持っていけば、目に付くのは相変わらずフェンス越しに騒いでいる女の子達。
その声の中からハッキリと聞こえた声にまたしても思わず反応してしまう。

「リョーマ君っ!」

―― ドキっ……

女の子らしく、可愛らしい……別名甘い声
そんな声に囲まれているリョーマ君が気になってみてみると
当の本人は試合の方に夢中で気にしていないご様子。
その姿に、ちょっと安心している自分が居る。
でも、それでも、おさまることのない想いが、ふつふつと沸いてくるのが解った。
自分が自分ではないような……嫌な感情
多分これは

嫉妬

認めたくなかったんだと思う。
醜い自分を認めたくなくて、距離を置いて、自分を偽っていた。

傍にいなくても良い。そう、試合の時の真剣な瞳を
その力強い瞳を向けてはくれなくても

振り向いてなどくれなくても。

アナタのことを見つめるだけで、満足


それは、私の

本当の……気持ち?

チガウ、違うんだ。
それは偽り。
アナタに見て欲しくなくて
こんな私に気付かないで居て欲しくて、ただ偽った



そうだ、それなら私の本音は?

少しずつ少しずつ、生気の抜けていた瞳に力が宿る。
桜乃の瞳の奥に一筋の光が差し込む。もう少しで本当の、心の中の声が聞こえてきそうな

後少し…………アトスコシデ タドリツク

―― ザワザワ ――

(………!?)

徐々に騒がしくなっていくコートに気がついたのはその時だった。
突然のざわめきが気になって、おそるおそる外を見る。
きっと今、とても醜い顔をしているだろうから自分のこんな嫌な顔が見えないように注意しながら。
どうやら試合が終わったようだった。菊丸先輩が勝って、リョーマ君が負けちゃったみたい。

帽子を深くかぶり、俯いているリョーマ君の表情が全然解らなくて
それが、何だか気になって

多分少しでもリョーマ君の気持ちを汲み取ろうとしたんだと思う。
自分でも無意識の中で、身を乗り出していた。その瞬間。

(…………え?)
突然、リョーマ君はその整った顔を上げた。少しつり目の力強い瞳が、私を捉える。

とたんに赤く染まってしまった私の顔は自分でも顔から火が出るんじゃないかと思ったくらい。

(……熱い)

こんな顔、見られたくないから、慌てて視線をはずす。
少し落ち着いてきた心臓の鼓動を押さえ込みながら、もう一度様子を伺うように見れば

またかち合う、視線。

気のせいじゃ、ない。

只でさえ真っ赤な頬が更に色づいてしまった。でも今度は目を逸らせない。

その時、何か言葉をつむぐようにリョーマ君の唇が動いた。
多分、近くにいる人でも聞き取りにくいような声量。
ココまで声が聞こえるはずはない。だというのになんて言ったのか解った気がした。

―― まだまだだね ――

風に乗って……吹き抜けていくような声まで聞こえた気がして。

その言葉が届いたとき
今、やっと解った自分の本音

アナタのソバにいなくても良い? チガウ、あなたのそばにいたい

あなたのその力強い瞳に、私が写っていなくても? ウウン、あなたの瞳に、私の姿を映してホシイ

ただ、あなたを見ていられれば? タダ、見ているだけなんて嫌

愛してくれなくても良い? チガウノ  私を愛してホシイ

それが私の

本音

それが私の


ホントウノココロ







―― あとがき ――

反転文字、気がつきました?