髪と桜 春と風
季節は春
この日、偶然にも いつもより早く起きた桜乃は、折角だから……と
余裕ある時間を楽しみながらのんびりと学校に向かっていた。
華々しく咲き誇る満開の桜を見上げている一人の少女……竜崎桜乃
つい最近中学生になったと思うと、もう桜乃も中学二年になる
(早いなぁ……)
なんて考えながら、ちょうど一年前と同じように咲き誇る桜をただ見上げていた。
自分の名前に桜の字があるせいなのか、桜には何故か親密感が生まれる。ちょうど今が見頃。
思わず見とれてしまうような魅力があった。
ずいぶん長い間、桜を見上げている桜乃
先ほどから、道行く人がチラチラとそちらに目線を動かしているのは
桜だけではなく、桜を見上げている少女の姿がとても自然で
不思議な印象を称えていたからかもしれない
時折吹く風が心地よく通りすぎていく。
ホンワカとした気分にひたって、桜を満喫していると
ザーーーーっ!
突然の強風が吹き抜けた。
ついさっきまでサラサラと心地よく吹いていた風が突然姿を変えたのだ。
ずいぶんと長い間吹き続けている風に桜乃のトレードマークでもある三つ編みにした
長い髪がはためいた。
ザーーーーサーーーサラサラ……
少しずつその力を弱めていった風にホッとした桜乃はそろそろ学校へ行こうと歩みを進める……
「……っ痛」
しかし突然、後頭部に感じた鋭い痛み。何かと目線を移せば
今まで見上げていた満開の桜の枝に、自分の髪が引っかかってしまっていたのだ
「あーあ……」
慌てて、その枝から自分の髪をほどこうとするが、こういうときに限ってなかなか出来ず
焦れば焦るほど難しく絡んでしまう。
「……あれっ……んっ……上手くできないなぁ……早起きして置いて良かった」
背伸びをして枝に近づき、髪を解きやすい位置まで上がっているが、この体制は凄く疲れる。
長時間、腕を上に上げる姿勢をとり続けたために、だんだん腕は疲れてきて言うことを聞かなくなってきた。
「……仕方ないかなぁ」
しばらく悩んでいた桜乃だったが、ついに意を決して
おもむろに制服のポケットの中からソーイングセットを取りだす。
このままこうやっていても埒が開かない気がしてきたし
何より、ずいぶんゆっくりと桜を眺めていた分、時間を気にし始めたからだった。
確かに長い間ずっとのばし続けてきたのでかなり悩んだのだが
髪なんて放っておけば伸びるのだし、ココで切ると言っても少しだけ。
あまり変わらないから……と
取りだしたソーイングセットから小さいハサミを出して枝に絡んでいる部分近くに刃を添えた。
少しためらいながらも手に力を入れかけたとき
「ねぇ」
背後から聞き覚えのある声。
「!?!」
驚いた、振り返った先には越前リョーマの姿。
「リョーマ君!」
「……何やってんの?」
「ぁ……枝に髪が引っかかっちゃって、全然とれないから、いっそのこと切っちゃおうと思って」
「ふーん」
それきり何も言わないでそこに佇むリョーマを不思議に思っていた桜乃だったが
(?……あっそうだ時間!早くしよう…)
自分のやるべき事を思い出して、驚きにおろしていたハサミをまた髪に添える。
すると
トンッ
と誰かの手によってハサミを軽く制された。
「?」
「切んの……勿体ないじゃん」
「……え?」
突然そういうと枝に絡んだ髪を少しずつ、確実に説いていく
自分とあまり変わらない身長のはずなのに、その指はとても器用で
まるで手品を見ているようだった。
自分があれだけ頑張ってとれなかった髪が、リョーマの手でスルスルと解かれていく
さらっ
「あんたの髪、綺麗じゃん。切ったりしたら」
突然かけられた言葉に顔を真っ赤にしている桜乃の髪に手をかけ、片方の三つ編みを自分の目の前に持っていくと
「……勿体ない」
と呟いた、普段の彼らしくない行動や言動の数々に、ただアタフタとしている桜乃の反応を
楽しむように見ていたリョーマだが、さすがに時間を考えると学校へ行かないと間に合わない。
それを思い出させるかのように
「ねぇ、髪 とれたよ。……ガッコ」
「! あっそうだ行かないと!」
思い出し、急いで学校へ向かう二人の姿を、残された桜だけが
ただ見守っていた。
「ねぇ、リョーマ君!」
「……なに?」
「ありがとう!」
「…………別に」
桜乃の満面の微笑みに微かに顔を染めたリョーマの姿があったとか なかったとか
【END】