『EMS』
焼け石の水。でも水は水だから、けっこう効果はあったようだ。
MS−DOSというのは大昔にできたものだから、今の世の中で使おうとするといろいろ不便が多い。一番まいってしまうのは、メモリーが640Kバイトに制限されているということだ。東名高速が2車線しかなかったおかげで大渋滞するみたいに、作った当時はこれで充分だと思ったらしいけれど、充分だと思ったものは必ず足りなくなるのですね。
高速道路とコンピュータがちがうところは、自動車なんかいくら渋滞しても待たせておけばいいけれど、コンピュータはあんまり待たせるとハングしてしまったりして、大事なデータがぶっ飛んでしまったりする。これ、たいへんにまずい。なんとかしなければいけないわけである。
東名高速道路は長い時間をかけて3車線工事を進めているが、MS−DOSは2車線までしか認めていないので、3車線工事をするわけにはいかない。そこであみだしたのが、大きな駐車場を作って、走っている車と止まっている車をぱっぱぱっぱと切り替えるという戦法だ。
いささかめちゃくちゃなたとえ話になってしまったけれど、640Kが2車線、自動車が動き回っているソフトウェアだ。この方法があみだされたので、機能を拡大して、640Kのメモリーではどうにも動かしきれないソフトが、一応ちゃんと使いものになるようになったのだった。再度めちゃくちゃなたとえをすれば、車の半分だけ駐車場に残しておいて、2車線の道路に4車線分の幅の自動車を通してしまうようなものである。
EMSってのはエキスパンデッドメモリーシステムの略で、拡張記憶装置ってところ。マイクロソフトとインテルとロータスの共同規格なんだそうである。
日本では、ワープロソフトで有名な『一太郎』が、いち早くEMSを採用。でもメモリーがまだまだ高かった時代に、EMSメモリーがなくては動かないソフトを売りだしてしまって、『一太郎』は貧乏人の敵と冷たい視線を浴びたのだった。それでも地球はまわり、『一太郎』は売れている。
EMSをはじめ、メモリーの設定はむずかしくもめんどくさい。DOSマシンの敷居の高さは、このあたりが第一歩である。
『EXEファイル』
MS-DOSを勉強していると、いろんな3文字塾語が出てくる。EXEはその筆頭だ。『いーえっくすいー』などと読んでいる場合ではない。英語の『Execute』の最初の3文字で、日本語でいえば『実行ファイル』というのが正しい。コンピュータ上の記録やプログラムはすべてファイルと呼ばれているが、その中で実際にお仕事をしてくれるファイルが『実行ファイル』だ。
ときどきまちがって、ワープロソフトのようなもので実行ファイルの中をのぞけてしまうことがあるが、そうするとぎょっとする文字が視界に飛びこんでくる。人間が読めないから、こういうのは機械語と呼ばれている。コンピュータには、こういう文字が読めるのだ。このとき、ファイルの中のほんの1文字でも書き換えてしまうと、この実行ファイルは2度と仕事をしなくなる。人間にも機械にも読めないファイルになってしまうのだ。
マッキントッシュにはEXEファイルと呼ばれている存在はないが、そのかわり『アプリケーション』という書類(英語ではドキュメントとか呼ばれている)がある。これが実行ファイルである。
EXEファイルなんて意味不明の言い方じゃなくて、日本語で実行ファイルと表記されていたら、コンピュータアレルギーはもっとずっと少なかったのではないかなぁ。
『FD』
こういうのはたいてい英語の頭文字である。だからフロアダンスでもファイナルディスカウントでもいいのだが、コンピュータ関連だったらFはFlopyのFだから、要するにフロッピーディスクのことだ。
ただしDがなんであるかは問題で、ディスクであるという説とドライブという説がある。フロッピーを入れると分分回るモーターが入っているところをフロッピードライブ(要するにフロッピーの挿入口)というが、これをFDD(フロッピーディスクドライブ)と呼ぶことがあるから、やっぱりFDはフロッピーディスクなのかもしれない。
これがIBMになると、フロッピーディスクのことはすべからく『ディスケット』なんていう。商標かなんかの問題だと思うけれども、ややこしいったらありゃしないのだ。ディスケットといわれるとビスケットみたいでおいしそうだが、そういわれるとフロッピーというのもなんとなくおいしそうな語感ではある。
ただし、コンピュータ業界にいながらこういうことを真剣に悩む人は少ないはずで、その証拠に、数々のわかりにくい用語はそのまま機械に弱い一般ユーザーの元に翻訳されないで届けられているのである。
『FM音源』
コンピュータから出る音。『FM音源装備』というのは、けっこういい音が出るぜというときに使う宣伝文句である。
FMというのはラジオの種類じゃないかと思ってみたが、ひょっとすると『FineMusic』だったりするのだろうか。FM電波とコンピュータの音とが同じわけはないよなぁ。
『GUI』
グラフィックユーザーインターフェイス。なにかを説明するのに、文字ではなくて絵を使うからこんな名前になる。これに対して文字で説明しようというのはキャラクターユーザーインターフェイスになる。ただしGUIといったって文字がまったくないわけではないから、まぁマンガみたいなもんだと思えばよろしい。
日本の道路標識なんてキャラクターユーザーインターフェイスの最たるもので、道路上の見にくい標識を苦労して読んでみると『よそ見運転禁止』なん書いてあったりするわけだ。ことばというのは理解するのに時間がかかるのと、子どもから外国人まで、誰もが理解しているわけではない。『犬のうんこ禁止』なんて看板をときどき目にするが、そんなもの、犬が読めるわけがないじゃないか。
そこでGUIの登場だ。GUIだったら情報量のほとんどが絵だから、そこそこの子どもだって外国人だって理解ができる。相手が犬だったら無理かもしれないけど、赤い布を見せると興奮する牛はGUIを理解しているといえるのではないだろうか。
GUIはマウスを使うことが多いけれども、マウス=GUIということではない。マウスがなくたってGUIのソフトは使える(こともある)し、キャラクターベースのソフトでもマウスがあった方が便利なこともある。
しかしマウスの便利さに突っ走ってしまうと、目の見えない人がコンピュータを使うことを拒否してしまう結果になる。キャラクターベースのコンピュータだったら、文字表示を音声に変換してスピーカーから出力することで、目の見えないハンディをある程度克服してコンピュータを使うことができる。画面を飛びかうマウスカーソルをじっとにらみながら使わなければいけないGUIは、目が見えないとちょっとつらい。そういえば、目の見える人間にとっても、キャラクターベースのコンピュータよりも、グラフィックインターフェイスのコンピュータの方が、目を使うことが多い気がするんだけど、気のせいだろうか。
『IBM』
アメリカの大手の計算機屋。世界一のコンピュータメーカーとされていたりもするけれども、IBMがパソコンに参入したのはそんなに昔のことではない。IBMが参入するまでは、パソコンはおたくのためのおもちゃだったのだ。IBMがパソコンを売りだしたことで、パソコンも仕事の道具だという認識が確立した。そういう意味ではIBMのはたした役割は大きい。
タイプライターの時代はさておき、IBMがパソコンを売り始めたのは81年のことだった。機械オンチには悩みの種のMS-DOSもその時に同時に登場したのだった。
アメリカでは、IBMといえば絶対の存在であって、絶対の存在だから、自分が庶民だと思っている人はあんまりIBM製品なんて買わないらしい。IBMと同じ性能を発揮する(という触れこみの)安いコンピュータが、アメリカや台湾ではいっぱい売られていて、ふつうの人はそういうのを買うんだそうだ。
IBMのえらいところは、そういうコンピュータが登場しやすいように、自分のところの仕様を公開したところだったけど、最近になって方針を変えた。ただし、全世界的にもっとも多く使われているのは、仕様が公開されていた頃のIBM互換機たちである。
IBMは、ときどきこんなふうに独自路線を打ちだすのだが、結局長いものに巻かれる形で集束してしまう。Windowsに対するOS/2はとってもできがいいそうだけど、みんなはOS/2はだめだだめだといっている。どちらが正しいのかは、時間の流れだけが知っている。
今、IBMはアップルコンピュータと仲がよくて、MS-DOSのマイクロソフトと仲が悪い。でも、これもしょっちゅう仲なおりしたりけんかしたりするので、本当のところはどうなのかは、さっぱりわからない。
『ID』
『Intel inside』
一時期、お店に並んでいるパソコンにはみんなこのシールが貼られていた。その名の通り『中にインテルが入ってるぞ』という意味である。でも問題は、これからパソコンを買おうという人の何割が、インテルとはなんぞやということを知っているかどうかである。
インテルはアメリカの半導体メーカーで、世界中のほとんどのコンピュータにここのCPUが使われている。NECなど、一部日本製のCPUもあるが、これもみなインテルの互換CPUである。
インテル以外にはMacintoshが使っているモトローラのCPUがあるが、日本製のパソコンでも、シャープの68000シリーズなどごく一部に使われている。
要するに、CPUといったらインテルは圧倒的なトップメーカーなのだが、わざわざこんなシールを作ったということは、インテルがCPUのトップメーカーであるということを、世間のふつうのおっさんたちにも知らしめたいということだったらしい。
そのもくろみが成功したかどうかは、さだかではない。
『LOG』
切りだし材木。熱帯雨林の伐栽が問題になっているが(そういえば、最近この話題を聞かなくなったけどどうしたんだろう。こういう話題が、はやりすたりで片づけられてしまっては困るのだけど)、大きなトラックに載せられて運ばれているのが、ログである。
転じてパソコン方言では、ネットワークなどで流れたままの未整理情報をログという。使いやすい情報とするには、不要な部分を削って、使いやすい順番に並べ換えたりする必要があるのだけれど、そういうのは材木屋さんが商品にするときにおこなう作業であって、ログといえばあくまでもログなのである。
最初から材木状態で植わってればいいものを、この世にログがある意味だって、もちろんある。ネットワーク通信でトラブルが発生したときに、どこでトラブルが発生したのか、その原因をつきとめるには整理された情報ではなくて、吐きだされたままのログが必要となるのであった。いってみれば、ログってやつはコンピュータのボイスレコーダーみたいなもんだ。ふだんは必要がないけれども、事故のときにはなにより注目を集める存在となるのであった。
Copyright (c) Hiroshi Nishimaki 1998