建物訪問記

 信州の美術館

1) 池田満寿夫美術館

  長野市近郊の城下町「松代」は、武田信玄が造らせた「海津城」後の松代城址を残す寂れた城下町であるが、真田藩ゆかりの建物や伝統品・文化をいまも伝える落ち着きのある街並みがある。その松代城址の堀跡で、真田屋敷(旧藩主邸)との間の敷地を買い取り、小布施の栗菓子店が施主となり、長野市出身の版画家池田満寿夫を記念しその生前に建設を着手したのがこの美術館である。

 私は、地元建築士会の有志が主催し、設計担当者を招いてオープン前に開いた見学会に参加させていただいた。平成9年の春だったと思う。

 

 街中の通りからやや入った曲がりくねった道路沿いに建物はあった。駐車場に車を停めて、旧城址の堀跡をイメージし、水面と柱跡がモチーフとわかる中庭を右手に見つつアプローチして、こじんまりとしたスケール感が心地よいエントランスに至った。売店のあるロビーを通り、中庭沿いの通路から明るい踊り場のある階段を上ると、2階の展示室に入る。展示室内は、三日月型に変形していて、鑑賞者の歩く速度と壁面の変化が一致し展示物が見やすくなるよう考慮されているように感じられた。

 展示室に続く階段を戻り直進すると、展示ロビーに至る。ここには、池田満寿夫が制作した劇場の幕のような大きさのタペストリーが壁に飾られ、やや長細い部屋の中央に置かれた手作りの椅子に座ると、右手のガラス壁から、中庭越しにエントランスロビーの様子が見て取れる。その奥は15名ほど座れる大きさのレクチャールーがある。

 一気に歩いても、規模が程よい大きさで採光もあり、観る人が疲れることなく鑑賞できる美術館のひとつだと感じた。

 

 設計・施工者はともに竹中工務店の設計施工なのだが、展示室・収蔵庫はじめ材料の使い方、納まりのディテールにその良さが表れているようだ。最新の材料を、スッキリと破綻なく使いこなしていて見事であった。

 建物全体の意匠は、設計担当者がコンセプト模型示しての説明では、松代の城址に隣接する敷地を十分意識した計画のように思えた。また、館長の説明によると、池田満寿夫と建物の意匠との関連については、館長の考え方が強く反映されているらしく、土蔵づくりを思わせる外観や湾曲した展示室棟の造形などから、池田満寿夫の国際的生き様と郷土への回帰あるいは作家性の表現を読み取れるのだそうだ。

 

 個性的な建築家の作品の持つパンチ力はないが、敷地を読み取り、施主の要望に応え、独自性を備えながら手堅くまとめた秀作だ。隣接して、建築主の竹風堂のレストラン・売店などもあるので、長野市方面に来られたときは立ち寄ることをお勧めする。


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