信州の美術館
3) 小笠原家資料館(飯田市)
前回の東山魁夷館を見ているうちに次にと思い訪れたのが、妹島和世氏設計の話題作、小笠原家資料館である。
敷地は長野県飯田市の天竜川沿いの伊豆木という山間地の小さな村に、江戸時代の始めから居館を構えていた「伊豆木
小笠原家」の小型の城郭跡で、寛永初年(1624)建立の桃山時代の建築様式を残す重要文化財の「書院」と、裏山に挟ま
れた小高い平地に建てられている。急な坂の小道のほかに進入路はない。
そのデザインは、オーソドックスで、検討された平面計画と簡明で繊細な造形からなり、手法としてはスチールとガラスを
用いたモダニズムそのものであるが、ケレンミのない創作の姿勢がすがすがしくかえって新鮮ですらある。そうした姿勢に
おいて、老練ともいえる谷口吉生氏の手法と、モダニズムという点では共通するものがありながら、好対照をなしている。
この建築の計画の特徴は、重要文化財指定の古書院とのかかわり方と、資材の搬入路もないような里山の自然のなか
という敷地条件をどう読み解くかという二点にあったように思う。
現代の正倉院とも呼ぶべき造形は、新鮮さのある回答となった。その柔らかなデザイン力と繊細で大胆なディテールは、
「和」の感性へさえも訪れた者の心のなかに誘発させる。唐破風造りの玄関をもつ古書院と並べて、違和感は感じられな
い。また、スパンの長い割に細い鉄骨柱に支えられた建物は、自重を押さえ部材の軽量化を諮った結果と思われるが、搬
入の問題を、プレ加工した部材をわけて人力やクレーンで運び込むことで解決したのだろうか。一階をすべてピロティーと
した手法は、コルビジェが提案したものがモダニズムの手法として流行したことがあった。しかし、この建築の場合は、もち
ろんそうしたことへの意識はあったろうが、むしろ現存するもっとも古い木造建築、正倉院がモチーフになっていると解釈す
べきだと考える。奈良博が開催された時奈良の町を訪れて、始めて正倉院を見て、その斬新な造形力に感動した時の記憶
が甦るような思いであった。
中央高速、飯田ICを下りて天竜川下流方面に来るまで30分ほどのところにある。行楽のついでに訪ねてみたい。
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