ジャパンポスト平成13年8月号 掲載



                                 日本経済再生政策提言フオーラム
                           事務局長丹羽春喜(大阪学院大学教授)


    小泉経済政策によって90兆円の国民所得を失う悲惨な結末
    平成18年度末のシュミレーション結果が、今明らかに!


 本稿を執筆しつつある7月11日、わが国の株価は、暴落的な全面安となった。米国市場の動きに引っ張られたという面もあったとはいえ、要するに、わが国の株式市場は、小泉改革を見切ってしまったと言ってよいであろう。

 ここで、本稿において特に指摘しておくべきであると思われることは、小泉内閣が表明している緊縮財政主義の危険性である。小泉政権は、来年度の国債発行額を30兆円に抑える予定だとしている。平成12年度の国債発行額が33兆円であったから、相当な減額である。実は、森内閣時代の末に成立した平成13年度国家予算で、すでに国債発行額を28兆円に抑制する予定とされているのである。実際には、平成13年度においても、補正予算が組まれ、もう少しは国債発行額が増えて30兆円前後の発行となる可能性はあるが、要するに、国債発行額を年間30兆円の線に抑え続けようというのが、政府の政策担当者たちのスタンスなのである。小泉内閣は、このスタンスに強く固執する可能性が高い。


見逃してはならない2つの重要な点

 ここで、きわめて重要な点をニつ指摘しておきたい。このニ点は、絶対に見逃されるようなことがあってはならない。

 第一に留意すべきことは、GDPの変動によって引き起こされる政府の税収の変化についてである。現在、わが国の論壇では、政府の税収は、GDPが少しぐらい伸びたぐらいではほとんど増加しないであろうとするシニカルな見方が流布されているが、それは、大きな間違いである。最近のわが国では、GDPのごく僅かな変化でさえもが、相当に大幅な税収の変化をもたらしているのである。

 ただし、このような分析をする場合には、波動を平準化した単なる傾向線を示すにすぎないような関数では使い物にならない。GDPの波動が税収の波動を惹起する動きを忠実にフォローする波動追跡型の関数を、用いるべきなのである。私が、本稿のシミュレーション作業のために推定した「税収関数」は、そのような典型的に波動追跡型の関数である。非常にフィットが良く、信頼度がきわめて高い。この関数を用いて計算すると、たとえば、GDPが1%変動した場合には、およそのところ「一般政府」(中央政府および地方自治体)の税収は1.7%も変化するのである。

したがって、小泉政権の「痛みを我慢して」の構造改革政策や緊縮財政政策の強行によってGDPが低下すれば、税収のきわめて大幅な減少が政府財政を直撃すると予測しなければならないのである。

 第二に、常に念頭に置くべきことは、わが国の経済における「乗数効果」がけっこう大きく、しっかりと作動しているということである。経済評論家たちの多くは、マスコミの大部分を巻き込んで繰り広げられてきた「反ケインズ主義」の奇怪な世論操作キャンべーンに毒されて、わが国経済における「乗数効果」がきわめて微弱であると思い込まされてしまっている。そして、政府支出が大幅に増やされても、それによってわが国のGDPの成長が加速されるようなことはないものと、決め込んでしまっている。しかし、それは全くの誤りである。

 従来、用いられてきたGDP勘定(すなわち本年から用いられ始めた新勘定ではなく、これまでの旧GDP勘定)の数字に則して述べれば、民間投資支出、政府支出(すなわち一般政府の最終消費支出および公的投資)、および純輸出(すなわち輸出超過額)という三つの支出項目の合計額である「自生的」有効需要支出額(自生的消費支出額はネグリジブル)の年間水準に対して、GDP額の年間水準は、常に2.4〜2.5倍(最近年では2.5倍強)の大きさである。この倍率は、20年以上にもわたってきわめて安定して続いてきており、自生的有効需要支出額とGDP額それぞれの年間増加額どうしのあいだでも、この倍率が保たれている。したがって、現在のわが国における「乗数効果」の乗数値は2.4〜2.5(最近年では2.5)であると考えざるをえない。そのように考えなければ、年率500兆円弱という現在のわが国のGDP額を説明することさえ、不可能になってしまうのである。

 このように、わが国経済においては、「乗数効果」が確実に作動しているのであるから、今後、小泉政権の緊縮財政政策で政府支出額が削減されるようになれば、減税等によってそれを埋め合わせる措置がとられないかぎり、その政府支出削減額の約2.5倍のGDP額が失われることになるのは、不可避なのである。


恐怖に満ちたシミュレーション

上述のごとく、小泉内閣は、来年の平成14年度(2002年度)において国債発行額を30兆円に抑え、そ以降の諸年次も、それを続けようとするスタンスをとっているように思われる。したがって、本稿におけるシミュレーションでも、平成22年度(2010年度)までの10年間、各年度における「国債発行額」を30兆円、その他の「国の借入金の純増額」を平成12年度の該当値と同じ14兆円、合計44兆円のままに据え置こうとする政策がとられる場合を想定した。据え置かれるといっても、毎年度、少なくともそれだけの額の国債発行と借入金純増があるのであるから、その残高は増えていく。それにともなって、償還額(借り換えを除く正味の純償還額)および利子・割引料の支払額も増えていかざるをえない。

 だとすれば、国債発行額(一般会計での「国債金」)および借入金純増額の合計額を毎年度44兆円前後に抑えようとするかぎり、財政のプライマリー・バランス赤字を国債と借入金でまかないうる余地は、どんどん少なくなっていく。したがって、増税を行わないものとすれば、必然的に、プライマー・バランス赤字額を縮小させるための政府支出の削減が行われざるをえないことになる。

 このような政府支出削減の動きは、直接・間接に地方財政にも波及するであろう。もちろん、このような窮迫した財政的事情に迫られての中央および地方の一般政府支出の削減は、減税の財源となるといったものでは全くない。したがって、それは、民間企業の経済活動にとっても大きなマイナス要因となる。このシミュレーションでは、このような性質の政府支出の削減がなされた場合、次年度に、その削減額の半額に相当する民間投資が減少するものと想定した。これは、およその見当としては、たとえば政府支出10%の削減は、次年度における民間投資支出の約4%の減少を惹起するという想定にほかならない。

 毎年度における国債発行額と借入金純増額の合計額を44兆円に抑えるという政策方針でいくとしても、そして、それを達成するための政府支出の削減が行われるとしても、実際には、それにともなう不況の激化によるGDPの落ち込みという副作用が生じて税収が減少するので、結局は、そのぶんだけ、目標値(44兆円)を超過しての国債発行や借入を増やさざるをえなくなる。

本稿におけるシミュレーションでは、そのことはやむをえないとしても、しかし、その年度に発生したそのような税収減による財政プライマリー・バランス赤字額の増加を、次年度においては、政府がそれを踏まえて、次年度における(同じく国債発行・借入金純増額を44兆円に抑えるための)政府支出削減には、今年度におけるそのような税収減の額をもそれに加算したいっそう大きな削減額とするという決定がなされるものと、想定することにした。

 このような要領と想定でのシミュレーション結果を示したのが付表である。いうまでもなく、これは、まさに慄然とせざるをえない恐ろしい内容である。

たとえば、GDPは、平成22年度(2010年度)には、平成12年度に比べてわずかに6割4分ほどの低い水準にまで落ち込む。国債発行額や借入金を抑えるための政策を前提としたシミュレーションであるはずであるのに、平成22年度末には、国債・借入金等の残高はGDPの約3倍になってしまう。政府の税収額にいたっては、この期間中に三分の一に減ってしまう。

シミュレーション期間の終わりごろになると、政府税収の総額が、国債や借入金など政府負債に対する利息・割引料や純償還金の支払額である「国債費」の半分以下に落ち込んでしまうのである。シミュレーション期間の初年度からわずか数年を経過したばかりの平成18年(2006年)ごろで、早くも税収総額が「国債費」よりも下回るようになってしまうのであるから、破局的としか言いようがない。

 このような、誰にでもわかるような単純なシミュレーションをちょっとやってみただけでも、現在の小泉政権の経済政策スタンスが、いかに危険なものであるかが、たちどころに判明するのである。憂慮に堪えない。


                  付表(緊縮財政シミュレーション)  単位(兆円)

年度 国債金等
年間国債発行額
および
借入金純増額
国債費
純償還額
および
利子支払い額
プライマリー・バランス赤字額 税収総額
(中央政府)
国債および
政府借入金の残高

(年度末)
GDP
平成12年
(2000)
47,6 22,6 25,0 50,7 545,0 490,1
平成14年
(2002)
46,3 26,0 20,3 47,2 617,3 477,0
平成18年
(2006)
48,5 32,5 16,0 31,1 763,7 401,5
平成20年
(2008)
47,9 35,7 12,2 22,9 833,3 353,7
平成22年
(2010)
46,7 38,7 7,9 17,0 898,4 312,2

(注)平成12年度は実際値(もしくは予算値)である。