『ジャパン ポスト』平成14年10月1日号掲載

                                         日本済済再生政策提言フォーラム
                    会長 大阪学院大学教授 丹羽 春喜
                                        丹羽経済塾 塾長 丹羽 春喜


    
ついに顕在化しはじめた本年度のマイナス成長
  −−日本発「世界大不況」の惨害が迫る−−



GDP速報値の厳しい内容


本稿を執筆中の9月の第1週、全世界の経済は、日本、アメリカ、アジア、ヨーロッパの各地域の証券市場に相互に波及・連動した大幅の同時株安によって、痛撃されつつある。「世界大不況」が、いよいよ現実の事態となりはじめたようである。

 周知のごとく、去る8月30日、内閣府は、本年の4〜6月期のGDPの推計値を発表した。政府は、この4〜6月期のGDPが実質値では前期比で0.5%のプラスであったとの算定を理由に、「景気の上昇が続いている」としている。しかし、仔細に見れば、とうてい、そのように楽観しうるような状態ではない。

 
2001年度のGDPは、実質タームで0.9%のマイナス成長

 まず、注目すべきことは、6月上旬に公表された本年1〜3月期のGDP速報値が、今回の推計で大幅に下方修正されたことであろう。すなわち、6月下旬に発表された速報値では、本年1〜3月月期のGDPは、物価変動の影響を取り除いて見積もった実質値で前期比1.4%、年率換算で5.7%の伸びであったとしていた。
 ところが、今回の公表では、この本年1〜3月期のGDPの伸び率が、前期比で実質値ではゼロ、物価変動の影響を取り除かないままの名目値では0.1%のマイナスの伸びであったと訂正されたのである(第1表)。
結局、わが国の2001年度のGDPは、実質タームで0.9%のマイナス、名目タームでは2.8%という大幅マイナス成長となったわけである。

第1表 GDPの伸び率                                                                   (%)

2001年度


2001年4月
〜2002年3月
2002年


1〜3月           4〜6月



名目


実質
(前年度比)


−2.8


−1.9
(前期比) (前年同期比) (前期比) (前年同期比)


−0.1*    −4.4    −0.2*   −1.6


−0.0*     −4.4    0.5*   −0.8

*季節変動調整値。
(典拠)内閣府ホームページ、および、新聞各紙8月31日付

                   

本年度に入ってからも、4〜6月期のGDPは、実質タームの値が上記のごとく辛うじて前期比でプラスになったとはいえ、同じく前期比であっても名目タームでは0.2%のマイナス、そして、前年同期比では、実質値で0.8%のマイナス、名目値では1.6%というかなり大きなマイナス成長になってしまっている(同じく第1表)。

 この第1表には示さなかったが、今回の本年4〜6月期についての速報値では、民間企業設備投資が前年同期比で10%も減っており、それに住宅投資および公的投資を含めた固定資本形成の総額でも7.4%の減少(名目値)となっている。これは重大事態であると言わねばならない。こういった本年4〜6月期のGDP水準は、それを年率に換算して、昨年の年度平均GDPの水準と比べてみても、なお、若干のマイナスなのである。

私は、本誌でも、早くから、本年度のわが国の経済がマイナス成長に陥ることは必至だと指摘してきたのであるが、今回の内閣府によるGDP速報は、いよいよ、それが現実の状況となってきたことを示しているわけである。

重大な事態を示す指標の公表相次ぐ

 しかも、最近では、わが国経済の落ち込みがいっそう甚だしくなりつつあることを示す諸種の重要な経済指標の公表が、相次いでいる。商業関係の各業界団体が8月26日に発表したところによると、第2表が示しているように、本年7月の小売商業の売上額は、前年同月比で、百貨店、スーパー、外食店、家電製品などすべて大幅の減少で惨憺たるものである。


    第2表 商業売上額の減少(2002年7月)
                                            (前年同月比、%)

百貨店     −5.5

スーパー    −4.6

家電量販店  −12.3

外食店     −2.6

(典拠)日本百貨店協会、日本チェーンストア協会、日本電気大型店協会、
日本フードサービス協会の発表による。『日本経済新聞』8月27日付


 8月の売上顔は、幾分か持ち直したのではないかとも言われているが、いずれにせよ、わが国の経済における消費(家計消費を中心とする民間最終消費支出額)が、いよいよ本格的に減少傾向を示しはじめた可能性が濃い。

 自動車の国内新車販売台数も、過去12ヵ月連続して前年同月比でマイナスとなってきており、本年8月の販売実績は1.6%減(軽自動車を含めて集計した場合は0.6%減)であった(日本自動車販売協会連合会、9月2日発表)。
 大型車が売れなくなり、低価格の小型車のみが辛うじてなんとか売れているといった状況なのであるから、自動車業界の金額ベースでの国内販売額の落ち込みは、相当に大幅なはずである。

全産業の法人企業の売上額は、前年同期比で9.2%の低下、経常利益16.8%減少

 9月5日には、財務省が、本年度の第1四半期(4〜6月期)における法人企業の活動状況の調査結果の統計を発表した。それによると、全産業の法人企業の売上額は、前年同期比で9.2%の低下、経常利益も16.8%の減少、そして、設備投資額も同じく前年同期比で15.5%のマイナス(3期連続のマイナス)となっているのである。
 本年の春の決算を終えた時点では、多くの上場企業が本年度(2002年度)におけるきわめて大幅な収益改善の予定を誇示し、そのことが、政府の「景気底入れ宣言」ともあいまって、「本年度にはV字型の景気回復が実現するだろう」とする楽観論(私は、それを厳しく批判してきたが)をかもし出してきたのであるが、本年度の第1四半期において、早くも、今回のこの財務省の調査が示しているような深刻な売り上げ不振と利益の低下に見舞われているような状況なのである。
 本年春ごろに広がっていた楽観論は、もはや、まったく通用しなくなったと考えねばならないであろう。

外需も頼みにならない

 頼みの綱は外需であるが、米国の景気回復が腰折れになってきており、円高も大幅に進んでいるのであるから、今後、わが国の輸出の伸びは、スロー・ダウンせざるをえないであろう。すでに米国向けの輸出は、かなり顕著に減少しはじめている。
 本年夏の時点では、アジア向けの輪出が、まだ好調であるとはいえ、日本の激しい不況に加えて米国の景気回復が挫折したとなれば、アジア諸国の経済も激甚な景気後退に襲われることになるのは不可避である。

 中国の経済にしても、表向きでは、依然として高度成長を続けていることにはなっているものの、実際には成長率の鈍化がはじまっているのが真相のようである。中国の基幹産業の大部分を占めている国営企業が、ほとんど全て、深刻きわまる経営不振に苦しんでいるということも、頻々と報道されている。
 したがって、わが国のアジア諸国向けの輪出が、今後も大幅に伸び続けうるだろうなどとは、とうてい期待できることではない。

日本貿易会が、本年度輸出額は前年度比2.8%の伸び、輸入額は2.5%の伸びと予測

 日本貿易会は、6月3日、本年度のわが国の輪出入および貿易収支の「改訂見通し」を発表した(これは現在時点でも同会のホーム・ページに示されている)。それによると、本年度のわが国の輸出額は前年度比2.8%の伸び、輸入額は同じく前年度比2.5%の伸びと予測されている。
 この予測値は、本年の米国の経済成長率が昨年より1%高い2.2%を維持しうるものとし、EUの成長率を1.5%、アジアの成長率を5.7%と想定し、また、本年度のわが国の経済成長率がマイナス1.5%(名目ベース)になるものと予想したうえで、為替レートを130円=1米ドルとするという仮定に基づいた算定である。いうまでもなく、この為替レートの仮定は円安に過ぎ、非現実的である。

 したがって、この点を考えれば、本年度のわが国の輸出額は、この日本貿易会の「改訂見通し」の予測値よりも下回るはずだという計算になろう。
 この日本質易会の輪出入額の予測値は、通関ベースの輪出入額についての算定である。同じ輪出入額といっても、通関ベースのそれとGDP勘定ベースのそれとでは、若干の差異がある。しかし、本稿では、ここで、一応、この日本貿易会の「改訂見通し」で予測された本年度の輪出入額の前年度比「伸び率」を、GDP勘定ベースの輪出入額にも適用して計算してみることにする。

日本貿易会による本年度輸出入額「伸び率」の予測値を使用すれば「純輸出額」の増加見込み額は、0.2兆円

 内閣府が、8月30日に公表したGDP勘定の改訂推計結果によると、昨年度の財貨・サービスの輪出額は52.3兆円、同じく輸入額は48.4兆円、したがって「純輸出額」(すなわち貿易収支黒字額)は3.9兆円(いずれも名目値)であったと算定されている。これに上記の日本貿易会による本年度輸出入額「伸び率」の予測値を乗じると、本年度のGDP勘定ベースでの財貨・サービスの輸出額が53.7兆円、同じく輸入額が49.6兆円、したがって、本年度の「純静出額」は4.1兆円と予測算定されることになる。
 昨年度の該当値が上記のごとく3.9兆円であったわけであるから、本年度における「純輸出額」の増加(すなわち貿易収支黒字の増加)の見込み額は、わずかに0.2兆円でしかないという算定結果になる。

 もちろん、日本貿易会による予測作業が、わが国の輪出の伸びを過小評価している可能性も考えられる。
 しかし、もともと、この算定は、上述のごとく、わが国の輪出にとってきわめて有利なはずの130円=1米ドルという円安レートを仮定し、また、米国やアジア諸国の経済も失速しないものと楽観的に想定したうえでの計算なのである。

 外需が経済成長に及ぼす効果は、結局、GDP勘定におけるこの「純輸出額」の変動を通じてのことなのである。
 したがって、その「純輪出額」の本年度における増加額の予測値が、わが国の輸出にとってきわめて有利な諸条件を仮定したうえでの計算であるにもかかわらず、わずかに0.2兆円の増加でしかないと算定されたということは、本年の秋以降、外需にあまり大きな期待をかけるわけにはいかないということを物語っているものと言えよう。

約20%の税収激減


私は、最近における政府税収の急速かつ大幅な減少が、きわめて危険な事態であることをくりかえし指摘してきた。財務省の8月1日の発表によると、本年6月の一般会計税収は、前年同月の該当値に比し16.4%下回った。本年4〜6月の累計では、前年同期比で23.5%もの減収である。そして、9月2日の財務省発表によると、本年7月の税収も、前年同月比で17.4%減となっている。税収が対前年同月比で減収となりはじめたのは昨年9月からであるが、それ以降、減収幅がどんどん拡大しつつ現在に至っているのである。

税収激減による政府財政の破綻

 このように、不況の激化は政府歳入のきわめて大幅な減少を招き、政府財政の破綻をいっそう甚だしいものとする(中央政府だけではなく地方自治体についても同様である)。

政府財政の破綻による不況の激化

このことは、政府支出の削減を余儀なくさせ、不況をますます激甚なものとさせる。それが、また、さらに大幅な政府税収の減少を惹起し、景気をいっそう悪くさせる。現在のわが国の経済と財政は、まさしく、このような悪循環的スパイラルに陥ってしまっているのである。

政府収入の大部分を利息の支払いに

国債の新規発行は、30兆円の枠を多少はゆるめて今後も行われるものと思われるが、それによって政府が得る収入は、その大部分をこれまで累増してきた既発の国債など巨額の政府債務への利息の支払いに当てねばならないような実情であるから、現在の政策立案パターンの枠内にとどまっているかぎり、たとえ、国債が若干は増発されることになったとしても、それによって、上記の悪循環的スパイラルから脱出しうるような可能性は絶無である。

「世界大不況」の発生が不可避

もとより、現在、小泉政権が策定しようとしているような諸政策は、すべて、有害無益である。
 いまや、わが国の経済と財政が、このようなコントロール不能の悪循環スパイラルに引き込まれて、決定的な破滅へと急速に落ち込みつつあるのであるから、このことからのグローバルな波及効果だけからでも、本稿冒頭で指摘したような「世界大不況」の発生が不可避なものとなろう。

危機を克服策は「国(政府)の貨幣発行特権」の間接断な大規模発動

 
この全人類的な危機を克服しうる方策は、ただひとつ、私が本誌でも幾度となく提言してきたようにわが国が、「国(政府)の貨幣発行特権」の間接断な大規模発動という「打ち出の小槌」を財源とした大々的なケインズ的総需要拡大政策の断行に、踏み切ることあるのみなのである。
                                 〈了〉