内閣府による「GDPギャップ」(デフレ・ギャップ)の算定について

――― 批判的コメント――

丹羽春喜(大阪学院大学)

算定方式の改定

 経済企画庁は2001年から内閣府に吸収された。そして、旧経済企画庁編集の1990年代の『経済白書』シリーズとの対比で言えば、内閣府が2001年に編纂して公刊した『経済財政白書』平成13年版においては、GDPギャップ」(デフレ・ギャップ)の算定方式において、下記のごとく、かなり注目すべき改定がなされた。1)

 2001年から公刊が始まった内閣府編集のこの『経済財政白書』の平成13年版においては、「GDPギャップ」算定のための生産関数推計に用いられる企業固定資本ストック稼働率のデータについて、非製造業セクターについても稼働率を推計することを試みて用いることにされた(旧経済企画庁はそれを行なっておらず、非製造業については、常に稼働率を100%とするという非現実的な仮定を置いていた)。また、その生産関数の推計方法においても、多元回帰によるパラメーター推定に依拠することを止め、国民所得勘定(GDP勘定)から得られる分配率の数値を適用することに改められた。そして、内閣府による最も重要な改定としては、「GDPギャップ」の概念が、旧経済企画庁が1990年代を通じて用いていた「実質GDPの平均的な趨勢線からの年々の実質GDP実際値の偏差」という定義ではなく、「潜在的実質GDPと当該年の実際の実質GDPとの差」という定義に改められたということが、注目されるべきであろう。内閣府によるこれらの改定は、1990年代に旧経済企画庁が行なっていた算定手法との対比で見るならば、「GDPギャップ」(デフレ・ギャップ計測方法におけるかなり顕著な改善であると、言いうるであろう。このような「GDPギャップ」算定の改訂された手法は、『経済財政白書』の平成15年版でも踏襲されており、とくに、この平成15年版61ページの「GDPギャップ」を示した図では、「デフレ・ギャップ」という用語を用いた説明が付されていて、はしなくも、内閣府が「GDPギャップ」と「デフレ・ギャップ」とを同一のコンセプトとして取り扱っているということが、表わされている同白書の平成14年版および16年版では、「GDPギャップ」計測とその算定結果についての記述は、なされなかった)。

 

  デフレ・ギャップの過小評価をもたらす4つの不自然な計算操作

 しかしながら、遺憾なことに、内閣府は、その『経済財政白書』の平成13年版および平成15年版においては、「潜在実質GDP」の数値を、事実上は過去10年間前後の期間の実質GDP実際値の「平均的趨勢線」に沿った値とほとんど変わりがないような、きわめて低い数値として示している。したがって、上記のような算定方法の改定がなされたことになっているにもかかわらず、実際に内閣府が推計した日本経済における「GDPギャップ」(デフレ・ギャップ)の規模の数字は、最大でも潜在的GDP45%までといった、旧経済企画庁が算定してきたそれとほとんど同じ程度の非現実的に小さな規模を示しているにすぎないのである(第1図参照)。



 内閣府によって、このように妥当性に欠けているような「GDPギャップ」(デフレ・ギャップ)規模の算定結果が導出されたのは、主として、下記の4つの不自然な計算操作によるものと思われる。

 

 T.上述のごとく、内閣府は、旧経済企画庁が行なわないで済ましてきた非製造業セクター企業資本ストックについても稼働率指数を算定することを試み、それを非製造業の資本ストック量に乗じて同セクターにおける企業資本設備の稼動量(すなわち生産活動への資本設備投入量)の指標として用いることにした。そして、内閣府は、それを、従来からの旧通産省(現在の経済産業省)推計による製造業についての稼働率指数を製造業セクターの企業資本ストック量に乗じて算定された製造業についての企業資本設備稼働量の指標とともに用いて、マクロ・ベースの生産関数を推計することにしたわけである。このことは、一つの有意義な改善であったと言えるであろう。しかしながら、旧通産省(ないし現在の経済産業省)が算定し公表してきた製造業企業資本設備の「稼働率指数」には、筆者(丹羽)が繰り返し指摘してきたように、重大な欠陥がともなわれてきた。すなわち、この旧通産省ないし現在の経済産業省が算定してきている「稼働率指数」は、景況の不振ないし景気後退に対する感応度が非常に低いために、それに大きく依存している内閣府の計算作業では、必然的に不況期における企業資本設備の遊休率を過小算定してしまう結果となることが不可避なのである。2

 

 U. 内閣府の計算作業では、企業資本設備の潜在的な稼動水準は、日銀の推計による企業の「生産・営業用設備判断動向指数」(DI指数)の動きを説明変数として、それに対応させて推計された関数によって、過不足ない平均的な値として算定された企業の資本設備稼働率を、「潜在GDP」算出のために想定するべき「企業資本設備の潜在的な稼働率」だとしているようである。3) 

 事実、
『経済財政白書』平成13年版の該当の箇所(同白書120ページ)では、「潜在GDPを計算する際の稼働率について、過去の平均的な水準に近い概念を用いている」 と明記されているのである。しかしながら、この「設備判断動向指数」のような「景気動向指数」(DI指数)の類の指標なるものは、かつて1950年代、60年代の「高度成長」時代においては、実質GDPの年成長率が10%を割って8%程度になっただけで「不況」という意味合いの信号を発していたのであり、そして、近年では、辛うじてゼロ成長を脱して実質GDPの年成長率がわずかに1%程度のプラスの成長率になったというだけで、「好況」という意味合いの信号を発しているのである。 首尾一貫していないこと、まことに甚だしいものがあるのである。

 そして、言うまでもなく、
1990年代以降近年にまでいたる日本経済においては、この「生産・営業用設備判断動向指数」のような企業のスタンスにかかわる「景気動向指数」の類のDI指数は、常に、ゼロ成長ないしせいぜい1%前後の年成長率といった低迷状態にあるきわめて低いGDP成長率に照応した値であり続けてきたのである。設備稼働にかかわる企業の判断スタンス動向を表わすこのDI指標においても、1990年代に入ってから近年にまでいたるその値は、そのように非常に低いGDP成長率に照応して、概して低く留まっていたにちがいない企業スタンスの値を、「正常な平均的数字」として示し続けてきたわけである。そのような低いGDP成長率に照応した企業の設備稼働判断動向スタンスの数字の平均的な値を、上記の関数にインプットして計算すれば、必然的に、「資本設備の潜在的に可能な稼働率」を低く算定してしまうことになり、したがって、企業資本設備の遊休率の過小評価をもたらす大きな要因となったはずである。当然、このことによって、潜在実質GDPの水準は過度に低く算定されることになり、デフレ・ギャップの規模が非常に小さく推計されてしまうことにならざるをえなかったであろう。

 

 V. 内閣府は、資本設備と労働就業量という2つの生産要素の投入量をアグリゲートするにあたって、資本設備の投入量について0.33というウェート(したがって労働就業量のウェートは0.67ということになる)を適用して計算を行なっている。4

 しかし、資本設備投入量についてのこのウェートは、小さな値でありすぎて、市場価格評価のGDP勘定に内含されている分配率の数字とは整合性を持ちえない。  筆者のこれまでのデフレ・ギャップ推計作業についての諸報告書ですでに示されているように、公式の市場価格評価GDP勘定から導出された分配率としての「1985年ウェート」は、「オリジナル・ウェート」では、資本 0.456  労働 0.544  であり、法人化されていない零細個人企業の営業余剰の一部を雇用者所得と見なすことにして算定された「修正ウェート」でも、資本 0.42  労働 0.58  という分配率の値であったのであって、しかも、市場価格評価GDP勘定におけるこのような分配率の数字は、1970年代以降の30年間をとってみても、きわめて安定的であったのである。5 

 内閣府は、上記の0.33という「資本への分配率」の値を、1980以降の時期のGDP勘定から
1〔雇用者所得/( 固定資本減耗 + 営業余剰 + 雇用者所得 家計の営業余剰 )という値を算定して、その平均値として求めたとしている。6

 しかし、この「 固定資本減耗 + 営業余剰 + 雇用者所得 家計の営業余剰 いう数値はGDP額から「混合所得 + 家計の営業余剰 + 生産と輸入に課せられた租税−補助金」の額を控除した額であるから、GDPの額よりは、かなり小さな額である。したがって、

 (雇用者所得/GDP <〔雇用者所得/( 固定資本減耗 + 営業余剰 + 雇用者所得家計の営業余剰)〕

となる。つまり、「雇用者所得/( 固定資本減耗 + 営業余剰 + 雇用者所得 家計の営業余剰)」という値は、GDP勘定に内含されている労働分配率、すなわち「雇用者所得/GDP」の値よりもかなり大きい数値なのである。したがって、その値を1より差し引いて得られた数字は、GDP勘定に内含されている資本分配率の値よりもずっと小さな数値、すなわち0.33として算定されたわけである。

 言うまでもなく、中長期的には、常に、労働力人口ないし就業者数の伸び率よりも企業固定資本ストック量の伸び率のほうがはるかに高いから、労働投入量と資本投入量の両指標の時系列データをアグリゲートする計算において、『経済財政白書』に示されている上記のような数値操作によって、資本設備投入量についてのウェートを相対的に小さな値として設定し、労働投入量についてのウェートが相対的に大きな値として設定されれば、算定された両生産要素の総合投入量の伸び率は、そのようなウェート設定についての数値的操作を行なわない場合の算定値に比べて、格段に小さな伸び率として算定されることになる。したがって、両生産要素の投入量をアグリゲートして「潜在的総合投入量」(およびその伸び率)を算定する場合にも、このように数値的操作をほどこしたウェートを用いれば、それが低く算定されることになる。したがって、潜在的GDPの水準も低い値として算出され、その結果、「GDPギャップ」(デフレ・ギャップ)も小さな規模のものとして見積もられてしまうことになるわけである。

内閣府が用いたこの0.33 という資本への分配率の値は、「生産と輸入に課せられた租税(すなわち間接税)− 補助金」を市場価格評価のGDPから控除したうえで算定されているという意味では、要素費用評価に転換されたGDP勘定から導出された値としての性格を持った数値として解釈しうるようであるが、しかし、内閣府は、このウェートを、要素費用評価ではなく、市場価格評価の実質GDPについての生産関数のパラメーターとして計算に用いているのであるから、整合性が欠如していると言わざるをえない(上記脚注2および5で言及された筆者の論文“Deflationary gap in Japan, 1970-2000 : a quantitative measurement”pp.88  91で詳述されているように、筆者自身による研究作業においても、要素費用評価のGDP勘定を推計し、それに基づいたデフレ・ギャップ規模の算定も行なわれているわけであるが、筆者自身によるそのような研究作業の場合には、生産関数にかかわるこのような整合性は、十分に保持されている)。

 また、内閣府が算定したこの0.33という資本分配率ウェートの数字は、1980年より2000年代の初めごろまでの期間における「平均値」であるとされており、したがってそのような資本分配率を持った「基準年次」が特定されえないわけであるが、そうであるとすれば、内閣府による「GDPギャップ」(デフレ・ギャップ)計測に関連した諸計算で用いられた実質GDPの系列や企業固定資本ストック実質額の系列が、基本的には1995年という特定年次を「基準年次」とする不変価格評価で算定されたデータ系列であるとされているのであるから、それらとは厳密には合致しないわけであり、指数理論的な整合性も欠如していることになる。

 

 W. 内閣府は、『経済財政白書』の平成13年版では、その「GDPギャップ」(デフレ・ギャップ)の算定で用いた近年(19922001)のわが国における「需要不足による不況に起因する失業率」(摩擦的失業を除く)を、ここに掲げた第2図に示されているように、ゼロ%ないし1%前後までの低い値として推計している。7


 同白書の平成
15年版でも、ほぼ同様に、19922003年の時期のわが国経済における「需要不足による不況に起因する失業率」を、第3図のごとく、ゼロ%ないし1.5%以下と算定している。8 


3図 内閣府による失業率推計値の推移  (その2
━━『経済財政白書』平成15年版による━━




 言うまでもなく、経済学的な常識として、「摩擦的失業率」━━この白書では、それを平成13年版では「構造的失業率」、平成15版では「均衡失業率」と呼称しているが━━を除いた失業率が、ゼロ%ないし1.5%以下でしかない状態といえば、それは、事実上の「完全雇用」の状況を意味している。言い換えると、『経済財政白書』で「GDPギャップ」の算定を行なった内閣府の経済分析スタッフは、1990年代から2000年代初頭にかけての近年の時期における日本経済が、完全雇用にきわめて近い状態にあったものと、見なしていることになるわけである。

 したがって、内閣府による「GDPギャップ」(デフレ・ギャップ)の規模の推計がきわめて小さな算定値となってしまったのも、それが、このようなきわめて小さな「失業率」(ミスマッチングなどによる摩擦的失業率を除いた失業率)に立脚した計算であったのであるから、不可避のことであったわけである。しかしながら、1990年代に入ってから以降の近年の時期の日本経済における「摩擦的失業を除いた失業率」――すなわち、マクロ的な不況・停滞による失業率――について、それを、このようにゼロ%ないし1.5%以下といったきわめて小さな失業率として把握するといったことが、この上もなく非現実的なことであり、妥当性を欠いた誤りであるということは、言うまでも無いところであろう。

 このような誤謬がもたらされたのは、内閣府の分析スタッフがそのような失業率の算定に用いた関数式のフォーミュラの意味づけとその用法に、不適切な点があったことに起因しているようである。この点は、非常に重要なことであるので、以下において、詳述することにする。

 

 摩擦的失業率の推計における重大な問題点

 『経済財政白書』平成13年版の33ページでは、ここに掲げた第2図(この図は同白書の34ページに示されている)に関連して、


   「人手不足の人数(欠員数)と失業者数が同数存在する場合、仮にミスマッチや

   転職に伴う摩擦等の構造的な要因がなければ、それら失業者はすべて雇用されると

   考えられる。従って、人手不足の人数(欠員数)と失業者数が一致している時の失

   業率を構造的失業率とし、それ以外に発生する失業は、景気の変動に伴って発生す

   る循環的失業率と考える。」

と述べられており、さらに、それについいての同白書の同ページ欄外の脚注では、「循環的失業率は、需要不足失業率と呼ばれることもある」とも注記されている。また、上述のごとく、同じくここに掲げた第3図は『経済財政白書』平成15年版に示された失業率の推移を示したグラフであるが、この図の下に添えられた備考欄には、この図に示されている「均衡失業率」の算定根拠となる考え方や関数式のフォーミュラなどが記されており、その冒頭(その備考欄の2)にも、上記の平成13年版での記述内容と同様に、「失業と欠員が等しいとき、労働力需給は均衡しているとみることができ、その時の失業率を均衡失業率という」と定義されている。平成13年版では「構造的失業率」と呼び、平成15年版では「均衡失業率」というように異なった名称で呼称されてはいるが、ともに、従来からオーソドックスな経済学で「摩擦的失業率」と呼ばれてきたコンセプトにほかならない。

 同白書におけるこのような定義にしたがえば、「失業率」(労働力人口比での)のうち、「欠員率」(3図の備考欄4に記されているように、同白書では「欠員率」を雇用需要比で定義しているが、本稿では上記の「失業率」の場合と同じく、労働力人口比で「欠員率」を定義して、考察を進めることとする)と等しい率に相当する部分の率──すなわち摩擦的失業率──が、同白書の平成13年版での「構造的失業率」および平成15年版での「均衡失業率」にほかならないはずである。「欠員数」の実際値のデータ系列については、第3図の備考欄の4にも記されている「有効求人数マイナス就職件数」を「欠員数」であるとするというオペレーショナルな定義にしたがえば、総務省の「労働力調査」と厚生労働省の「職業安定業務統計」(これらの統計資料の主要な部分は、総務省統計局編『日本統計月報』などにも収録されている)に依拠して、それを容易に算定しうる。このようにして算定された「欠員数」の労働力人口に対する比率としての「欠員率」=「摩擦的失業率」の実際値は、1990年代後半から2000年にかけての時期においては1.6 2.0パーセントにすぎなかったのである。9

 この事実に照らしてみるならば、
『経済財政白書』の平成13年版および平成15年版において、上掲の第2図および第3図のごとく、「摩擦的失業率」に相当するコンセプトである「構造的失業率」(同白書の平成13年版での用語)や「均衡失業率」(同じく平成15年版での用語)の同時期についての該当値を3  4パーセントといった相対的に異常に大きな数値として示し、それに照応して、需要不足不況による失業率を0.5  1.5パーセントといったきわめて低い数字として示していることは、はなはだ奇妙かつ不可解なことであると言わねばならない。

 このような不可解な算定結果を導き出すために、内閣府の計測作業スタッフは、第3図の備考欄の7に示されているように、欠員率(V)の対数値V自然対数値を主たる説明変数とし、完全失業率としての雇用失業率(U)の対数値U同じく自然対数値を被説明変数とする関数を、推定して用いている(この関数の推定にあっては、欠員率については「雇用者数(すなわち雇用されている人数)+ 欠員者数」として定義される「雇用需要」に対する「欠員者数」の比率という数値の系列が用いられており、失業率については「完全失業者数 + 雇用者数」に対する完全失業者数の比率である「雇用失業率」の数値系列が用いられている)。
 すなわち、内閣府の計測作業スタッフたちは、そのような関数を推測統計学的な手法で推計し、それを用いて「摩擦的失業の率」(
すなわち、用語法としては、これは、同白書の平成15年版における「均衡失業率」、ならびに、平成13年版における「構造的失業率」に該当するわけであるが、これらは、ともに雇用需要に対する比率としてではなく、労働力人口に対する比率として定義されている)を計測・分析しようとしたわけである。

 しかしながら、言うまでもないことであろうが、「欠員率」(
V)という指標は、単なる「摩擦的失業率」の指標であるということにとどまらず、むしろ、景気動向の全般的な動きを集約的に表わしている指標である。したがって、この「欠員率」(V)を説明変数として、完全失業率としての「雇用失業率」(U)を被説明変数としたこの関数は、景気動向にともなう失業率の変動を関数化して把握するのには役立つであろうが、「摩擦的失業率」それ自体を分析することには、あまり役に立たないはずである。

 しかも、『経済財政白書』で内閣府のスタッフたちが行なっているような分析作業のためには、失業者数や失業率完全失業率についてはもちろんのこと、欠員者数や欠員率についても、それらの数値をわざわざ統計的な関数によって推定するといったことをするまでもなく、それらの実際値の確実な統計数値が入手可能であって、現実に、同白書でも、それらを用いて論述がなされているのである。そもそも、『経済財政白書』のこれら当該箇所にかかわる分析作業は、実際値そのものを明らかにするためのものであって、将来値をストカスティックに予測しようとするような性格のものではなかったのであるから、本来的に言えば、このような関数を推定する必要はなかったはずである。すなわち、何のために、この関数が推計されねばならなかったのかということが、不明なのである。

 さらに、同じく同図の備考欄7では、均衡雇用失業率(U*)の自然対数値lnU* この場合の均衡雇用失業率U* も、「完全失業者数 + 雇用者数」に対する完全失業者数の比率と言う意味の「均衡雇用失業率」として論述されている)を表わす式として、

  U* =U −β・V)÷(1−β)

という式が、上記の関数式から導き出されて示されている(この図の備考欄8に示されているように、β = −0.458であるが、この値は上記の関数の説明変数 Vについて推定された回帰係数値、すなわちパラメーターの値である)。

 『経済財政白書』平成15年版では、この式に、上記の関数によるUの推定値系列を代入して、それによってU*  の値の系列、したがってU*  の値の系列が算定されえたと考え、それに基づいて(雇用需要比ベースの雇用失業率」の値を、労働力人口比ベースの「失業率」の値に換算する操作をほどこしたうえで)、第3図のような「均衡失業率」なるものの系列を算定したのであろう。Uの値は、その実際値であろうと、あるいは、上記の関数による推定値であろうと、いずれにせよ、Vの値よりも相対的にはずっと大きな値なのであるから、したがって、そのようなUの値の系列を上式に代入してU*を算定した結果として、第3図に示されているように、「均衡失業率」が相対的に異常に大きな数値として算出されてしまったのであろう。言うまでもないことであろうが、「均衡雇用失業率」U*の値は、その定義からすれば、U*V  という均衡条件を充たしていなければならないはずであるが、内閣府による計算は、この均衡条件を充たしてはいないのである。

 そもそも、上記のこの均衡式は、上に述べた関数式に関して、U  =  V、したがって、U  = Vという均衡条件を前提した場合にのみ成立する式であり、それゆえに、この式は、この前提に立脚するかぎりにおいては、

  U*  =  U・( 1 β)÷(1−β)

         = U  = V

となってしまって、ほとんど無意味なトウトロジーでしかないのである。もしも、このU  = Vという前提を外してしまうようなことをすれば、この式は均衡条件式としての意味を失ってしまうのである。言うまでもなく、上述のように、現実には、Uの値は、その実際値の系列であろうと、あるいは、上記の関数によるその推定値の系列であろうと、いずれにせよ、一般的には Vの値とは一致していない。したがって、U  V  とならざるをえないUの値を上式に代入するという操作を、上述のごとく行なったと思われる『経済財政白書』の計算は、「均衡失業率」を算定しようとする目的にはまったく役に立たないところの ミス・リーディングな誤りであったと、言わねばならないのである。

 内閣府による「均衡失業率」の算定方法についての以上のような要約と、それについての筆者による批判的コメントは、平成15年版の『経済財政白書』になされていた記述に則って行なったわけであるが、同白書の平成13年版に記述された「構造的失業率」の算定方法も、ほとんどまったく同じである(同白書、平成13年版、221222ページ参照)。したがって、本稿で筆者(丹羽)によってなされた上記のような批判的コメントは、平成13年版のそれに対しても、全く同様に当てはまることになるのである。

 


 〔注〕

1) 内閣府『経済財政白書』平成13年版  (2001)、pp. 119-120226-228を参照せよ。

2

稼働率指数の問題点については、Niwa, H. “The recent deflationary gap in Japan: a quantitative measurement”, Journal of Asian Economics, Vol. 11 (2000), p.247およびNiwa, H. “Deflationary gap in Japan, 1970-2000: a quantitative measure-ment”, Journal of Economic Policy Studies, JEPA,Vol.1, No. 12, Dec.2003, p.81 を見よ。


3 内閣府、前掲『経済財政白書』(2001)、p. 227を見よ
4) 内閣府、前掲『経済財政白書』(2001)、pp.226-227を見よ。
5 Niwa, (2003), op. cit., pp. 82-86 & 98-99 を参照せよ。
6 上掲、『経済財政白書』(2001)、pp.226-227
7) 内閣府、前掲『経済財政白書』(2001)、pp. 33-34を参照。
8 内閣府、『経済財政白書』平成152003)、p. 29を見よ。
9 欠員率の算定を下記に示す(@〜C欄の数値単位は年間平均100万人、D欄は%)。


@ A B C D
有効求人数 就職件数 欠員数 労働力人口 欠員率
@-A  (B÷C)×100
1995 1.249   0.126  1.123  66.66  1.68
96 1.446  0.130 1.316  67.11 1.95
97 1.457 0.132  1.325  67.87 1.95
98   1.226 0.139 1.087 67.93 1.60
99 1.241 0.147 1.094 67.79 1.61
2000 1.540 0.156 1.384 67.66 2.05
01 1.487 0.159 1.328 67.52 1.97
02  1.526 0.171 1.355 66.89 2.03

     典拠@A‥‥ 総務省統計局『日本統計月報』平成136月号、p.23

             内閣府経済社会総合研究所『経済要覧』平成16年版、p.98

               C  ‥‥ 上記『日本統計月報』同号、p.16

              上掲『経済要覧』平成16年版、p.88 


 







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