「国際商業」誌5月号に掲載予定

「打ち出の小槌」を使っても、ハイパー・インフレの心配なし!

                            元大阪学院大学教授・経済学博士 丹羽春喜


 デフレ・ギャップこそが超巨大な「真の財源」だ

 前号(4月号)の本稿では、「国(政府)の貨幣発行特権」が、まさに、「打ち出の小槌」であって、これを活用しさえすれば、国民にまったく負担をかけること無しに、わが国の破綻しきった政府財政を再建し、不振・低迷を続ける経済を再生することも、きわめて容易であるという「救国の秘策」を述べておいた。

 しかし、この「打ち出の小槌」の利用ということについては、「そのような施策は、悪性のインフレ的な物価高騰をもたらすにちがいない!」として、それに反対する意見も多いようである。例えば、タレントの「やしき・たかじん」氏がコーディネーターを務めて昨年12月に放映された読売系テレビ・チャネルの討論番組「そこまで言って委員会」(大阪では1219日に放映)では、パネラーの一人としてその番組に参加していた西村真悟代議士が、わが国の危機的な財政と経済の再建・再生を、「国の貨幣発行特権」の発動によって達成するべきことを示唆したのに対して、他のパネラーが、「そんなことをすれば、ハイパー・インフレーションになるのではないか?」と批判していた。そのテレビ番組では、それ以上には深く掘り下げた議論は行なわれずに終わってしまったのであるが、本稿では、そのような懸念や批判論に対して、以下のごとく平易に、経済理論的な分析と解答を与えておきたい。

 小学生でも分かっているように、需要が増えたとき、商品の生産・供給量もそれに応じて伸びれば、価格は上昇しない。同様に、マクロでも、総需要の増加に応じて、総合的に諸種の商品やサービスの生産・供給量が増えれば、物価は上昇しない。

 本誌の本年1月号で私が精密な計測結果を示しておいたように、現在のわが国の経済では、きわめて巨大なデフレ・ギャップが発生・累増してきたまま、居座っており、しかも、それが今もなお拡大し続けている。言うまでもなく、このデフレ・ギャップとは、マクロ的な「生産能力の余裕」にほかならないわけであるが、その規模は、今日のわが国の経済では、潜在的な実質GDPに換算して、年額400兆円にも達しているほどに膨大なものになっている。したがって、この膨大きわまるマクロ的な「生産能力の余裕」が有るあいだは、総需要が増えるのに応じて、諸商品の生産・供給量もどんどん増えることができるわけであって、ハイパー・インフレ的な超大幅な物価の高騰といった事態となるようなことは、ぜったいに、ありえないことなのである。いわば、この超巨大なデフレ・ギャップの存在ということこそが、わが国の経済社会が持っている「真の財源」なのである。

  まさに狂気のさたの想定だ

 すなわち、「ハイパー・インフレが起こるからダメだ!」と言っている人たちは、私やスティグリッツ教授(ノーベル経済学賞の受賞者)が提言しているような「国の貨幣発行特権」の発動という政策が本格的に実施されるようになると、それによって、わが国の総需要が、現在の年額約500兆円から、突如として年額数千兆円、あるいは、そのまた十数倍ないし数十倍の、「兆」の一万倍である「京」(けい)という単位で表して、年額数京円ないし数十京円といった天文学的に超膨大な額にまで飛躍的に増加し、諸商品の生産・供給がそれに追いつけず、物価が数十倍、数百倍にも暴騰することになると想定しているわけである。

 しかし、私が提案している景気振興策は、「国の貨幣発行特権」という「打ち出の小槌」を財源調達手段としたケインズ的財政政策によって、年額4050兆円程度の有効需要を政策的に経済に追加注入し、それからの乗数効果でその22.5倍に所得が増えると見積もることができるので、2年あるいは3年ほどのあいだに、少なくともGDP100兆円ぐらいは増加させようという程度のものである。この100兆円のGDP増加から生じる現金通貨の流通量の増加も、10兆円ぐらいのものである。その程度のことで、数千兆円あるいはその十数倍ないし数十倍にもおよぶほどの超膨大な総需要の拡大が誘発されるなどといったことは、金輪際ありうることではない。

 実は、私自身は、日本経済における乗数効果の乗数値が、上記で言及したように22.5であるということを実証ずみなのであるが、しかし、現在、わが国のエコノミストたちの多くが、わが国経済の乗数値が1.0割っているとさえ考えているのが現状である。であるというのに、ハイパー・インフレ論者たちは、日本経済における乗数効果の乗数値を100以上とか1000以上といった、まったくありえない桁外れに大きな数値として想定しているわけであるから、まさに狂気のさたである。

 私は、上記のように提案した施策を数年は続けるべきだと言ってきたのであるが、付図が示すように、私が提言しているそういったケインズ的政策で、たとえば平均年率7パーセントといった高度成長が10年続いたとしても、それでもなお、まだ、デフレ・ギャップは完全には消失するにはいたらないのであり、したがって、インフレ・ギャップ発生による大幅な物価高騰が生じるという心配は無用なのである。

                               付図





国債大量償還でも過剰流動性を避けうる秘策

 問題は、むしろ、数百兆円にもおよぶほどに累積されてきた既発の国債を、「国の貨幣発行特権」という「打ち出の小槌」で償還する場合であろう。国内投資家が、償還を受けた資金で、工場やビルディングを建てるといった実物投資をするならば、それは、需要面でも、生産面でも、わが国経済の進歩・発展に役立つ。また、この資金が、株式や社債の購入に向けられた場合も、それは、間接にではあるが、わが国の経済の発展に寄与することが多いであろう。しかし、そのような国債償還によって民間が受け取った巨額の資金の多くが、経済の発展に役立つような有利な投資機会を見出すことができず、過剰流動性となって、ただ投機的なマネー・ゲームにだけ投入されるといった事態となることは、望ましくないであろう。

 そのような危険性に備えて、政府は、この「打ち出の小槌」財源を利用して、円高の防止をも兼ねて、あらかじめ、米国など諸外国の公債や社債などを大量に購入しておき、そのような外国債との等価交換で、国内投資家から既発の日本国債を回収(その代償として、国内投資家には外国債を渡す)すればよいのである。この方法を、適宜、併用していくことにすれば、わが国内で巨額の過剰流動性が発生する危険を避けながら、大量の既発国債の償還をスムーズに進めていくことができるはずである。このことも、私が、かなり以前から提言し続けてきた秘策なのである。

 







丹羽春喜日本経済10%成長論