そんな二人は、とっても仲良し。お互いが好きである事を互いに知っているの
ですが、なかなか進展していないようです。
そこへ登場しました、惣流さん家のアスカちゃん。ドイツからの帰国子女。
豪快な性格の彼女にも気になる人がいるようですが?
はてさて、あの子たちはどのような青春の1ページを、私たちに見せてくれる
のでしょうか?
我が青春の第三新東京学園
第8話 一人きりのクイスマス・イブ
「うん、じゃあ。おやすみ」
プツッ ツー ツー
「ふぅ」
家庭内電話の子機をベットの側にある充電器にセットすると、レイはため息を
一つ吐いた。
風呂上りでまだ湿り気を帯びている髪が、頬をくすぐる。
暗くした自室内で、電話の充電器が充電中であることを示す赤いランプが、妙
に明るく見える。
そしてその赤い色は、自分が住むマンションの階段近くにある非常灯と、そし
てその場所で見てしまった光景を思い起こさせるのだった。
「う〜、さむさむ。もう、急に寒くならなくたっていいじゃない」
レイは、いつものようにマンションの階段を登って帰宅する途中だった。
しかしいつもと違ったのは、学校から出ようとしたところで担任のミサトに呼
び止められ、用事を押し付けられたことだった。
シンジは待っていると言ってくれたが、寒い中悪いなと思ったので先に帰って
もらったのだ。
だから今は側にシンジはいない。
待っていてもらったほうが良かったなぁ。
少し後悔する。その意味することは言うまでもなく、カイロ代わりをシンジに
なってもらうことだ。
ほんと、シンジって暖かいのよねぇ
考えながら顔がにこにこしてしまう。
「あーーもうっ!!こんなこと考えているから、余計に寒くなっちゃったわ。
早くウチに戻って紅茶を飲もうっと。」
そして階段を駆け上がるように登っていく。
すると50Mほど離れた横にある、このマンションのもう一つの昇降用階段か
ら「きゃっ。」という悲鳴が聞こえた。何だろう?と視線を向けた先の光景を
見て、レイのすべての時間が止まった。
「シ、シンジと・・・・・・アスカが・・・」
そこには、抱き合うシンジとアスカの姿があったのだった。
ぼふっ
ベットに倒れ込むように寝転ぶと、顔を枕に埋めた。
どうして?
なぜ?
見た光景を信じたくないという気持ちと、アスカに対する嫉妬、そしてシンジ
への不信感が湧き出す。
先ほどの電話はアスカからのものだった。
明日12月24日に、アスカの家で行われるクリスマスパーティーが、昼から
行われるというものだったが、いつものように話が脱線していった。だが、今
日はほとんどアスカだけのしゃべりが続き、レイは相槌を打つばかり。
話していると、あの光景が頭の隅をちらつくからだ。そしてあの時の状況を、
真相を聞こうかどうするかで悩んでいたこともあり、会話らしい会話になって
いなかった。
そして、結局聞けなかった。
しかし、アスカの様子からは後ろめたいといった感じはなかった。
私の勘違いかもしれない。
そう、そうよね。
そうだ、シンジに聞こう。
そして再び電話を手に取る。短縮の1番を押そうとするが、どうしても指が止まる。
もし・・・もしアスカとのことが本当だったら・・・・
偶然でも何でもなかったなら?
ゆっくりと電話を持った手が下りていく。そして思考の渦の中へと沈んでいった。
彼女の夜は、まだ長い。
12月24日 PM3時
「ちょっとぉぉっ!!なんでレイがこないのよっ!!」
「何でわいに怒鳴るんじゃ!このぼけぇ!!」
「なぁんですっってぇぇ!!」
「シンジくーん、もっと飲もうよぅ」
「ちょ、伊吹さん、そんなにくっつかないで・・」
「・・・シンジのやつ。・・死刑だ」
多少のアルコール(本物のシャンパンが用意してあった)が入っていることも
あり、子供たちは気分がハイになっている。
トウジとアスカがぎゃいぎゃいと騒いでいるのを横に、シンジは絡むマヤをケ
ンスケに押し付けて、一人部屋の隅に移動して食べ物をぽつりぽつり食べ
ていた。
「シンジ、ちょっといいかしら?」
声を聞けば誰かはすぐ分かる。
生まれた時から、ずっと見守ってくれた存在。
自分の母親に顔を向き、気のない声で答えた。
「いいよ」
了承の言葉を聞いてから息子の隣に座るユイ。
「・・何?母さん。」
「レイちゃんと喧嘩したの?」
「え?」
・・なんで母さんは、そんな風に思ったんだろ・・
「何で?って顔をしているわね。レイちゃんは来ないし、シンジがこーんな暗い
表情をしていたら、一目瞭然じゃない?」
にっこり微笑む母に、シンジは力なく笑い、首を振るだけだった。
元気がないのは、みんなのノリに付いていけなかっただけではないようだ。
「何で来ないのか、僕にもよくわからないんだ。マイおばさんなら分かるかもし
れないけど・・」
ふーんと聞いていたユイは、丁度良いタイミングでテーブルに追加の料理を並
べていた妹に視線を向けた。
「マーイ」
「?なに?姉さん」
「レイちゃん、どうしたの?具合でも悪いの?」
「うーーん、そういう訳じゃなさそうなんだけど・・・・・・何言っても”行かない”
の一点張りでね、部屋から出ようとしないのよ」
「でも、きっと何かあったと思うの。それもシンジの絡みで」
「何でわかるのさ?母さん」
シンジのその疑問が、マイの疑問でもあったようで彼女もまたじっとユイを見
ていた。
ユイはその理由を少しずつ話し始めた。
「昨日の夕方、買い物から家に帰ってくる途中でレイちゃんを見かけたの。場
所はね、近所の公園のブランコ。でその姿がね、ものすごく頼りなげだったか
ら、話し掛けたの」
そこで一呼吸入れる。
「レイちゃんは特には何も言わなかったわ。だからピンときたの。シンジ絡み
だなって」
「で?」
そのシンジの返事に、ユイは呆れたような表情を浮かべた。
「でって、私は適当に励ましただけ。シンジは、レイちゃんがそうなった心当
たりないの?」
分からないと首を振るシンジ。
情けないわねぇ・・・・
息子の不甲斐なさに呆れてしまう。
「やっぱり、あれかな?」
何時の間にか3人の背後で話を聞いていたキョウコが、ぽそっと漏らした。
「あれって?」
”相変わらず神出鬼没ね、侮れない相手だわ”と頭の中で思うユイ&マイだっ
たが、まずは続きを聞こうと話を促した。
「あたしも丁度会社の帰りでね、階段歩いていたら踊り場で、うちのアスカち
ゃんとシンジ君が抱き合っていたの見ちゃったの。あら、何時の間にって感じ
よね?でも、シンジ君が息子になるというのもなかなか・・・・・きゃん」
「「どういうことのなの?シンジ(君)」」
暴走しだしたキョウコを無視して、ユイ&マイがシンジに向けて身を乗り出す。
少しキツイ表情の母親×2に問い詰められ、かなり引いてしまうシンジだった
が、ぐぐっと何とか持ちこたえたようだ。
「き、昨日学校から帰りにさ、レイがミサト先生に捕まって、先に帰ってって
言われたから寄り道してから帰ったんだ。それでマンションのそこの階段で、
アスカが足踏み外して落ちそうになってたのが見えたから、助けてあげたんだ
よ。ほんとそれだけだってば」
「でもぉ、向かいの階段を駆け降りるレイちゃんの姿を見たから、レイちゃん
もそれ見ていたんじゃないの?」
「・・・そうなんですか?キョウコおばさん」
「ええ」
二人揃って顎に手を添えて、シャーロック・ホームズよろしく考えるポーズを
取っていたユイ&マイは、キラーンと目を光らせながら言った。
「「それね」」
ユイとマイは頷き合い、揃ってシンジに向き直った。
「早く行きなさい、シンジ。行ってちゃんと弁解なさい。レイちゃん、きっと
誤解しているのよ」
「あの子のことだから、シンジ君に確認する勇気がなくて、うじうじしてるの
よ。だから、ちゃんとフォローしてあげてね」
「う、うん。わかった」
絶対、何か茶化されると思っていたシンジは、そのまっとうな回答に少しびっ
くりしていたと同時に、やっぱり親なんだと感動していた。が、その感動も長
くは続かない。
「シンジ君を、キョウコの息子にするわけにはいかないわ!!」
「私にそっくりなレイちゃんが娘になる野望は、誰にも邪魔はさせないわ!!」
「・・・・ちょっと、そーーーーんなに言うことないじゃない?二人とも。私だって
少しは野望があるんだから」
「キョウコ・・・・・シンジ君はあげないわ」
「あ、シンジ」
キョウコとマイがにらみ合いを始めたのを横目に、呆れながらもとにかくレイに
会おうと立ち上がったシンジを、ユイは再び呼び止めた。
「何?母さん」
「いくらレイちゃんが”先に帰っても良い”と言っても、それを待っててあげるのが
男の子なの。覚えておきなさい」
「「そう、その通り!!」」
「う、うん」
さっきまでにらみ合っていたはずの二人にもいきなり同意され、シンジはただ
勢いに押されて頷くしかできないのだった。
シンジが行動を起こした頃、レイは自室のベットで額に手をかざして、天井を
見るともなしに見ていた。
シンジ・・せっかく迎えにきてくれたのに・・・今は会いたくなかった。
今の私・・・何を言っちゃうかわからなかったから。
でも、馬鹿だよね私。
こんなことしてたって、何の解決にもならないのに・・・
ぐぅ
「・・・悩んではいても、腹は減る・・か。何かあるかなぁ」
食料を求め、もぞもぞ動き出すレイ。
キッチンには来たものの、冷蔵庫の中を見て愕然となった。
「な、なぁーーーーーーんもない。・・・・そんなぁ」
今回のパーティーのシェフはマイなのだ。
当然綾波家にある食材は、すべて惣流家に運び込まれている。
少し考えれば分かることだった。
「どぉーしよ。・・・今更パーティーに行けないよぉ」
お腹を空かせ、すっかりショボくれたレイは、そのままキッチンに座り込んで
しまった。
どのくらいそうしていたろう。不意に顔を上げると、自室へ歩き始める。
「仕方ない。コンビニで何か買ってこよ」
こずかい、今月はピンチ(プレゼント購入の為)なんだけど、背に腹は変えら
れないっと。
あとで、お母さんにせびればいいよね。
うん。
ピンポーン
玄関の天井近くに備え付けられているカメラをじっと見ながら、シンジはイン
ターホンのボタンを押していた。
どうしよ、あんな姿目撃したら、確かに怒るよなぁ。
とにかく謝らなきゃ。
ピンポーン ピンポーン
「レイ・・・・どこかへ行っちゃったのかな」
でもどこへ?
街に?どこかへショッピングに行ったのかな?
でも、母さんが言ってたじゃないか。レイが落ち込んでいたって。確かこの近
くの公園だったよな。行ってみるかな?
でも、明かりが点いているし、本当にいないのかな?
今は、レイ一人っきりだよね。
そう考えが至り、シンジは落ち込んでいった。
僕は・・・最低だ。
レイの気持ちを気付こうとせず、理解しようとせず、自分はのうのうとパーテ
ィーに出ているんだもんな。自分だけ楽しもうとしているんだもんな。
ピンポーン ピンポーン
「・・・・いない・・・か」
まずは公園。
あとは順番にレイの行きそうな所を片っ端から探そう。
そして見つけたら・・・・
ポケットの中の小さな箱を取り出す。
それを少しの間じっと見ていたシンジは、箱をもとの位置に戻そうと視線を戻
した時、マンション街を出て行こうとする蒼銀の髪の少女を見掛けた。
「レイっ!!」
手すりに乗り上げて大声で呼びかけるが、余りにも遠すぎて聞こえないようだ。
そうこうするうちに、レイは角を曲がって歩いていってしまった。
「追いかけなきゃ」
後を追おうと振り向いた先に、良く知る人物がたっていた。
「あれ?マイおばさんに、アスカ?どうしたの?」
「なぁーにが”どうしたの?”よ。パーティーをこそっと抜け出したりなんかしてぇ、
マイ叔母様の前でレイといちゃつくのも、いい加減にしなさいよぉ」
「あら?私はぜんぜん気にしていないわよ。むしろ早く孫の顔が見たいわ」
うふふふと微笑むマイに、しばらく二の句が次げなかった二人が立ち直るより
も早く、マイはシンジに話し掛けていた。
「ま、それは横に置いておいて、私はケーキを取りに来たのよ。アスカちゃん
はそのお手伝い」
「そ、そうですか。あ、レイが外出て行っちゃったんで、僕、探しに行きす。
それじゃぁ!」
そう言い残すと、シンジは二人の横を摺り抜け、階段を駆け下りていった。
その後姿を見送りながら、ぽそっとマイがつぶやく。
「とうとう破局かしら?」
「・・親がそういうこと言いますか?」
レイを追いかけてマンションを飛び出したシンジは、周囲を見渡しながら歩い
ていた。しかし、レイの姿は見当たらない。
「そうだ、公園が確かこの近くだからあそこかも」
くきっと角を曲がってシンジが走って行った後、角を曲がらずに真っ直ぐ50メ
ートル行った所のコンビニから、袋を手に持ったレイが出てきた。
間が悪い時は、とことん悪いものである。
「あ〜あ、肉まん、あんまんが8個しか買えなかったなぁ。こんなんじゃ足り
ないよぉ」
そこへ、風が舞う。
「うーさむさむ。早く帰って、テレビでも見よっと。」
少し小走りで走っていたレイは、ふと立ち止まるとぽそっとつぶやいた。
「シンジ・・・・言い訳したら許してあげるから・・・・来てよ」
「いないや。どこ行ったんだ?」
自分の勘も大したことないなと思ってしまう。
「あとレイの行きそうなところ・・・行きそうなところ・・・」
ぶつぶつ言いつつ、周囲を観察していたシンジは、目の前の家の玄関先に、少
し大き目のクリスマスツリーが飾ってあるのが目に入った。
沢山の電飾が飾られており、暗くなったらさぞや奇麗だろう。
去年は、駅前広場に立てられた大きなクリスマスツリーを、二人で見に行った
っけ。とても奇麗で、レイはとても喜んでいた。
・・・・はっ。
もしかして、駅前に行ったのかな?
うだうだ考えるよりも、行動しよう!
そして、再び駆け出したシンジは、さほど時間もかけずに駅前へたどり着いた
ものの、当然のことながらレイの姿が見つかるわけはなかった。
「ここも・・・だめか」
ここに来るまでと、来てから。時間はどのくらいたったか分からない。
とにかく探した。
でも、見つからなかった。
もしかして、家に帰ってきているのかな?
懐から携帯電話を取り出すと、綾波家へダイヤルした。
ぷるるる ぷるるる
『はい、綾波ですが。』
「あ、レイ?」
『その声はシンジ君ね?残念でした。あなたのマイよ。 ナニイッテイルンデスカ!!
ま
あまあアスカちゃん』
「ま、マイおばさんですか。レイ・・・戻ってます?」
レイと良く似ていたので、つい間違えてしまった。
『いいえ。戻ってないわよ。見つからないの?』
「ええ・・」
『戻ってきたら連絡させるわよ?』
「お願いします。じゃ」
ピーーーーーーーーーーッ
「なんだ?・・あ」
突然の音でびっくりしたが、確認したら自分の携帯のバッテリー残ゼロを示す
警告音であることに気付き、電源を落とした。
「・・・・これじゃあ、電話受けられないや」
何から何まで、すべてがうまく行っていない気がしてすっかり脱力したシンジ
は、近くのベンチに座って広場をぼーっと眺めていた。
広場では、例のクリスマスツリーの電飾工事と飾り付けが行われていた。
「こら!早くしろ!7時まであと1時間しかないぞ!!」
現場監督らしい人が、十数人の人を使って作業をしている。多少遅れているよ
うだ。
去年も、点灯させる瞬間が見たいからって6時くらいから待っていたっけ。
あの時は二人だったけど・・・・今は一人。
一人きりのクリスマスイブ・・・か。
・・・・寂しいね、一人きりって。
レイはどう?
「こらぁ!!さっさとやらんかぁ!!」
とろとろやっていた作業員を叱り飛ばし、しきりに時間を気にする現場監督。
今回の点灯には、テレビ局もくるらしい。
そんなもので、自分達の会社のイメージダウンをさせるわけにはいかない。
それ以前に、手抜きは自分のプライドが許さない。
「何とか7時に間に合わせんと」
「あのぉ、すみません」
多少いらいらしていた所へ、彼に声を掛ける者がいた。
鬱陶しそうに振り向く。
「なんだね?」
そこには、中学生くらいの男の子がいた。
「あの、飾り付けを、手伝わせていただけませんか?」
「あん?飛び入りバイトか?金、払えんぞ?」
「構いません」
冗談かと思ったが、その少年の表情は何か真剣なものを湛えていた。
「・・・・・・ま、いいだろ。電飾は俺達がやる。残りの飾り付けの手伝いをしろ」
「はい!」
「あれ?」
「どうしました?叔母様?」
「いえね、ぶちっと音がして切れちゃったから、何でかなと思って」
「バカシンジが電話、落っことしたんじゃないですかぁ?」
「そうかもしれないわね」
ピンポーン
マイがケーキの飾り付けを再び始めた所へ、来客を告げるチャイムが鳴った。
「はいはい」
慌てて玄関の扉の鍵を開けると、自動ドアの玄関扉は静かに開いた。
その外から入ってきたのは・・・
「なによぉ、閉めちゃうことないじゃない、お母さんったら」
「レイ・・・どこに行っていたの?」
「え?見ての通り、コンビニだけど?」
「なんだ、大して落ち込んでないじゃない。心配して損したわ」
「え?」
その声にレイが見上げると、そこには彼女がいると予想していなかったアスカ
の姿があった。
「アスカ・・・」
思わず視線を逸らすレイ。思い出したくない光景が頭の片隅をよぎり、立ち直
りつつあった心が、再び落ち込みだす。
「レイ、あんた何誤解してんのよ?」
キョウコに、シンジとのことがレイに見られたらしい事を知らされていたアス
カだったが、レイの反応を見てそのことが事実であることを確信した。
「・・・なにが・・・・誤解だっていうのよ」
「ったく。昨日ね、あたしがたくさんのパーティグッズを買って帰る時、階段で
バランス崩して落ちそうになったの。その時、たまたま通りかかったシンジが、
あたしを助けてくれた。それだけよ」
アスカは嘘をつくのが下手だ。今の説明は、嘘には聞こえない。
「・・・・本当なの?・・・・」
「あんたあたしの言うことが信じられないわけぇ?」
「・・・・・・だって、シンジって、誰にでも優しいんだもん。・・・・この間だってマヤ
に優しくしていたみたいだし・・・何だか自分がシンジにとって一番なのかどうか、
わかんなくなっちゃったの・・・」
自分でも何言っているのかわかんないや。
「あんたばかぁ?あんたシンジに惚れてんでしょうが?惚れた男の何を見てい
たの、あんたは?あの馬鹿は確かに手当たり次第に優しいし、男に免疫ない子
はすぐ騙されるでしょうけどねぇ、私たちに対する優しさとあんたに対する優
しさでは、天地ほどの差があるわよ。そんなことも気付いていなかったわけ?
ぼけるのもいい加減になさいよ!!」
私は少しショックだった。
みんなに対する優しさと、私に対する優しさには、天地ほどの差がある。
本当にそうなのだろうか?
「ほらっ、シャンとなさいっ!!あんたの馬鹿が、あんた探しに今ごろこんな
寒空の中、街中走り回ってんのよ?」
「そんなことあるわけ・・・」
「そう言って出て行ったのだもの。さっき電話があったけど、アスカちゃんの
言う通り、今もどこかを走っているのでしょうね、シンジ君」
「・・・・」
アスカは電話の子機を、レイに差し出す。
「はい。このあとどうするかは、レイの自由。でもね、シンジのこと、好きな
んでしょ?あいつのことが気になって仕方ないんでしょ?なら、とことんあの
馬鹿を信じなさいよ」
「アスカ・・・・・ありがと、アスカ」
「ほら、シンジ君に早く連絡してあげなさい」
「うん」
ぴ ぴ ぴ ぴ
震える手でダイヤルし、耳にあてる。
『お掛けになった電話は、電源が入っていないか・・・・』
「だめ、繋がらない」
「どうして!?」
「電源が入っていないって」
「あ、もしかして、シンジ君の携帯のバッテリーが切れたのかもしれないわ」
「どうしよう?お母さん?」
「どうしようと言われても・・・・・・あ、いた」
困った顔をしていたマイの表情が、テレビをみて固まる。
「どこ?」
「ほら、レイ。ここ」
母親の指差す先にはテレビがあり、そこではニュースが放送されていた。話題
として駅前のクリスマスツリーのことが取り上げられていたのだが、ブラウン
管のすみに、クリスマスツリーの飾り付けを手伝うシンジの姿があった。
「なにやってんの?あの馬鹿?」
「・・・・あのツリーだ」
「え?」
「お母さん、駅に行ってくる!!アスカ、ありがとね!!」
肉まんの袋をほおりだいしてどたどたと賑やかに出て行くレイを見て、アスカとマ
イはくすっと微笑んだ。
「ほーーーんと。世話の焼ける二人だこと」
「でも・・・少し、羨ましいです」
「そうね。でも、シンゴも奥手だからねぇ。アタックあるのみよ!!」
「もう・・・・・勘弁してください」
無事、電飾と飾り付けが終了して、点灯がされた。
おお、と周囲から歓声が上がる。
きらびやかに着飾ったクリスマスツリーは、周囲に情緒溢れる光景を演出して
いる。
「ふいぃぃ。やっと終わったぁ」
額の汗を袖でぬぐったシンジの後ろに、現場監督がやってきた。
「お疲れ。ほい、小遣い程度だが、受け取ってくれ。おかげで助かったよ」
「いえ、いいですよ」
「いいから!子供が遠慮するんじゃねえ!!」
「は、はい。ありがとうございます」
「じゃあな、坊主。メリークリスマス」
「ええ、メリークリスマス」
また、一人か・・・・
作業に集中している間は、作業員の人たちに混じって寂しさを紛らわすことが
出来た。
ひとりぼっちでいる自分を忘れることが出来た。
しかし・・・
うつむきながら歩いていたシンジは、ツリーに振り返る。
ツリーは去年と同じように、いや去年以上にきらびやかに見える。
そんな美しさも、明るさも、孤独感に浸るシンジを癒してはくれなかった。
むしろ、孤独感を増長させるようにも感じられた。
そして、再び去年の光景に思いを馳せる。
”うわーっ。・・・奇麗だね。シンジ。”
”腕組もうよ、シンジ”
”・・・あったかい・・・・”
「今年も、二人で見たかったな」
「まだ、間に合うよ」
「え?」
背後から、思いもよらなかった声がかかり、驚きをもってシンジは振り向いた。
そこには、ずっと探し続けていた一人の女の子の姿が・・・・
そして翌日・・・
「レイ・・・・まだ喧嘩しているの?」
「違うわよ!!あんなやつ、何とも思っていないんだからっ!!」
ヒカリが何とかしてあげようと話し掛けたのだが、完全にへそを曲げたレイには
何も聞きれてもらえなかった。
しかも言っていることが、通っていない。
「まぁ〜だ意地張ってるわけ?以外と頑固なのね、レイって」
「頑固じゃないもんっ!!」
アスカの感想に即反論をするのだが、ヒカリとアスカは”それを頑固と言うのよ”
と頭の中で突っ込んでいた。が、事の起こりを知っている二人は、レイが怒る理
由もわかるのであえてツッコミはしなかった。
「さあさあ、早くお弁当にしましょ」
「「う、うん」」
そして教室で弁当を広げ出す彼女たち。
そこへ、聞きなれた者の声が聞こえる。
「レイ・・・ごめんって何度も言ってるじゃないか」
シンジだった。
「知らない」
「ねぇレイ。機嫌直してよ」
「ふん」
「まいったなぁ」
弱り果てたシンジの肩を叩く人物が。
「よう、お困りのようじゃないか?シンジ」
「何だよ、ケンスケ?人の不幸を喜ぶなんて、趣味悪いよ」
「何とでも言え。このネガとプリント、いくらで買う?」
見せられたシンジは、だんだんと顔が真っ青になっていく。
「ちょ、こんなところでそんな写真!」
「いくらだ?え?いくらだ?」
じゃれあう二人の背後から、細い指がケンスケの手から問題のプリントとネガを
奪った。それを見たその人物の肩がわなわなと震える。
ぐしゃっと一部写真を握り潰し、食事もそこそこに、ずんずんと教室を出て行く
レイ。
その握り潰されたプリントの、手からはみ出た部分から見えるのは、シンジとマ
ヤの顔が重なっている様子。それは、今喧嘩している直接の原因。
そして、別の手に原形を保っているプリントには、ツリーの前で一つの影となった
シンジとレイが。
すたすたと出て行くレイを、慌ててシンジは追いかける。
「れ、レイ?」
「絶対に許さないんだから!!」