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problem 10.
さあお風呂と思ったらお湯が出ないのよ (暖房も効いてないでしょー)
■ ボイラー故障という悲劇
2月のある日,"Horrible news"が私を待っていた。
ボイラーが壊れた。
そのボイラーは,給湯システムと同時に家全体の暖房もカヴァーしている,イギリスの家庭で一般的な例のボイラーである。
「セントラル・ヒーティング」と言えば聞こえはよいが,その「セントラル」の部分が壊れてしまうと全体がダウンしてしまう。ボイラーが壊れればお湯も出ないし暖房も使えない。
その時私が住んでいたのは,ご夫婦2人暮らしの家の空き部屋を貸間にしているという形のベッドシット。大家さんと同居していたことはまったくもって幸いで,大家さんはすでにボイラー修理を電話で依頼してあった。
「だけど」と大家さんは眉根を寄せて言った。「とても立て込んでて,今日は無理だって。」
その日は金曜日。「今日来られない」ということは,週末を挟んで月曜日まで堪え忍ばなくてはならない,ということである。「じゃあ月曜日ですね?」と言った私に,大家さんは「そう,どうにかこうにか月曜日ということで来てもらえそうだ」と答えた。
「どうにかこうにか」----大家さんが使ったのは just managed to ... という表現だったと思う。電話に応えた業者は「今手いっぱいで,伺うのは1週間後になります」と言ったが,大家さんは「緊急事態なんだ,危険なんだ,ガスが漏れていたら大変なことになる,妻は昨日冷水シャワーを浴びて風邪をひいた,こじらせて肺炎になったら命が危険だ」などなど,ボイラーが壊れたことの重大性を十二分にアピールし,ようやく「月曜日」の約束を取り付けた。「イギリスのやり方だ」と大家さんは笑った。
「大きく言わないと,1週間経っても来やしないからね。いずれにせよ,少なくとも月曜日まではお湯は使えないから,お風呂に入りたかったら台所でお湯を沸かして運んでいくよりない。君がお風呂に入る時はお湯運びは手伝うから,遠慮なく言ってね。」
大家さんは予備の暖房器具(電気ファンヒーター)を貸してくれた。奥さんは「寝る時に使ってちょうだい」と湯たんぽ(日本の水枕と同じ形状のあれ)を貸してくれた。そして「こんなことになってしまって本当に申し訳ない。今週の家賃は全額はもらえない」とまでおっしゃった。私は「でもボイラーが壊れたのは大家さんの責任ではないんですから,全額払います。しかもこんなによくしていただいて」と言ったが,結局いくぶんか安い家賃にするというところで話がまとまった。
お借りした電気ファンヒーターは小型ながら異様にパワフルで,寒い思いはしなかった。お風呂には入れなかったけれど,濡れタオルを電子レンジでチンしたあつあつのおしぼりで身体を拭いたらかなりさっぱりした。(これは大家さんご夫妻にも喜ばれた。)
そして月曜日の午後。出先から荷物を置きに戻ると,ボイラーマンがボイラーをこぶしで叩いていた。その日仕事がお休みだった大家さんがにっと笑って,「もう3時間も前からああやってるんだけど,全然ダメ。ま,これがボイラーマンなんだけど,今日も期待はできないと思うよ」と耳打ちした。
その直後,ボイラーマンは首を振りながら降りて来て「残念ですが,今日は直せませんね。部品が手元になくて」とすごいコックニーで言った。
大家さんは「ほら,やっぱり」と目配せをしながら「それじゃいつになりますかね?」と尋ねた。
ボイラーマンは「2,3日……ですかね」と答えた。
これは1週間はかかるな,と私は思った。
大家さんも当然そう思ったのだろう,「緊急事態だ,危険なんだ,妻は金曜日の夜に冷水シャワーを浴びてひいた風邪が悪化してしまった。仕事がどうしても休めないから無理をして出てて,肺炎になるんじゃないかと気が気ではない」などと訴えた。
ボイラーマンは「この時期,いろんなところでボイラーが壊れて,部品がないんですが」とコックニーで答えた。多分こんな内容だった。「でも奥さんの風邪がそんなにひどいのはお気の毒です。なるべく早くできるようにします。」
木曜日,ボイラーは直った。「珍しい」と大家さんは言った。「普通1週間じゃ済まない。」
私がとても幸運だったのは,住んでいたのが大家さんが同居している住居で迅速に対応してくれたこと,しかもその大家さんが店子に対してはとても正直で親切で,さらにボイラー修理業者の扱いを心得ていた方であったことと,家に予備のヒーターがあったことである。もし自分で業者に電話しなければならない状況だったら,おそらく2週間くらいは震えていなければならなかっただろう。
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