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彼女は突然やって来た。 「ハーイ! Show And New Technnology Agency、略してSANTAからやって来ました、“アン・ウェイサンド”デース!」 金髪の少女は。 SANTAは祭りなどのイベントに関して依頼を受ける、世界的なエンターテイメント組織だ。 だが、ここ大和国は閉鎖的な国で、他国との国交がほとんどなく、世界中で今大流行だという"SANTA”を知っている人もほぼゼロ。 まして、こんな小さい村では… 「どういうことよ!」 桐(きり)は、怒鳴った。 その怒声で、村長の家がびりびり震える。 「何で外人に、一番太鼓をやらせなきゃいけないわけ!?」 「まあまあ…それがなあ、詩絵が死ぬ前にあそこへ依頼したんだと」 村長が説明するも、桐は収まらない。 「だからって、素人に太鼓が叩けるもんか!」 と、桐は当のSANTAを見下ろす。 彼女は平気な顔で、出されたおにぎりを頬張っていた。 「おいしいデスネ! ヤマトは食べ物がおいしいデース!」 「はん、特にこんな間抜けそうな女じゃね!」 「アナタ、ワタシをバカにしマシタネ?」 口を尖らすも、目は笑っている。 「一番太鼓をワタシに頼んだのは、アナタの親友サンデスヨ」 「聞いたわよ! だから腹立ってんのよ!」 きっ、と桐は青い目を睨みつける。 「詩絵は、本当に意地が悪い! そんなにあたしに、一番太鼓をやらせたくなかったなんてね」 桐は、黒髪を翻して出て行ってしまった。 しばらくしてから、アンは口を開く。 「何を怒ってるデス? 彼女は」 「ああ…実は、この村の祭りでは踊りの際に太鼓を二個叩くのです。その内、一番目立つのが“一番太鼓”。“二番太鼓”はあくまでそれの補助です」 村長はため息をついた。 「詩絵という娘が、一番太鼓をやるはずだったのですが…病死してしまい」 「それは知ってマス。彼女は死ぬ直前に、SANTAに頼んだデスから」 「あの桐は二番太鼓をやっていて、詩絵が死んだからてっきり自分が代わりに一番太鼓をやるのだと思っていたのです」 「でも、ワタシが来た?」 アンはにやりと笑った。 「ナルホドナルホド。ではでは、練習してきマスか」 彼女は全く応えた様子がなかった。 桐は太鼓を一心不乱に叩いていた。 「Wow! クールデス」 背後から掛かる声に、顔をしかめて手を止めた。 「帰ってよ」 「何でデスカ? ワタシ依頼受けたからこれ叩かなきゃデス」 と、桐の正面にある太鼓の前に立つ。 一番太鼓…。 唇を噛む桐。 「教えて下サイ」 「何ですって? あんた、何もわかんないの? それで一番太鼓が勤まると思ってんの!?」 「さあ。でもワタシはプロです。だから大丈夫デス」 桐はバチを放り投げた。 「やってらんないわ。帰って!」 「冷たい人デスネ。いいデス、もう頼みマセーン」 つん、としてアンはそっぽを向いた。 「むかつく喋り方しないで」 「ワタシネイティブじゃないから無理デス」 ネイティブ? 知らない単語に首を傾げるも、聞くのも癪で桐は黙っておいた。 「せいぜい頑張れば」 桐はそう言い残し、立ち去った。 桐は泣きそうな顔で、太鼓を見下ろした。 蘇る、詩絵との会話。 『桐ちゃんと私で、一番太鼓と二番太鼓叩こうね。でも、どっちが一番になるかな?』 一番太鼓の地位を競って、二人は互いに切磋琢磨したものだった。 見事一番太鼓の座を射止めたのに、詩絵は死んでしまった。 「…馬鹿…」 呟かずにいられなかった。 あんたは、どうしてSANTAになんか依頼したの? こみ上げる怒りは、止められそうになかった。 アンは、懲りずに練習を続けていた。 桐が教えてくれないので、若衆などに教わりながら。 桐はそんな彼女を、呆れたように見ていた。 馬鹿じゃないの…? 祭りまで日数がないってのに、どうしてこんな素人を。 やはり、彼女に対して抱くのは怒りだけだった。 「おや。桐サーンッ!」 アンはこちらに気付き、手を振った。 「一度合わせマスかー?」 「…無駄よ」 立ち去ろうとする桐の前に、アンが回り込む。 「頑固な人デスネ。合わせないと、桐サンも困りマス」 「あたしは、あんたが居ること自体に困ってんの。さっさと何たらって組織に帰れば!?」 「何たらじゃありマセン。Show And New Technnology Agency、S・A・N・T・Aデス!」 「どうだっていいのよそんなこと!」 とうとう、桐の堪忍袋の尾が切れてしまった。 「金髪碧眼の素人が、一番太鼓ですって? ふざけるのも対外にしなさいよ! 全大和から笑われるわ!」 「差別デス。仕方ありマセンデショ。SANTAに大和人居ないデスから。ワタシはこう見えて、SANTAで一番大和語 が達者なのデスヨ?」 「そういう問題じゃないのよ…」 悔しい悔しい悔しい。 詩絵が憎い。 「桐さん、あなたただ一番太鼓がやりたいだけなんでしょう?」 「…え?」 「全然、親友の不在を嘆いてもいない。詩絵さんが可哀相です。詩絵さんが死んで、嬉しかったんじゃないですか?」 滑らかな言葉の応酬に、桐は戸惑う。 「何ですって?」 「だってそうでしょう。そんなんじゃ、詩絵さんが何故私達に頼んだなんてわからないんでしょうね」 そう言い捨て、アンは太鼓の元に戻った。 祭り当日。 結局、アンと一度も合わせなかったな…。 桐は櫓に登り、位置に付いた。 正面のアンが、にっこり笑う。 ハッピが、意外に似合っている。 「桐サン、頑張りマショー」 「う、うん」 さすがに本番くらい仲良くしようと思い、桐は笑顔を浮かべた。 「桐サンが笑った…怖いデス」 「うるさいわね!」 桐はバチを握り締めた。 村長の号令が掛かる。 「音楽はじめー!」 アンと桐は、同時にバチを構えた。 アンは 「行きマス!」 と言い、最初の一打を打ち込んだ。 次は桐の番。 彼女達は、懸命に打ち続ける。 その内、桐はあることに気付く。 …アンが、詩絵に見えることに。 もちろん、二人の容姿は全く違う。 けれど、詩絵ともこうやって一緒に太鼓を打ったのだった。思い出さずにいられようか。 ――そうか。 突如、桐は気付く。 どうして、詩絵がSANTAに一番太鼓を頼んだか。 詩絵は、自分を忘れて欲しくなかったんだ。 私が一番太鼓をやることになったら、こんな風に思い出すことはなかったかもしれない。 ごめん…詩絵。 桐は泣いた。 今、正面に居るのはアンであり…詩絵なのだ。 涙に気付いたのか、アンは優しい表情を浮かべた。 太鼓の演奏が終わると同時に、桐はアンに手を差し出した。 「ごめんなさい。そして、ありがとう」 「どうしちゃったんデスカ?」 からかいつつも、アンは桐の握手を受けた。 「詩絵が頼んだ理由、わかったわ」 「遅いんデスヨ」 どこまでも憎らしい。 「なかなかやるわね。あの期間で、しかも素人なのに…ここまで叩けるようになるなんて」 「言ったはずデス。ワタシはプロだと」 アンは目をつむってみせた。 「まあ、アナタはワタシに詩絵さんを重ねたから、実際より上手く聞こえたかもしれマセンヨ?」 何もかもわかっているようだ。 「おっとっと…もう行かないとデス」 「え、もう?」 「SANTAは忙しいのデス」 笑って、アンは夜空を見上げた。 空飛ぶ列車が、しゅぽしゅぽ走って来る。 「SANTA特製“トナカイ号”デス。あれに乗らないと」 「あの、最後に聞かせて。あなた、この前普通に流暢に大和語喋ってたわよね?」 「ああ…そうですね。実は私、育ちは大和です」 「えええ!」 桐はびっくりして後ずさった。 「父が連邦国の大和大使なので」 「じゃあ、何でわざわざ片言で?」 「だって、大和国の人って外国人が大和語をペラペラに喋ったら、変な顔するんですもん。それに… これかわいいデショ?」 思わずこけそうになる桐。 「さってと…行きマスカ。皆サン!お世話になりマシタ!」 アンは眼下を見下ろし、皆に呼び掛ける。 「また御用があれば、いつでもSANTAをご利用下サイネ!」 「さんまさんありがとー!」 子供が間違えていた。 「ノォーッ! SANTAデス! みんなで言ってみマショー! はい、一・二…」 アンの音頭で、皆が口を揃える。 「サ・ン・タ!!」 「イエースッ! ではでは、グッバーイ!」 そして、アンはトナカイ号に飛び乗った。 「サンタさんカッコイー! おれも入りてえ!」 「サンター!」 子供がわあわあ言っているところを見ると、アンは随分な人気者だったようだ。 「…ありがとう、アン」 そして、詩絵。 素敵な祭りをどうもありがとう。 忘れない。 桐は、いつまでもトナカイ号を見送っていた。 あとがき このお話の舞台は、現実世界のパラレルです。 大和国→日本 連邦国→アメリカ 大和国は、実際の日本より閉鎖的でまだ村制度があったりします。もちろん着物着用。 連邦国は、ウェスタン風味。 空飛ぶ電車があるくらい科学は進んでるのですが(大和はちょっと遅れてますが)、文化や制度はそれぞれの国独自のものを貫いてます。 またこの世界で、短編書きたいなと思っております。 |