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医師の言葉に、誰もが驚愕した。 「妊娠していらっしゃいますね」 当の小町は、病院のベッドで眠っている。 「では、また来ます」 医師は一旦、病室を出て行ってしまった。 しばらくしてから、穂波・カザヒ・すりーぷはゆっくり青葉を振り返る。 「お前か――!」 「え? ちゃうちゃう。誓ってもええ。指一本、触れてへん!」 青葉は我に返り、必死に否定した。 「カザヒさん、今の気持ちを一言」 『何で一言、わしらに相談してくれなんだと…』 穂波に問われ、カザヒは泣き真似をする。 「ちゃうってのに!」 地団駄を踏む青葉の肩に、ミナツチが手を置いた。 『これが、わしの言い掛けたことやった。多分な、神がこまっちゃんを認めんかった印が、これなんちゃうやろか』 ミナツチの一言に、皆は顔を見合わせる。 「つまり、妊娠が印?」 『せや。目に見える痣とか刺青やなく、こういう症状のこと言っとったんちゃうん?』 「なるほどな」 ミナツチに、青葉は頷き掛ける。 『食い破るってのも、比喩じゃな? 神は"子供として"こまっちゃんの体から出るんじゃな』 カザヒがゆううつそうに、推測を述べた。 「つまり、こまっちゃんのお腹におるんは、神さんってことか」 穂波の言葉は、静かな病室にやけに響いた。 小町は隣に気配を感じ、目を開けた。 青葉が、椅子に座ってこちらを見ている。 「青葉…?」 「起きたんな。気分はどうや」 小町の髪を撫で、優しく問い掛ける。 「うん…よく、わからない」 小町は得体の知れぬ不安を感じてふと窓の外を見ると、既に夜のようだった。 「青葉」 小町は幼馴染の名を呼び、彼を見上げる。 「私、死ぬの?」 青葉は答えられなかった。この前聞かれた時は、死なせないと請け負ったのに…。 「正直に言って」 「今、方法捜しとるけん。穂波が一旦大阪帰って、探し回ってくれるって。ここらは、資料が少ないけんな」 淡々と説明し、青葉は後ろを振り返る。双つ神はいつの間にか、居なくなっていた。 「私はどうして、倒れたの?」 「…小町、妊娠してもたらしい」 「ええ!?」 小町は驚いたように、起き上がった。 「小町の中におった神さんが、小町の中から出よう思て…ここに宿ったんやと」 青葉はそっと、小町の下腹部に触れた。 「……何だか、恐ろしい話ね」 小町は泣きそうな顔になった。 「その衝撃で倒れてもたんやろ」 「神さまを産んだら、私はどうなるのかしら…」 青葉の表情が強張ったことを察し、小町は哀しそうに微笑んだ。 「死ぬのね…」 「……せや」 目を伏せ、小さな声で肯定する。 「何としても、止めるけん」 「どうして、こうなっちゃったのかしらね」 小町は青葉の言ったことを聞いていないように、謳うように呟く。 「どうして、生きることすら許されないのかしらね――」 肩が震え、涙が落ちる。ぐらついた体を青葉が抱きとめたが、妙な感じがした。 「青葉、帰って…」 「何でな」 「もう、抑えられない…」 封印が解けて来たのかと思い、青葉は声を張り上げる。 「カザヒさん、ミナツチさん!」 「だめ! お願い、今すぐ帰って! 多分、青葉の霊力で活性化してるのよ。帰ってくれたら、また収まると思うわ」 小町が腹を抑えて悲痛に叫ぶ光景はあまりに痛々しくて、青葉はすぐに動けなかった。 「帰ってよ! お願いって言ってるでしょう!」 「…わかった」 カザヒとミナツチが現れないことが、小町が正しいという何よりの証拠だった。 青葉は急いで病室を出て、ドアに背を付けずるずると座り込む。 ドア越しに泣き声が聞こえ、青葉は顔を覆った。 眠れないような気がしながら、青葉は布団に入る。 『青葉』 カザヒとミナツチが、暗い部屋の中に浮かび上がる。 「二人共…どこ行っとったん」 『わしらも、捜しとったんじゃ』 『んだ』 小町を助ける方法を――。 『色々、聞きまわってみたぞ』 他の神々にでも、聞いたのだろうか。 青葉は起き上がり、姿勢を正した。 『内におる神は、体におることも確かじゃが、それより心に深くつながっとる』 『んだ。だけん、神を消したら心ごと砕ける可能性がある』 「何…やて…」 青葉はそれだけ、絞り出すように言った。 『しかも、神を消すには本人の覚悟がないといかん。心ごと消すんじゃけん』 「神さん、ちょっと待ってや!」 青葉は思わず、声を荒らげてしまった。 「他に方法はないんな!?」 『…残念じゃけど』 『んだ』 二人は落ち込んだように、うつむいた。 死ぬか、心が消えるか。そんなに酷い選択肢しか、小町には残されていないのだろうか――。 『心は神ごと砕け散って、散らばる。じゃけん、戻る可能性がないこともない。記憶が後から戻る確率もあるけん』 『んだ』 『じゃけど、もう一度今の"佐倉小町"になるって保証は、どこにもないんじゃ』 重い重い沈黙が、その場を支配する。 「何で…何で、小町がこいな目に遭わないかんのや…」 せっかく傷を癒して、ここで生きて行くと決めたのに。 運命は非情に、小町を引きずり落とそうとする。 『こまっちゃんは、傷付きすぎたんかもしれんのう。その哀しみが、神を一層歪めてしまったんかもしれん』 『全部、つながっとったんやな』 哀しそうにカザヒとミナツチは呟き、青葉を残して消えた。 あまりの衝撃に動けないまま、青葉はぼんやりと思う。 何で、助けてやれんのや…。これでも俺は巫女か? ここに来なければ、小町の内に眠る神は大人しいままだったのだろうか。封印が破けることもなかったのだろうか。陰を消したのは、間違いだったのだろうか。 小町の言葉が蘇る。 『私ね、後悔してないわ。ここに来たこと』 「小町…」 思わず名を呼んだその時、障子が開いた。 「青葉」 青葉は目を疑ったが、そこに居たのは紛れもなく小町であった。 「小町? 病院、どしたんな」 「抜けて来たわ」 白い腕が伸びる。 「小町?」 「ここに来て、青葉」 いぶかりながらも、青葉は小町に近寄ろうとしたが… 『いかん! 青葉、それはこまっちゃんやない!』 『んだあ!』 カザヒとミナツチの声で我に返った時には、もう遅かった。白い手は青葉の額に当てられていた。 「双神の巫女…その清らかな霊力もらうぞ」 薄く笑う小町は、小町であって小町でなかった。 「つながりを たちきれや ふたつがみ」 青葉が詠唱を紡いだ時と、その場に蒼い光が満ちたのは同時だった。 倒れた青葉を見下ろし、小町に宿る龍神は声高く笑った。 |