目次

まい・すいーと
〜ゆけゆけくっつけ隊!〜



 穂波は、双つ神を前に切り出した。
「さすがに俺、春休み終わるからもうすぐ帰らなあかん…」
『ふーん』
『んだー』
 双つ神はさして興味なさそうに、相槌を打つ。
「もうちょっと淋しがってや。ま、そんなことより――俺の心残りは、結局青葉とこまっちゃんの仲が一ミリも進まんかったことや」
『それもそじゃな』
『んだ!』
 急に興味を示したように、カザヒとミナツチは身を乗り出す。
「このままでは、くっつけ隊の名が廃るような気がせんか?」
『そうじゃそうじゃ!』
『んだんだ!』
『そうだそうだ〜』
 すりーぷも参加する。
「ってことで、一計案じてみたで!」

 廊下に落ちていたチラシを目に留め、小町はそれを拾う。
「何これ…」
 有名スイーツ店がここの近所にも出来たという、お知らせだった。
「待ちー! レポート返し!」
 その時、横から青葉が双つ神を追って走り出て来た。
 突然だったので避けることが出来ず、青葉は小町に思い切りぶつかってしまった。二人揃って、後ろに倒れる。
「す、すまん!」
 慌てて青葉が起き上がり、小町に手を貸す。
「痛た…」
「ごめんごめん。怪我、せんかった?」
「大丈夫よ」
「せやったら、良かった」
 ふと、青葉は小町の手に握られているチラシに目を落とす。
「何や、それ」
「美味しいスイーツショップが、ここの近所に出来たんだって。そうだ、みんなで行きましょうよ。これ本店が東京にあったんだけど、ここのパフェ美味しいんだから」
「すいーつしょっぷ…」
 青葉は呪文のように繰り返した。
「もうすぐ穂波も帰ってまうし、その前に行こか」
「やった! じゃあ、私穂波さん誘って来る」
 小町はいそいそ、穂波を捜しに行った。

 穂波は話を聞いた瞬間に万歳しそうになったが、かろうじて堪えた。
「あー、残念やなあ。俺、ちょっと予定があって…」
「え? じゃあ、別の日にしましょうか?」
「いやいや、実はすりーぷが調子悪くてな」
 穂波が指差した先には、頭に濡らしたタオルを載せてうんうん唸るすりーぷが。
「そんな! 大丈夫なの?」
「大丈夫やねんけど、こういうわけで治るまでずっと付いててやろうと思ってるねん。いつ治るかわからんから、悪いけど二人で行って来てや」
「そう…。じゃあ、カザヒさんとミナツチさんを…」
「おっと、それもあかんで」
 穂波は小町を制す。
「カザヒさんとミナツチさんも、すりーぷ見守るって言ってくれてるから」
「じゃあ、私達だけで行くわけにはいかないわ。私も役に立つかわからないけど、すりーぷさんを看病します」
『大丈夫だよ〜。むしろ、ぼくの代わりに"すいーつ"食べて来て〜。そして感想を聞かせ…』
 そこで、すりーぷの言葉が途切れる。
「すりーぷさん!」
「こまっちゃん」
 ぽん、と穂波は小町の肩を叩く。
「すりーぷの意志を、大事にしたって…行ってくれんか?」
「穂波さん…」
 小町は、目を潤ませていた。

 小町の報告に、青葉は眉をひそめた。
「すりーぷの調子が悪い?」
「そうなの。もう私、見ていられなくって」
「うーん」
 青葉は何かを疑っているらしく、腕を組んでみせた。
「私達が行って、何かお土産買って来ましょう。そしたらきっと、すりーぷさんも喜ぶはず」
「そうかなあ」
 どうもきな臭い。
「さあ青葉、行きましょう!」
 すっかり使命感に燃えている小町は、拳を空に突き上げた。
「駅前やし電車で行こか。日曜やけん、車停めるとこあるかわからんし」
「そうね。じゃあ、用意して来るわ。玄関で落ち合いましょう」
「はいはい」
 一旦青葉と別れ、自室に向かおうとした小町の腕を誰かが掴む。
「穂波さん」
「こまっちゃん、俺達の分まで楽しんで来てな。こまっちゃんが"楽しい"って思う度、すりーぷは元気になるんやからな」
「え? それって、どういうこと?」
 小町は首を傾げた。
「こまっちゃんが楽しんだら、青葉も楽しなるやろ。そしたら、青葉の元気がカザヒさんとミナツチさんに移って、結果的にすりーぷにも移ることになるねん。わかるか?」
「はあ」
 正直よくわからなかったが、すりーぷの巫女である穂波が言うなら間違いないのだろうと思い、小町は信じてしまった。
「ええか?」
「はい。頑張ります!」
 小町は真面目な顔で頷いた。

 二人が出るのを見届けてから、穂波と双つ神とすりーぷもこっそり家を出た。
「ばれんようにせなな」
 と言いつつ、ニヤニヤ笑ってくっつけ隊は二人を尾行し始めたのだった。

 駅から出て、青葉と小町は目当ての店を目指して歩き出す。
 間隔を空けて、穂波は歩き始める。
「こうして見ると、正にお似合いの二人やな。あー、歩いている内にベタ展開でも起こらへんかな」
 穂波の呟きを、カザヒが聞き付けた。
『ベタ展開って何や?』
「んー、例えばやな。こまっちゃんがナンパされるとか。そして、青葉がそれをきっぱり断るとか。"俺の連れです"とか言ったら最高やな」
『それは王道過ぎへんか』
『古いと思うえ』
『一昔前のドラマみた〜い』
 カザヒもミナツチもすりーぷも同意してくれなかったが、穂波は無視して念をこめて呟いた。
「来い来いベタ展開」
 聞こえてしまったのか、通りすがりの男が穂波を不思議そうに見て行った。
 その時青葉と小町が足を止めたので、穂波は慌てて電柱に隠れた。
 よく見れば、青葉が誰かに話し掛けられている。
『おなごじゃぞ』
 カザヒの指摘通り、どこか妖艶な美女であった。
「これは予想外! アホ青葉。お前がナンパされてどうするねん」
 穂波は舌打ちする。
『しかし、あのおなご…どっかで見たことあるような…』
『んだなあ』
 双つ神はしきりに首をひねっている。
 青葉は困ったように頭を掻いていたが、女に頭を下げてからとうとう小町の手首を掴んで走り出した。
「おっと! 予想外なりに良い展開! 俺らも追うで!」
 飛び出して、穂波も走り出した。背後で、双つ神が思い出したように手を打った。
『ああ、あれは青葉の先輩じゃあ』
『んだんだ』
『青葉に気があるんじゃと。偶然じゃなあ』
「先輩? 先輩に言い寄られとったんかい。神さん、あの人のことは応援せんのか?」
 走りながら尋ねると、カザヒはちっちっと手を振った。
『応援も何も、青葉はあのおなごが苦手でのう。美人じゃけど、噂では髑髏の置物と一緒に寝るようなおなごじゃぞ』
「そら、青葉に合うわけもないな」
 穂波は思わず笑ってしまった。

 ようやく目的の店に入り、青葉と小町は窓際の席に座った。
「本当にここ、美味しいのよ」
「へえ。何が美味しいん?」
「まあ、何はともあれパフェね。青葉は、何食べたいの?」
「俺は何でもええけん、小町のお薦めで」
 青葉がそう言うと、小町は心得たとばかりにメニューと睨めっこを始めた。
「会話だけ聞いたら、立派なバカップルやな」
『そうじゃな』
『んだんだ』
『だよね〜』
 くっつけ隊は、観葉植物で隠されるので青葉達からは見えない席に陣取っていた。
『穂波、もっと静かに喋り。聞こえるで』
「神さんこそ」
 ひそひそ言い合っていると、ウェイトレスが近付いて来た。
「いらっしゃいませ。ご注文はお決まりでしょうか」
「えーっと」
 穂波は慌ててメニューを開いた。
「んじゃ、"今日のおすすめパフェ"でええわ」
「よろしいんですか?」
 何故か、ウェイトレスはびっくりしている。
「何や?」
「いいえ…畏まりました」
 ウェイトレスは一礼して、行ってしまった。
 穂波は肩をすくめて、再び葉っぱの間から二人を盗み見る。
「やっぱり、チョコレートが一番美味しいの。青葉も、それにする?」
「せやな」
「だったら、決まりね。すみません」
 小町はウェイトレスを呼び止め、注文した。ウェイトレスが下がるのを見届けてから、小町はにっこり笑う。
「今日は、楽しまなきゃね。すりーぷさんのために」
「はあ?」
 青葉は首を傾げた。
「楽しんだら、すりーぷさん元気になるのよ。だから、頑張りましょうね」
「はあ…」
 青葉は何やら、疑い始めているようだ。
「青葉は今、楽しい?」
「…えーっと、まあ」
 青葉は突如聞かれ、返事に窮した。
「即答せえや」
 苛立ったように、穂波は水をあおる。
「楽しいんやけど、何か引っ掛かるんや…」
「何が引っ掛かるの?」
「えっと」
 青葉が説明を始めようとした時に、店員がパフェを二つ持って来た。
 小町は嬉しそうに、早速食べ始めた。
「美味しい! 青葉も、食べてみて」
 小町に促され、青葉もパフェのチョコレートアイスを一匙すくって口に入れた。
 途端に、口を押さえる。
『何じゃ何じゃ』
『んだんだ』
「え、もしかして"甘〜"ってやつかいな。おい、選んでもらっといてその反応は失礼やから止めとけや」
『本当だね〜…』
 くっつけ隊は、固唾を呑んで見守った。
「青葉、大丈夫?」
 小町に問われてようやく、青葉は顔を上げた。
「冷たい…」
 そっちか――!!
 くっつけ隊一同は、心の中で叫んだ。
 小町は、弾けるように笑う。
「アイスが冷たいの、当たり前でしょう?」
「せやけど…あんまり冷たいけん、びっくりしたんよ」
「青葉って、冷たいもの苦手なの? 猫舌ってのは聞いたことあるけど、冷たいもの嫌いな人のことって何て言うんでしょうね。犬舌?」
 小町の冗談に、青葉は笑う。
「さあなあ。嫌いってわけやないんやけど、あんまり冷たいもん食ったらキーンってなるけんなあ…。あれがどうも」
「じゃあ、カキ氷苦手?」
「カキ氷好きなんやけど、苦手なんかなあ…。あ、俺みぞれ食べれへんのや」
 青葉は、みぞれの味を思い出したかのように舌を出した。
「そうだったっけ? 私は、みぞれ好きよ。でも、レモンが一番」
「俺はメロンやなあ」
「あれ、舌が緑になるじゃない」
 小町はおかしそうに、口に手を当てて笑った。
「レモンかて、黄色くなるやろ」
「みぞれ以外は、避けられないわよね」
「あー、カキ氷食いたくなって来た。今度、祭りで食おな」
 スイーツショップで、何とも失礼な会話をしている。
『パフェ溶けるぞ』
『んだんだ』
『二人共庶民派だから、パフェよりカキ氷の方がしっくり来ますよね〜』
「確かに。こまっちゃんはともかく、青葉はカキ氷がピッタリや」
 穂波は笑いを堪えていた。
『青葉さん和風だもんね〜。でも、穂波さんはカキ氷が似合うってよりはむしろ"テキ屋"そのものだよね〜』
「やかましわ!」
 穂波はすりーぷに突っ込んでから、しまったと口を塞いだ。
 さすがに聞こえたのか、青葉がきょろきょろ辺りを見回している。
「何か今、穂波の声が聞こえたような…」
「え? そう?」
 小町もパフェを一口食べながらきょろきょろしたが、穂波の姿は見付けられなかった。
 穂波は壁に張り付き、見付からないようにしばらくじっとしていたのだ。
『穂波。もうええみたいやぞ』
『会話に戻っとる』
「あー、びびった」
 双つ神の報告に安心し、元の位置に戻る。
「しかし、俺のパフェ遅いなあ。二人が出てしもたらどうするんや」
 口を尖らせつつ、穂波は再び青葉と小町に視線を向けた。
「私、ブルーハワイは好きじゃないのよね。青葉は?」
 何故か、まだカキ氷談義をしている。
「普通かなあ。穂波は、ブルーハワイ好きなんやって」
「あー、それっぽいわよね」
「せやろ?」
 二人はまた、笑い出す。
「それっぽいって、どういうことやねん」
 穂波は、もごもごと突っ込んだ。
「今年のお祭りが、楽しみになって来たわ」
「せやなあ」
 何だか二人の雰囲気が良くなって来たところで、穂波の背にウェイトレスの声が掛けられた。
「お待たせ致しました」
「おう。――え?」
 持って来られたパフェの身長は、異様に高かった。
「な、何やこれ」
「今日のおすすめ、タワーパフェです。80センチありまして、上から順にワッフル・シュークリーム・プリン・ソフトクリームが三本…」
「待たんかい!! こんなん食えるわけないやろ!」
 穂波はウェイトレスに詰め寄った。
「だから、"よろしいのですか?"と尋ねたでしょう? 店頭に、今日のおすすめパフェはタワーパフェだと書いていたはずですが」
「しまったあああ!」
 穂波は頭を抱え、苦悩した。
『アホじゃなあ』
『んだんだ』
『穂波さんらしいですよね〜』
 神たちがひそひそ噂をしている間に、ウェイトレスは行ってしまった。
 テーブルに突っ伏し、穂波は呟く。
「俺、ほんまにアホや…。こんなん一人で、食い切れへん…」
「手伝ったろか?」
 救いの声かと思って顔を上げ、穂波は後ずさった。
「青葉!」
「何やら、おかしい思ってたんよ」
 にっこり、青葉は笑う。
「お前が図ったんか?」
「いや、それはその」
 穂波が口ごもっていると、小町もこちらにやって来た。
「あ、穂波さん。――タワーパフェだ!」
 小町は嬉しそうに、80センチもあるパフェを指差した。
「神さまたちも来てる…どうして?」
「いやいやこまっちゃん、これには事情があってな! どうしても、すりーぷがパフェ見たい言うから連れて来たら、パフェの大きさにびっくりして治ってもうたんや! ショック療法ってやつ!」
 無理矢理な理由付けに、小町はきょとんとする。
「じゃあどうして、声掛けてくれなかったんですか?」
「こまっちゃんと青葉の席がわからんくて! さ、こまっちゃんもこれ片付けるの手伝ってや」
 穂波が話題を逸らすと、小町は素直に頷いた。
「このパフェ、食べるの夢だったの。三人がかりで食べれば、食べられるわよね? ね、青葉」
「せ、せやな」
 いつになく元気な小町に問われ、青葉は戸惑った。
「神さまたちも、食べられるの?」
『まあ、食べよ思たら』
『んだ』
『じゃ、みんなで食べますか〜』
 カザヒ・ミナツチ・すりーぷも乗り気のようだ。
「じゃ、食べましょう!」
 スプーンを持って80センチのパフェに取り掛かる小町を見て、青葉も穂波も呆れたように口を開けていた。
「俺らも食うか」
 スプーンを握りかけた穂波の手を、青葉が掴んだ。
「その前に、話があるんやけど? …来いや」
「助けて!」
 しかし、パフェに夢中な小町と神たちは誰一人、穂波の悲鳴に気付かなかったのだった…。




              あとがき

タワーパフェは、テレビ番組で70センチのパフェを紹介しているのを見て、「使わせてもらおう」と勝手に思って使わせていただきました。
くっつけ隊は、むしろ二人の邪魔してるんじゃないかと思う今日この頃。
しかし、本人達は一生懸命です。

スイーツショップでカキ氷談義をする下りは思いつきで書いたんですが、とてもしっくり来るなあ…と。
スイーツショップが似合わない二人です。

 

目次