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まつりみこ

前編


 青葉は、白い着物を着て鏡の前に立った。
 祭りの時に着る、巫女装束である。
 巫女装束と言っても普通の神社の巫女が着ているのではなく、簡素な細い着物である。
 神のための祭りでもあるが、死者のための祭りでもあるため、死人の着物に少し似せているのだという。
「これでええな」
 後ろから、カザヒとミナツチが鏡を覗き込む。
『成長期は大変やったもんなあ。何枚着物、作ったことか』
『んだあ』
「しゃあないやろ。ま、今回は去年のでいけそうや」
 春に一度確認していたが、万が一ということがあるのでもう一度着ておいたのだ。
「もうすぐ祭りか。早いなあ」
『んだんだ』
 しんみり言った青葉に、ミナツチが同意する。
『今回はこまっちゃんもおるけん、楽しみじゃのう』
『んだあ』
 二人はきゃっきゃとはしゃいでいる。
 そんな時、襖の向こうから小町の声がした。
「呼んだ?」
『あ、こまっちゃんちょっと来てみ! 青葉が、巫女の着物着とるけん!』
 カザヒが来い来い手招きをすると、襖が開いて小町が入って来た。
「本当だ! 青葉、似合う!」
 何故か小町の後ろに穂波とすりーぷも居て、にやにや笑っている。
「ほんまやな。こまっちゃん、惚れてまうんちゃう?」
『だよね〜』
「え?」
 幸い聞こえてなかったようで、小町はきょとんとして振り返った。
「穂波、今すぐ出て行き」
 静かな声でにっこり笑った青葉の殺気を感じ取ったのか、穂波は少々びくびくしながら青葉に近付いた。
「お前とこまっちゃんのためやんかあ」
「やかましい」
 囁きを一蹴して、青葉は穂波を睨んだ。
「今度余計なこと言ってみ。本気で怒るけんな」
「そんな! くそ、作戦変えなあかんやん」
 穂波は、カザヒとミナツチの方を向いた。
「もうちょっとこっそり作戦に変えよか」
『そうじゃな。肝心の青葉が、あんなんじゃのう』
『んだあ』
 "こまっちゃんと青葉をくっつけ隊"は、ひそひそ会議を始め出した。
「い、一体みんなどうしたの?」
 戸惑うのは、小町ばかり。
「はいはい! もう着物脱ぐけん、みんな出てってや!」
 青葉はいきなり大声を出し、手を叩いた。
『『『「ちぇー」』』』
 四人して渋々出て行くと、小町だけが残った。
 どうも、青葉に何か話したい様子だった。
「どうかしたん?」
「えっと、お祭りのことなんだけど。楽しみにしてるから、頑張ってね」
「おう、ありがとさん」
 青葉は笑顔を浮かべたが、次の瞬間怒り顔に変わった。
 襖の隙間から、穂波・カザヒ・ミナツチが覗いていたからだ。
「何しとん」
「あ、見付かった。逃げるで!」
 青葉の指摘に答えることなく、三人は瞬速で逃げてしまった。
「神様たちだけでも面白かったけど、穂波さんが加わって益々面白いわね」
 何も知らずに笑う小町を見て、青葉もようやく表情を緩めたのだった。

 毎年お盆の時期に催される、双神家主催の祭り。
 それは、意外に大掛かりなものだった。
「今夜は役員と打ち合わせがあるけん、お客さんいっぱい来るよ」
 夕食の席で言われた青葉の言葉に、小町はきょとんとした。
「打ち合わせ?」
「うん。祭りの計画、話し合わな」
「そう。私も見てて良い?」
「もちろんええで!」
 と、何故か穂波が答える。
「もちろん、俺も出席するっちゅうことで」
「穂波はいかん」
 冷たい青葉の一言に、穂波は驚愕の表情を浮かべる。
「そんな! そんなん言わんといてや〜」
「ああ、やかまし!」
 ぎゃあぎゃあ騒ぐ二人を見て、青葉の父母は顔を見合わせた。
「何でこの頃、青葉は穂波に冷たいんやろな」
「さあねえ」
 二人は揃って、首を傾げたのだった。

 打ち合わせには、十数人の老若男女が集まった。
 彼らが、祭りの進行を手伝ってくれるのだ。
「今回の祭り、何やら巫女舞を見たいって観光客が多く来そうですよ」
 男の発言に、青葉は唇を引きつらせた。
「どっからか、噂が広がったんやろねえ。ほら、今オカルトブームやし」
 その妻が、言い足す。
「オカルトブーム? ほんま?」
 眉をひそめる青葉の肩を、穂波がぽんぽん叩く。
「ほんまやで。だから、俺みたいなフリーの霊能力者がもうかるわけやん! な、すりーぷ!」
『ん〜そうかもね〜』
 二人で頷く穂波を黙殺し、青葉は皆に向き直った。
「観光客が増えるんやったら、トラブル増えそうやな」
「警備の方はわしらでやりますけん、巫女様は巫女舞に集中して下さい。観光客が増えること自体は、ええことですし」
「わかった。よろしゅうな」
 青葉は、少し頭を下げた。
 他にも細かい打ち合わせをした後、皆は帰って行った。
 出したお茶の後片付けをしながら、小町は尋ねた。
「そういえば、巫女舞なんてあったのね。私、一度もここの祭り出たことないから…」
「一度も?」
 聞き返して、そういえばと青葉は思い出す。
 小町の両親は守り神信仰に否定的だったため、祭りにも出席したがらなかったのだ。
 確か、お盆はいつも小町の母の実家…東京に行ってしまっていた。
 初めて巫女として、祭りに出た日。
 そこに小町の姿がないことが、いやに哀しかった記憶がある。
「そうか。じゃあ、小町にとって初めての祭りなんや」
「そうなるわね。楽しみ」
 小町は微笑んだ。
「巫女舞って、どんな踊りなの?」
「うーん、普通のとはちょっと違ってて…伝統的な形の舞やな」
「へえ。本当、楽しみだわ」
 小町は、祭りの夜が待ち切れないようだった。
『あの〜』
 和やかな二人の会話を邪魔したのは、すりーぷだった。
「うわ、びっくりした」
『お茶で〜す。お疲れ様で〜す』
 何とすりーぷの手にはお盆が載っていて、その上に二つコップが。
「すりーぷ、気が利くなあ」
「ありがとう」
 二人は礼を言って、コップを手に取った。
『ぼくって気が利きますでしょ〜』
 にこにこ笑って、青葉にぴっとりくっついて来る。
「眠! 離れて!」
 押し遣ると、すりーぷは渋々離れた。
「気が利くのはわかるけど…もしや、何か企んでる?」
 青葉の推測は当たりだったらしく、すりーぷはにやっと笑った。
『ふふ〜。カザヒさんとミナツチさんより気が利くから、ぼくを祀ってくれないかな〜と思いまして』
「え? じゃあ、カザヒさんとミナツチさんはどうなるの?」
 小町がきょとんとして尋ねる。
『代わりに、穂波さんがカザヒさんとミナツチさんを祀るんです〜』
 すりーぷがそこまで言ったところで、襖がばしんと開いた。
『待たんかい!』
『んだ!』
「ほんまや!」
 言うまでもなく、カザヒ・ミナツチ・穂波である。
『やいやいすりーぷ、うちの巫女を誘惑するとは何て奴や! 穂波で我慢しとき!』
『んだ! 我慢せえ!』
『え〜』
 二人の発言に、すりーぷはもちろん"我慢しとき"と言われた穂波もショックを受けていた。
『だって穂波さん、ぼくの力で催眠術して儲けようとしてるんですよ〜。お二人こそ、穂波さんで我慢して下さいよ〜』
『絶対嫌や!』
『んだ!』
「ちょっと、みんなそれめっちゃ酷いやろ」
 穂波は深く傷付いたように、ツッコミを入れた。
「穂波! お前、すりーぷ使って儲けようとしとるん? とんでもない奴や!」
「いやいや青葉、あれメキシカンジョークやで? すりーぷが真に受けるとは思わんかった」
 どこがメキシカンなの、と小町が苦笑した。
「ともかくすりーぷ! 俺を捨てんといて!」
 がしっと、穂波はすりーぷに抱きつく。
『ん〜どうしよっかな〜』
「迷わんといて!」
 二人を見ていると、青葉は段々呆れて来た。
「アホらし。勝手にやっといて。さあさ、みんな行こか」
 青葉の促しで、穂波とすりーぷを残して皆はその部屋からぞろぞろ出て行った。

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