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Je Vous Aime !

−vêpres番外編−



 しっとりとした黒髪に、青き瞳は美しくていらっしゃる。
 引き締まった口元は、凛々しくていらっしゃる。
 高き鼻は、誇り高くていらっしゃる。
 何より、その猛々しき性格が、魅惑的でいらっしゃる――…。

「リャン様、おはようございます!」
 私は、いつものように食堂でリャン様に挨拶を致しました。
「おう」
 リャン様の挨拶は、いつも素っ気無くて私は少々不満ですの。
「やあ、レイチェルにアン・ドゥ・トロワ」
 この方は、リャン様の同室者・ジル様です。
「姫様、今誘っても?」
 アン・ドゥ・トロワの一人が(区別出来ませんの)、囁いて参りました。
 私は、深く頷きます。
「では…ゴホンっっ! リャン様!」
「何だよ、朝からうるせえな。ドゥ」
「トロワです。…実はリャン様に、お頼みがありましてございます!」
 アン・ドゥ・トロワは一斉に頭を下げ、言いました。
「今日は姫様の誕生日なのです! そこで、姫様と一日だけで良いので共にお出掛け下さい!」
「…ああ?」
 リャン様は、驚いたようです。
「……嫌だと言ったら?」
「我ら三人、切腹します!!」
 アン・ドゥ・トロワの息の揃った答えに、リャン様は圧倒されたようでした。
「リャン。一日だけ、付き合ってあげなよ」
 ジル様が、そっと言い添えてくれました。

 本日は日曜なので、学校の授業もお休みです。
 私の誕生日がこの日と重なったこと、神様に感謝したく思いますわ。
 リャン様は渋々、黒いロングコートを着て部屋から出て参りました。ジル様も後ろから現れます。
 私は思わず、叫んでしまいました。
「リャン様! 素敵ですわ!!」
「ジルに借りたから、サイズは合ってねえんだけどな」
 サイズなんて、どうでもよろしいのです。似合っていれば、それでよろしいのです。
「わた、私も一応正装したのですが…変じゃございません?」
 ドレスとはいきませんが、私は少々高級なワンピースを着ていました。
「ああ? 別に変じゃねえけど?」
 面倒臭そうに答えたリャン様の首に、ジル様の手刀が飛びました。
「何すんだよジル!」
「あの台詞はないでしょう? 女心がわからないね」
「何だと?」
 リャン様は明らかにムッとしたご様子でしたが、こちらに向き直りました。
「変じゃねえ…ということは、そこそこ似合ってるってことだ」
 そこそこ、ですのね…。
 しゅんとした私を見て、リャン様は慌てました。
「いや、間違えた! そこそこなんて言えないくらい、すっげえ似合ってる!」
「無理があるなあ…」
 アン・ドゥ・トロワが呟きましたが、私はそれを聞いていないことにして
「ありがとうございます、リャン様」
 お礼を申し上げました。
 都合の悪いことは聞かない、が私のモットーですの。

 馬車の中で、突然リャン様が尋ねました。
「で? どこに行くつもりなんだよ」
「オペラですわ。リャン様、見たことあります?」
「ねえよ、そんなもん」
 リャン様はいつもにも増して不機嫌そうですが、気のせいでしょうか?
「実は私共も初めてなんですが…」
 アン・ドゥ・トロワは心配そうです。
「大丈夫ですわ。単に歌を聴いているだけで良いのですから。二階の特等席を用意いたしましたから、くつろげると思いますし」
「ふうん」
 私達が話している横で、アン・ドゥ・トロワはひそひそと何やら話していました。
 急に「よし!」と言って、リャン様に話し掛けます。
「リャン様。“I love you”って、姫様に言ってあげてくれませんか? これが私共の国で“誕生日おめでとう”なのです」
 なんて嘘を!
 でも、ちょっと言われてみたい気がしますので、私は黙っておきました。
「お前ら!」
 リャン様は怒鳴りました。
「学校で英語の授業あるんだぞ! それがどんな意味だかわからないと思ってんのか!」
 そういえばそうでした。
 私とアン・ドゥ・トロワは揃って「チッ」と舌打ちしてしまいました。

 オペラはもちろん、特別席です。
 リャン様はキョロキョロと、辺りを見渡していました。
「広いな」
「リャン様、始まりますわ」
 オペラの内容は、涙を誘う悲恋物語。
 中盤に差し掛かった頃、右隣からスヤスヤと寝息が聞こえて来ました。
 何とリャン様はとても気持ち良さそうに、眠っていらっしゃったのです。
「リャン様ってば」
 けど、リャン様の寝顔を見るのは初めてでしたので、私は少々得をした気分でした。
 普段はしかめっ面をしてることが多いのですが、今は赤子のように無防備です。
 微笑む私の左隣から、大きな騒音が聞こえて来ました。
 アン・ドゥ・トロワが揃って眠りこけ、いびきをかいていたのでした。
 寝顔を見るなんてことはせず、私は一番近いアン(推測ですが)の頭をはたいてやりました。
「ぬあっ!」
「静かにしなさい、アン」
「トロワです」
「そんなことどうでもよろしいから、早くあの二人を起こしなさい。迷惑ですわ」
 寝惚け眼で、トロワは残りの二人を起こしにかかりました。

 オペラが終わって、私共が劇場を後に致しました。
「オペラってのも、なかなか良かったな!」
 リャン様はずっと寝てたというのに、そう言いました。
 まあ、そこがリャン様の優しさだと思うので、私は異議を唱えることはしませんでした。
「で、これからどこ行くんだ?」
「食事ですわ。お腹、お空きになったでしょう?」
「正に!!」
 私の問いに、リャン様ではなくアン・ドゥ・トロワが答えました。
 いちいち余計な人たちです。
「ちゃんと素晴らしいレストランを予約しましたの」
「ああそう」
 リャン様は、大して嬉しそうではありませんでした。
「おれさあ、庶民だからマナーとか最悪だぞ」
 なるほど。それで、心配していらしたのですね。何て慎ましい方なのでしょうか!
「大丈夫ですわ。個室ですから、誰も気にする人はいません」
「あっそ。じゃあいっか」
 食うぞ、とリャン様は拳を握り締めていらっしゃいました。

 リャン様は公約通り、大いにお召し上がりになりました。
「トロワ、それおれに寄越せ」
 ローストビーフがお気に召したらしく、傍らのアン・ドゥ・トロワの一人を突かれました。
「ドゥです。恐れ多きながら、お断り申し上げます。ローストビーフは私の大好物なのです!」
「ドゥ! リャン様のお言葉に従いなさい」
「そんな!」
 私の命令に、ドゥが驚愕の表情を浮かべます。
「私の分もあげますわ、リャン様」
 私が皿を差し出すと、リャン様は満面の笑みを浮かべました。
「ありがとよ!」
 最高ですわ…。

 私達は楽しかった一日を終え、学校に帰って来ました。
「どうだ、お嬢。今日は楽しめたか?」
 急に立ち止まり、リャン様は私に尋ねます。
「はい! ありがとうございました!」
「おれ、何もしてねえけどな」
「傍に居てくれるだけでよろしいのですわ」
「…おいおい」
 私達が顔を見合わせて笑った時、とんでもないことが起こりました。
 背後から、歌声が響き渡ったのです。
 同時に振り向くと、アン・ドゥ・トロワが一生懸命セレナーデ(オリジナルと思われます)を歌っておりました。
 歌詞の内容は…
 ああ 姫様姫様 世界で一番美しきお方〜
 ああ リャン様リャン様 世界で一番幸せなお方〜
 きっと二人はハッピーエンド☆
 何が何でもハッピーエンド☆
「あなた達…」
 私は今の雰囲気がぶち壊されたこと、そのせいでリャン様が完全に引いていることに対して溢れるような怒りを覚えました。
「なんて馬鹿なことするんですのーーっ! 覚悟しなさいっ!!」
 私はリャン様ばりの拳で、アン・ドゥ・トロワを思い切り殴ってやりました。
「おい、お嬢! 落ち着けって!」
 リャン様の声で我に返った時にはもう、彼らは虫の息でした…。
 ああ、私ってばリャン様の前でとんだはしたないことをしてしまいましたわ。
 え? そういう問題じゃないですって? では、どういう問題なのですの?




            あとがきのようなもの

 一度、レイチェルの一人称で書いてみたいと思って書いてみた一品。
 本当はもっと妄想とかしてると思いますが(笑)それじゃ話が進まないので、ちょっと大人しめのレイチェルです。
 レイチェルヴィジョンなので、若干リャンヌが美化されてるように感じるかもしれません(笑)
 しかしこの話で一番目立ってたのって、アン・ドゥ・トロワなのでは…?(禁句)

 タイトルのJe Vous Aime !(ジュ・ヴゼーム!)は、ジュテーム(Je t'aime)の丁寧ヴァージョンです。
 ジュテームのte(t')は「君」や「お前」という親しい表現で、ジュヴゼームのvousは「あなた」という改まった表現です。 英語のyouと同じく複数の意味も持ってますが。
 レイチェルは敬語口調だし、リャンヌを様付けしてるのでvousの方かなと思ってこっちにしました。
 ジュテームだと有名すぎて私が恥ずかしかった、という理由も大きいです。はいすいません。

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