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ある日の朝、いつも通り朝飯をいつものメンバーで食ってたおれ。 しかし、その日はどうも特別な日だったらしい。 そうと気付かぬおれは、お嬢のいつも以上に熱い視線にびっくりした。 「…おい、お嬢。そんなに見られてちゃ食が進まねえだろ」 「リャン様…私に何か仰りたいことありませんの?」 「はあ?」 顔をしかめるおれの背後で 「ありませんか…?」 アン・ドゥ・トロワの三重奏(いつの間に背後に!?) 正直、心臓飛び出るかと思った。 「何だお前ら。ねえよ、別に」 おれは変だと思い、右隣のジルを見た。 「なあ、こいつら何が言いたいかわかるか?」 「うん? そうだね」 ジルは曖昧に微笑んだ。 「ちっ、おいベルトラン。お前わかるか?」 左隣のベルトランを突くと、奴は頷いた。 「今日って確か、ヴァレンタインだろ」 小さな声で言われた答えに、おれは納得。 なるほど。 ヴァレンタインとは、この国では男が女に花を贈る日。 その場合、告白の意味合いを含むわけで…。 「まさかお嬢、おれに花を要求してんのか?」 こっそりジルに聞くと、ジルは微笑んだ。 「あの視線から察するに…そうだろうね」 おいおいおい。 ……お嬢のためにも、おれはこいつを突き放してやらなくちゃな。 おれはため息一つついて、告げた。 「お前に言うことなんざ、何もねえよ」 空気が凍る。 お嬢は顔を伏せ、ぽろぽろ泣いた。 「ひ、姫様!」 「リャン様! あまりにも酷いお言葉!」 「ど、どうすべきなのか…」 アン・ドゥ・トロワが三者三様の反応をした。 「リャン」 「良いんだ。この辺ではっきりさせといてやらなきゃ、お嬢がかわいそうだろ」 おれはジルだけにでなく、みんなに聞こえるようにはっきり言った。 「…リャン様は…っ」 お嬢はそれだけ口にすると、堪えきれなくなったように突然立ち上がって食堂を出て行ってしまった。 「姫様―っ!」 アン・ドゥ・トロワが今度は息を合わせて、お嬢の後を追う。 後には、気まずい沈黙が残された。 「はっ、無神経な奴」 ベルトランが鼻で笑う。 「うるせえ、黙ってろ。お前は花でも選んでな」 「僕は誰にもあげないぞ。前なんて、上級生の女生徒に取り囲まれても断固拒否した」 何気に凄い告白だ。 「ベルトラン、年上にもてるんだよね」 ジルが他人事のように笑う。 「ああ…年上の女が大の苦手なのに」 そういえばこいつは、女嫌いの節がある。 「何でそんなに年上女が嫌いなんだ?」 「お前、一度僕の母上と姉上達と暮らしてみろ。うんざりなんてものじゃないぞ」 ベルトランは何かを思い出したのか、身震いした。 「ジルは? 誰かに花やんのか?」 「僕はいつもヴァレンタインの日に、僕と目が合って赤くなってなおかつ花を欲しそうにしている子全員に、小さい花をあげることにしてるんだ。小さい花だから勘違いを起こすこともないし…これなら平等でしょ?」 平等ってか、それは八方美人だろうよ。 「でもリャン、あれはちょっと酷すぎたね」 ジルは立ち上がりつつ、やんわりとおれを諭した。 「後で謝っておいた方が良いと思うよ」 「…ああ」 おれはばつが悪くなって、頭を掻いた。 だが、お嬢はずっと授業にも出て来なかった。 おれは焦り、食堂までダッシュで行った。 「お嬢!」 だが、ここにも居なかった。 愕然とするおれの背を叩いたのは、ジルだった。 「どうかした?」 「ジル! お嬢が居ねえんだ!」 「あれれ」 ジルは少し考えた後、鞄から一輪の花を取り出した。 「今さっき、こんなこともあろうかと買って来たんだ。これ持って、レイチェル見付けておいで。最悪の事態は免れるかも…。多分、東館の一階に居るんじゃないかな」 「ありがとよ!」 おれは花を手に、食堂を飛び出した。 「おい、お前どこ行ったかと思ったら…ぐはっ!」 と、途中で出会ったベルトランも突き飛ばして(すまん) 東館の一階に辿り着いたおれは、入り口でビール樽のようなおばさんに突き飛ばされた。 「何すんだよっ!」 「お前こそ何の用だい。女子の健康診断を覗きたいのかい?」 は? 健康診断だと!? そこで合点がいった。 そういえばお嬢だけでなく、クラスの女子全員が居なかったこと。 何でかジルが、東館一階にお嬢が居ると知っていたこと。 そういや、先公が女子に健康診断のこと昨日言ってたっけ。 迂闊だった…。 「というより、ジルの奴! 何でちゃんと言ってくれねえんだよ!」 もうちょっとで、痴漢の烙印押されるところだったじゃねえか! 「何ぶつぶつ言ってるんだい。おや、あんた…花持ってるね」 ニヤリ、おばさんが笑う。 「誰がお目当てだい。あたしか?」 「んなわけねえだろ。タイムスリップして出直しな」 この言葉にキレたらしく、おばさんはおれの首根っこを掴んだ。 「放せ!」 「どうせなら、ここであんたのかわいい子を待っときな! そんでみんなの前で渡すが良いさ!」 何てババア(おばさんから降格)だ! 「ババア! 放しやがれ!」 くそ、何て馬鹿力。人間、怒ると恐ろしい。 「ほら、出て来たよ」 女子がずらずら、向こうの教室から出て来た。 マジで今凄く死にたい。 そうだ、花を隠そう! おれが花を後ろに隠そうとする寸前、ババアがその花を奪い取りやがった。 「ほら、誰かさんに花を渡しにナイトがやって来たよ!」 こいつ、絶対ぶっ殺す! 女子達が、きゃあきゃあ騒ぎ出した。 庶民だけど野性の魅力があるわよね、なんて勝手なことぬかしてやがる。 その中で、お嬢は下を向いていた。 泣きはらしたのか、真っ赤な目をこすっている。 こうなりゃ、恥とか言ってられねえぜ。 「ババア! おれが花を渡すのはあいつだ」 「あいつ?」 「レイチェルだ! あの金髪の…」 「ああ…ローズマリーさん、ご指名だよ!」 ババアの指名に、お嬢はきょとんとしている。 「さっさとこっち来い、お嬢!」 「は、はい」 冷やかしの中、お嬢はおれに駆け寄った。 ババアが手を放し、ようやくおれは自由になった。 ババアから、花を取り戻す。 「ほら」 おれはただ、花を突き出した。 「これは…?」 「えーと、朝酷いこと言っちまったから…そのお詫びというか。悪かった!」 おれは頭を下げた。 「あ、勘違いすんなよ。これ愛の告白とかじゃねえからな。だからといって、嫌いって言ってるんじゃなくて…あーっもう、難しいな!」 おれはお嬢に、一層花を押し付ける。 「とりあえず、もう泣くんじゃねえ!」 「…はい」 お嬢はようやっと笑って、花を受け取った。 女子達がきゃあきゃあ言って拍手をする。そして背後からも…ん? 背後? 何と、生徒達全員じゃねえかってくらいの生徒達が、入り口前の中庭でこっちを見ている。 見上げれば、校舎の窓から無数の顔が突き出て… 「いや、感動でした」 「いずれお二人はハッピーエンド確実ですな」 「全く全く」 すぐ後ろに居たアン・ドゥ・トロワは鼻をすすっている。 おれは思った。 すげえ今死にたい。 「てめえら! 見世物じゃねえんだぞ! 散れ! 散らないと、おれの拳で顔面陥没必至だぞ!!」 おれが脅して拳を見せると、皆はあっという間に散った。 部屋に帰って来たおれを見るなり、ジルは笑い転げた。 「てんめーっ!」 おれはジルの胸倉を掴み、目を合わせる。 「てめえ、仕組んだな!」 「仕組んでないよ。ただ、健康診断のこと言わなかっただけ」 「じゃあ何で、あんなにギャラリーが居たんだよ!」 おれはここぞとばかりに、ジルを揺さぶった。 「いや、僕がベルトランに面白そうだから見に行こうって言って君の後を追ったら、いっぱい人が付いて来ちゃって…いやー、かっこよかったよリャンヌ」 と言って、またこいつは笑い出した。 「お前、顔面陥没決定」 「ま、待ってリャンヌ」 ジルは背後から、何かを取り出した。 …花だ。 「異国の花だよ。綺麗でしょ」 ジルは跪き、颯爽と花を一輪差し出した。 「今日は感動をありがとう、ということで」 「何だそりゃ!」 「もらってくれないの?」 「…しゃあねえなあ」 おれはため息ひとつと共に、手を伸ばした。 「もらってやるよ」 芳しい香が、花から立ち昇った。 ん? おれ、何だか誤魔化されてねえか? あとがきのようなもの これは友人から「ヴァレンタインの話」をリクエストされ、書いた一品です。 外国のヴァレンタインと日本のは大分違うのでどちらが良いかと聞いたところ、どちらでも と言ってくれたので…どうせならフランス風にしちゃえ!とネットでフランスのヴァレンタイン を調べてみました。 何と、「恋人同士が物を贈る日」なんだとか。 日本のように、告白の意味合いが強くないようです。 あ、あと昔のフランスでは男性が女性に花を贈ってたとか…(ここの情報は曖昧) 今でも花を贈る人は多いようですがね。 今でも、贈り物は男性からするのが一般的だそうで。 ともかく恋人同士のヴァレンタインじゃ話が成り立たないので、男性から女性に花を贈る昔の習俗を採用し、それにまた日本風の告白の意味合いを加え、こんなオリジナルヴァレンタインが出来ました。 いいか、えせフランスだし(良いのかそれ) 花なんだったら花束じゃないの、と思われるかもしれませんが、何となく花一輪の方がかわいら しいなと思って、一輪にしちゃいました(おい)学生ぽいし。 最後にジルが贈った花は、チューリップのつもり。 オランダ原産だと思ってたら、トルコとか原産らしい。へええ(どうでもいい情報)まあ、どちらにせよ異国の花なので。 リャンヌがレイチェルに贈った花は、ご想像にお任せします。 St. Valentinはサン・ヴァランタンと読みます。まあこれは言うまでもなく仏語で(以下略) |
