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Vive le vent(ヴィヴ・ル・ヴァン)
(フランス語版ジングル・ベル)
−vêpres番外編−



Vive le vent,(ヴィヴ・ル・ヴァン)
Vive le vent,
Vive le vent d'hiver(ヴィヴ・ル・ヴァン・ディヴェール)
Qui s'en va sifflant soufflant(キ・サン・ヴァ・シフラン・スフラン)
Dans les grands sapins verts,(ダン・レ・グラン・サパン・ヴェール)
Oh !
Vive le temps,(ヴィヴ・ル・タン)
Vive le temps,
Vive le temps d'hiver, (ヴィヴ・ル・タン・ディヴェール)
Boule de neige et jour de l'an(ブル・ドゥ・ネージュ・エ・ジュール・ドゥ・ラン)
Et bonne année, grand-mère!(エ・ボンヌ・アンネ・グランメール!)

 アン・ドゥ・トロワの歌が終わると、皆が大笑いしながら拍手した。
 何で笑ったかっていうと、こいつら変なダンス付きで歌いやがったからだ。
 うけたのが嬉しいらしく、にやにや笑っている。この確信犯共。
 かくいうおれも、こらえ切れずに笑っていたが。
「リャン、笑いすぎ」
 腹をよじって笑うおれに、ジルが突っ込む。
「だだだ、だってよお…」
「しかし、アン・ドゥ・トロワは凄いなあ。ただのクリスマスソングで、こんな笑いの渦を巻き起こすなんて。これは、負けそうだね」
 ジルは、笑い転げる生徒達を見ながら頷く。酷い奴は、椅子から転げ落ちている。
 負けそうだって…勝負でもするつもりか?
「く、苦しいですわ」
 おれの隣に座るお嬢も、死ぬほど笑っていた。
「アン・ドゥ・トロワ、よくやりましたわー!」
 お嬢が舞台に向かって叫ぶと、アン・ドゥ・トロワは揃って頭を下げた。
「姫様にそんなに喜んでいただけるとは!」
「光栄過ぎます!」
「今、死んでも構いません!」
 大げさなんだよ、お前らは。
 そういえば、まさかあのベルトランまで笑ったんじゃ…と思ってジルの隣を見ると。
 ベルトランは、両手で顔を覆っていた。
「ベルトラン、てめえ笑いこらえてるんだろ」
「…こらえてないぞ」
 どんな意地張ってんだよ。
「観念して、思いっきり笑ったらどう? ベルトラン」
 ジルが背を叩くも、ベルトランは首を振る。
「嫌だ。プライドが傷付く」
「…そういうところ、かわいいねえ」
 ジルの一言に、ベルトランは唖然として両手を顔から離した。
 何言ってんだコイツ、って顔だ。
 まあ、おれも思いまくったが。どうしちまったんだジル。
「ほらベルトラン、前」
「え? ぶっ」
 ジルに促されベルトランが見た先には、アンコールに答えてダンスを再開し始めたアン・ドゥ・トロワ。
 ベルトランはこらえ切れず、とうとう噴き出しやがった。
 作戦だったのかよ。すごすぎるぞジル。
 アン・ドゥ・トロワはアンコールも終わらせて、意気揚々と舞台から降りた。
「えーっと、次の演目は何だ?」
 おれは、パンフレットを開いた。
 言うのが遅れたが、おれ達は今セルン神学校のクリスマスパーティに出席している。
 つっても、食べたり飲んだりだべったりしながら演目を見るだけだが。
 おれは次の演目を見た途端、パンフレットを閉じた。
「おれ、次の演目はボイコット決定」
「え? 何で?」
 ジルが、自分のパンフレットを開く。
「…なるほど。でもリャン、恨まれるよ」
「うるせえ! ヒゲカマのオリジナルオペラなんて誰が聞くかよ!」
 おれは構わず、立ち上がった。
「何ですって?」
 今にも舞台に上がろうとしていたヒゲカマが、恐ろしい地獄耳でおれの主張を聞いてしまったようだ。
「野蛮人! あたしだって、あんたにあたしの美声を聞かせたくなんてないのよ!」
「何だとコラ! 美声だと? ドラ声の間違えじゃねえのか!?」
 おれ達は、真っ向から睨み合う。
 生徒達がざわつき始める。
「まあまあまあまあ」
 ジルが止めに入った。
「先生、ここは落ち着いて」
「あら、ガルヴァランツ君」
 ヒゲカマはジルにメロメロなので、ころっと態度を変えやがった。
「実は先生の次の演目は僕だったんですが、順番を変えさせていただいて構いませんか?」
「は? …んまあ、良いけどぉ」
 ヒゲカマうぜえ。
「でも、何でだ?」
「まあ、見ててよ」
 ジルはおれに、意味あり気に笑いかけてみせた。
 ジルはヒゲカマに歩み寄り、瓶を渡した。
「何これ」
「飲んで下さい。魔法の薬です」
「…飲んだら、どうなるわけ?」
「さあ。ただ、これは恋の薬ですよ」
 ジルの回答に何を期待したのか、ヒゲカマは嬉しそうに瓶の中身をあおった。
 飲んだことを確認してから、ジルは言った。
「リャン・リーヴル」
 は? おれの名前?
 すると、ヒゲカマは一瞬ふらついた。
 そして、ゆっくりおれの方を向く。
「…リャン・リーヴル…ああ、何て素敵なのかしら!」
 おれはずっこけそうになった。
 周りも、口をあんぐり。
「ヒゲカマ、ふざけてんじゃねえよ! お前、おれのことあんだけ嫌っておいて」
「ああ、その粗野な口調も素敵!」
「ななな、何だって!?」
 おれも周りも、だだっ引きだ。
 ヒゲカマは、おれの席まで走って来ようとした。
 そこで、お嬢がおれの前に立ちはだかる。
「私のリャン様に近付いたら、承知致しませんわよ!」
 お嬢、よくやった。おれはお前のものじゃないけどな。
「退きなさい、ローズマリーさん!」
「嫌ですわ!」
 二人が言い合っている隙に、おれは素早く逃げ出した。
「おい、ジル! 何だったんだよあの薬は!」
 おれはジルに掴みかかる。
「あれはね、"飲んだ後に言われた名前の人"にべた惚れしちゃう魔法の惚れ薬。リャンと先生が、クリスマスだってのに相変わらず仲悪いから何とかしてあげようとさっき閃いて。大丈夫、数時間もすれば薬の効き目切れるから」
「何が大丈夫だ! てめえ、いらねえことしやがって!」
「そんなに怒らないで。君にも一つ、あげるから」
 ジルはおれの手に、惚れ薬を握らせた。
「いらねえよ! …って、うわ!」
 背後に気配を感じたと思ったら、ヒゲカマがどたどたとこちらに。
 お嬢、負けたのか!
 お嬢は、言い負かされたのかわんわん泣いていて、そんなお嬢をアン・ドゥ・トロワがおろおろ慰めている。
「泣かないで姫様!」
「もう一度踊りますから!」
「アン・ドゥ! もう一度舞台に行くぞ!」
 踊るのかよ。
 …って突っ込んでる場合じゃなかった。
 おれはひらりとヒゲカマの体当たりをかわし、再び走り出す。
「ジル! 覚えてろよ!」
 おれはそのまま逃げようとしたが、呆れて座っているベルトランを見付けたので
「お前も来やがれ! 巻き添えだ!」
「何故だ!」
 腕を引っ張って無理矢理巻き込んでやった。

 おれとベルトランは、人気のない校舎を駆け抜けた。
「だ、だから何で僕も一緒に逃げなきゃいけないんだ!」
「八つ当たりだ! 黙って付いて来い!」
 おれが切り捨てると、ベルトランは理不尽だとぶつぶつ呟いていた。
「よっし、この教室隠れようぜ」
 おれは教室の中に入った。
 ベルトランはぜいぜい言って、机にもたれる。
「喉渇いた…それ、寄越せ」
 ベルトランは、おれの握り締めていた瓶を奪った。
「え?」
 おれが慌てて振り返った時にはもう、ベルトランはごくごく瓶の中身を飲んでいるところだった。
「あちゃー」
 おれが頭を抱えたその時、教室の戸が開いた。
「あれ、二人ともこんなところに居たの?」
 ジルが、ひょっこり顔を出す。
「ジル」
 ……しまった、名前呼んじまった!
 おれはベルトランを振り向いた。
 目が、潤んでいる。
「…寮長…」
 固まっているおれ達をよそに、どこからともなく気合の入ったアン・ドゥ・トロワの"Vive le vent"が聞こえて来た…。

 この後どうなったかは、想像に任せるぜ…。
 何はともあれ、 Joyeux Noël !(ジョワユー・ノエル) (メリー・クリスマス!)




            あとがきのようなもの

ジルは自業自得ですが(笑)、ベルトランがかわいそうな気が(自分で書いておいて何を)

Vive le ventはYou tubeなんかで聴けます。 Vive le vent
歌ってるのはヴィヴ・ル・ヴァンってよりはヴィヴ・ル・ヴォンって聞こえますが、パリ訛り だと思います(大体の歌はパリの発音で歌われてるみたいだけど)
どっちでも良いらしいので、私はヴィヴ・ル・ヴァンと読み仮名つけておきました。
ちなみにVive le vent d'hiverは、冬の風万歳!という意味です(笑)
是非是非皆さん、歌ってみてください(!)

こるぼさんの誕生日に捧げた一品でした。

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