高血圧Q&A
三村 実
内科・透析
日本循環器学会認定専門医
日本内科学会認定内科専門医
産業医

・血圧とは?
血圧とは心臓から送り出された血液による動脈への圧力を表しています。生物の宿命としての老化現象による動脈硬化等のため、年齢とともに健常者でも血圧は上昇する傾向にあります。
・日本での状況は?
高血圧症は慢性疾患の中で最も多い疾患であり、国内では未治療者を含めて3500万人もいると言われています。この数は実に国民4人に1人、成人では2人に1人が高血圧症であることを示しています。
・高血圧の原因は?
 高血圧の90%以上は本態性高血圧症と呼ばれ原因は不明です。それに対して腎疾患や内分泌系疾患、薬剤性等の明らかな原因を有する場合を二次性高血圧と称し、比較的若年者に多く40才未満の高血圧症の20%程度を占めると言われています。本態性高血圧症の原因は不明ですが影響を与える要素として、遺伝や塩分、アルコールの摂りすぎ、肥満、ストレス等があります。
・高血圧の治療はなぜ必要なのか?
 高血圧を放っておくと全身の動脈硬化が進行し、その結果脳卒中や心筋梗塞、心不全、腎不全、眼底出血、動脈瘤等の場合によっては生命にかかわる重大な病気の原因となることがあります。特に脳卒中とは特異的な関係にあり例えば収縮期血圧が10mmHg上昇すると男性では約20%、女性では約15%も脳卒中罹患率・死亡の危険度が増加します。さらに心筋梗塞、狭心症の罹患率・死亡の危険度が男性では約15%増加します。また国民全体の平均収縮期血圧が2mmHg低下するだけで、脳卒中の死亡率が全体で6.4%低下すると言われています。



・高血圧の診断基準は?
 高血圧治療ガイドライン2004(JSH2004)では収縮期血圧140mmHg以上または拡張期血圧90mmHg以上を高血圧症と定義しています。収縮期血圧と拡張期血圧はそれぞれが独立した動脈硬化の危険因子であるため、収縮期血圧と拡張期血圧が異なる分類に属する場合は高いほうの分類に振り分けることとなっています。
 また血圧値のみではなく糖尿病や高脂血症等の心血管病危険因子の有無および腎障害や網膜症等の臓器障害、脳卒中や心筋梗塞等の心血管病の既往の有無により重症度や生命予後への危険度を分類し治療法や目標血圧値を定めています。




・家庭での血圧測定は有用?
 長期にわたる一定条件での家庭血圧の測定は高血圧の診断に有用なだけでなく、高血圧の治療効果の確認や薬剤の適正な選択等に多くの有用な情報をもたらせてくれます。
 また医療環境(外来や健康診断等)で測定した血圧は常に高血圧なのに、非医療環境(家庭等)での血圧は常に正常である場合を白衣高血圧と呼びます。逆に診療所での血圧は正常ですが、非医療環境での血圧が高血圧である場合を逆白衣高血圧あるいは仮面高血圧と呼びます。これらの現象は高血圧症の診断や治療に悪影響をおよぼすことがありますが、家庭血圧を測定することによりこれらを除外することができます。
 家庭血圧値は一般に外来血圧値よりも低値を示す傾向にあります。WHOのガイドラインでは家庭血圧値において125/80mmHg未満を正常値と定義していますが、我が国独自の研究によりJSH2004では135/85mmHg以上を高血圧症とし、125/80mmHg未満を正常血圧の基準として採用しています。

  ・測定方法は?
日本高血圧学会の指針では朝晩2回の測定が推奨されています。朝は起床後一時間以内、排尿を済ませ測定前に座位で1〜2分間安静にしてから朝食および内服前に測定します。夜は就寝前に座位で1〜2分間の安静後に測定します。ポイントはできるだけ長期間にわたり一定条件で測定することです。



・どんなタイプの測定器機がいいの?
 最近の健康への自己管理意識の高まりから、各メーカーから様々なタイプの測定器が発売されており値段もピンからキリまであります。JSH2004では上腕で測定するタイプが推奨されています。指用は誤差が大きく手首用は簡便ですが上腕用よりは正確性に劣ります。
 一般的なメーカー製で上腕用であれば測定能力に差はなく、値段の違いはオプションの差と考えて良いと思われますので予算に合わせて選んでも間違いはないと思います。

・外来での検査は?
 高血圧治療ガイドライン2004では高血圧と診断された場合の検査について一般(必須)検査と特殊(精密)検査を提唱しています。
 一般検査としては、血液生化学検査、尿検査、胸部レントゲン、心電図、眼底検査等です。血液検査項目には二次性高血圧症を鑑別しなければなりませんので、血圧を上昇させるホルモン等を測定する必要があります。副腎腫瘍や腎性高血圧が疑われるときは、腹部超音波検査や腹部CT検査が必要となります。
 特殊検査は生命予後に大きな影響を与える可能性が高い臓器障害の有無を調べるための検査です。主な検査項目として頭部CT(MRI)検査、心臓超音波検査、頚動脈超音波検査、上下肢血圧比(ABI)測定検査、動脈波伝播速度(PWV)測定検査等があります。
 明らかな脳卒中の既往がなく、CTやMRIで偶然発見された小さな脳梗塞病変でそれに対応する神経症状のないものを無症候性脳梗塞と呼びます。その頻度は年齢とともに増加し40歳台で5%、50歳代で9%、60歳代で20%、70歳代では29%と報告されています。無症候性脳梗塞を持っている場合は、麻痺等を伴う脳卒中発作を発症する危険性が10倍になると言われています。
 無症候性脳梗塞と最も関係の深い危険因子は高血圧であり、高血圧の方はそうでない方に比べて脳卒中発作を起こす危険性が2.2倍であるとされています。そして脳卒中発作を予防する効果が一番高いのは、血圧の厳重なコントロールであるとされています。そのため治療を要すると診断された高血圧症の方は、頭部CTやMRI検査が必要となります。


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・24時間自由行動下血圧測定(ABPM)とは?
 家庭血圧測定は多くの有用な情報を与えてくれますが血圧の日内変動は個人差が大きく、特に日中の活動中や睡眠中等の家庭血圧測定では捉えられない血圧の変動を調べることがABPMによって可能となりました。特に睡眠時の血圧の変動がより重要であることが分かってきました。          
 一般に血圧は覚醒時よりも睡眠時に低値を示しますが、高血圧症では睡眠時に血圧が下降しない場合や夜間に血圧が上昇する場合があることがわかり、そのようなケースでは無症候性脳梗塞や心肥大、蛋白尿等の高血圧性臓器障害を高率に伴うと言われています。起床後急激に血圧が上昇したり朝の高血圧がその時間帯における脳卒中や心臓発作発症との関連が深いことが報告されています。       
 このようにABPMは現在では高血圧の診断と治療において重要な役割を果たしており、高血圧治療ガイドライン2004においても推奨されています。                         




・高血圧症の治療
 高血圧の治療に際しては、薬物、非薬物治療にかかわらず長期間続けなければなりませんので、まずは主治医と十分に話し合い納得することが肝腎です。

  ・治療の目的は?
 以前は血圧の下げ過ぎが心筋梗塞のリスクになるとされていましたが、1998年に発表された欧米の研究によりその懸念は払拭されました。高血圧治療ガイドライン2004では年代別および糖尿病または腎障害合併の有無によって目標値を定めています。







・治療法は?
 高血圧の発症には環境因子の影響が大きいため、降圧治療に際しては環境因子の多くを占める生活習慣の修正(非薬物療法)が必須であります。ただし生活習慣の修正のみでは目標値まで降圧できるケースは少ないため、大部分の症例では薬物療法の併用が必要となります。





・食塩摂取との関係は?
 諸外国の研究によると一日の塩分摂取量を減量するにつれて血圧はゆるやかに低下し、一日の摂取量が3g未満では著明に低下すると報告されています。古代人の塩分摂取量を研究した報告によると、旧石器時代の一日摂取量は1.5gであったのことです。すなわち人類は元来このような低塩分量で生活できるようになっており、文明の発達につれて塩分摂取量が増え高血圧の増加に繋がったと考えられます。
 1970年の調査では当時一日平均30gの塩分を摂取していた秋田地方では高血圧の発生率は40%と極めて高く、塩分をほとんど摂取していなかったエスキモーでは低率でありました。日本人の30〜40%が食塩の過剰摂取で著明に血圧が上がる食塩感受性高血圧と言われています。しかしこの食塩感受性は遺伝等の先天的な要因だけではなく、加齢や腎機能、肥満などの後天的な要因も含まれており個人の食塩感受性を診断するのは困難です。そのため日本高血圧学会JSH2004年ガイドラインや厚生労働省の提唱する「健康日本21」では一律に食塩制限を推奨しています。
 現在日本人の一日の平均塩分摂取量は約12gですが厚生労働省の推奨する健康者の目標は10g未満であり、高血圧症の場合はガイドラインでは6g未満としています。この6g未満という数字は現代の塩分摂取量から考えるとかなり厳しい数字ですが、あくまでも目標値のひとつにしか過ぎず最終的にはもっと低い値を目指さなければなりません。
 食塩感受性高血圧症では非感受性に比べて脳卒中や心筋梗塞等の発症率が有意に高く、その原因としてメタボリックシンドロームとの関連が指摘されています。メタボリックシンドロームでは食塩感受性高血圧症が多く、脳卒中や心筋梗塞の危険因子である高脂血症や糖尿病を合併しやすいためであると考えられています。
 減塩効果のある食品としてカリウム、カルシウム、マグネシウムが知られており欧米で行われたDASH研究で用いられた、これらを豊富に含むDASH食では降圧効果が示されています。ただし腎障害のある患者ではカリウムの過剰摂取が高カリウム血症の原因となり糖尿病患者では果物の過剰摂取によるカロリーオーバーとなるためガイドラインでは推奨されていません。

  ・メタボリックシンドロームとは?
 高血圧、糖尿病、高脂血症、肥満等はそれぞれが独立した心血管病の危険因子ですが、それらを複数持ちあわせることによりさらに危険度が増すことが近年解明されてきました。2001年の厚生労働省(当時は労働省)の調査結果でも高血圧、高中性脂肪血症、高血糖、肥満のうち3個以上を合併すると心筋梗塞等の冠動脈疾患の発症率は35倍以上になると報告されました。
 メタボリックシンドロームとは従来のように危険因子を個別に扱うのではなく、複数の危険因子を合併した状態をひとつの病態として定義されました。ウエスト径の増大で示される内臓脂肪蓄積を必須とし、高血圧、耐糖能異常脂質代謝異常のうち2つ以上重積した場合をメタボリックシンドロームと診断されます。


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・減量は?
 肥満が高血圧の重要な危険因子であることは多くの疫学研究によって示されています。さらに高血圧だけではなく耐糖能異常、脂質代謝異常を惹起しメタボリックシンドロームと密接な関係があります。
 減量による降圧効果は確立されており、4.5kg以上の減量で有意に降圧効果があることが欧米の研究で報告されています。また減量により降圧剤の使用量を減らしたり、脂質代謝異常や耐糖能異常が改善されると言われており肥満を伴う高血圧の場合はまずは初めに減量を行なうべきでしょう。




・アルコールは?
 アルコールは摂取量と血圧上昇には正の相関関係があり、脳卒中(特に脳出血)および心肥大、心不全(心筋症)の危険因子ですが、その反面いわゆる善玉コレステロールを増やし動脈硬化を抑える作用があり、心筋梗塞等の虚血性心疾患を予防する効果があります。そのため適量であれば他に事情(肝臓病等)がなければ禁酒する必要はありません。
 ガイドラインではエタノール換算で男性では20〜30mlでおおよそ日本酒なら1合、ビールなら大瓶1本、ワインはグラス2杯、ウイスキーの水割りならダブルで一杯が許容量とされています。女性はその半分と考えてください。ただしアルコールにより食欲が亢進するため、つまみや食事による塩分やカロリーの過剰摂取には注意が必要です。

  ・喫煙は?
 タバコのニコチン作用により喫煙後一過性に血圧は上昇しますが、慢性的な高血圧の原因になるとはされていません。しかし喫煙は肺癌の危険因子であるとともに、心筋梗塞や脳卒中の重大な危険因子でありますので高血圧症の方は禁煙を心掛けなければなりません。
  ・運動療法は?
 運動をよくする人は高血圧が少なく、運動療法は降圧効果があるとされています。一般に身体活動の大きな人は肥満や脂質代謝異常が少なく、心血管病の危険因子が少ないとされています。また運動により耐糖能異常が改善するとされており、メタボリックシンドロームの改善も期待できます。
 運動内容としては早歩きや軽いジョギング、水中歩行等の軽度な有酸素運動を30分以上続けるのが良いとされており、できるだけ毎日行なうことを心掛けましょう。通勤に際して乗り物を止めて、駅まで歩いたり帰りは電車を一駅分歩くとかの工夫をすれば、仕事をされている方でも運動療法を行なうことは可能です。このような運動を続けると10週間で50%の方で収縮期血圧が20mmHg以上、また拡張期血圧が10mmHg以上の降圧効果が報告されています。
 ただし心血管病の既往や合併のある方や慢性腎不全の方は、主治医と相談の上で運動療法の適否や内容を決めなければなりません。

  ・薬物治療は?
 日本では降圧剤として利尿薬、ACE阻害薬、ARB、カルシュウム拮抗薬、β遮断薬、α遮断薬と呼ばれるものが一般的に用いられています。最近の研究では単剤の使用よりは作用の異なる薬剤を複数併用した方がより効果的であるとの報告も見受けられるようになっています。  またこれらの薬剤は世界的な研究により降圧効果だけでなく、心臓や脳、腎臓等に対して臓器保護作用や生命予後の改善が証明されているものも多くあり、患者さん個人の年齢や合併症等の病態に則してこれらの薬剤を単独あるいは複数を併用します。薬物治療による降圧効果が得られたことを高血圧が完治したと自己判断し治療を中断してしまう場合がありますが、服用の中止により急激な血圧の上昇等により生命の危険を伴う事態を引き起こすことがありますので、自己判断せずに主治医と十分に話し合うことが大切です。