目次へ

水稲乳苗栽培における合理的施肥技術確立試験

京都府丹後農業研究所

  1. 単年度の報告
    1. 目的
    2. 試験方法
    3. 結果の概要
    4. 要約
    5. 新資材利用上の問題点
  2. 全試験期間の総まとめ
    1. 目的
    2. 試験方法
    3. 結果の概要
    4. 要約
    5. 新技術普及上の留意点

I.単年度の報告

1.目的トップへ
 コシヒカリの乳苗栽培における緩効性肥料の基肥一括施用および、同施肥法による疎植栽培について検討し、より省力的な乳苗栽培技術を確立する。

2.試験方法トップへ
1)耕種概要
供試品種播種期
月.日
播種量
乾籾g/箱
育苗条件移植期
月.日
コシヒカリ5.7200出芽3日緑化4日(出芽器内育苗)5.15(5条乗用田植機)
2)土壌条件
土性・土質腐植含量土質の乾湿減水深PH
沖積・砂壌土3.3%半乾0.5p/日6.5(H2O)・5.3(KCl)
3)試験区:1区45m2 2反復
試験区栽植密度
(株/m2)
施肥量(N成分s/10a)
基肥穂肥I穂肥II
標肥・標準植(標準)20.82.5(全層)2.52.07.0
緩効・標準植20.86.3(全層)6.3
緩効・疎植15.05.6(全層)5.6
(注)穂肥施用時期…穂肥I:7月21日 穂肥II:7月28日
使用肥料(N−P2O5−K2O 成分量%)
標肥…基肥:燐加安14号(14-10-13)、穂肥:NKC-6号(17-0-17)
緩効…LPSS特2号(14-14-14)

3.結果の概要トップへ
1)前年度までの試験結果の要約
 コシヒカリの乳苗栽培において、緩効性肥料による基肥一括施用を検討した結果、収量・品質ともに標肥栽培と同等の結果が得られ、実用性は高いものと思われた。また、疎植により倒伏軽減効果が認められたことから、基肥一括施肥と組み合わせることによって、より安定的な省力・低コスト栽培が可能になるものと考えられた。
2)本年度の結果の概要
@気象及び生育概況
 4月下旬〜5月上旬にかけて、6月中旬並の異常な高温となった。本試験の乳苗育苗には支障なかったが、一般農家の稚苗苗は徒長し、地域全体に田植時期が3〜4日早まった。また、この時期としては極めて異例なことであるが、苗いもちの発生が一部で認められた。
 移植後、5月4〜6半旬は高温・多照で活着は良好であったが、6月は一転して寡照で昼夜の気温較差が小さくなるなど分げつ発生には不利な条件となった。7月1〜2半旬は高温・多照となったが、3半旬以降成熟期に当たる9月2半旬まで、概して高夜温、寡照に推移した。
 所内作況試験の結果による平年との生育、収量の比較は以下のとおり。
 主として夜温が高かったことによるが、平均気温は生育期間を通じて平年よりも高く、幼穂形成期、出穂期、成熟期は平年より2〜3日早くなった。穂数は平年比88%と少なかった。m2当籾数は、一穂籾数が平年比113%と多かったことから平年並であった。収量は、登熟がやや不良であったことから平年比97%とやや低収となった。
 なお、本試験には影響なかったが、9月17日の台風5号、同22日の台風7号による風雨と秋雨前線の停滞によって、中生以降の品種では、倒伏と穂発芽により収量、品質に大きな影響を受けた。
A試験結果
ア.10a当たり使用箱数は、標準植の14.9箱に対し疎植が12.3箱であった。疎植の使用箱数は、標準植に比べ約20%少なくなった(表1−注)。
イ.分げつ発生は、緩効標準植区は標肥標準植区(以下、標準区)と同様の推移を示し穂数にも差はなかった。しかし、緩効疎植区の分げつ発生は緩慢で、穂数は前2者を約20%下回った(表1図1)。
ウ.稈長は、栽植密度間で差は認められず、施肥法の違いによって異なった。即ち、緩効施肥の稈長は、標準植、疎植区ともに標準区に比べ3〜4cm短稈となり、倒伏も軽微であった。緩効施肥は、標準植、疎植区ともに、第V節間長が標準区に比べやや長かったが、第I、第II節間長が短かく、これが緩効施肥両区の短稈化をもたらした(表1)。
エ.収量は、緩効標準植区が標準区並(収量比102%)であったが、緩効疎植区は標準区に比べ7%の多収となった。同区の多収は、登熟歩合及び千粒重が高かったことによるものであり、減肥による収量への影響は認められなかった(表2)。
オ.外観品質は、緩効疎植区がほぼ標準区並、緩効標準植区が標準区よりやや良質であった。
 食味値は、緩効標準植区、緩効疎植区がともに標準区を上回り、精白米中の蛋白質含量も低くなった。緩効施肥の両区は、出穂期以降の葉色が標準区よりも低めに推移し、肥効が緩やかであったことが推察され、良食味、低蛋白に寄与したものと考えられた(表2図2)。
カ.緩効性肥料を用いた省力施肥は、同収(標準植)〜多収(疎植)となり、低蛋白、良食味となった。これは、昨年の結果と傾向を同じくするものであり、本施肥法の安定性を示すものと考えられる。以上のことから、疎植栽培に緩効性肥料を用いた省力施肥を組み合わせることによって、より省力的な乳苗栽培が可能となるものと考えられる。
表1 生育調査結果戻る
試験区出穂期
(月.日)
成熟期
(月.日)
草丈
(cm)
茎数
(本/m2)
稈長
(cm)
節間長(cm)穂長
(cm)
穂数
(本/m2)
倒伏
IIIIIIIVV
標肥・標準植8.69.1167.15029739.422.217.412.45.919.93932.5
緩効・標準植8.79.1167.05159336.021.118.012.06.318.43991.0
緩効・疎植8.79.1168.04309236.820.617.011.16.318.73351.0
(注)〇倒伏 0:無 1:微 2:少 3:中 4:多 5:甚
〇10a当たり使用箱数…標準植:14.9箱 疎植:12.3箱
○草丈、茎数は最高分げつ期(移植後50日)の値

_戻る
表2 収量及び品質調査結果戻る
試験区精玄米重(kg/a)収量

(%)
一穂
籾数
(粒)
m2
籾数
(x100粒)
登熟
歩合
(%)
千粒

(g)
外観
品質
食味

蛋白質
含量
(%)
1区2区平均
標肥・標準植54.258.256.2(100)80.231579.722.26.067.87.9
緩効・標準植57.856.557.210280.132083.521.85.073.47.2
緩効・疎植58.761.860.310791.030586.222.65.574.96.8
(注)〇外観品質: 1(良)〜9(不良)
○食味値及び蛋白質含量は約90%に精白した精米での値(N社食味計使用)
_戻る

4.要約トップへ
 コシヒカリの乳苗栽培において、緩効性肥料による基肥一括施用を検討した結果、収量・品質ともに標肥栽培と同等以上の結果が得られ、実用性は高いものと思われた。また、本施肥法に疎植栽培を組み合わせることによって、より安定的な省力・低コスト栽培が可能になるものと考えられた。

5.新資材利用上の問題点トップへ
 異なる土壌条件での効果の確認が未検討であるが、2ケ年間の試験の結果、特に問題点は見いだせない。今後、乳苗栽培をより省力化するための栽培法として積極的に現地への導入を図ることとしたい。なお、本試験で実施した緩効性肥料の施用法は全層施肥であり、より省力的で肥料の利用効率の高い側条施肥での検討が必要である。

II.全試験期間の総まとめ

1.目的トップへ
 コシヒカリの乳苗栽培における緩効性肥料の基肥一括施用および、同施肥法による疎植栽培について検討し、より省力的な乳苗栽培技術を確立する。

2.試験方法トップへ
1)耕種概要
○供試品種:コシヒカリ
○育苗:乾籾200g/箱を播種し、出芽3日、緑化4日の出芽器内育苗とした。
○移植期:平成9年度が5月16日、10年度が5月15日。
2)土壌条件
土性・土質腐植含量土質の乾湿減水深PH
沖積・砂壌土3.3%半乾0.5p/日6.5(H2O)・5.3(KCl)
3)試験区の設定
試験区栽植密度
(株/m2)
施肥量(N成分s/10a)
基肥穂肥I穂肥II
平9標肥標準植(標準)20.82.5(全層)2.52.07.0
緩効標準植20.86.3(全層)6.3
緩効疎植13.96.3(全層)6.3
平10標肥・標準植(標準)20.82.5(全層)2.52.07.0
緩効標準植20.86.3(全層)6.3
緩効・疎植15.05.6(全層)5.6
(注)穂肥施用時期は出穂前16日、7日(平9)16日、9日(平10)
平成10年度の疎植は、一般的な田植機で設定可能な範囲内で最も疎植となる15.0株/m2に設定した。
使用肥料(N-P2O5-K2O 成分量%)
標肥…基肥:燐加安14号(14-10-13)、穂肥:NKC-6号(17-0-17)
緩効…LPSS特2号(14-14-14)

3.結果の概要トップへ
.平成10年の10a当たり使用箱数は、標準植(20.8株/m2)の14.9箱に対し疎植(15.0株/m2)が12.3箱であった。疎植の使用箱数は、標準植に比べ約20%少なくなった(表1−注)。
イ.緩効標準植区、緩効疎植区ともに、第V節間長が標準区に比べやや長かったが、第I、第II節間長が短かくなった。稈長は、緩効標準区が両年次ともに標準より短くなった。緩効疎植区の稈長は、平成9年度は標準区よりやや長くなったが、減肥した平成10年は標準区に比べ約5cm短稈となった。
 倒伏程度は、緩効標準植区が標準区並(平9)〜低く(平10)、緩効疎植は両年次ともに低く軽微であった(表1図1)。
ウ.収量は、緩効標準植区、緩効疎植区が両年次ともに標準区を上回った。緩効疎植区は、平成9年と10年では、栽植密度および施肥量が異なっているが、標準区との収量比は、平成9年が110%、同10年が107%と安定して多収が得られており、一両年次ともに検討した3区中最も多収となった(表1図2)。
エ.玄米品質は、緩効疎植区がほぼ標準区並、緩効標準植区が標準区よりもや良質であった。
 精白米中の蛋白質含量は、緩効標準植区、緩効疎植区が両年次を通じて標準区よりも低くなった(表1図3)。これらのことは、検討した緩効性肥料による基肥一括施用が良食味生産を考える上でも効果が期待できることを示唆するものであった。なお、緩効施肥の両区は、出穂期以降の葉色が標準区よりも低めに推移し、肥効が緩やかであったことが推察され、低蛋白に寄与したものと考えられた(図4)。
カ.以上、緩効性肥料を用いた基肥一括施用は、良質(外観、低蛋白)、多収となり、本施肥法の安定性を示す結果が得られた。また、疎植栽培に緩効性肥料を用いた省力施肥を組み合わせることによって、より省力的な乳苗栽培が可能となるものと考えられた。

表1 収量調査結果戻る
精玄米重
kg/a
収量比
%
穂数
本/m2
一種籾数
m2籾数
x100粒
登熟歩合
%
千粒重
g
玄米品質
1:良〜9:不良
平9標準59.6(100)41572.530188.122.64.5
緩効標準植63.610746076.335183.322.14.0
緩効疎植65.811039288.931884.622.34.5
平10標準56.2(100)39380.231579.722.26.0
緩効標準値57.210239980.132083.521.85.0
緩効疎植60.310733591.030586.222.65.5
(注)10a当たり使用育苗箱数(平成10年度測定値)
標準植:14.9箱
疎植:12.3箱
_戻る

_戻る

_戻る

_戻る

4.要約トップへ
 コシヒカリの乳苗栽培において、緩効性肥料による基肥一括施用を検討した結果、収量・品質ともに標肥栽培と同等以上の結果が得られ、実用性は高いものと思われた。また、本施肥法に疎植栽培を組み合わせることによって、より安定的な省力・低コスト栽培が可能になるものと考えられた。

5.新技術普及上の留意点トップへ
@普及性の有・無と問題点
 豆後など化学性に富む水田等の異なる土壌条件での効果の確認が未検討であるが、試験を実施した2ケ年を通じて安定した効果(収量、品質、食味)が得られていることから、普及性は高いと思われる。
A普及上の留意点
 基肥一括施用の施肥量は、通常の施肥体系の総窒素量の10〜20%減とする。
B新資材普及上の留意点
 本試験で実施した緩効性肥料の施用法は全層施肥であり、肥料の利用効率が高いとさわる側条施肥とした場合、より減肥が可能と考えられる。普及性をより高めるためには、この点についても指針となるべきデータを得るための検討が必要と考えられる。