1.甲状腺腫瘍の種類と特徴
甲状腺の腫大には、バセドウ病や橋本病などに見られる「びまん性甲状腺腫」と、甲状腺にしこりのように腫れる「結節性甲状腺腫」の2つに大別されます。甲状腺の腫瘍はいずれも20-50歳代の女性に多く、自覚症状はしこりだけのことがほとんですが、進行すると嗄声(=声が枯れること)が見られることがあります。
甲状腺には甲状腺ホルモンを産生する濾胞細胞、カルシトニンを分泌するC細胞、の2つの上皮細胞から過形成、良性腫瘍、そして癌が発生します。間葉系の腫瘍としては、悪性リンパ腫以外はまれとされています。
しかし仮に癌であったとしても、甲状腺の癌は非常にたちがよいケースが多く、一番多い乳頭癌では5年生存率が90%を超えています。
腫瘍の分類
1.甲状腺の良性腫瘍 : 腺腫 (まれに甲状腺ホルモンを産生する「機能性結節」もあります)
2.腺腫と似た変化を起こすもの(過形成) : 腺腫様結節、腺腫様甲状腺腫
3.悪性腫瘍 : 癌、悪性リンパ腫
2.良性腫瘍
1.腺腫(adenoma)
腺腫は、甲状腺の左右どちらか一方にしこりがひとつだけできるのが特徴で女性に多い病気です。画像上濾胞癌との鑑別が難しい症例もあり、精査が必要となります。ごくまれに、しこりが甲状腺ホルモンを過剰に生産し、バセドウ病のように甲状腺機能亢進症の症状を現すことがあります。この病気を初めて報告したアメリカの医師の名前をとって、プランマー病と呼ばれていますが、シンチグラムなどで診断をします。
2.腺腫様甲状腺腫(adenomatous goiter)
左右の甲状腺に大小さまざまな大きさのしこりができ、その結節が少数の場合は腺腫様結節と呼ばれます。腺腫に比べると大きなものが多く、中には鎖骨より下の胸の方まで入り込むもの(縦隔内甲状腺腫)まであります。しかし、この場合でも呼吸や食事の通過には影響ないことがほとんどです。この病気は本来良性ですが、一部に癌が含まれていることがあり、きちんと鑑別診断を受けることが大切です。ときに甲状腺機能亢進症を示すことがあります。
3.悪性腫瘍
甲状腺にできるしこりのうち約20%が癌と推定され、女性は男性の4−5倍の頻度と報告されています。ほとんどの甲状腺癌はしこり(結節)以外の症状を引き起こしませんが、まれに痛み、飲み込みにくい、嗄声(=声が枯れること)などの症状がでることがあります。
甲状腺癌は、乳頭癌、濾胞癌、髄様癌、未分化癌に大きく分類されますが、80%が予後の良い乳頭癌です。他にまれですが悪性リンパ腫があります。
1.乳頭癌
最も多いタイプのもので全体の約80%を占めます。年齢層を問わず発生しますが、年齢層が低い程予後は良く、一般の癌とは逆の性質を示しています。乳頭癌の発育は非常にゆっくりで、この癌を持って無症状のまま亡くなる方も多くおられます。(他の病気でなくなった方を剖検すると10%程度の頻度でこの癌が見つかります。)リンパ節への転移が非常に多いという特徴がありますが、成長が非常にゆっくりであるため、この時点で治療をしても治ることが多いと報告されています。ほとんどの場合は非常に予後が良いのですが、一部に低分化型といって、非常に増殖率の高い悪性度の高い癌もあり、注意が必要とされています。
2.濾胞癌
乳頭癌の次に多いのは、「濾胞癌」で、甲状腺癌の8%ほどを占めています。乳頭癌に比べるとやや高齢者に多い傾向があります。また乳頭癌に比べて血行性転移することがあり、肺、骨への転移が乳頭癌に比べるとやや頻度が高いと報告されています。良性の濾胞腺腫との鑑別が難しいことがあります。
3.髄様癌
全体の5%程度を占めます。上の2つの癌とは異なり甲状腺濾胞細胞から発生し、家族性に発生することもあります。髄様癌はCEAやカルシトニンを多量に分泌することが知られており診断に用いられます。
4.未分化癌
非常に発育が急速で悪性度の高い癌です。局所浸潤、転移いずれも起こしやすく、嗄声、呼吸困難などの症状がみられます。甲状腺癌の2%程度を占め、高齢者に多く若い人にはみられません。
5.悪性リンパ腫
慢性甲状腺炎のリンパ球浸潤を基盤として発生し、甲状腺全体が急速に腫れてきます。大きくなると嗄声や呼吸困難が出現します。治療法は手術ではなく、抗癌剤や放射線治療が中心となります。
4.甲状腺癌の進行度
甲状腺癌の進行度は、原発巣の進行度”T”、リンパ節転移”N”、遠隔転移”M”で決まります。
1.原発巣の進行度”T”
T0:原発腫瘍を認めない
T1:甲状腺に限局し最大径が2cm以下
T1a:甲状腺に限局し最大径が1cm以下
T1b:甲状腺に限局し最大径が1cmを超え2cm以下
T2:甲状腺に限局し最大径が2cmをこえるが4cm以下
T3:甲状腺に限局し最大径が4cmをこえる、もしくは大きさを問わず甲状腺の被膜外に微小進展する腫瘍
T4:大きさを問わず甲状腺の被膜をこえて上記以外の組織あるいは臓器にも進展する腫瘍
T4a:甲状腺の被膜をこえて上記以外の組織あるいは臓器にも進展するが、下記の進展を伴わないもの
T4b:椎骨前筋群の筋膜、縦隔の大血管に浸潤するあるいは頸動脈を取り囲む腫瘍
2.リンパ節転移”N”
N0:所属リンパ節転移なし
N1:所属リンパ節転移あり
N1a:頚部中央区域リンパ節(I II III IV)に転移あり
N1b:一側、両側もしくは対側の頚部外側区域リンパ節(VaVbVI VII)あるいは上縦隔リンパ節に転移あり
3.遠隔転移”M”
M0:遠隔転移を認めない
M1:遠隔転移を認める
癌の進行度は、乳頭癌、濾胞癌では、その年齢によって異なり、45歳以下ならば”T””N”が何であっても”M”がない限りStageは I 、M1であってもStage II と診断されます(=つまり若年者ほど予後が良いということです)。
45歳を超える乳頭癌・濾胞癌、そして髄様癌では下表のように診断されます。一方未分化癌はその予後の厳しさから、全てのケースでStage IV と診断されます。
45歳を超える乳頭癌・濾胞癌、そして髄様癌のStage
Stage I T1 N0 M0 Stage II T2 N0 M0 Stage III T3 N0 M0 T1, T2, T3 N1a M0 Stage IVA T1, T2, T3 N1b M0 T4a N0, N1 M0 Stage IVB T4b Nは何でも良い M0 Stage IVC Tは何でも良い Nは何でも良い M1
一般に若い人の癌は進行が早くたちが悪いといわれますが、甲状腺癌の場合は例外です。よく治る癌であるからこそ、しこりに気付いたときは、早めに検査を受けるようにして下さい。
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