<良性疾患>

1.乳腺症(mastopathy)
乳腺症は30代から40代の女性によくみられ、乳癌を心配して外来を受診される方のなかで最も多い病気です。性ホルモンの不均衡(相対的なエストロゲン過剰状態)、つまり女性ホルモンのアンバランスにより起こると考えられており、従って、乳腺症の症状は生理とある程度の周期性をもっています。
乳腺症の症状としては、
1.しこり:乳房に表面がでこぼこしたしこり状のもの(=乳腺そのもの)を触れます。
2.痛み:この痛みは月経前に強くなり、月経が始まると軽減する、という周期性をもつことが多いとされています。
3.分泌物:乳頭から分泌物が見られることがあります。
などです。
診断は、視触診、マンモグラフィー、超音波検査が基本となり、乳頭分泌を伴う場合は乳汁細胞診、CT、さらにMRIなどが用いられますが、診断の難しい場合は針生検が行われることもあります。
治療としては、まずホルモンバランスを正常に戻すように生活を整えること(具体的にはストレスを避ける、充分な睡眠を取ることなど)です。痛みは硬いカップのブラジャーで乳房を固定すると楽になります。内科的治療として食事療法(脂肪・カフェイン制限)、痛みがひどく日常生活に差し障るような場合にのみお薬の内服、ホルモン剤(ダナゾール)、漢方薬(桂枝茯苓丸、当帰芍薬散、など)が行われることがありますが、基本的に外科的治療は必要ありません。閉経後には徐々に乳腺症の症状はなくなっていきます。
乳腺症が乳癌に直接変化することはないと考えられていますが、乳腺症の一部に癌化の可能性が高いもの(=病理学的に増殖性変化を示す病変、特に異型過形成(atypical hyperplasia))が報告されています。また乳腺症の方の乳腺は硬くごつごつしていることが多いため、乳腺のしこりを自己触診で発見することが難しいことが少なくなく、定期的、継続的に検査を受けることをお勧めします。
また似た病名に乳腺炎がありますがこれは全く別のものです。乳腺炎は細菌の感染や、授乳期に乳汁がうまく出なくて起こる病気です。

2.線維腺腫(fibroadenoma)
乳腺の良性腫瘍の中でもっとも多くみられるのが線維腺腫であり、10代後半から30代の比較的若い女性に多く見られます。特に思春期に急速に発育し著しく巨大な腫瘤となるものは若年性線維腺腫(juvenile fibroadenoma)と呼ばれます。閉経後には頻度が少ないためエストロゲンの影響が考えられており、また、ホルモン補充療法を施行している患者において、線維腺腫の発生頻度が高いことも報告されています。症状は乳房のしこりで、このしこりは表面がつるっとした感じで乳房の中で、ころころ動くように触れます。一般的には痛みはなく1個だけのことが多いですが、ときに多発性のこともあります。診断は超音波検査が最も良い方法で、穿刺吸引細胞診、あるいは針生検で確定診断を行います。治療は確定診断されれば定期的な経過観察でOKですが、増大傾向を示す場合、細胞診・針生検にて悪性の可能性が否定できない場合は切除が必要となることもあります。前述の若年性線維腺腫では手術が第一選択となりますが、術後の再発率は低いとされています。

3.葉状腫瘍(Phyllodes tumor)
長円型の比較的柔らかい腫瘍で、30-40歳代に最も多く見られます。症状は乳房のしこりであり比較的大きなものが多く、時には小児頭大にまで育ちます。画像検査では線維腺腫との鑑別が困難なことも少なくなく、確定診断には吸引細胞診、針生検等が必要となります。治療は外科手術が基本で腫瘍切除術が行われますが、非常に大きい場合は乳房切除術が必要となることもあります。リンパ節に転移することはあまり多くありません。また乳癌と異なり放射線加療、ホルモン療法は無効で、化学療法も有効と云えるデータは出ていないのが現状です。病理学的には良性・境界病変・悪性の3段階に分類されますが、良性でも再発例があり、しかも再発を繰り返すうちに悪性に変化していくことが報告されており、切除後も定期的な経過観察が必要と考えられています。   

4.乳管内乳頭腫(Intraductal papilloma)
乳管内に乳頭状に突出した増殖性病変であり、孤立性と多発性に分類され、30-40歳代に最も多く見られます。孤立性は乳頭直下の乳管に発生し、異常乳頭分泌を主訴に外来を受診される患者さんが多いですが、多発性は末梢の細い乳管での発生が多く、乳房のしこりを主訴に受診される患者さんが多いと云われています。乳頭腫により乳管が閉塞し乳管が嚢胞状に拡張したものを、嚢胞内乳頭腫と呼ぶこともあります。また孤立性では癌の合併は稀ですが、多発性では癌化のRiskが通常の7.4倍と報告されており、注意が必要とされています。診断には乳汁細胞診、乳汁CEA測定、超音波検査、乳管造影検査、乳管内視鏡検査等が行われます。治療は外科手術、乳腺腺葉区域切除術が行われることが多いです。

5.女性化乳房(gynecomastia)
男性の乳腺が発達肥大し、女性様の乳房を呈するものをいい、痛みを感じることも多いです。この原因として、1. 思春期の生理的な変化によるもの(一時的なもので心配はいらないことがほとんどです)、 2. 男性の更年期に生じるもの、3. 薬剤によるもの(抗潰瘍剤であるH2ブロッカー(商品名:ガスター等)、降圧利尿剤のスピロノラクトン(商品名:アルダクトンA等)、降圧剤のニフェジピン(商品名:アダラート等)、強心剤のジギタリス剤、女性ホルモン剤、抗精神病薬等、が知られています)、4. 肝障害(肝炎、肝癌、肝硬変)によるエストロゲン代謝障害、5. 内分泌疾患に関係するもの(睾丸・副腎・下垂体・松果体などの腫瘍)、6. 慢性肺疾患(肺気腫等)等、があります。この疾患で重要なことは、男性乳癌や内分泌系疾患との鑑別を行うことであり、超音波検査、その結果次第では吸引細胞診等の検査が必要です。薬剤が原因の場合は、薬剤を中止すると1〜3ヶ月で乳房の大きさも縮小することが多いとされています。