箱の中の戦争

2001/9/11(火)22:40
コメディアンとゲストが,有名店の料理を作るという番組を観ていた。
料理作りも出演者達のテンションも最高潮。楽しんでいたところで,急に場面が切り替わった。
緊急ニュースだ。
「いいところだったのに,続きはいつ放送するんだ?」
と,ちょっと不快感を覚えながらも,ニュースを観つづけた。
場面は,キャスターの解説から,ある録画映像に切り替わる。
ビルの一部が映し出されている。そこに,画面ではごま粒のようにしか見えない飛行機がぶつかったように見えた。
次の瞬間,ぶつかったところが吹き飛び,炎が噴出する。
しかし,画面に映し出される映像だけでは,どれだけすごいことが起きたのか,ピンとこなかった。

その後,ビルが完全に倒壊する場面が映し出された。
なにかすごいことが起きている,そう思いながらも,その日はそのまま眠りについた。

2001/9/12(水)12:30
テレビやネットで,次々と情報が流されていた。
旅客機のハイジャック。ニューヨークのシンボル的ビルへの追突。そのビルの倒壊。アメリカの防衛中枢施設の一つへの追突。
アメリカでの,同時多発テロだった。
多くの人が被害を受けたであろうことは予想できた。しかし昼食を取りながら,同僚と話したことは,「ビルってのはあんな簡単に崩れてしまうんだ」などということであった。
まだ僕の中では,それはテレビという箱の中の出来事という以上ではなかった。

2001/9/14(金)22:20
ニュースで,テロにより直接被害を受けた人々の姿も映されるようになった。
倒壊するビルの映像は衝撃的だが,古くなったビルが爆弾で内側に崩される様に似ていて,事件という意識を薄れさせていた。しかし,ケガ人や救出に向かうレスキュー隊の姿が,これは死人も出ている事件だということを思い出させてくれる。
しかし,そのような重要な映像が伝えられる一方,日本では,ニュース番組の1コーナーでしか,事件の報道がなされなくなっていった。
今週も,そして来週も,警察など一部の人たちを除いて,日本ではいつもと変わらぬ風景が流れることになる。

2001/9/18(火)23:06
アメリカ軍が,アフガニスタンに爆撃を開始したとのニュースが流れた。
だが,テレビの前の僕には,そこで行われている真実は伝わってこない。

アメリカでは国民の多くが,報復攻撃に賛成をしていたようだ。
しかし,「目には目を」の原理による報復攻撃に対する疑問の声も,確かに上がってきていた。
なにが正しいのか?この問題に答えを出すだけの知識を,僕は持っていない。
テロはいけないと多くの人が言う。しかしテロという言葉に,僕は明確なイメージを持つことが出来ない。なんの関係も無いであろう人々をも犠牲にしてまで攻撃を行おうとする意志は,どうして形作られるのだろうか。
この事件について,何かを言おうとするには,僕はあまりにも無知だ。

2001/9/25(火)7:23
−ある車両での出来事
2つのバッグを持った男が電車に乗ってきた。
男は,一つのバッグを網棚に置き,もう一つのバックを,一つ目のバッグを隠すように置いた。
次の駅が近づいたとき,男はバッグを一つ手にとり,扉に近づいた。
そのとき,一人の女性が気付き,声をかけた。
「バッグをお忘れですよ。」
男は,それは自分のではないと言い返した。そんなはずはないと女性は答えたが,丁度電車が駅に着き,男は電車を下りていってしまった。
扉が閉まり,電車が発進したとき,女性と周りの乗客の視線は,置き去りにされたバッグに集中していた。

2001/9/25(火)7:28
僕は,朝の通勤電車の中にいた。いつもどおりiPAQを取り出し,メールマガジンを読む。
...
突然視界がひっくり返った。
何が起きたか分からないまま,僕は意識を失っていた。

2001/9/26(水)9:30
僕は,病院にいた。
骨折した左腕に,添え木が包帯でつけられている。
あの時乗っていた電車の,何両か先で爆弾が爆発したという話を聞いた。
詳しいことは分からない。
テレビで流れるニュースを観た。
都内の路線5箇所,東京タワー,都庁が爆破されたというニュースが流れていた。
そして,爆破事件は日本だけではなく,アメリカへの賛同を表明した各国で起こっていた。
僕の頭は混乱していた。ニュースも混乱していた。そこには,出撃する自衛隊が映し出されている。
「本当に,戦争なのか?」
つぶやきながらも,頭の中では「まさか」と考えた。
しかし,左腕の痛みが,わずかながらではあるが,そのまさかを肯定していた。

僕の中で,箱の中の戦争が,目の前の戦争に変わりつつあった。


あとがき
2001/9/18 0:22 著
というわけで,前半だいたいノンフィクション,後半フィクションです。
肉体的,精神的,直接的,間接的に被害を被られた方は,数多いと思います。
しかし(まだ?)被害を受けていない私にとって,事件は箱の中のものでしかありません。
お怒り,ご批判を受けるとは思いますが,これが正直な気持ちです。
そして,そんな自分に苛立ちを覚えたりもします。
そんな自分に対する戒めの意味もあって,このようなものを書いてみました。
今も,目の前の出来事が自分の中の一番であることに変わりはありません。
でも,「なぜこのような事件が起きた(起きる)のか」「被害を受けられた方々に何が出来るのか」「同じようなことが自分にも降りかかることは無いと言い切れるのか」そんなことを考え始めています。
文中に失礼な表現があれば,申し訳ありません。
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