横浜市長選と京都府知事選〜仕組まれたシナリオ


 3月31日に横浜市長選挙、4月7日に京都府知事選挙が行われた。両選挙は「中央政局に連動し」「国政を占う重要な選挙」という触れ込みで、大いに騒がれ、報道された。

 横浜市長選挙では、現職で自民・保守・社民などの推薦を受けた高秀秀信(72)市長を破って、無所属で前民主党衆議院議員である中田宏(37)候補が辛くも勝利を収めた。この結果に対するマスコミの論評は、横一線、どれも似たようなものであった。曰く、「有権者は政党への不信感から、無党派の中田候補を支持し、圧勝をもたらした。もはや政党不信は明かであり、中央政界の与野党も戦略の立て直しを余儀なくされた……」。

 この分析結果におかしいところはないだろうか?

 じっさいには、この選挙の最大の争点は政党不信でも無党派アピールでもなんでもなかった。現職の高秀市長のこれまでの成果〜サッカーワールドカップ決勝戦招致成功や巨額の財政赤字といった正負あわせた業績〜に対する評価でもなかった。単に高齢・多選(三期)の高秀市長に対して、中田候補が若さ・新鮮さをアピールして勝利したに過ぎない。これは中田候補も選挙戦の最大の争点として自ら主張し、また高秀候補が自己の敗戦の後に分析した点でもある。おまけに中田候補は無党派どころかもともと政党(それも野党第一党・民主党)に属した議員なのだ。どう転んでも「政党不信」「無党派の勝利」などという構図を導き出すのは無理がある。

 しかし、マスコミは幻想に過ぎない「無党派の勝利」を過剰に演出した。それが「時流」「世論」であると彼らは信じているからである。本当はそれらの幻想は彼ら自身が作り出したものでしかないのに…

 じつは全く同じように論評された地方選挙が少し前に存在した。昨年行われた千葉知事選挙である。この選挙でも、元・新党さきがけの参院議員会長まで務めた政党政治家・堂本暁子候補の勝利を「無党派の勝利・政党政治の危機」と煽っていたことからも、それはうかがえる。


 そしてもう一つ、これらの選挙報道には、巧妙なトリックが仕掛けられている。過剰な演出により、読者・視聴者が、これらの形式無党派候補の勝利を「圧勝」だと思わせるテクニックである。

だが、実際の得票数を見てみよう。下記は横浜市長選の結果である。

候補 得票数
中田 宏(無新) 447,998
高秀 秀信(無現)(自・公・社・保) 426,833
松川 康夫(無新)(共) 158,088
稲垣 隆彦(無新) 34,855
              投票率 39.35% 

上記の如く、中田氏と高秀氏の得票差はわずか2万票しかなく、得票率でいえば、中田氏41.9%、高秀氏40.0%、とわずか2%未満の差でしかない。こういうのを常識的な判断では「辛勝」という。誰がどう見ても「圧倒的な勝利」ではあり得ない。投票率が40%であることを考えれば、中田氏への横浜市民の支持はわずかに16.5%なのだ。


 ちなみに昨年の千葉知事選挙の結果は下の如くである。

候補 得票数
堂本 暁子(無新) 491,205
岩瀬 良三(無新)(自・保・自連 推薦) 472,325
若井 康彦(無新)(民・社) 428,153
河野 泉(無新)(共) 240,271
門田 正則(無新) 53,865

                        (投票率 36.9%)

 …なんと堂本氏の得票率はわずか29.1%!! 2位・3位の対立候補もそれぞれ28.0%、25.4%を獲得しており、堂本氏の勝利などラッキーとしか思えないほどの「ぎりぎりの」勝利である。投票率37%を加味すれば堂本知事への支持は千葉県民のわずか10.7%しかない。
 だが、これらを「圧勝」「無党派層の勝利」「中央政界は深刻に受け止めるべき」「政党不信に決定打」と報道したマスコミが存在するのである。


 …それでは、4月7日に行われた京都府知事選はどうだったのであろうか。じつは、この選挙はマスコミの予定に反して、政党推薦の候補が勝利してしまったのだ。結果はこうである。

候補 得票数
山田 啓二(無新)(自・民・公・由・社・保) 482,158
森川 明(無新)(共) 391,638
中川 泰宏(無新) 99,144
今田 浩(無新) 17,240

                          (投票率 49.2%)

 この結果を伝えたマスコミの解析はこうである。
「京都府知事選では、森川氏も得票を伸ばし、鈴木宗男・元北海道沖縄開発庁長官、加藤紘一・元自民党幹事長、辻元清美・元社民党衆院議員らの相次ぐ疑惑により、有権者の政治不信が依然根強いことをうかがわせた。」(4月8日読売新聞)
「横浜市長選に続く今回の選挙で山田氏は、鈴木宗男、加藤紘一両衆院議員(ともに自民党離党)の疑惑などで生まれた逆風に苦しんだものの、保守層の支持を集めて激戦を制した。しかし、6党の推薦を受けながら共産党単独推薦候補を相手に薄氷の勝利となった結果は、政治不信が自民党など既成政党の支持基盤を深く浸食していることを浮き彫りにした。」(同日毎日新聞)

 …どうであろうか。勝った候補はさらりと無視し、2位の候補の惜敗ぶりを過剰に伝えている。上記の横浜市長選・千葉県知事選とは手のひらを返したような180度違う論評である。自分たちが期待した無党派候補が勝たなかったからといって、政党推薦候補が勝利したことを認めもせず、あたかも「本当は有権者は無党派候補を望んでいたのに」「政党のてこ入れで辛くも勝利してしまった」「有権者は政党不信に陥っており、政党の推薦はたいして意味がない」「世論はこの結果は本当は望んでいないはずだ」と言わんばかりの身勝手な解釈である。ここには「読者・視聴者は細かい数字なんて見ないだろうから、選挙結果など勝手に分析して読者をだましておこう」という態度が明らかである。こういう行為を「世論誘導」という

 ちなみに、当選した山田氏の得票数は、2位対立候補に9万票もの大差をつけ、得票率では48.7%、39.6%と9%もの開きがある。千葉県知事選の堂本氏・横浜市長選での中田氏とは較べものにならぬほどの「圧勝」である。投票率も千葉県・横浜市よりはるかに高い49%。常識的な判断に従えば、より多くの有権者が政党推薦候補を支持したとしか考えられない。ところがこの結果を毎日新聞は「薄氷の勝利」と表現し、読売新聞は「有権者の政治不信が根強い」と書き散らしているのである。


 なぜこのようにちぐはぐな選挙分析が出てくるのか。答えは簡単である。マスコミの中には最初から答えがあるからである。「有権者は中央政局のごたごたに飽き飽きしている」「政党への不信は日に日に高まっている」「無党派こそこれからの政治の主導役である」……自らが作り出したこの構図から抜けられない。勝手に作り出した幻影に過ぎないが、彼らは読者・視聴者がこれらの考えを支持していると信じて疑わない。そして、このような答えが最初から(選挙前から)決まっているからこそ、予想に反して出た結果にも無理矢理解釈を附けて自説に結びつけてしまうのである。こういうのを「牽強附会(けんきょうふかい)」という。

 たとえば一昨年の衆院選は「森内閣に対する国民の不信感が与党を敗北させる」というシナリオがあった。実際にはまるで逆、与党三党が過半数を獲得し勝利した結果を目前にしても、マスコミはいっせいに「結果から見れば森内閣への不信を裏付けた結果となった」と報じた。昨年の参院選は「小泉ブームに乗った無党派が自民党を支持」「しかし自民党自体は小泉内閣に対する抵抗勢力」という構図があらかじめ決められていた。選挙結果も全くそのように報じられた。何のことはない。選挙をやる前から選挙報道は決まっているのであり、新聞・テレビを見る必要は全くない。


 さらにいえば、そもそも今回の横浜市長選・京都府知事選は、単なる地方の首長選挙以上の何物でもない。横浜市民が、京都府民が、自らの首長を選ぶための選挙であり、中央の政局(例えば鈴木宗男問題・辻元清美問題・加藤紘一問題……)とは本来、全く関係がない。考えてもみよ。鈴木宗男がどうしようが、辻元清美が何をしようが、横浜市政・京都府政とは何の関係もないのだ。横浜市民・京都府民も、鈴木・辻元問題があったからといって政党推薦候補を嫌って自らの居住地の首長への投票を曲げることなど考えられない。多くの人が公約や政策など人物本位で候補を選び、また若さ・新鮮さを期待したのだ。中央の政争など関係がない。が、これをマスコミはことさら「中央政局と連動した重要な選挙」「政党政治への不信と無党派層の盛り上がり」と強調する。そもそもこういった構図で解釈すること自体無意味であり、市政・府政の刷新を訴える各候補者にも、期待する候補に投票した有権者に対しても失礼な行為である。
 だが、それでもマスコミはどうしてもただの地方選挙を中央の「政局」にしたいのだ。与野党がもめて「政局」になれば、視聴率が上がる・新聞が売れる……そういった「売らんかな精神」で政治がゆがめられているのだ。だが、そのような新聞・テレビの手前勝手な都合で政治を混乱させられては、国民が迷惑である。民主主義のルールブックたる日本国憲法には、マスコミに政治に介入する権利も資格も認めていない。政治に参加できるのは国民から正当に選挙された国会議員のみである、と明記されており、マスコミ風情が口を挟むなどおこがましいにもほどがある。

 横浜市長選・京都府知事選に代表される地方選挙の、新聞・テレビによる手前勝手な解釈分析は、読者・視聴者そして有権者・国民に対する冒涜であり、何より”当事者”である横浜市民・京都府民をあまりに馬鹿にした話ではないだろうか。(02/04/10) (4/14若干加筆)


※ちなみに筆者は横浜市民である。