
返り点について
ここまで、漢文の基礎を説明してきましたが、おおかたの漢文の本には書いてありながら、あえてここではあまり触れなかったことがあります。それは「返り点」と「送りがな」です。
これは決してWeb上で返り点や送りがなをつけるのが面倒だから、というわけではなく…(^_^;)
実はたいていの漢文の本には最初にこれらの説明があったりするのですが、はっきり言います。漢文の習得において、返り点と送りがなは必要ありません。というと言い過ぎだと思われる方もいるかも知れませんが、事実です。
確かに便利ではあるのですが、返り点を打つことで読んだつもりになってしまったりする人がいることや、返り点を打つこと自体に労力がかかるのでそのまま漢文を読んでしまった方が早いということもあります。返り点はそれほど必須な学習項目ではないのです。
返り点とは、漢文を日本語の語順で読むために便宜的につけた記号のことです。ところが、おおかたの漢文はもともと支那のもので返り点などついていません(なにも記号がない文章を「白文」と言います。現在読める形の活字の漢文はたいてい白文に句読点のみ打ったものが多くなっています)。ふだん返り点のついた漢文を読んで慣れていると、いざ白文を読もうとしたときにかえって読みにくくなってしまうのです。なので、この「漢文の初歩の初歩」では返り点のついた漢文をお勧めしません。
それでは、返り点の説明を…
(1)レ点
これはすでにひっくり返って読む字のところで説明しましたが、下の文字を先に読み上の文字を後に読む、という意味の記号です。返り点はすべて漢字の左下に書きます。
| (あ) | 読む順番 | (い) | ||||
| 飲 | 2 | 欲 | 3 | |||
| レ ム | レ | |||||
| 酒 | 1 | 食 | 2 | |||
| ヲ | レ | |||||
| 肉 | 1 |
(あ)酒を飲む (い)肉を食わんと欲す
ついでに送りがなの説明もしておきましょう。上記(あ)のように、送りがなは漢字の右下に書きます。ふつうはカタカナです(カタカナは本来この目的のために開発された字です)。送りがなはあまりごちゃごちゃ書くとうっとうしいので、必要最低限にします。助詞(ヲ・ハ・ガ・ニなど)や助動詞(ナリ・ラル・シムなど)はそのまま書きます。
再読文字(もう一度読む字)の場合は…ちょっとめんどうです。
| 未 | |
| ズ ダ | |
| レ | |
| 還 |
いまだ還らず
レ点は再読文字の左下に書きます。送りがなは一度目に読む方を右下に、二度目に読む方を左下に書きます。
面倒くさいので2回目の方は振らなくてもいいと思いますが。
(2)一・二点
レ点は一文字返るだけですが、二文字以上、上に返りたいときには一・二点(足りなければ三・四・五…点)を用います。一と書いてある字を先に読み、二と書いてある字を次に読みます。
| (う) | 読む順番 . | (え) | |
| 赴 | 3 | 盡 | 3 |
| 二 | 二 | ||
| 北 | 1 | 人 | 1 |
| 京 | 2 | 事 | 2 |
| 一 | 一 | ||
| 待 | 6 | ||
| 二 | |||
| 天 | 4 | ||
| 命 | 5 | ||
| 一 |
(う)北京に赴く (え)人事を盡(尽)くして天命を待つ
注意が必要なのは後から読む方が、二文字の熟語である場合。(○○を発掘す、××に行軍す、など)。この場合は、二点は熟語の真ん中に挟み、「|」という記号で熟語であることを明示します。
| (お) | |
| 教 | 3 |
| 二 | | |
| 育 | 4 |
| 子 | 1 |
| 弟 | 2 |
| 一 |
(お)子弟を教育す
また、もちろん一・二点は、レ点との組み合わせもありです。この場合、レ点を優先してひっくり返して読み、その後でゆっくり一・二点を処理します。優先順位はレ点→一・二点です。とはいえ一気に面倒くさくなりますからご注意。
では、有名な文から例を引きましょう。
| (か) | 読む順番 . | (き) | |
| 先 | 1 | 己 | 1 |
| 即 | 2 | 所 | 4 |
| 制 | 4 | レ | |
| レ | 不 | 3 | |
| 人 | 3 | レ | |
| 、 | 欲 | 2 | |
| 後 | 5 | 、 | |
| 則 | 6 | 勿 | 8 |
| 為 | 10 | レ | |
| 二 | 施 | 7 | |
| 人 | 7 | 二 | |
| 所 | 9 | 於 | 5 |
| 一 レ |
人 | 6 | |
| 制 | 8 | 一 |
(か)先んずれば即ち人を制し、後るれば則ち人の制する所と為る
(き)己の欲せざる所、人に施すなかれ
上記の(か)のように、一点とレ点が重なるときは同じ所に振ります。また、(き)のように二点とレ点が重なるときは二点の方は下の字につけます。ここ、わかりにくいのですが、昔からの決まりなので覚えるしかありません。二点とレ点は絶対くっつきません。ご注意。
(3)上・下点
一・二点を中にはさんで、さらにひっくり返って読むような場合、上・下点というのが現れます。読み方は、一・二点の順番で読み、その後ゆっくりと上・下点を処理します。読む順番は一・二点→上・下点です。
では、例を。ちなみに下の例の「道」は「いふ」と読み、「言う」と同じです。
| (く) | 読む順番 |
| 不 | 6 |
| レ | |
| 足 | 5 |
| 下 | |
| 為 | 3 |
| 二 | |
| 外 | 1 |
| 人 | 2 |
| 一 | |
| 道 | 4 |
| 上 | |
| 也 | 7 |
(く)外人の為に道ふに足らざる也。(道=言う、の意味)
以上、まとめると、読む優先順位はレ点→一・二点→上・下点の順です。また、上・下点がレ点と重なる場合も、一・二点と同様に、上点とレ点はくっつきますが、下点とレ点はくっつきません。
ちなみに一・二点が足りないときは三・四点をつけるのと同じように、上・下で足りないときは間に中点を置きます(上→中→下)。
さらに、一・二点、上・下点でも足りないほど複雑な文には、その次は甲乙点(甲→乙→丙→丁…)、天地点(天→地→人)が一応ありますが、めったに使いません。逆にこんなもの使ってると返り点振るだけで手間になってしまうのでそのまま読んだ方がましです。
以上、返り点についておおざっぱに述べました。どうでしょう。あまり必要ないとは思われませんか?
最後に、レ点、一・二点、上・下点、甲・乙点を全部使った例を挙げて終わりにします。読めますか?(^_^;)
| (け) |
| 君 |
| 子 |
| 不 |
| 乙 |
| 以 |
| 下 |
| 其 |
| 所 |
| 二 | |
| 以 |
| 養 |
| 一 レ |
| 人 |
| 者 |
| 上 |
| 害 |
| 甲 レ |
| 人 |
(答えは次項で) ちなみに「所以」は「ゆえん」と読み、「理由」の意味です。