朧:第一話

〜目覚め〜

●シーン1

SE:リーンリーン(虫の声)



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女性A「ふぅ、まぁた残業で遅くなっちゃった…もうバス出ちゃったかなぁ〜…」

SE:ヒタヒタヒタ(足音)

女性A「―――誰?」

SE:ヒタヒタヒタ(足音)

女性A「ひっ」

SE:たたたたたっ(駆け出す女性)
   ダダダダダダダダッ、バサアアッ!

女性A「きゃあああああああーーーーーーーーーーっ!」

SE:ドサァっ(倒れる女性)
   ザッザッ(足音)

謎の声「ギギ…コイツ…ヨリシロ…チガウ…」

SE:リーンリーン(虫の声)

●シーン2

SE:蝉の声
   ザッザッザッ(石砂利を踏みしめる足音)

龍司「暑っちぃ〜〜〜っ、もう九月だってのにこの暑さかよ〜」
父親「ぶつぶつ言ってないでさっさと歩け、龍司」
龍司「へいへい…でも親父、今頃墓参りはないだろ。盆には長野に帰った筈だぜ?」
父親「…京都は死んだ母さんの実家がある…それに今回は墓参りじゃない」
龍司「あそ、…でも俺も、こう見えて結構忙しいんだよな〜、仮にも主将が新学期早々部活休んでるってのは―――」
父親「そんな事もあろうかと、ちゃんと用意はしてある。ほら、向かいのバス停を見てみろ」
龍司「――――ん…って、あれはっ!郁美っ !? 」

SE:タッタッタッ(走ってくる郁美)

郁美「はーい、龍司君。小父さん、お久しぶりですっ」
父親「おお〜郁美ちゃん、遠路はるばる悪かったね。道、すぐ分かった?」
郁美「はい、ここの人ってみんな親切で。バスは一本しかないし、らくしょーでしたっ★」
父親「そうかー、それは良かった。あっはっはっはっ」
郁美「あははははっ」
龍司「二人で勝手に盛り上がってんじゃねーっ!」
父親「ん?どうした、龍司」
郁美「どしたの?龍司君」
龍司「どしたもこしたもねぇ…何でマネージャーのお前がここに来てるんだよ?他の部員達はっ?」
郁美「あー、みんな練習してるよ、真面目に。誰かと違って驕り高ぶってさぼったりしてませんから」
龍司「ぐっ…言い返せない自分が情けない…」
父親「ま、つまりそーゆー事だ。自称『忙しい主将』が鍛錬をサボらないように、今回特別にお前のお目付けとして来て貰ったわけだ。
   学校には私から連絡してある。ほら、お前の防具と竹刀も持ってきてもらったから安心しろ」
郁美「そゆことー♪龍司君、主将専用メニュー組んで来たんで覚悟しててね〜」
龍司「…ああ最悪、ど〜りで俺や郁美が制服な訳だ…」
父親「当然だ、これは保護者付きの『授業の一環』だからな」
龍司「あ、そ…つか親父、何で郁美がバスで俺達は歩きだった訳?」
父親・郁美『鍛錬だ!』
龍司「…やっぱ最悪…」

SE:ファンファンファン(パトカーのサイレン)

郁美「あ、またパトカー…今日、何台目かしら…」
龍司「そういえば、最近やってたニュース…若い女の人が何人も襲われたってヤツ、この町じゃなかったっけ?」
父親「――――さ、行くぞ…」
龍司「あ、親父」
郁美「ちょっ、待ってよ二人とも〜」

●シーン3

SE:ドクンドクンドクン(鼓動)

女「…誰じゃ…ワシを呼ぶのは…ワシを起こすのは…龍が…目覚めるのか…また…始まるのか…」

SE:ドクンドクンドクン(鼓動)

●シーン4

SE:ギャアギャア(鳥の声)

郁美「…我々取材班は、この魔境の中を黙々と進んでいるのであります…が、次の瞬間っ!」
龍司「そんなボケはいいからな、郁美」
郁美「だってだって〜、こんな事でも言ってないと怖くて間が持たないよ〜〜
   携帯も完璧圏外だし…一体何処まで行くの?小父さん〜」
龍司「それは俺も気になってた。なぁ親父、一体何の…」
父親「――――しっ、静かに…」
龍司「親父?」
郁美「小父さん?」



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SE:ザザザザザザッ(茂みの中を何かが走る)

郁美「何っ?今の音!」
父親「危ないっ、郁美ちゃんっ!」
怪物「ギエエエエエエェェェッ!」

SE:バキイイイッ

父親「うわあぁぁぁっ」

SE:ガラガラーーーーッ(崖を落ちていく父親)

郁美「小父さんーーーーーーっ!」
龍司「郁美っ、竹刀だ、早くっ!」
郁美「えっ?あっ、はいっ!」

SE:ちゃっ(構える龍司)
   ザザザザザザッ

郁美「来るよっ、龍司君っ!」
龍司「黙ってろ、気が散るっ!」

静寂

SE:ザザザザザザザーーーーーーーーーッ

龍司「そこだあぁぁぁぁッ!」
怪物「ギャアアアアアアァァッ!」

SE:バッキイイィィィィッ(打撃音)

怪物「ギェエエェェェェェッ!」

SE:ザザザザザザザッ…(遠ざかる物音)

龍司「はぁ、はぁ、はぁ…」
郁美「大丈夫っ?龍司君っ」
龍司「な、何とかな…でも次来られたらヤバイぜ…」
郁美「竹刀が…粉々だわ…はっ、そうだっ!小父さんっ !? 」

●シーン5

SE:ザワザワザワ(異形の者達のざわめき)

怪物A「ギギ…ヨリシロ…クル…」
怪物B「マニアワナイ…コロセ…コロセ…」

●シーン6

SE:ザッザッザッ(山中を歩く二人)

郁美「小父さんーーーーっ!」
龍司「親父ーーーーーっ!」
郁美「小父さんーーーーーーーっ!」
龍司「親父ーーーーーーっ!」
郁美「…いない…小父さん、どうなっちゃったんだろう…」
龍司「わかんねぇ…でも俺達だってこのままじゃ同じだ、もうすぐ日が暮れる…」

SE:ギャアギャア、バサバサバサッ(鳥達の声)

郁美「―――龍司君っ、怖いよ…」
龍司「兎に角進むしか――――ん?」
郁美「龍司君?」
龍司「…あそこ…洞窟じゃないか…」
郁美「あそこに隠れるの?かえって危なくない?」
龍司「かもな…でも暗くなったら動く方が危険だ。とりあえず入るだけ入って様子を見てみよう。行くぞ」
郁美「う、うん…」

●シーン7

SE:ピチャーン(洞窟内の水滴)

郁美「…ねぇ、まだ行くの…?」
龍司「大丈夫だから、な…」
郁美「うん…」
龍司「―――奥は以外に広いな…」
郁美「何か…明るいね…」
龍司「そういえば、そうだな…郁美、携帯のライト、消してみ?」
郁美「うん」
龍司「やっぱり…何処かから明かりが差し込んでるんだ」
郁美「…出口が近いのかな…?」
龍司「分からん…もう少し先に―――」
郁美「龍司君、あそこっ!凄く明るいよ。出口かもっ!」

SE:タッタッタッ(駆け出す郁美)

龍司「あっ、おいっ郁美っ!」

SE:タッタッタッ(後を追う龍司)

龍司「――ったく、いきなり走ると危ないって!…郁美?」
郁美「龍司君…あれ…」
龍司「ん?…あれは――――」

洞窟の天上が開いて差し込む月光。荘厳なイメージのBGM

龍司「…泉だ…凄ぇ…月の光が泉を照らして…」
郁美「―――見て、龍司君…」
龍司「…お、女…?…女が、水の中に沈んでる…」
郁美「でも…とっても綺麗……はっ、駄目っ!見るな〜〜〜〜っ !! 」
龍司「うわっ!いきなり何だよっ !? 見ろって言ったのはお前じゃねーかっ!」
郁美「でも駄目なの〜〜〜っ、裸なの忘れてたんだってば〜〜〜っこのエロエロ男〜〜〜〜っ !! 」
龍司「そこまで言うか、お前は―――」

SE:ザバァァッ(水から上がる女)

龍司「!」
郁美「ひいいっ!」

SE:ピチャッ…ピチャッ(滴る水の音)

郁美「…りゅ、龍司君…」
龍司「…い、生きてたのか…水の中で…(ゴクッ)」
女「――貴様が…そうなのか…また…始まるのか…また…」
龍司「な、何の事だ?何言ってんだ、アンタ…」
郁美「りゅ、龍司君…この人、体が…」

SE:サラサラサラ…(砂になっていく体)

龍司「…す、砂に…なっていく…」
女「…すまぬ…借りるぞ、その心と体…」

SE:ザザザーーーーッ(崩れ落ちる体)

郁美「きゃああああっ!…ああ…」

SE:ドサッ(倒れる郁美)

龍司「郁美っ!しっかりしろ、おいっ!郁美っ !! 」
父親「龍司っ!」
龍司「親父っ !? 無事だったのか、怪我は?」
父親「大丈夫だっ!さ、早くここを出るぞっ!」

SE:ゴゴゴゴゴ(崩れ始める洞窟)

龍司「この音はっ?」
父親「ここはもう崩れるっ、急げっ!」
龍司「あ、ああっ!しっかりしろ、郁美っ!」

SE:ガラガラガラ―ーーッ(崩れ落ちて行く洞窟)

●シーン8

龍司「…はぁはぁ、危なかった…郁美!おい、目を覚ませって―――」
父親「―――ショックが大きすぎたんだろう…暫くそっとしておいてやれ。――――ところで龍司…」
龍司「あん?」
父親「あの洞窟でお前は何を見た?…何か見つけなかったか?例えば、こう、剣や珠のような物とか…」
龍司「はぁ?…親父、おかしいぜ?俺には分かる…親父が行こうとしてたのはきっとあの洞窟だろ?その洞窟の事を何で俺に聞く?
   ――――お前、親父じゃねぇなっ!」
父親「…そうか…もう、移ってしまったのか…ならば可哀想だが、二人とも死ぬまでだな…」
龍司「てめえっ!」

SE:バサバサッ(怪物の羽音)

怪物「ギェェェェェェッ!」
龍司「やっぱり化け物かっ!」
怪物「ギャアアアアァァァァァッ!」
龍司「うわああぁぁっ!」

SE:ドサァッ(叩きつけられる龍司)

龍司「ぐあっ…くっ、くそぉ…」
怪物「ギギ…ココデ…シヌ…ヨリシロ…イッショ…ギギ…」
龍司「こっ、このままじゃ郁美まで…やらせねーぞっ!」
怪物「ギェェェェェエエエッ!」
龍司「くうっ―――!」

SE:パシーーーーーンッ(光に弾かれる怪物)

怪物「ギェャャァアアアアァッ」
龍司「―――――っ !? 」

SE:共鳴するような音波の音

龍司「…い、郁美っ!お前…気が付いたのかっ?」
郁美「―――時は来た…古(いにしえ)の印は破られ、新たなる契りの時を迎えたのじゃ…」
龍司「郁美……(はっ)その声は、さっきの女の…お前はいったい――――― !? 」
郁美「話している暇は無い…ワシと契約を交わすか、龍を司る者よ…」
龍司「――――――…何だか分かんねーが、この化け物をぶっ飛ばして郁美を助けられるんなら、契約でも何でも交わしてやるぜっ!」
郁美「ほう、事において動じぬ度胸、そして瞬時の決断力…良い男を育てたものじゃな…よかろう…」

SE:バッ(両手を広げる郁美)

郁美「――――生と死の狭間に揺れん、この悲しき亡者共に救いの刃を。悪しき輪廻を断ち、真に召されん為の一筋の光明を。
   全てを無に、全てを有に。我が牙を振り、我が月を掲げ、その身尽き果てるまで我と添い遂げん――――っ!」

SE:バッ(龍司に向き直る郁美)

郁美「―――では、龍を司る者よ…牙を貸そうか?それとも、月を貸そうか?」
龍司「げっ、いきなり謎掛けかよっ!」
怪物「ギェエエェェェェッ!」
龍司「――くっ!」
郁美「…今一度、牙を貸そうか?それとも、月を貸そうか?」
龍司「う、くぅっ…牙だっ!牙を貸せぇっ!」
郁美「―――承知」



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SE:ビシャアアアァァァァーーーーーンッ(雷鳴)

龍司「うわあぁぁっ――――(はっ)…に、日本刀…?よおしっ!」

SE:スラッ(抜刀する龍司)

怪物「ギェアァァァァァァァァッ!」
龍司「うあああぁぁぁぁぁっ!」

SE:キィィィィンッ

怪物「ギヤァァァアァァォォォォッ」
郁美「ふん、太刀筋も良い…だが…」

SE:ブゥンッ(空を切る刀)

龍司「くそぉっ、この蝙蝠野郎っ!あと少しで届かねぇっ!」
郁美「龍を司る者よ、月を貸そうか?」
龍司「は?今忙しいんだよ、何だって?」
郁美「今一度、月を貸そうか?」
龍司「おお、月でも何でも貸しやがれっ!」
郁美「―――承知」

SE:ビシャアアアァァァァーーーーーンッ(雷鳴)

龍司「くっ――――っ…今度は石かよ、一体どうしろって―――」
郁美「その珠こそ、貴様の龍とワシの契約の証。―――丹田より練った気で己が身に取り込むがよいっ!」

SE:キィィィィィーーーーーーーン(共鳴音)

龍司「う、おぉ…これは…ベルト―――――っ!」
郁美「今こそ、真の契約の時――――――変化退魔降臨身(へんげたいまこうりんしん)―――――ッ!」
龍司・郁美『変・身ッ !! 』

SE:カアアアァァァァァーーーーーーーッ(龍司を包み込む光)

龍司「うおおおおっ…俺の身体が…変わる―――――」
郁美「――――ワシの月を以って、目覚めよ龍の化身!
   新たな千年紀を刻む者、その名は―――――――――『朧』ッ!」
怪物「ギェエエエェッ!」
朧「行くぜっ!」

SE:ヒュンッ、ブオンッ(ジャンプ一閃、刀を振るう朧)

朧「―――凄い…俺の体が、俺の思い以上に動く…軽く、そして速くっ!」
郁美「当然じゃ、それが貴様に宿る龍の力、そしてワシの月の力!
   …じゃが、速いだけではソイツは捕らえられぬぞ…」

戦闘を繰り広げる朧と怪物。被るように続く郁美の独白



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郁美「ヤツは目で物を見てはおらん…ヤツを目で追えば必ず後手に回るのじゃ…
   さて、貴様はどう打つ?次の手を―――――」
怪物「ギエェェェアアアアアッ!」
朧「こんの野郎〜、ちょこまかちょこまかと―――はっ、そうかっ!」

SE:ブンッ(刀を振り下ろす朧)

怪物「ギャギャッ?」
朧「―――すぅ――はぁ―――…」
郁美「ほう…」

静寂

怪物「ギャアアアアアアァッ!」

SE:バサバサバサッ(朧に向かってくる怪物)

朧「――――――――――っ、今だぁっ!」

SE:フォンッ―――キィィイイインッ(刀を鞘に収める朧)

怪物「ギャッ、ギェエエァァァァッ」

SE:バキバキハキイィィッ(林に激突する怪物)

郁美「やりおる、鍔鳴りの音でヤツの超音波を撹乱しよったわ」

怪物「ゲッ…ギャギャッ…」
SE:スラッ(朧、再び抜刀)

朧「悪ぃが、ここいらで御開きにさせてもらうぜ…俺の背中に輝く満月がてめぇへの手向けだっ、とおおぉっ!」

SE:ヒュウウウウウゥゥゥッ(ジャンプする朧)

朧「――やぁっ!」

SE:ヒュッ――――、カッ(投げた刀が怪物の影に突き刺さる)

怪物「ギャギャギャギャッ!」
郁美「無駄じゃ、もう貴様は動けぬ…それにしても、初陣で影縫いまで操るか…末恐ろしいヤツよ…」
朧「はああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

SE:ギュウウウゥゥゥゥッ(急降下する朧)

怪物「ギャギャギャギャアアアーーーーーーーーッ !!!!!!! 」
朧「えやああぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

SE:バッキイイイィィィィィィッ(怪物にキックを放つ朧)

怪物「ギィヤアアァァァァァァァァァァァッ!」

SE:ドサアッ(地面に叩きつけられる怪物)

怪物「…ギギィ…オ…ボ…ロ…」

SE:ボオオォォォォッ(燃え上がる怪物)
   スッ、チャキィッ(刀を抜き鞘に収める朧)
   ジャリッ(歩いてくる郁美)

郁美「――弓月飛蹴か…」
朧「―――!」
郁美「今の蹴り技の名じゃ……まぁまぁの闘いじゃが、甘いのぅ。今度の龍使いは、熱いだけが取り得のようじゃ」

SE:シュウウゥゥ(変身を解く朧、龍司に戻る)

龍司「―――ほれ、返すぜ。牙と月」

SE:ヒュッ(珠と刀を投げつける龍司)
   パシィッ(受け取る郁美)

郁美「ふん、乱暴じゃの」
龍司「ご丁寧にやってられるかっての…さぁ、説明してくれるんだろうな…親父」

SE:ジャリッ(物陰から出てくる父親)

父親「――――気が付いていたのか…流石だ、龍司」
龍司「アンだけ耳が良くなったら何でも聞こえるっつーの!
   親父の鼻息のおかげてあの野郎の気配が全く分からなかった位だからな」
父親「むぅ…それは悪かったな」
郁美「くっくっくっ、つくづく面白いヤツを育てたものじゃな」
龍司「てめぇもその体でヘラヘラ笑ってんじゃねぇっ!さっさと郁美から離れろっ!」
郁美「―――――それは無理じゃ、この娘はすでにワシの依り代じゃからのう」
龍司「何だってっ?どういう事だっ!」
父親「それは私から説明しよう…龍司」
龍司「親父…」
父親「この方は古(いにしえ)よりこの星を守ってこられた月の意思…
   ――――月は地球と衝突した天体の破片が形成されて、地球の衛星になった事は知っているな…」
龍司「ああ、仮説の中の一つな」
父親「仮説では無い―――だが元々地球の一部であった月には、ある負の念も同時に生まれてしまった…
   元の大地に戻りたい、そう願う負の念が、地球に降り注がれたのだ。
   ―――まだ人類が生まれる、もっともっと前の話しだ…」
龍司「は、はぁ…」
父親「だが、そのままではいずれ月は本来の衛星としての機能を果たさなくなる…
   それを防ぐ為に地球の意思と共に、その念を封じ込め、月の正しい在り方を維持し続けたのがこの方なのだ」
龍司「ちょっ…俺、頭悪いの知ってるよな親父。もう少し分かりやすくならねーかな」
父親「はぁ…(ため息)―――申し訳ありません、剣一筋に育てたのが裏目に出てしまったようで…」
郁美「気にするでない。もっと優しく教えてやれ」
龍司「―――何かすげームカつく…」
父親「龍司、つまり地球も月も生きているのだ。
   この星ではそれを『ガイア理論』と言ってな、全ての星はそれ自体一つの生命体と言う考え方なのだが…
   まぁ簡単に言うと、月からやってきた悪意を、地球の意思が月の善意と共闘して封印した…と、こういう訳だ。
   ただ、今ではひょんな因縁から、地球の意思の代わりを我々がやっているがな」
郁美「そういう事じゃ…あの亡者共は月の悪意と地球の精霊が交じり合って出来てしまった哀れな存在なのじゃ…
   そして月の善意とはつまりワシ…今はこの珠の中にその全てを委ねておる…この牙はワシの唯一の武器じゃ。
   ―――――じゃが、ワシはこの星では自由に動くことすらままならない…
   そこでワシの意思の通りに動く『依り代』が必要になったのじゃ」
龍司「それが…何で郁美じゃなきゃなんねーんだっ?」
父親「―――――我々の家系は、その月の意思と共に地球の意思『龍』の力を使い、
   千年に一度切れてしまう封印の契約を更新する…
   そして、その僅かの更新の隙間をぬってこの世に迷い出てくる、封じられた負の魔物達を退治する者が龍司、お前だ。
   我々は代々、そうやってこの星を護ってきたのだ…同様に我々は依り代になる為だけの家系も育んで来た…」
龍司「まさか親父っ…郁美がウチの隣なのも、幼馴染みなのも全部――――っ!」
父親「それが我々の宿命なのだ――――」

SE:バキイィッ(父親を殴る龍司)

龍司「汚ねーぞ、親父っ!俺は見たんだ、その依り代ってヤツがどうなってしまうのか…
   郁美を…郁美をあんな風にさせるってのかっ、アンタはっ!」
郁美「くっくっくっ、本当に面白い男だな、貴様は」
龍司「何ぃっ!」
父親「――申し訳ありません、剣一筋に育てたのが、とことん裏目に出るヤツでして…」
龍司「親父ぃっ!」
郁美「龍司よ、あれは依り代の『残り香』じゃ」
龍司「はぁ?…残り…香…?」
父親「そうだ、依り代として長い間、体を借りている間に月の意思はその依り代の型を取り始めるんだ…
   そして依り代がその役目を終えた後、月の意思の体となって共に眠りに就く…
   ―――――新たな依り代が見つかるまで、月の意志を護り続ける…それが残り香だ」
龍司「じゃあ、あの女の人も…もう」
父親「そう、とっくにお役目を果たし、普通の生活に戻っていった筈だ。もっとも千年前の事だから今は生きてはないがな…」
龍司「そしたら、郁美は…」
父親「お前が今回抜け出した魔物を全部退治すれば、元通りだ」
龍司「そ、そういう事は早く言ってくれって…」
父親「言おうとしたんだがな、殴られた」

SE:カバッ(土下座する龍司)

龍司「親父っ、すまねぇっ!百倍返しでいいから勘弁してくれっ!」
父親「ふっ、―――今回はツケにしておいてやろう…これからお前には魔物退治の行脚が待っているのだからな…」


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龍司「いいっ?」
郁美「そういう事じゃな、ま、宜しく頼むぞ、龍使い」
龍司「え…?で、で、でも、俺学校とか部活とか――――」
父親「だから、言ったろ?学校には連絡してあるって。安心しろ、お前と郁美ちゃん、仲良く休学届けを提出済みだ」
龍司「まじかよ〜〜〜〜〜」
郁美「ふふふ、ではワシは疲れたので寝るぞ。何せ千年ぶりの変化じゃったからな。
   龍司、次にワシが目覚めた時にはもう少し物分りか良くなっている事を願っておるぞ…」

SE:ドサッ(倒れこむ郁美)

龍司「郁美っ!…あんの野郎〜言いたい放題言いやがって…」
郁美「う…ん…あれ、龍司君…」 
   龍司「郁美っ?お前、郁美なのかっ?」
郁美「はぁ?…龍司君、お脳は元気?」
龍司「なっ、あのなぁ…俺はマジ心配して―――」
父親「おお、良かった、郁美ちゃん目が覚めたね」
郁美「あ、小父さん、おはよう御座いますっ。もう朝なんですねー
   アタシ、いつの間にか寝ちゃってて怖い夢見てたみたいで…てへっ☆」
龍司「てへってお前――――」
父親「そうかー、それは大変だったねー。所で郁美ちゃん、今度龍司のヤツが旅に出る事になってなー
   悪いけど一緒に着いて行ってやってくれないかなー?」
龍司「―――て、親父単刀直入すぎっ!」
郁美「はいっ、イイですヨっ」
龍司「即答かよっ、順応早っ!」
父親・郁美『あはははははははははっ♪』
龍司「俺は無視ですか、あー、そーですかーーーーーーーーーっ!」

月の意思(―――――なかなか楽しそうな旅になりそうじゃの♪)

第一話終幕



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