![]() |
|
![]() |
| 夜更け。ノースウィンドにある城の一室で一人の女が酒を飲んでいた。既に空いた瓶が2、3本床に転がっている。扉が静かに開いて小さな人影が一つ入ってきた。 「・・・・飲み過ぎだよ・・・・」 「煩い!あたしに指図するんじゃない!」 女は入ってきた人物に向かって持っていたグラスを投げ付けた。グラスは立っている人物の頬をかすめ後ろの扉にぶつかり砕けた。 「ちくしょう・・・あたしの他にも同じ事考えた奴がいたなんて・・・予定外だよ」 「・・・・あの人達があんたと必ずしも同類だって事はないだろ?」 「・・・煩いねぇ・・・随分偉そうじゃないか・・・・」 女はゆらりと立ち上がるとまだ扉の前に立っていた人物の胸倉を掴んで持ち上げる。 「今、生きてるのは誰のおかげだい?えぇ?」 「・・・あ、あんたのおかげだ・・よ・・・」 「分かってんなら、愛想の一つも振りまいてこっちが有利になるように努力したらどうだい!」 そう言って女は乱暴に手を放した。 「得意だろう?お前、そういうの」 嘲笑まじりにそう言い放つと、踞りせき込む小さな影に背を向けた。 「酒がまずくなる!とっとと寝ちまいな!」 そうして新たなグラスを出すとまた浴びるような勢いで飲み始めた。 踞り、せき込んでいた小さな影は無言で立ち上がると、この部屋に続いている小部屋に入ると静かに扉を閉めた。 明かりのない部屋を月光が冷たく照らしている。 「・・・・だけど・・・こんな茶番は続けられない・・・・・」 薄闇の中、山猫の様な瞳を光らせて小さな影が呟いた。 リィナの入れ知恵から一週間が過ぎた。フーロンとジョウイは最上階の部屋でリッチモンドの新たな調査結果を見ていた。 まだ昼間なので二人ともドレス姿であるが、フーロンはあぐらをかき床に座り込んでおり、ジョウイはその横に御儀よく座っている。 「ふーん。基本的なことはやっぱり前と同じなんだね」 「うん。でもカイエさんのこの家族構成は・・・」 ジョウイがフーロンの顔を見た。 「何を考えてるんだい?」 フーロンも顔をあげてジョウイの顔を見る。 「多分、ジョウイと同じこと」 「でも、そんなことあるかな?」 「あってもおかしくないね、リィナさんの言葉を信じれば。」 リィナはあのときこう囁いたのだ。あのカイエという人はシュウに抱かれてはいないと思いますよ、と。 「いくらなんでもシュウさんが気がつくんじゃ・・・・・」 「・・・・・あの人さぁ・・・最初、僕らの女装に気がつかなかったよ・・・・」 ジョウイがカエルを飲み込んだような顔をした。 「・・・・気付かないか・・・・・」 「分かんないけどね、あの人もタヌキだから」 そう言ってからフーロンはニンマリと笑った。 「で、確認ついでにちょっとした意趣返しをしても許されるんじゃないかと思うんだけど?」 「意趣返し?」 フーロンは意地の悪い笑みを浮かべたままジョウイの耳に口をよせ何か囁いた。聞いてるうちにだんだんとジョウイがその形の良い眉を顰めてゆく。 「・・・・・質が悪いよ、それ。」 「僕もそう思う。でも物証ないしね。精神的に揺さぶらないと、カイエさん。」 「フーロンの予想通りに行かないかもよ?その・・・受け入れてしまうかもしれないし」 「ないと思う。リッチモンドさんの調査を信じれば。信用できるよ、リッチモンドさん。」 「でも・・・」 「一石二鳥なんだよ、この作戦。シュウさんにも意趣返しになる!」 そう言うとフーロンは立ち上がった。 「何処にいくの?」 「シュウさんを巻き込みに!」 ジョウイは溜息をついた。どうやらフーロンの言う「作戦」とやらを止めるのは無理そうである。心のなかで少々シュウに同情しつつジョウイは立ち上がった。 その夜。ドレスから本来の格好に戻ったフーロンとジョウイは、カイエに与えられている部屋の前に踞っていた。フーロンは扉に耳をあて、中の様子を伺っているようである。 「・・・なぁ・・・・盗み聞きまでする必要はないんじゃ・・・・」 「駄目」 ひそひそと言うジョウイにフーロンが小声で答える。 「結果だけシュウさんに聞けばいいじゃないか・・・」 「だーめ。ちゃんとやるかどうか確認するってシュウさんに言ったしね」 そう言うフーロンの瞳は悪戯っぽく輝いており、口元には意地の悪い笑みが浮かんでいる。 おもしろがっているのだ。 「・・・・悪趣味だよ、まったく。シュウさんも可哀想に・・・・」 ジョウイは独り言のように呟いた。 昼間、フーロンの言う「作戦」を説明したとき「何故そんな美人局のような真似を・・・」とシュウは難色を示した。 「どうして?必要なことなんですよ?」 「直接呼んで問いただせばいいでしょう。不自然ですよ。」 「そんなことはないでしょう?昔は関係があったんだから。」 にっこりと笑顔で、協力していただけないのならこのままこの国を去ります。そうフーロンは脅迫した。その言葉にシュウは苦虫を嚼み潰したような顔をして「作戦」に同意した。 そして今、シュウはカイエのは部屋にいる。夜更けに男が女の部屋に忍んで行くなど大概は理由は一つである。そしてそれがフーロンの言う「作戦」だった。彼女が本当にカイエならばシュウを拒まないはずである。 部屋の中からは静か話し声が聞こえていたが、やがて揉み合うような気配が伝わってきた。 「嫌!やめてください!」 押さえた、それでいて甲高い悲鳴が聞こえ中が静かになる。足音が扉の方に近づいてきてフーロンとジョウイは扉から離れた。 扉が開き、シュウが不機嫌な顔で出てくる。扉の影にいる二人を見て眉間に寄っていた皴が更に深くなった。 「・・・・言われた通りでしたが・・・・本当に必要だったのですか?」 フーロンは真面目な顔で首肯いたが、瞳には少し意地の悪い光が宿っているのをジョウイは見逃さなかった。 (・・・質が悪い・・・・フーロンらしくないったら・・・) ジョウイは心の中で溜息をつくとまだ開いている扉の中をそっと伺った。 カイエがこちらに背を向けて立っていた。僅かにフーロンの腕を引き中を見るように促す。肩を震わせて自分自身を抱きしめるように立ち尽くすカイエを見て、さすがにフーロンに済まなそうな表情が浮かんだ。 「・・・・ちょっと悪乗りが過ぎたかな?」 そう呟くとシュウを振り返る。 「まさか、やちゃってませんよね?」 「・・・・聞いていたんでしょう?嫌がる女性を抱く趣味はありませんよ」 憮然とした顔をしたシュウが小声で答える。 「そう・・ですね、すみません。明日、執務室にカイエさんとキャロルさんを呼んで下さい。カタを着けましょう」 そう小さな声で言うとフーロンはそっと扉を閉めた。 翌日、シュウの執務室にカイエ親子とキャロル親子がいた。カイエはファーナの肩に手を回し、まるでこの小さな娘に縋るように立っていた。顔色がとても悪い。 反してキャロルの方はいつも通りの態度でシュウにしきりに流し目を送っている。ライザもキャロルから少し離れて静かに立っていた。 「今日はどうして呼ばれたのかしら?私とその女のどっちを妻にするか決めたの?それに・・・・」 キャロルは窓際に立つフーロンとジョウイの方を見た。 「そのお嬢さんたちは?どうしてここにいるのかしら?」 「かれ・・・彼女達はオブザーバーだ。今回の件の見届け人だから気にしないでいなさい。さて・・」 そう言ってシュウはカイエに目を向けた。 「君は一体何者なのかな?」 カイエの顔が蒼白になる。 「・・・・カイエですわ・・・・これは何の冗談ですの?」 声が震えている。ファーナが訝しげに母親を見上げた。 「なら何故、昨夜私は拒まれたのかな?」 この科白をシュウは平然と言ってのけた。キャロルの眉が派手につり上がる。 「・・・・女には殿方を受け入れたくないときもありますわ・・・・」 「でもシュウさんの妻になるということは彼と肉体関係を持つということですよ。」 ふいに窓際からハスキーな声がした。黒褐色の髪の娘がその不思議な色の光を湛えた瞳をカイエに向けていた。 「あなたには好きでもない男に打算だけで抱かれるなんて出来ないでしょう?妹さんと違って潔癖過ぎるくらいの性格だそうだから」 「あの子だって!カイエだってあんな目に会うまではそうだったんです!」 フーロンの言葉に反射的に言い返してはっとしたようにカイエは口を押さえた。 「へぇ・・・あんた、カイエじゃないの?誰?」 キャロルが勝ち誇ったような笑みを浮かべ言った。カイエは青ざめて俯きファーナを抱き寄せている。 「じゃあ、そのチビはシュウ様の子供じゃないのね?あきれた」 勝ち誇ったように言うキャロルをカイエは睨みつけた。 「この子はシュウ様の子です!」 「だって、あんたカイエじゃないんでしょう?」 「カノンさんですよね?カイエさんの双子のお姉さん。ファーナちゃんを産んだのはカイエさんでしょう?」 カノンは驚いたようにフーロンを見た。 「・・・・どうして・・・・」 「貴女の事、詳しく調べました。家族ですら間違えるほど似ていたそうですね。とても仲が良くて・・・・。でもカイエさんはふいに故郷を出ていってしまった。理由までは分からなかったんですが・・・」 「乱暴されたんです・・・ハイランドの残党に・・・・」 苦しげにカノンが言った。フーロンとジョウイの顔が青ざめる。 「噂が村中に広がって・・・許婚がいましたがあの子の元を去りました。私も一緒に乱暴されたと噂に尾ひれがついて・・・私の縁談も壊れました。・・・あの子は・・それで村を出ていったんです・・・」 フーロンが痛まし気に顔を背けた。 「・・・・知っていたら・・・・あんなことするんじゃなかった・・・・・・・」 微かに呟くのがジョウイには聞こえた。 「私もそれから村を出て、ミューズにいました。何処で知ったのか5年前にあの子が訪ねてきて・・・・・もう・・ボロボロで手の施しようがなかった。弱って死んで行くのを見てるしかなかった。死ぬ間際にこの子の父親はシュウ様だと、そう言ったんです・・・・」 「何故、すぐにここに来なかったんだね?」 それまで黙っていたシュウが聞いた。 一度、来たのだとカノンは言った。そのときに妹がどんな荒んだ暮らしをしていたのか知ったのだと。父親がシュウではない可能性もあると、そう思ったのだと。 「私が育てて行こうと思いました。でもこの子はこの通り目が見えなくて・・・。見えるようになるかもしれないと言われました。でも治療にはお金がたくさん必要で・・・・」 シュウに引き取ってもらおうと考えたのだそうだ。父親じゃないのかもしれない、でも父親かもしれないのだから。もし引き取ってもらえるのなら自分はここに仕事を見つけてファーナの側にいるつもりだったのだと、そう言った。 「殊勝なこと言ってるけど、でも結局欲をかいて玉の輿を狙ったわけね」 嘲るように言うキャロルをカノンは睨みつけた。 「ここに来たらあなたがいたわ」 震えている瞳は今にも泣だしそうで、でも彼女は泣かなかった。背筋を伸ばし真っ直ぐにキャロルを見る。 「自分の娘を慈しむことをしない、あなたがいたわ!このままファーナを預けて、あなたがシュウ様の妻になったらファーナの義理の母はあなたよ!あなたなんかに・・・・・」 そこまで言ってカノンは目をとじてファーナを抱きしめた。泣くのを堪えているのだろう。肩が震えている。 「・・・・この子の為なら何でもするつもりだった。大切な妹の忘れ形見だから・・・・」 「とんだ愁嘆場だこと」 微かに言うカノンの声を掻き消すようキャロルが言った。 「安心してよ、ちゃぁんとあんたの妹の子は引き取ってあげるから」 そう言ってシュウに擦り寄っていく。 「これであなたの妻になる資格があるのは私だけね?」 艶然と微笑むキャロルにシュウは困った顔をフーロンに向けた。 「それなんですけどね」 フーロンが何か吹っ切るように言った。 「ライザちゃんに聞きたいことがあって」 そう言うとフーロン黙って佇んでいたライザに近付き耳元でなにか囁いた。ライザの目が大きく見開かれる。 「・・・・・どうして・・・・・」 「まぁ、色々根拠はあるけど・・・とりあえずそれは置いといて。君は何のためにその姿でいるのかな?」 「何のため・・・・?」 「そう、カイエ・・じゃないカノンさんの言う通りキャロルさんが君に親切だとは思えない。実はこれ城中の一致見解でね。君が何故キャロルさんに協力しているかは調べても分からなかったんだ。ただ、こんなことが続けていけると思ってるかい?」 「・・・・ちょっと・・・・あんた何言ってんのよ!」 キャロルが焦った声をあげた。 「・・・・・命の恩人だからだよ、飢えて死にかけてる所を拾われた。でも、そうだね、こんな茶番は続けられない。それに、ここなら一人でも生きていける隙間がある・・・。」 「ライザ!」 はっきりとした声で言うライザにキャロルは更に焦った声を出す。 「クリスだよ」 そう言うと山猫の瞳をした子供はシュウを見た。 「僕はあなたの子供じゃないし、ましてや女の子でもない。」 「ちくしょうっっ!!!!裏切り者!!」 僕と言うライザに驚いた顔をしているシュウやカノン達の前でキャロルがクリスと名乗った子供に掴み掛かった。 キャロルの大騒ぎのおかげで事の真相はあっという間に城中に広がった。皆、苦労をしているし根がお人好しの多いこのノースウィンドだからあっという間にカノン、ファーナ親子には同情票が集まった。 クリスも大人達はもともと同情していたし、子供たちも始めのうちは女装していたことを揶ったりしていたが、じきに一目置くようになった。 少年の姿に戻ったクリスはそんなにシュウに似てはいなかった。 クリスに掴み掛かったキャロルは取り押さえられた後、その日のうちに行方をくらませた。置いていかれた形のクリスは、ノースウィンドに残る決意を固めていたとはいえ少し淋しそうだった。 「あの人に協力してたのは命の恩人だからもだけど・・・嬉しかったからだよ」 たとえ一時の気まぐれだったにしろ、飢えて踞っている僕に声をかけて食べ物をくれたのはあの人だけだったから、そう呟いていたクリスの言葉を思いだしながら、ジョウイは窓の外を見ていた。 青白い月がこの最上階の部屋を照らしている。 扉をノックする音が聞こえた。 「どなたですか?」 誰だか分かっていたが一応ジョウイは聞いた。扉が開きシュウが入ってくる。 「フーロン殿はどちらに?」 「さぁ?」 ジョウイは小さく笑った。 「部屋中漁ってたと思ったらなんか嬉々として外に行きましたけど?会いませんでしたか?ついさっきです。」 シュウはちょっと考え込んだがすぐに渋い顔になった。 「札を持ってませんでしたか?」 「なんか持ってましたね」 「眠りの風の札です。きっと見張りを眠らせて屋上に行ったんでしょう。」 全部処分したと思っていたが何処に隠していたんだろう、とシュウが呟いている。その様子をジョウイは苦笑を浮かべて見ていた。 「あの子たち、どうなるんですか?」 「どちらも引き取ります」 ジョウイの問いにシュウは淡々と答えた。 「ファーナの方は私の娘の可能性もありますし・・・クリスの方はなかなか聡明な少年なので」 自分の師であるマッシュの教えを伝えてみようかと考えていると言った。 「そうですか・・・」 ジョウイがシュウの知らないもう一人のシュウの娘のことを考えていると今度はシュウが聞いてきた。 「これからどうするのですか?」 「・・・・多分、なるだけ早くここを立ちます。ナナミの所に顔を出して・・・・」 「フーロン殿と?」 「・・・はい・・・・・・」 窓の外に目をやり、ジョウイはフーロンのことを考えた。 ノースウィンドについてからフーロンは毎晩のようにジョウイを求めた。二人が肌を合わせるようになってから大分経つが、フーロンは案外淡泊で、こんなことは初めてだった。 いつもフーロンに激しく求められて気絶するように眠り、朝フーロンに起こされるまで目覚める事はなかったが、一度だけフーロンの飛び起きる気配に目覚めたことがあった。身体は眠っているのに意識だけが目覚め、目が開いているとも思えないのにフーロンが震えているのが分かった。 フーロンは怯えたように辺りを見回してから傍らに眠るジョウイを見ると、ほっとしたような顔になった。 「よかった・・・・ちゃんといる・・・・。」 そう呟きながら眠るジョウイの髪をやさしく撫でた。 「夢じゃないんだ・・・あの戦いは終わったんだ・・・・ジョウイはちゃんと生きてここにいる・・・・」 そう呟く声は震えていて、熱い滴がジョウイの額にぽたぽたと落ちた。 「馬鹿だよな・・・もう何年も経つのに・・・・ジョウイはずっと一緒にいるのに・・・・」 ポロポロと涙を零しながら愛しげに髪を撫でるフーロンの手を感じながらジョウイはまた眠りに落ちていったのだ。翌朝のフーロンはいつも通りで夢でも見たかと思っていたが、気を付けて見ていると少し様子がおかしかった。少しピリピリしていたし、普段ならしないようなことをして後から自分で慌てたりしていた。 そして初めて気付いたのだ。この城にいることでフーロンが怯えていることに。「英雄」が戻ることを待ち望む人々の声がフーロンを苦しめていることに。また一人になってしまうことを恐れているフーロンに。 ジョウイは振り返りシュウを見た。 「聞いてもいいですか?」 「何をです?」 「本当に今度のことはシュウさんには分かっていなかったんですか?」 シュウは黙ってジョウイを見た。月の光を浴びてひっそりと立つ少年めいた姿の美しい生き物がいた。けれど彼はハイランドの皇王にまで登り詰めた人物だ。その儚げな容姿と裏腹に聡明で激しいまでに強い意志を持っている、そういう人間だった。 「・・・・もし、分かっていたと言ったら?」 シュウの言葉にジョウイの青灰色の瞳が強く光った。 「・・・・迷いがなっかた訳じゃありません。このまま僕は姿を消すべきじゃないかと・・・・でも・・」 「でも?」 「僕はフーロンといきます」 「行きます」か、それとも「生きます」か・・・そう考えてからシュウはふっと笑った。 「それがいいのでしょう・・・・では失礼します。フーロン殿に伝えてください。たとえ英雄としてではなくとも、いつかこの国に帰ってくださいと。ここはあなたがたの故郷なのだから」 そう言うとシュウは静かに部屋を出ていった。 入れ違いのようにフーロンが戻ってきた。 「今そこでシュウさんに会ったけど、なんの用だったの?」 「いつ僕たちが出発するか聞きに来たんだよ。フーロンこそどこに行ってたんだい?屋上?」 「なんで知ってるの?」 フーロンが面をくらった顔をした。 「シュウさんが渋い顔でそんなことを言ってた。」 笑いながらジョウイは言った。 「それより聞きたいんだけど?」 「何?」 「何度聞いてももあのクリスって子を男だって思った理由が分からない。」 「だからオレンジを膝の上に落とした時に膝で押さえないでわざわざ手で取ったろ?だから」 「それだけでどうして男だって思うんだよ」 焦れたようにジョウイが言った。 「女の子なら膝に挟んで物を押さえるってできるけど男にはできないだろ?」 「そうなの?」 「そうなのって・・・・股間のモノが邪魔で膝をピッタリ閉じるってできないだろ?ジョウイも」 ケロっとした顔で言ったフーロンの言葉に思わずジョウイは赤面した。 「そういう事をあからさまに言うなっ!」 「ジョウイが聞いたんじゃないか」 変なとこで潔癖なんだからと言いながらフーロンは旅支度を始めた。 「何やってるんだい?」 「明日の準備。明日は夜明け前に出るから、ジョウイも準備しといて」 「またあれを着るのか・・・」 うんざりした顔でドレスを見て言うジョウイにフーロンは首を降った。 「着ない。何のために僕が屋上に行ったと思ってるんだい?」 「なんで?」 「・・・あれ?・・・あぁ、そうか・・・・。屋上からフェザーにサウスウィンドの近くまで送ってもらうから」 「フェザー?屋上から送ってもらう?フェザーって・・・・」 「グリフォン」 「グリフォン?!」 「大丈夫、気のいい奴だから」 驚いているジョウイに平然とフーロンは言った。そしてさっさと自分の分の荷物を纏めると窓の方に行き空を見ている。 「綺麗な月だな。なんか久し振りに空を見たような気がする・・・・」 呟くように言うフーロンの声にジョウイは荷物を纏める手を止めフーロンの方を見た。ガラスに映ったフーロンの瞳は何処か闇を映した色をしていた。 「フーロン・・・・」 「んーー?」 「一緒にいるから」 唐突に言ったジョウイの言葉にフーロンは驚いたように振り返った。ジョウイ青灰色の瞳が真っ直ぐにフーロンの方に向けられている。 「ずっと一緒にいるから。今度は一人で行ったりしないから」 驚いたようにジョウイを見ていたフーロンは目をそらすと、また窓の外を見た。窓に映るフーロンは今度は泣きそうな瞳をしていた。唇が何か言葉を紡ぐ。けれど声にはならなかった。 「フーロン?」 振り返ったフーロンはジョウイに近づくと、いきなり抱き寄せ自分の唇をジョウイの唇に重ねた。 「ん、んん・・・フーロン」 「なんとなくこのまま押し倒したいような気もするけど・・・・」 顔をジョウイに寄せて囁く。 「今日は勘弁してあげよう。明日は早いからね」 「・・・・・馬鹿・・・・・」 頬を上気させて言うジョウイに、笑いながら今度は軽くキスをするとフーロンはジョウイを放した。 「朝早いのは本当だよ・・・・・ジョウイ・・・・」 背中を向けたフーロンが照れたような様子で言った。 「・・・ありがとう・・・」 そのままベッドに潜り込むと頭から毛布を被ってしまった。ジョウイは少しの間、毛布に潜り込んだフーロンを見ていたが自分も荷物を纏めると、フーロンの隣りに潜り込んだ。 やがて二人の寝息が聞え始め、寄り添って眠る二人を部屋の中に入り込んだ月光が静かに照らしていた。 |
||
![]() |
Fin
|
![]() |