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| ジョウイは森の中を一人彷徨っていた。 夜明け前に森に入ったのだが、深い森は日の光を遮りまるで夜の様に暗く、時間の感覚を失っていた。 「早く戻らないと・・・・・ナナミが心配する。それに・・・」 唇を噛みしめ何かを耐えるようにジョウイは呟いた。鬱蒼と繁る森の木々を透かすように森の奥を見る。 「畜生・・・・本当にこの奥に遺跡はあるのか? 」 白鹿亭の近くにあった遺跡のようにそこにあるのが薬草とは限らない。それは分かっていたがジョウイはじっとしていることが出来なかった。 「フーロン・・・必ず薬草を見つけるから・・・・だから・・・」 ジョウイは原因不明の高熱に倒れた親友を思い、祈るような気持ちで森の中を歩き続けた。 <P> そもそもの始まりは川沿いの小さな村で受けた依頼だった。 3人で放浪するようになって数年経つが、大きな村や町よりも小さな山間にひっそりとある村の方が人々の気性がよく、気持ちよく過ごすことができるので長くいることが多く、その村にも3ヶ月程滞在していた。 しかし夏に入り暑くなるにつれ村では厄介な病が流行し始めた。 嘔吐と下痢を繰り返し、衰弱してゆく。若く、体力のあるものはそれでもいずれ回復したが年寄りや幼い子供など体力の無いものには犠牲者が出始めた。この村には医者がいなかったからこのままでは大変な数の人間が犠牲になることは目に見えていた。 この村での暮らしは気に入っていたし、3人も病人の看病などできる限りの手伝いをしていたが、ある日村長に呼ばれたのだ。 医者を探しに行って欲しい。 それが村長の依頼だった。ミューズまで足を延ばせば間違いなく見つかるだろうがそれでは間に合わない。昔この村にいた医者を迎えに行ってくれないか? と、そういうことだった。 医者のいる場所が判っているのなら何故もっと早く迎えに行かなかったのか、と言うフーロンの問いに、村長は困惑したようにこう答えた。 「彼は3年前、森にシンダルの遺跡の調査に向かったきり森から出ようとしなくなったのだよ。どんなに頼んでも、今まで無駄だった。ただ、こちらから薬を分けてもらいに行くことはあったんだ・・・」 ただ森はそれなりに危険だし、以前医者の所までよく行ってもらっていた若者も病にかかり、回復はしているものの、まだ完全ではない。 「彼から分けてもらった薬はもうない。君たちのように年若い人たちにあの危険な森への使いを頼むのは心苦しいのだが・・・」 そもそも旅慣れている3人である。ジョウイとナナミは二つ返事で引き受けた。ただフーロンだけが僅かな沈黙の後に 「分かりました」 と呟くように答えたのだ。二人ともこのフーロンの気の進まなそうな態度に僅かに違和感を感じた。けれど、その後出発するまでのフーロンの様子はいつも通りだったので忘れるともなしに忘れていた。次に違和感を感じたの森の中で野宿をしているとき、ジョウイの見張り番の時に代わって休んだはずのフーロンが眠れないと言ってごそごそと起きだしてきた時だった。それ自体も珍しいことなのにナナミがいるときはともかく、ふたりの時は割合喋るフーロンがたき火を見つめたまま沈黙していた。幾度かジョウイが話しかけたが、それには答えるものの、すぐに沈黙が降りる。そのまま朝を迎え、何となく気になってナナミにその晩のことを言ってみて、この依頼のための旅が始まってからフーロンは殆ど寝ていないということが分かって、二人して仰天した。 さすがにナナミが例の剣幕でその晩の見張りから強制的にフーロンを外したが、明け方頃ジョウイが火の番をしているとフーロンが何度も寝返りを打っているのが見え、見かねて声をかけた。 「また眠れないのかい?」 ジョウイの言葉にフーロンはピタリと動きを止めて暫くじっとしていたが、やがて起き上がった。 「・・・・起きてちゃ駄目かな・・・? 」 ジョウイの方を見ずに火だけを見つめてポツンと言った。 「できるんなら、寝た方がいいよ。いくらなんでも体がもたないはずだよ。」 「・・・・うん・・・・」 「何か心配なことでもあるのかい? 」 その言葉には答えずフーロンは黙って近くの枯れ枝を火に向かって投げ入れていたが、ジョウイの方を見ないまま、ポツリと言った。 「・・・・不安なんだ・・・・」 「不安? 」 「うん・・・・・・森が・・・・」 「森? 」 「ここの森は・・・・凄く嫌な感じがする・・・・」 「え? 」 言われてジョウイは辺りを見渡した。鬱蒼とした深い森である。枝と枝が絡まりあうように連なり、一歩でも道から外れれば必ず迷うだろう。それは出発する前に村人にも警告されたことだ。 森に迷い込んで無事帰った者はいない。決して道からそれるな。 その言葉もあってこの深い森にそれなりの畏怖は感じるものの、眠れなくなるほどの不安はジョウイは感じなかった。 「嫌な感じ? 」 「・・・・うん・・・多分似てるからだと思うんだけど・・・」 「似てる? 何処に? 」 フーロンは何度も口を開きかけ、けれど結局それ以上は何も言わなかった。焚火に枯れ枝を叩き付けるように放り込んだ後、立ち上がった。 「ごめん。道から外れなきゃ迷わないんだから、大丈夫だよね。・・・・寝るよ。」 「フーロン? 」 「おやすみ、ジョウイ」 「・・・・おやすみ、フーロン」 ジョウイの顔を見ないまま俯いて言うフーロンにそれ以上何も言うことが出来ず、ジョウイはそれだけ言った。 その後、フーロンが見張り番以外で起きだすことは無かったが、だんだんと精彩を欠いてゆき顔色が悪くなっていくので、相変わらず眠れていないのは分かっていた。けれどフーロンが意外と頑固で一人でなんとかしようと決めてしまったのなら、もうナナミとジョウイが何を言っても無駄でむしろ心配をかけまいと無理をすることは分かっていたから二人とも心配をしながらも様子を見ているしかなかった。 それでも旅は順調に進み二週間ほどで目的の「医者」と言う男の住む場所に着いた。 今まで進んできた森とそれよりも更に深い禍々しい程に生い茂った森の狭間の、まるで何かからの避難所のような僅かに開けた場所に質素な小屋と畑のようなものが広がっている。 扉を叩くと中からまだ20代半ば程の男が顔を出した。 「誰だ、お前ら」 その何処か尊大な様子にナナミの顔が一瞬引きつったが慌てて笑顔を作ると村長の使いで来たと告げた。 「・・・村長? いつも来てる奴はどうした? 」 「村で変な病気が流行ってるの。いつも来る人もその病気にかかちゃって、私たちが村長さんに頼まれて代わりに来たんだよ。」 「変な病気? 」 「えぇ、下痢と嘔吐が主な症状なんですが犠牲になる人も出ています。村に降りてきて病人を診てみらえませんか? 」 ジョウイが後をついで言った。男は無表情にジョウイの顔を見たあと根掘り葉掘り病人の症状を聞くと3人を中に招き入れた。 中にある粗末なテーブルに座るように促すと棚を開けてごそごそやりながらぶっきらぼうに聞いた。 「お前らは? 同じような症状は出ているか?」 「いえ・・・僕たちは・・・・」 「私たちは平気だよ! だから村長さんに頼まれたんだもの。普段から鍛えてるからね! 」 「・・・まぁ、そこの小娘はともかくとして・・・」 「・・・小娘?・・・・」 「そこの金環つけた坊主。お前、顔色がよくないが本当に大丈夫なのか?」 小娘と言われて一瞬なにか言い返そうとしたナナミは男が口にしたのがフーロンのことだったので言葉を呑んだ。 「・・・平気です。村で流行ってる病気に罹ったわけじゃないですから」 「そうか?・・・・おい、お前! 」 「はい? 」 いきなり声をかけられてジョウイは面をくらった。 「村に帰ったらこの薬草を煎じて飲ませろ。それから生水は飲まないように、必ずグラグラに沸かした湯から入れた茶を飲むように言え。病人が触った物はたくさんの湯で煮立てるか焼き捨てろ。症状の重い者には具の入っていない肉汁だけのスープを飲ませるように。下痢が止まったら消化のいいものを食わせろ。それから茶はたくさん飲ませるようにしろ。この病気はまず最初に体が乾いて、それから弱って死ぬんだ。それから・・」 「ちょ、ちょっと! 」 「なんだ? 」 「一緒に村に行ってはくれないの?! 」 ナナミの言葉に男は僅かに顔をそらした。 「俺は・・・この森からは出ない・・・・」 「お医者様のくせに病人を見捨てるの?! 」 「俺は医者ではない!シンダル遺跡の研究者にして武術家だ! 」 「・・・・・・は? 」 「だが俺は天才だからな!伝説の名医リュウカンに師事していたこともある! 」 「ちょっとぉ・・・・・」 「医者ではないが俺以上の医者はこの世に二人しかいないぞ!だから症状を聞いただけで的確な指示が出せるのだ! 」 「・・・なに、この人・・・本当に信用できるの?・・・」 「なんだと?!俺が信用できないというのか?!」 「どうやって信用しろっていうのよ?!」 「二人とも、ストップ」 ジョウイが慌てて止めに入る。 「本当に一緒に行ってはもらえませんか?医術の心得のある人に診てもらえれば村の人たちも安心すると思うんですが」 「・・・・悪いが・・・・森を・・・出るつもりはない・・・」 「ですが!」 「その薬を持ってお前らだけで帰ってくれ・・・・」 顔をそむけて言う男に向かって何か言い募ろうとするジョウイをフーロンが止めた。 「行こう」 「だけど!」 「今は薬を村まで届けるのが先決だと思うし、説得は次の機会でも出来るから」 「でもフーロン!」 「今は何を・・言っても・・・・無・・・駄・・だ・・か・・・」 「フーロン?!」 言いながら崩れ落ちたフーロンにジョウイとナナミの声が重なった。力を失ったフーロンを支えたジョウイはその体が火のように熱いのにぎょっとする。思わず男の方を見ると男も慌てて近寄ってきた。意識のないフーロンの様子を診た男はジョウイにフーロンを自分の寝床に運ぶように指示するとまた棚をあけて何やら薬草を煎じ始める。 「おい、その坊主、最近調子が悪そうだったのか?」 荒い息をして粗末なベットに横たわるフーロンを青ざめてみているジョウイとナナミに男が聞いた。 「・・・・眠れないみたいでしたが・・・・」 唇を噛みしめてジョウイが答えた。男が煎じた薬を椀に入れ冷ましながらベッドサイドに来る。意識のないフーロンを抱え起こすと案外器用に椀から薬を飲ませた。 「その薬は?」 「熱冷ましだ。効くかわからんがな」 「・・・・ちょっとぉ」 ナナミの不安げな不満げな声に男は少し苛々した声で答えた。 「原因がわからんのだ。とりあえず今あるもので一番強いものだから効くはずだが・・・・心因性のものなら効かない可能性もあるぞ」 「心因性?」 「眠れない様だったと言っただろう。何か強いストレスが原因かもしれん、心当たりはあるか?」 ジョウイとナナミは顔を見合わせた。 (不安なんだ・・・・この森は凄く嫌な感じがする・・・・) フーロンの声がジョウイの中に蘇る。 (何がそんなに不安だったんだよ・・・・) ジョウイは泣きたいような気持ちでフーロンを見た。 「熱が下がらなかったらどうなるの?」 不安そうにナナミが聞いた。 「・・・・これだけの高熱だ。一日二日ならまだしも・・・長引くようなら命にかかわるな・・・」 男の言葉に二人は息を呑んだ。 「・・・・だ、大丈夫だよ!フーロンは強いんだもん!朝になったら熱なんて下がってるんだから!」 青ざめて声もでないジョウイにナナミは自分自身にも言い聞かせるように言った。 「・・・・もし・・・・・下がらなかったら・・・?」 「そ、そんなことないもん!きっと平気だよ!でも・・・あのお薬があったらな・・・」 「あの薬?」 「ほら白鹿亭のヒルダさんが倒れたときの、シンダル遺跡の・・・」 「そう言えば村長さん、森の中にシンダルの遺跡があるって・・・・」 「やめろ!」 ジョウイが言ったとき男が思いの外強い声で言った。 「あの森にはそんなものはない!」 「でもっ!でもっ!もしあったら?フーロンの熱、下がるよ?それに、あんた自分でシンダルのけ・・・」 「あの森には入るな!この薬は必ず効く!」 男の剣幕にナナミもジョウイも沈黙した。その後3人で交代でフーロンの看病をしたが、夜半過ぎジョウイが看病しているときもまだフーロンの様子は相変わらずだった。額を冷やす濡れたタオルを変えながらじりじりした気持ち様子を見ていると、ふいにぽかりとフーロンが目を開けた。 「フーロン!大丈夫かい?今薬を持ってきてもらうから・・」 「ジョウイ?」 フロンが熱で潤んだ瞳を向けた。 「どうしたの?泣きそうな顔をしてるよ?」 そのどこか幼い口調に浮かしかけた腰が止まった。 「また誰かがひどいこと、言ったの?大丈夫だよ。何があっても僕とナナミはジョウイの味方だよ。大丈夫だから、泣いちゃだめだよ。ずっと一緒にいるから・・だから・・・」 「・・・フーロン・・・・」 言いながらまた熱の眠りの中に落ちてゆくフーロンを、ジョウイはそれこそ泣きたいような気持ちで見ていた。幼い頃、誰かに苛められるたびに互いに言い合った言葉だった。 「待ってて、薬を見つけて来るから。絶対見つけてくるから」 フーロンの耳元でそう囁くとジョウイは棍を握りしめ未明の深い森に一人、分け入っていったのだ。 <P> けれど深い森の中で一人いくら彷徨っても遺跡らしいものには巡り合わなかった。それどころか次第に方向感覚がなくなり、森から出られるのかどうかさえ怪しくなっている。 「ちくしょう・・・・いったいここは何処なんだ?」 空を見上げても見えるのは絡まりあった梢ばかりで空のかけらさえ見えない。焦燥感ばかりが増してゆく。 「フーロン・・・ナナミ・・・僕は何をやってるんだか・・・・」 熱にうかされていたフーロンと、朝になって見当たらないジョウイを心配しているだろうナナミのことを考えてジョウイは情けなくて泣きたくなった。 「どうして僕のやることはいつもこう・・・・え? 」 己の不甲斐なさを声にだして責めていたジョウイは含み笑いを聞いたような気がして立ち止まった。 「ずいぶんと若いお客様だこと」 慌てて声のした方を見るとグロテスクな程大きな樹に寄り添うように妖艶な女性が立っていた。棍を握る手に力がこもる。ただの人間とは思えなかった。 「あなたは? 」 警戒したまま問うジョウイにクスクスと笑い声を漏らしながらその女性は深緑色の瞳を向けた。 「そんな無粋なものは仕舞ってくださらないかしら?貴方を傷つけるつもりはありませんのに」 樹に寄り掛かるようにしながら言う。けれどその全身に纏わりつくような妖気にジョウイはさらに警戒を強めた。 「あなたは誰です?この森に詳しいのですか?」 「えぇ、誰よりも詳しいですわ」 「なら・・よければ森を出る方法を教えていただけませんか?友人が心配していますのでそろそろ帰りたいんです。」 じりじりと後ずさりながらジョウイは言った。いざとなれば紋章も使うつもりだ。 「あら、探し物があったのでしょう?見つかりましたの?」 深紅の唇を笑みの形に歪めて女は言った。 「遺跡の場所を知ってるんですか?!」 「今はありませんわ」 女の顔に浮かんだ笑みが邪悪なものに変わる。 「森に喰われてしまいましたもの」 次の瞬間ジョウイの四肢に無数の蔦が絡みついた。 「な?!」 纏わり付く蔦を力任せに引きちぎり棍を構える。 「まぁ、お若いのに乱暴な方ね」 女は邪悪な笑みを浮かべたままジョウイに近づいた。 「遺跡に行ったところで欲しいモノは手に入りませんのに、どうして人間って自分の望みが分からないのかしら?」 「何を言って・・・」 殺気立って棍を構えるジョウイに無造作に近寄りながら女は嗤った。 「物分かりの悪い坊やだこと。自分の望みを知らずにこの森に入ったの?なら教えてあげましょうね、貴方の心の底で望んでいるもの」 その言葉と同時にジョウイの前に黒い影のような球体が浮かび上がる。そのなかに浮かび上がっている幻を見てジョウイは息を呑んだ。 全裸の自分がいた。同じ様に全裸の少年に責め苛まれていた。少年の唇が胸の尖りを含むたびに、歓喜の声を上げ、少年の手を自分の花心に誘っていた。 「う、嘘だ・・・・」 「あらあら、まぁ・・・・素敵な光景だこと」 小さな声で呻くように言うジョウイを揶うように女が嗤う。ざわりと引きちぎられた蔦が動く。 「この可愛い坊やに抱かれるのが望みなのね?」 「・・・違う・・・!」 「どうして?こんなにはっきりしてるのに・・・・どんな理由でこの望みを認めようとしないのかしら?」 その言葉と同時にもう一つ影の球体が浮かぶ。その中にはハイランドの兵士の服を着た男達に嬲られるジョウイが映っていた。息を呑み、硬直するジョウイの目の前で幻は狂皇子ルカに犯される姿に変わる。 「あら、かわいそうに・・・・本物のこの坊やはこんなことを理由に貴方を抱いてくれないのね?」 蔦がざわざわと動き再びジョウイの四肢を戒めた。幾重にも巻き付きジョウイから刃向かう術を奪ってゆく。 「っ!やめろ!」 「大丈夫よ、私なら貴方の望みを叶えてあげられるわ」 「放せ!」 「この姿が気に入らないのね?大丈夫よ」 蔦の戒めから逃れようともがくジョウイの目の前で女は目を閉じた。長い緑がかった巻き毛が見る見る縮み色が黒褐色に変わる。豊満な胸が薄い少年のものに変わってゆく。驚愕に目を見開いているジョウイの目の前で女だったものは瞳を開いた。フーロンと同じ、大きな深い色の瞳。 「君の望み通りに抱いてあげるよ・・・」 フーロンの顔で、同じ声で、同じような瞳に本当のフーロンが浮かべることのない邪悪な笑みを浮かべ魔物が嗤った。 「放せってばっ!このスケベッ!」 「だから人の話を聞け!この小娘!」 「なによっ!私はジョウイを探しに行くのっ!邪魔するとじいちゃん直伝の奥義、百花繚乱・・・」 「何を喰らわしてもいいから森には入るな!あの坊主はあきらめろっ!」 「何言ってんのよぉ!」 暴れ回るナナミを男が必死の形相で取り押さえていた。 朝になり見当たらないジョウイを探し回った二人は森へ続く足跡を見つけた。男はその時点で青ざめて「馬鹿なことを」と呟いていたが、ナナミは昼すぎまで小屋でジョウイを待ち、戻らないのを心配して後を追って森に入ろうとした。それを男が必死なって止めようとしているのである。 「ジョウイ、迷ってるんだと思うの!探しにいかなきゃ!なんで止めるのよ!」 「だから諦めろと言ってる!あの森に迷いこんで無事にすんだ奴はいないんだ!」 「なによ!モンスターでも出るって言うの?!なら、なおさら助けに行かなきゃ!」 「ただのモンスターならお前のような跳ねっ返り、止めはせん!」 「なんですって?!」 「じゃあ、どんなモンスターが出るんです?」 いきなり割って入った別の声にナナミと男は声がした方を見た。 「フーロン!大丈夫?!熱は?!」 「大丈夫だよ。心配かけてごめん。それよりジョウイがどうしたって?」 「それが・・・・」 「多分シンダル遺跡を探すためだと思うが・・・・森に入った。」 男がどこか苦しそうに言った。 「森?シンダル遺跡?」 「あぁ、お前の熱の原因が分からなかったからな。使った薬草が効くか分からなかった。」 「前にヒルダさんに使った薬草があったらなって言ってたの。この森にはシンダルの遺跡があるって村長さん言ってたから・・・・・そしたら朝になったらジョウイいなくて・・・・」 「今だに戻らないんだね?どんなモンスターが出るんです?」 男の方を見て言うフーロンに男は強い口調で言った。 「聞いてどうする!助けることなどできん!」 「そんなことないもん!フーロンとこのナナミちゃんがいればどんな敵がきたって倒しちゃうんだから!」 「奴等は心を苛むんだっ!」 男が吼えるように叫んだ。 「そいつの一番暗い、辛い記憶を見せつけて苛むんだっ!忘れたいと思う記憶と認めたくない醜い欲望をさらけ出すんだ!森から出てきた奴はいたさ!みんな狂ってたがなっ!俺もここから動けない・・・・森が恐ろしくて・・・・」 最後は呻き声だった。ナナミは青ざめて声もなく男を見ている。 「若い奴ほど奴等のやり口に耐えられない。俺がなんとか正気で森から出られたのが奇跡だ・・・・無理だ・・・あきらめろ・・・・・・」 「嫌だよ・・・」 ナナミが首を振った。そのまま外に飛び出そうとする。 「やめろ!人の話を本当に聞いてたのかっ!お前はっ!」 「やっと一緒にいられるようになったのよ?!こんな別れ方なんてやだ!」 もみ合う二人の横をすり抜けてフーロンが扉を開けて外に走り出した。それに男が気をとられた隙にナナミも腕をすり抜けて森に向かおうとする。それに追いすがりナナミを羽交い締めにしながら男が叫ぶ。 「無理だ!あきらめろ!戻れ!!」 「放してよっ!フーロンっ!待って!私も行くっ!」 二人の声が聞こえているのかフーロンは振り返りもせず森に走り込んで行った。 |
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続く
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