After Day 5 〜Labyrinth〜後編

 
 フーロンは森に中を焦る心を押さえながらゆっくりと進んでいた。
 あたりの様子に神経を尖らせながらジョウイが進んだ痕跡を見つけようとする。けれど深い森の木々はしだいにフーロンの方向感覚も狂わせてゆく。
「ジョウイの馬鹿!どうして君はいつもそう・・・」
 言葉ではジョウイを責めながらフーロンは自分自身を責めていた。今回のような発熱は、実は初めてではない。幼い頃、ルードの森で迷って以来実は頻繁にあったことだ。
 フーロンは森が怖い。その森が深ければ深い程、あの森の中での忌まわしい記憶が蘇りそれを無理やり押さえつけようとしては熱を出していた。ただキャロにいた頃やユニコーン少年部隊にいた頃は熱が出るほど深い森はルードの森だけで、そこに行くことは無かったし、都市同盟時代は紋章のせいでよく倒れていたからそれに紛れていた。
 言っておけばよかったと思う。どんなに高い熱もだいたい一晩眠れば引いていた。だから心配することはないと二人に言っておけばジョウイが一人で森に入ることはなかった。ただ、どうしても言えなかった。
「ルードの森で迷って以来深い森が怖い」
そう言えば二人はそれ以上追及はせず、痛い程心配はするだろうがそれだけだったはずだ。言えなかったのはフーロン自身の心の問題だった。
「ちくしょう・・・・・無事でいてくれ!じいちゃん、ジョウイを守ってってくれ」
 祈るように呟きながらフーロンは森の中を進み続けた。


「・・・う・・あ・・・や・・めろ・・・・」
 幾重もの蔦に自由を奪われたまま服を剥がされ、ざわざわと蠢く蔦とフーロンの姿をした魔物にジョウイは嬲られていた。蔦の数本はジョウイの胸の尖りを柔らかく刺激し、別の数本は下肢を這回っている。
「どうして?こんなに悦んでるのに 」
 魔物がジョウイの耳朶に舌を這わせながら囁いた。手は花心を嬲っている。
「いや・・だ・・やめ・・・・・・・・っ!」
 花心の先端を爪先で軽く抉られて思わず息を呑みのけ反った。魔物の手の動きに合わせて蔦の数本が花心に絡みつき扱くように蠢き始める。
 戒められ、何とか逃れようともがき続けていたが、まるでジョウイの体を知り尽くしているような魔物の愛撫に、心とは裏腹に体が反応していた。口惜しく感じながらも息が荒くなってゆくのをどうしようもない。
「どうして泣くの?君の望み通りにしてあげてるのに。ほら 」
 悔しさのあまり思わず零したジョウイの涙を舐め取りながら魔物がクスクスと嗤った。
「もう、こんなになってる」
 花心から零れ始めた蜜を指先につけジョウイの目の前に突きつけた。
「気持ちいいんだよね? 」
「・・・・ち・・がう・・・あうっ!」
 蔦の数本が双丘を割り蕾の入り口を嬲り始め、花心に巻き付いた蔦が根元を強く締めつけた。
「素直じゃないなぁ、もう。じゃあんどうしてここはこんななの?」
 すっかり形を変えている花心を強弱をつけて握りながら魔物がフーロンの声で囁いた。
「違う!ちが・・あ・・・う・・・・いやだ・・・はな・・せ・・・」
 目の前にいるのはフーロンじゃない、必死になって言い聞かせながらきつく目を閉じて首を振った。魔物がクスクス笑いながら胸の小さな尖りに軽く歯を立てる。その感覚にジョウイは声もなくのけ反った。
「どうしてそう意地をはるのかな?僕がホンモノじゃないから?ホンモノなら素直にキモチイイって言うのかな? 」
「・・・え?・・・・う、あ、嫌だ!やめ・・あぁ・・・・」
 魔物の言葉に動揺し思わず目を開けたジョウイにニッと笑いかけると、そのまま顔を下げてゆき、すっかり形を変え蜜を零す花心を口に含んだ。舌を使い音を立てて舐め上げ、軽く歯を立てる。
「あうっ・・・あぁ・・・いや・・・助けて・・・フーロン・・・」
 与えられる感覚に追い上げられ、ジョウイは思わずフーロンを呼んでいた。
「ふうん?僕の名前はフーロンって言うんだ・・・」
 魔物が舌先で花心をチロチロと弄びながらクスクスと嗤う。いっそもう達してしまいたいのに、根元に巻き付いた蔦がそれを許さない。
「言いなよ、イカせてって。気持ちいいって言いなよ。」
 ジョウイは声もなく首を横に振る。
「・・・い・・・・やだ・・・お前は・・・フーロンじゃ・・・ない・・・」
「ふうん?」
 魔物が意地悪く嗤った。
「認めたね?僕に抱かれたかったって」
「ちが・・・・あぁ!」
 否定の言葉を吐こうとしたジョウイの花心の先を魔物が爪先で強く抉り、同時にそれまで蕾の入り口を嬲るだけだった蔦の数本が中に侵入し蠢き始める。
「あ、いや・・あ、ふ、たすけて・・・」
「目を開けて僕を見なよ、今こうして君を可愛がってあげてるのは誰?」
 きつく目を閉じてふるふると首を振るジョウイに魔物がフーロンの声で囁く。全身にじっとりと汗がうき白い肌がほんのりと朱色に染まっている。
「・・・あ、あうっ・・・いや・・・」
 自分のなかで蠢くものから与えられる感覚にジョウイはのけ反った。
「言ってごらん?僕に抱かれたかったんでしょう?どうして欲しい?」
 フーロンの声が耳元で囁く。片方の手は花心を嬲り、もう片方はすっかり乱れているジョウイの淡い色の髪を弄んでいる。。
「ちゃんと言わないといつまでもこのままだよ?」
 心では目の前にいるのがフーロンではないと分かっていた。けれど心と裏腹の言葉を唇は紡いでいた。
「君の望み通りに」
 魔物が勝ち誇った笑みを浮かべながら嗤った。


 森の中を進んでいたフーロンは、すでにジョウイの歩いた痕跡を探すのを諦め森の奥を目指して闇雲に歩いていた。絡みつくような枝を払いながら進む。
「こんな奥までジョウイは来たのかな?実はもう森から出てたりして。そしたら僕は間抜けだよな。」
 そんなことはありえない。そう分かっていながら軽口を叩きながら歩く。そうでもしていないと焦燥感で気が狂いそうだった。
「ナナミのこと、猪って言えないよな、これからは・・・・・誰だ?!」
 かすかな気配にそちらの方を鋭く見る。少女が一人、フーロンの方を見ていた。肩までの緑がかった巻き毛を揺らして首を傾げている。
「君は誰だ?」
「お兄さん、探し物見つかった?」
キツイ視線のまま言うフーロンを怖れ気もなく見ていた少女は首を傾げたまま聞いた。無言で見返すフーロンに少女はトコトコと近づいてくる。
「あたし、探してあげようか?」
「・・・・・・何を?」
 静かに問い返すフーロンの目を覗き込みながら少女が嗤った。
「お兄さんがこんな森の中まで探しに来るほど欲しかったモノ」
 その言葉と同時に闇色の球体が浮かび上がる。その球体に目をやったフーロンが見たものはジョウイを犯す自分の姿だった。ジョウイを組み敷き全身い舌を這わせている。脚を広げさせその奥にある密やかな場所に自分の欲望を突き入れながらジョウイの花心を愛撫している。
「ふうん?綺麗な人だねぇ。でもお兄さんこの人には、こんなことしちゃいけないと思ってるんだね?どうして? 」
 闇色の球体を無表情に見ているフーロンにしなだれかかるように少女が囁いた。言葉と同時にもう一つ球体が浮かび上がる。その球体には幼い頃のフーロンが映っていた。この森のように深い森の中で兵士の格好をした少年たちに嬲られ血を流しながら泣いている、自分がいた。逃れようともがいているのに、そうすることが出来ず、まだいくら刺激を与えても反応しない花心を嬲られながら犯されている悪夢のような幼い日が映っていた。
「ふうん?酷い目にあったんだねぇ。だからこの綺麗な人に触れないんだね?可哀想に・・・」
 無表情に幻を見るフーロンに少女が囁いた。
「でもね、私ならお兄さんの望み、叶えてあげられるよ」
 その言葉と同時に少女の肢体が変わり始める。なだらかな丸みを帯びた身体はしなやかな少年のものに、緑がかった巻き毛はするすると伸びてサラサラとした淡い色の髪に、そして一度閉じて開かれた瞳は深緑色から美しい青灰色の瞳に。
「ねぇ、僕を抱いてよ・・・」
 その瞳に本当のジョウイが浮かべることのない淫靡な色を湛えてジョウイの声で囁く魔物を、フーロンは僅かに瞳を動かして見返した。
「僕のこと、嫌い?」
 その言葉にフーロンの手が持ち上がりジョウイの姿をした魔物の背から首筋に触れられる。魔物は勝ち誇った笑みを浮かべた。


 蔦に脚を持ち上げられた無様な姿でジョウイは犯されていた。魔物が腰を使う度に声もなくのけ反る。もう幾度、精を放ったか分からなかった。ただ与えられる感覚に身を任せている。
「・・・あ・・・んふう・・・」
 僅かに吐息を漏らすジョウイの唇から舌先を入れ、魔物がチロチロとジョウイの舌を嬲る。
「ん・・んん・・あぁ・・・・」
 軽く唇を噛むようなキスと強く突き上げる自分の中の欲望の感覚に首を振りながら喘いだ。
「ずっと我慢してたんだねぇ・・・ほら、僕が触ってないのにまたこんなになってる。」
 反り返ったジョウイの花心を指で弾きながら魔物がくすくす嗤った。それ以上花心には触れずただ脚の付け根を愛撫している。
「・・・・フーロン・・・・・」
「なぁに?」
 呟くようにいったジョウイの言葉に魔物が答え、そのまま唇を塞ぐ。その嬲るようなキスを受けながらジョウイはぼんやり違うと考えていた。
 半年まえ、あの湖のほとりでフーロンからされたキスはもっと激しかった。フーロンの愛撫は嵐みたいで何も考えられなくなった。そこまで考えて心の中で自嘲気味笑った。
(なんだ、あのときフーロンを拒みきれなかったのは僕も望んでたからか・・・・・・)
 ならこれでもいいや、そう思った。魔物が見せた幻の通り、何人もの人間に犯された自分がフーロンの気持ちに応える訳にはいかない。フーロンにはもっと相応しい人がいるはずだから。
 これがあの時死ななかった僕への罰。
 そう思いながら魔物のキスに応えようとしたとき、不意に魔物が凄い勢いでジョウイから離れた。後ろを振り返り凄まじい妖気を放ちながら森を凝視している。
 ジョウイがぼんやりと魔物が見ているほうに目をやったとき不意に森が割れた。そしてその奥の暗がりから現れた姿を見て目を見開いた。
 「見るなぁーーーーーーーっ!」
 森から出てきたフーロンは真っ直ぐに蔦に戒められたジョウイを見た。今更のようにジョウイは自分の浅ましい姿をフーロンに見られまいともがく。フーロンにだけは見られたくなかった。知られたくなかった。
「今更何をしにきたのさ」
 魔物が嘲笑うように言った。
「君は彼を抱けないんだろう?だから僕が抱いてあげたのさ。もう僕のモノだよ。」
 再びジョウイに近づき顎をつまむと無理やり唇を塞ぐ。無理やり唾液を飲ませながらフーロンを見た途端に萎えてしまったジョウイの花心を弄ぶ。
「ん、う・・・ん・・・いや・・だ・・・見・・・ないで・・・」
「今すぐジョウイを離せ」
 喘ぎながら微かに言うジョウイに静かな瞳を向けたままフーロンが静かな声で言った。
「だからもう僕のものだって言ったろう?大丈夫、君の望みもちゃんと叶えてあげるよ」
 その言葉と同時にざわざわと動き出しフーロンを戒めようとした蔦はしかし、フーロンに触れる直前に怯えたようにその動きを止めた。魔物が訝しげに眉を顰めフーロンを見る。次の瞬間その目が驚愕と怒りに彩られた。
「お前!あたしの子に何をしたっ!」
 フーロンの顔に冷酷な笑みが浮かぶ。瞳には闇が宿っていた。
「あんたの子?それってこれかい?」
 差し出された右手から枯葉が数枚落ちる。
「なかなか面白いものを見せてくれてね。おかげで大事なことを思い出したんだ。だからお礼に」
 深い闇を秘めた瞳に凄まじい殺気を込めてフーロンは自分の姿をした魔物を見た。
「殺してあげたよ」
「キサマーーーーー!」
 魔物が咆哮を上げながら本来の女性の姿に戻る。
「ナンかくれるって言ってたけど、生憎と僕は幻が欲しいわけじゃないんでね。たとえ手に入んなくてもホンモノがいいんだ。だから返してもらうよ。」
「殺してやるっ!」
 その言葉と同時にジョウイを戒めていた蔦も怯えたように動きを止めていた蔦も同時にフーロン目がけて襲いかかった。
「輝く盾の紋章よ、今その力を示せ・・・・」
 蔦に巻き付かれながらフーロンの声が響く。
「許すべき者を癒し、裁くべきものに制裁を!ゆるす者の印よ!」
 次の瞬間、白い光が爆発し、魔物の絶叫が響き渡った。光が去ったとき後には崩れるように蹲るジョウイの姿だけがそこにあった。
「来るなっ!」
 走り寄ろうとしたフーロンにジョウイが鋭く叫ぶ。
「このまま行ってくれ・・・・」
「ジョウイ!」
「忘れてた・・・・・僕は・・・・・」
「ジョウイ・・・・」
 苦しげなジョウイの様子にフーロンはそれ以上近寄ることができず、ただ名前を呼ぶ。
「あんまり幸せで忘れてた・・・・・僕のためを思うならこのまま僕をおいて行ってくれ・・・・」
「嫌だ・・・・・」
「フーロン!」
 少し離れた場所に立ち尽くしたままフーロンは泣きそうな顔で首を振る。
「僕は君の・・・君たちの側には相応しくなかったんだ・・・僕は・・・」
「嫌だっ!」
「僕は穢れてる・・・・奴に捕まったのいい証拠だ。君は奴の誘惑をはねのけたのに・・・」
 キミニダカレタイトオモッテタナンテ・・・・ボクハケガレテイルノニ・・・・・・
 口に出さず心の奥で呟く。
「穢れてない人間なんていないんだよ・・・・一人だって」
 フーロンが苦しげに言った。
「一所懸命に生きてたら誰だって汚れていくんだ・・・多分ナナミだって・・・・・」
「フーロン、馬鹿なことを!」
「本当だよ、ナナミがあんまり一所懸命だから穢れが消えていってるだけだよ、それに・・・」
 フーロンは自嘲気味に笑った。
「僕が奴に捕まらなかったのは僕が自分の欲望を叶えてしまっていたからだよ」
 ボクハトウノムカシニケガレテイタノニ・・・・キミヲケガサナイトチカッテイタノニ・・・・・
「だから少なくとも僕よりは君の方がキレイだ」
「そんなことがあるわけ・・・」
 苦しげに言うフーロンに戸惑いながらジョウイは言った。
「本当だよ・・・・ジョウイ、僕はね・・・」
「フーロン!言わなくていい!」
 そのあまりにも辛そうなフーロンの様子にジョウイは思わず言っていた。何かフーロンの口からは言わせてはいけないこと聞こうとしてるような気がした。
「僕は昔ルードの森で迷ったときに・・・」
「フーロン!黙れ!」
「・・・僕は・・・・あのとき・・・」
 ジョウイは思わず手を延ばし自分の唇でフーロンの唇を塞いでいた。フーロンの目が大きく見開かれる。
「黙らないとキスするっ!」
 自分のとった行動に自分自身であきれながらジョウイは叫んだ。
「・・・・・・・してから脅しても意味ないと思う・・・・・」
 ボソッっと言ったフーロンの言葉に思いっきり赤面しながらジョウイは言葉を続けた。
「例えなにがあったとしても君は君なんだからそれでいい!僕より穢れてるとかそんなことは・・・」
「その言葉、そっくり返すよ」
 泣き笑いで言ったあとフーロンはジョウイを抱きしめた。
「帰ろう?ナナミが待ってる・・・・」
「・・・・・・うん・・・・・」
 フーロンの腕のなかでジョウイは微かに頷いた。
「・・・・・・待ってると思うんだけど・・・・・」
 ジョウイを抱きしめたままフーロンが何かに気づいたように言った。
「は?」
「いや・・・・そういやナナミも森に向かって突進しようとしてたなって・・・」
「ちょ、ちょっと待って!」
 ジョウイが慌てて言った。
「まずいよ、それ!」
「まぁ、あの人が止めてくれてるとは思うんだけど・・・・」
「ナナミを止められる人、いるのかい?!」
「いい勝負してたから・・・・でも・・・」
「急ごう!」
 慌てて立ち上がり魔物に脱がされた服を着る。
「そうだね、急いだ方がよさそうだ・・・・」
「フーロン?」
「あいつ、完全に死んだんじゃないんだな・・・・」
 周りの木々が禍々しく騒めいていた。じわじわと二人目がけて迫ってくる。
 ジョウイは眉を顰めると右手を突き出した。
「黒き刃の紋章よ、その力を示せ」
「ジョウイ!」
「我らが敵を打ち払え!どん欲なる友よ!」
 次の瞬間黒い刃が走り、騒めいていた木々を引き裂いた。怯えたように森が騒めく。
「馬鹿!さんざんな目にあった後に紋章を使うなんて!」
「あいこだよ、さっき君も使ったろう?フーロン?」
 笑いながらジョウイは言って紋章が作り出した僅かな道に目をやった。
「そんなにもたないみたいだしね・・・・」
 木々はまた騒めきながら迫りつつある。
 二人は顔を見合わせて僅かに頷きあうと同時に森の隙間目がけて突進した。


 明け方ごろ、ボロボロになりながら森から出てきた二人を迎えたのはナナミのとびっきりの笑顔と涙と、ナナミを止めていたらしい男の信じられないといったようなそれでいて心底ほっとしとような嬉しそうな表情だった。

 
 Fin