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「一体何だ、ここは? 」 フーロンは足を止め辺りを見渡しながら呟いた。ほのかに白い光を放つ壁が延々と続いている。等間隔に凝った彫刻を施された白く太い柱があり、それは壁からの光を受けて時折怪しく揺らめいていた。 「しまった。こんな怪しい場所だって分かってたら入るんじゃなかった・・・・・・」 フーロンはさっきあったアーチ状の扉の向こうの光景を思い出してうんざりした顔になった。そして小さく溜息をつくと、更に回廊の奥を目指して歩いてゆく。 しんとした回廊にフーロンの立てる足音だけが響いていた。時折足を止め耳を澄ますが波の音すら聞こえない。そう、この宮殿に駆け込むときに聞こえていた歌声もだ。 「ジョウイもここの何処かを彷徨ってるんだろうか・・・・・・」 僅かに後悔を含んだ声でフーロンは呟いた。ジョウイが後を追って来たことは気配で分かっていた。それでいて振り返りもせずに宮殿に駆け込んだのだが、中に入った途端にフーロンは上下の感覚を失った。外に満ちていた霧と同じような白い空間の中を、それでもどうしてか落ちてゆく感覚だけが分かった。そのうちに気が遠くなり、どうやら気を失ったらしい。気が付くと小さな広間の様なところに倒れていた。辺りを見回してもフーロン一人しかいない。思わずジョウイの名を呼んだが返ってきたのはフーロン自身の声の「ジョウイ」という谺だけだった。仕方なく立ち上がり、まず部屋の中を調べてから、ただ一つあった扉から回廊に出た。それから延々と歩き続けている。時折アーチ状の大きな扉があり、その度に中を覗き込んでみたが目に入るのは何もないガランとした広い部屋かうんざりするような光景だけだった。 「今まで見た中にはジョウイはいなかったけど・・・・・・」 ジョウイと呟くや度にフーロンはガラスの欠片を踏んだような顔になった。 (僕がこんなとこに向わなきゃジョウイもここには来なかったんだから・・・・・・) 言い訳のように心の中で呟いてから一人で苦笑した。ジョウイを探すのに自分自身に言い訳をする日が来るとは思わなかった、そう思いながら歩き続ける。 考え込みながら歩いていたフーロンは急にそれまでとは段違いに明るい場所にでて思わず目を閉じた。 少ししてからゆっくりと目を開く。それでもそこの明るさに慣れるまで少しかかった。しきりに瞬きを繰り返しながら辺りを見渡す。そこは一面に透き通った花が咲き乱れていた。一歩足を進めかけてぎょっとしたように思わず足下を見る。そこには地面がなく、澄んだ水が花の間から覗いていた。顔を上げてもう一度この水の中の花園を見渡すと奥の方に東屋の様なものが見えた。ひっそりとした人影もみえる。なんとかあそこまで濡れずに行く方法はないかともう一度瞳を凝らしてみた。よく見ると所々花がないところがある。フーロンがいる場所からほど近い所にもあったのでそこに行ってみた。そこにはフーロンの身長程の幅のある大きな葉がその鮮やかな緑の葉を水面に広げていた。恐る恐るフーロンが足を乗せてみるとそれは案外頑丈そうに思えた。足を戻して少し考えてからそっと葉の上に乗ってみる。葉は僅かにたわんだものの、軽々とフーロンの体重を支えた。葉の中央に立ち周囲を見渡すと少し離れた場所に同じような葉が見える。 (・・・どうしようか・・・・・・飛び移ったらさすがに沈むよなぁ、多分・・・) 葉と遠くに見える東屋を見比べながら少し考えていたフーロンは腹を括った。 (えーい、濡れたらその時はその時だ。このまま花の中を突っ切って行ってしまえ) そのまま態勢を整えると軽く勢いをつけて向こうに見える葉目掛けて跳んだ。フーロンが着地した葉は激しくたわみ、一瞬このまま水の中に沈むかに見えたがそのまま持ちこたえた。 (案外行けそう・・・・・・でもカエルみたいだな・・・・・・) そう考えながらもう一度辺りを見渡す。よく見るとそこかしこに大きな葉が浮いているのが見えた。フーロンは息を整えると一番近くに見える次の葉目掛けて跳躍した。 何度その息の詰まるような跳躍を繰り返しただろうか、顔を上げてもう一度落ち着いて周囲を見渡すと目指していた東屋が思ったより近くに見えた。東屋の人影もはっきりと見える。 (ジョウイじゃない・・・・・・当たり前か・・・・・・) 思わず苦笑を浮かべたフーロンを東屋にいた人物は面白そうに見ている。 不意にその人物が座っていた華奢な白い椅子から立ち上がった。すいっと東屋の端、フーロンのいるほうにやって来る。一歩足を進めるごとに着ている白いドレスから白い羽が舞った。そして端までつくと僅かに首を傾げて真っ直ぐにフーロンに視線を向ける。金色に波打つ髪が肩から滑り落ちた。 「運がいいのか、それとも知識があったのか・・・・・・」 美しい声で歌うように言った。 「何故、花を散らしながら水の中を進まなかったの?この池の水は浅いし、その方が簡単だったはずよ?」 「・・・・・・濡れたくなかっただけです。貴女は誰です?ここは?」 フーロンの答えに女はころころと笑った。その声はまるで極上の鈴を幾つも鳴らしているようだった。 「ここがどんな場所か知らずに来たの?そう言えば貴方は私の歌に魅入られず自らここに来たうちの一人だわ。」 女はそう言うとおもむろに身を屈め足下に咲く花を一輪摘み取った。顔を花に寄せ香りをかぐ。花は見る間に色を失いしぼみ始め、すぐに女の手の中で光の粉になって消えた。その様にフーロンは後ずさる。 「お花に触らないようにね。せっかくここまでそれに触れずに来たんでしょう?」 その言葉に思わず葉の中央に戻ったフーロンを女は面白そうに見ている。 「ここは一体!あんたは! 」 「私はね、ここの守護者。外から来た人には魔物って言う人もいるわね。」 そこまで言って女は眉を顰めた。 「失礼しちゃうわよね、本当に。勝手にここに来たくせに。」 「守護者?ここは一体何なんです?この花は?触るなって・・・・・・」 「このお花はね、私の食糧。肥料はね、人の精なの。」 息を飲んだフーロンに女はちょっと言い訳がましく言った。 「あのね、なくてもよかったのよ。でもね、人の精をあげた方が美味しくなったの。」 拗ねたような顔でフーロンを見る。 「私が自分であげようと思ったわけじゃないのよ。人が触るとね、おかしくなっちゃうのね、皆。」 「おかしくなる? 」 「そう、ここに来る途中で見なかった?肥料をくれる人達がいる部屋。皆あんなふうになっちゃうのね。それで、どうせ出すんだから貰ってるの。」 「肥料をくれる人達って! 」 「あの人達も悪いのよ、勝手に来てここを荒そうしたんですもの。それでもね、私の質問にちゃんと答えられたらいつか出られるのだけれどね。」 「質問って一体?!ここはなんなんです?! 」 「貴方もね、答えられなかったら肥料の人かなって思ったんだけど、なんとなく気に入ったし、貴方の精で子供作ろうかな?そろそろ繁殖の時期だし。」 「繁殖?! 」 「イヤ?嫌そうね。残念。じゃ、その気になるまで閉じこめましょ。質問に間違えず答えられたら帰してあげるけど。」 「質問って、何を訳の分からないことを!」 女はその言葉に答えずに立ち上がった。ふわりと足を花の咲き乱れる水面に進める。女のつま先が触れるたび水面には小さな波紋ができた。女はそのままゆっくりとフーロンのいる葉の前まで来た。そのままゆったりと両の腕をフーロンの方に差し伸べる。 「ここはシンダルの聖域」 歌うような美しい声が響く。 「シンダルは問う。扉を開きし者に問う。汝の望むもの、汝の願うもの、汝の大切なものはここに・・・・・・されど心せよ・・・・・・」 そこまで女が言った時、急にフーロンのいる葉の周囲の水が垂直に巻き上がった。その水の壁に沿うように細い稲妻が行く筋も走る。 「なっ!」 「私の問いに間違えずに答えるか、子種をくれる気になるか、どっちかで出してあげる。その稲妻、結構痛いわよ。」 「僕がここを彷徨ってたのはシンダルの宝なんかが目的じゃなくてっ!」 「それからその水ね、この花のエキスがしみ込んでるから、触ると大変よ?」 水の壁を殴ろうとしていたフーロンはぎょっとしたように手を引っ込める。その様子を微笑んで見ていた女は、また身を屈めるとゆっくりと花を摘んだ。今度は香りをかぐことなく沢山の花をその腕に抱える。 「うーん。少しヒマだし、もう一人に会ってこようかな・・・・・・」 「もう一人?ジョウイ?! 」 女は振り返りふんわりと笑った。 「やっぱりお友達?じゃ、少し楽しめそうね。」 「楽しむって・・・・・・ジョウイに手を出すなっ! 」 「うふふ、どーしよっかなー」 女は笑いながらそう言うとフーロンに背を向けた。そのまま回廊の方に向う。 「待てってば!ジョウイは来たくて来たんじゃないんだ!待てよ!ばか野郎ーっ!」 水の檻の中にフーロンの絶叫が響き渡った。 「ここは一体・・・・・・綺麗な場所ではあるけど・・・・・・」 周囲を見渡しながらジョウイは呟いた。辺りには一面に透き通った花が咲き乱れている。 フーロンを追って宮殿に駆け込んだ途端にジョウイは白い霧のようなものが満ちた空間に投げ出された。そのままフーロンの名を呼びながらもがいているうちに気を失い、気が付くと小さな広間のような場所にいた。辺りを見渡すと、フーロンはだけではなく、その前にここに入った筈の男達の姿もない。立ち上がり部屋の中を調べた後、その部屋に一つだけあった扉をそっと開けた。そこは一面に花が咲き乱れた空間だった。フーロンを呼んでみたが返事はなく、人影も見えない。目を凝らすと遠くの方に建物らしい影が見える。ジョウイが出てきた所はちょうどバルコニーのようになっていて、そこから建物の方に向って細い通路が渡されていた。その通路はガラスのように透き通った石で出来ていて足の下を見ることができ、この花園は澄んだ水で満たされていてこの花は水の中にその根を伸ばしていることが分かった。水深は案外浅く、ジョウイの膝から少し上位までしかないだろう。ジョウイは花に顔を寄せてみて噎せながら顔を背けた。その濃厚な香りは良い香りというには少しばかりきつすぎた。 「他の人達はどうしたんだろう・・・・・・それにフーロンは・・・・・・」 ジョウイは小さく呟いた。ナナミから「魔物の住み処」と言う言葉を聞いていたし、いくら仲違いの最中だとはいえ気を失っている自分をフーロンが放って行くとは思えない。ここは美しく見える風景とは裏腹に本当に危険な場所なのではないか、そう考えながら歩き始めた。棍を持っている手がじっとりと汗ばむ。 花園にはジョウイの立てる足音だけが響いている。 どれくらい歩いたのか、建物の入り口が見え始めた。思わず足を止め建物を見上げる。その凝った彫刻の施された場所はどうやら回廊の入り口らしかった。扉はなく、奥へと続く廊下が見える。小さく息をつきそこに向って足を進めようとしたジョウイの耳に激しい水音が聞こえた。 「フーロン?! 」 そう言いながら思わず振り返ってから、持っていた棍を構える。そこにはフーロンと戦っていた男の一人が立っていた。そのまま無言で男を睨みつけていたジョウイは男の様子がおかしいことに気付いた。目の焦点が合っておらず、口の端からは涎が垂れている。眉を顰めたまま男の様子を観察していたジョウイは、あることに気が付いて思わず顔を背けた。 服の上からでも男の中心がそそり立っているのがわかる。 (一体なんなんだ・・・・・・?) そう考えながら背を向けた。男の目に自分が映っているとは思えなかった。そして、それが油断だった。 「・・・お・・・・・・んな・・・・・・?・・・・・・ち・・・が・・・・・・う・・・・・・」 呻く様に男が言った。 「ちが・・・・・・う・・・・・・かまわ・・・・・・ない・・・・・・こ・・・・・・れ、以上、耐えられない!」 最後の言葉は絶叫だった。はっとしてジョウイが振り返るのと男がジョウイを押し倒すのは同時だった。 「何をする! 」 思わず叫んだジョウイ構わず男はジョウイの着ているシャツを引き裂く。押しのけようとするジョウイの両手を片手で押さえ、そのまま胸に舌を這わす。もう片方の手はもどかしげに腰のベルトを解きにかかっていた。 「やめろ! 」 「た・・・のむ・・・・・・気が・・・・・・狂いそうだ・・・・・・やらせてくれ・・・・・・」 「よせ! 」 くぐもった声で言う男にぞっとしながらジョウイは叫んだ。相手の方が体格がいいのは認める。けれど相手の拘束から抜け出せないのは自分を押さえ込む力が信じられないくらい強いからだ。既に常人の域を越えているように思える。押さえられている腕の骨がきしみ、痛みで悲鳴を上げそうになった。 (狂ってる! ) なんとか抜け出そうともがきながらジョウイは心の中で叫んだ。男はもがくジョウイに構わずジョウイのベルトを外し、前を開けるとジョウイの股間に手を突っ込んだ。そのまま花心を握り、引きずり出そうとする。 「っ!嫌だ!やめろっ! 」 思わず絶望的に叫んだジョウイの耳に美しい声が聞こえた。 「はぁい、ここでするのはやめてね。」 場違いなほど穏やかな明るい声にジョウイは一瞬もがくのを止めた。不意にさっきの花の香りが強く漂っていることに気付く。男がジョウイを放しゆらりと立ち上がった。ぼんやりとした目は声のしたほうに向けられている。 (女性? ) 辺りに咲き乱れる花を片腕に溢れんばかりに抱えた美しい女性が立っていた。小首を傾げてこちらを見ている。 「お・・・んな・・・・・・女っーーーー! 」 男の絶叫にジョウイは我に返った。 「逃げてください! 」 その女性に向って叫ぶと同時にさっき押し倒された拍子に転がった棍に飛びつく。棍を構えて男の方を見たジョウイは驚きに目を見開いた。 (まさか、魔物?! ) 男が空に向って手を伸ばしている。その手が振れるか触れないかの位置に女性のつま先が合った。空中にいる女性に目を向ける。2対の純白の大きな翼がその背に広がっており、ゆったりと羽ばたいていた。男が獣の様に吼えたてながら女を捕らえようとしている。 「心配してくれてありがとう。」 まるで歌うように女が言った。 「でも貴方の方が大変みたいよ? 」 ジョウイの姿を見ながらくすくすと笑う。ジョウイははっとして乱れた服を整えた。引き裂かれた上着はどうしようもなかったが。 「一緒にいらっしゃいな。それに似た服があったと思うわ。それに・・・・・・」 そこまで言って女はからかうように男に向って花を一輪振って見せた。 「こちら様も所定の場所に連れていかなきゃいけないし。」 そう言うと男から少し離れた場所に舞い降りた。男が獣のような方向を上げながら女に突進したが、まるで舞いでも舞うようにふわりとそれを躱す。 「おとなしくついてらっしゃい。でないと楽になれないわよ?」 男に向ってからかうように女が笑った。その言葉が聞こえないかのようにひたすら女に襲いかかろうとする男を躱しながら女は確実に男を回廊の方へ誘ってゆく。そして回廊の入り口まで来ると呆然としていたジョウイの方に顔を向けた。 「何やってるの?そんな格好でそこにいるとまた襲われるわよ、いいの?」 その言葉にジョウイは慌てて女の後を追った。 回廊の中は窓一つなかったが壁それ自体が白い光を放っており、ぼんやりと明るかった。女は狂った男をからかうように誘いながら時折アーチ状の大きな扉の前に足を止め考え込むような顔をした。いくつかの扉の前をそうやって通り過ぎてからある扉の前で満足そうな顔で足を止めた。そのまま片手で軽々と扉を押し開いてゆく。人一人が通れるくらい扉が開くと女は振り返った。 「入りなさいな。あなた達がそれぞれ欲しいものが手に入るわよ。」 男はその言葉が聞こえていないのか当の女に飛びかかろうとして扉の中に転げ込むことになった。扉の中の様子がよく分からないために入るのを躊躇っているジョウイに向って女が言った。 「お洋服、この中なのね。とりあえず入ってくれるかしら?」 躊躇い、警戒しながらジョウイは足を進めた。目の前の女がよくない存在だとは思えなかった。扉の中に入り、その中の光景に思わず立ちすくんだジョウイの背後で扉が静かに閉まった。 「これは一体?! 」 沢山の人々が蠢いていた。一糸まとわぬ姿で男も女も関係なく、まぐわい、嬌声を上げている。さっきジョウイに襲いかかった男もすでに防具も、服も脱ぎ捨てその中にいた。 「考えなしに花に触れるとこうなるのよ。」 女の声が聞こえた。 「魔物の住み処、帰らずの城。色々言われているらしいのにどうしてこう考えなしが多いのかしら?」 「一体、ここはっ!」 「あなたもここが何なのか知らずに来たの?」 女は小首を傾げて少し笑った。 「まぁ、いいけど。その辺に落ちてる服で良さそうなのがあったら持ってっちゃって。」 「・・・・・・落ちてる服って・・・・・・」 確かに言われたように壁際には服に限らず、防具や武器まで転がっている。明らかにここにいる人達が脱ぎ捨てたものだ。 「大丈夫。この人達、もうそれ着ること、ないと思うから。」 「ちょっと待ってください! 」 「これなんか似てるわよ、はい。」 そう言って青いシャツをジョウイに向ってほうり投げる。思わず受け取って呆然としているジョウイの前で女は持っていた花に顔を埋めた。愛おしむように頬擦りをしてからふぅっと息を吹きかける。 無数の花びらが部屋の中に舞い散った。その花びらから逃げるように動く者もいたが、大抵の者はそのまま自分達の行為に没頭している。 「たすけて・・・・・・もう・・・・・・許して・・・・・・」 花びらから逃れようとしていた者の一人が女の足に縋り付いて呻いた。 「私の質問に正解したらね。あなたの大切なもの、望むものはなぁに?」 「し・・・らない・・・分からない・・・助けて・・・・・・」 「じゃ、だぁめ」 女は冷たくそう言うと持っていた花を一輪落とした。縋っていた者、女だったが、は悲鳴を上げて逃げようとしたが、落とされた花はそれより早くその背中に触れた。その途端女は声を声もなくのけ反った。小さく声を漏らしながら自分の乳房を揉みしだき、股間に手を伸ばしている。 ジョウイは思わず顔を背けた。 「・・・・・・酷いことを・・・・・・」 「自分で招いたことよ。」 思わず呟いたジョウイの耳に翼のある女の冷たい声が聞こえた。 「だって誰だって思わず触れたくなるでしょう?!花なんだから!」 「花なら勝手に手折っていいの? 」 「それは・・・・・・でも! 」 「不思議なことにね、ここが何処か知らずに来た人は誰も花に触れないのよ。」 女は冷たい表情で淫靡に蠢く人々を見渡しながら言った。 「ここに魔物や、宝やそう言ったものを探しに来た人は皆触るの。ここはそんな場所じゃないのに。」 「だって・・・・・・でも探してるものかもしれないから・・・・・・だからきっと・・・・・・」 「自分が探してるもの、大切なものが分かればここから出られるわ。そういう場所なんだから。」 そう言って女はジョウイの方を見た。 「だからこれは罰。人の大切な場所を荒らした、自分の大切なものに気付かない罰なの。」 「罰・・・・・・」 「貴方も罰がいるかしら?いらないような気もするのだけれど、ここはそう言う場所だから。」 女はそう言うと花を持っていないほうの腕をジョウイの方に差し伸べた。 「ここはシンダルの聖域。シンダルは問う。汝の望むもの、汝の願うもの、汝の大切なものはここに・・・・・・されど心せよ・・・・・・」 「シンダル?! 」 思わず声を上げたジョウイの周りの空気が巻き上がった。鋭い風の刃になりジョウイの周りを取り巻く。女の腕の花束から無数の花片が舞い上がり、その風の刃に乗りジョウイの周りを取り巻いた。 「貴方の大切なもの、望むもの、願うものはここにあるわ。さて、何でしょう?」 「家族、親友、フーロン。」 自分の問いに殆ど即答に近いタイミングで答えたジョウイを女は心の底からつまらなそうに見た。 「少しは悩みなさいよ。つまらないじゃないの。しかもあってるし・・・・・・」 「間違える人も、悩む人もいないと思いますが。それに大切なものなんて人によって違うでしょう?あってるって何なんです。」 「それがね、そうでもないのよ・・・・・・」 女は少し淋しそうに微笑んだ。 「私はね、その人が心の底で望んでいるものが分かるの。そういう生き物だから。でも、心の中の映像と言葉に出した映像が一致する人は少ないわ。」 そういって蠢く人々に目をやった。 「みんな馬鹿ばっかり・・・・・・でもどういう訳か私が気に入った人はだぁれも間違えないの・・・・・・。間違えたらここに引き止めておけるのに・・・・・・」 「引き止めるって・・・・・・」 「どうして私みたいな生き物にここを護らせる気になったのかしら・・・・・・」 その淋しそうな呟きにジョウイは思わず沈黙した。やっていることのえげつなさと裏腹に目の前の魔物は純真で、そして孤独そうに見えた。 「でも、今回はどっちかには残って欲しいような気がするの。」 急に女がジョウイの方を見て面白そうに言った。 「・・・・・・どっちか?まさか・・・・・・」 「と、言うわけで第二問! 」 「ちょっと待って!まさかフーロンも捕らえられてるんじゃあ・・・・・・」 「そう、そのフーロン君と君、ジョウイ君。どちらかしか逃げられません。どうしますか?」 クスクスと笑いを含んだその問いにジョウイは風の檻のなかで絶句した。 |
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続く
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