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| フーロンは荒い息をついて座り込み水の壁を睨みつけていた。さっきまでは罵詈雑言を喚き立てていたのだが自分をここへ閉じこめていった女が戻る気配はないし、体力を消耗するだけだと気付いたからだ。 「・・・・・・ジョウイ、ごめん。こんなつもりじゃなかったんだ・・・・・・」 深い悔恨の呟き共にフーロンは自分の行動を思い返していた。 きっかけははっきりしている。ジョウイと街をぶらついているときにすれ違ったあの女性だ。 街に滞在する間の短い期間の仕事を決めて、それが始まるまでの間どうしようとジョウイと話をしながらフーロンはこの街に来て良かったと心の底から安堵していた。 (ジョウイのこんなに明るい顔は久しぶりに見る・・・・・・) それだけでもう嬉しくて、これからのことを考えてはしゃがないようにするのに苦労したくらいだ。この海沿いの小さな街はトランもデュナン湖も遠く離れていたから「統一戦争」と言われるあの戦いも何処か遠い出来事で、そのこともフーロンには心地よかった。そんな浮かれそうな気分を抑えながら本気と冗談の入り交じった会話をしつつ歩いていたときに前から一人の女性が歩いてきた。長い暗い色の髪のたおやかな女性でどこか影のある表情をしていた。 (綺麗な人だな・・・・・・) そう思うと同時に誰かに似ているような気がして何か居心地の悪い思いをした。ジョウイもフーロンと話しをしながら一瞬その女性の方を見た。別にその後何を言うでもなく会話を続けたからフーロンの居心地の悪い思いも一瞬だった。そのはずだった。その女性とすれ違うまでは。 話しをしながらその女性とすれ違ったときジョウイが振り返った。ほんの一瞬。多分ジョウイ自身も無意識のことだっただろう。別段そのことに自分でも気付く風もなくそのままフーロンとの会話を続けた。けれどその瞬間にフーロンはその女性を見て誰を思い出したのか分かった。 (ジル皇女に似てる・・・・・・) 呻くように心の中で呟いた。そしてフーロンがジョウイとの再会してから無意識に心の底に封印した思いが沸き上がってきた。 ジル皇女はジョウイの初恋の女性だ。まだキャロにいた頃そのことをからかうと、ジョウイは真っ赤になって否定した。しかしフーロンの目から見れば明白なことだった。だからあの戦いの最中、ジル皇女との結婚の話しを聞いたとき逆に違和感を感じた。 ジョウイらしくない。 何故そう思ったのかは分からない。ハイランドの側につき手柄を立てたのだ。それ自体はあり得ない話しではない。その立てた「手柄」もジョウイらしくなかったのだが。だがその違和感の正体を突き詰めて考えることは出来なかった。人々の思いに翻弄されてそれどころではなくなっていった。 そして天山の峠での再会。3人での旅の始まり。 3人で最初に行った場所はハルモニアの外れにある小さな家だった。ナナミの提案だ。何故、どういうつもりでナナミがそこに行こうと言ったのかはフーロンには分からない。いや、本当は分かっていて分からない振りをしているのかもしれなかった。 ジョウイはハルモニアに残ることを選ばなかった。 そしてその選択はそれまでフーロンの中に静かに澱み続けていた想いを妙に納得させた。そしてそれは決して心地よいものではなかった。フローンはその心地よくない小さな棘のような想いを無意識に自分の中に封印した。多分考えても仕方のないことだと思ったからだろう。 その封印した棘が一気に芽吹いた。 押さえ込もう、考えないようにしよう、忘れよう、そう努力するほどにそれは強く存在を主張し、成長した。 それは食事を終え、ジョウイと部屋に引き上げた時にはどうしようもない程に膨れ上がっていた。気が付くとジョウイが心配そうに自分のことを見ていた。何かあったなら言ってくれと、そう言っていた。自分のことには全く頓着せずに言うジョウイの様子にフーロンは殺意さえ覚えていた。天山の峠では生きていて欲しいとそれだけを望んだ筈なのに、そのためなら何でも出来ると誓った筈なのに、今ここでジョウイを殺してしまえば、もう今度こそ何処にも行かない。この苦しい棘から解放される、そう考えてしまった。 それでもその思いをなんとか押さえつけながらジョウイから目をそらし、会話を続け、そしてジョウイに突き飛ばされてはじめてフーロンは自分が言ってはいけない言葉を口にしたことに気が付いた。 ハルモニアに行っちまえ。 そう、自分自身への止めのような言葉をジョウイに向って叫んで宿を飛び出し、闇雲に街を彷徨い続け、気が付いたら浜辺に座り込んでいた。そのうちに霧が辺りに立ちこめて何も見えなくなった。その白い闇を見つめてぼんやりと波の音を聞いていたら何人かの傭兵風の男に絡まれた。フーロンもかなりやけっぱちな気分だったから「売られた喧嘩は買いましょう」と相手を挑発してしまい、大立ち回りを演じる羽目になった。その最中にジョウイが来て、そして、この魔物の城が浮かび上がったのだ。 フーロンがここに駆け込んだのは逃げるためだ。ジョウイの一番深い大切な場所を踏み荒らすようなことを言ったはずなのに、ジョウイはフーロンを見て心底安心したような顔をした。 そのジョウイの視線から逃げるためだ。ジョウイの中にいるであろうジル皇女の影に嫉妬した自分をジョウイの前から消すためだ。 「……ジョウイ、ごめん……無事でいて……僕なんか放っておいて逃げてくれ……」 水の上の葉に蹲るようにしてフーロンは呻いた。 「どうして……無事ならそれでいいって、生きていてくれたらそれでいいって、何でも出来るってそう誓ったはずなのに……どうして僕は……」 後悔で気が狂いそうになりながら水の檻を睨みつけた。 どのくらいそうやっていたのか不意にジョウイの声が聞こえた気がした。始めは空耳かと思っていたがやはりフーロンの名を呼んでいるような気がして、立ち上がりあたりを見渡した。 魔物がいた東屋にひっそりとした影が立っていた。 「フーロン! 」 「ジョウイ?! 」 「良かった、まだ無茶なことはやってないね。」 「ジョウイ!どうしてここに!早く!早く逃げて!」 「一人で逃げられるわけないだろう。ちょっと待ってて。その稲妻、何とかするから。」 そう言うとジョウイは東屋の奥に引っ込んだ。やきもきしているフーロンの目の前で小さな龍のように水の壁を走っていた稲妻が音もなく姿を消す。 ジョウイがまた東屋の端に顔を出した。 「もう大丈夫だろう?早くこっちへ!その水の壁は刃ではないそうだから」 「……そうは言っても……」 フーロンは二重三重の意味で躊躇った。自分のとった行動を激しく後悔はしているが、だからこそどんな顔でジョウイにに会ったらいいのかが分からない。それにこの水には辺りに咲き乱れている花のエキスが染み込んでいると言っていた。 「フーロン、どうしたんだよ」 さすがに少し苛ついたような声が聞こえる。 「ジョウイ、君だけで逃げて。」 「だからそんなこと出来るわけないって言ってるだろう!」 「でも……」 「いい加減にしてくれ。今回はさすがに言いたいこともあるからね。早く!」 「だけど……」 「だけどじゃない!そこにずっといたいのかい?!引きずり出しにいこうか?!」 珍しく本気で苛ついているらしいジョウイが水の中に入ろうとしたのでフーロンは慌てた。 「わー、ジョウイ、ストップ、待った!」 「なら早く来いってば。」 「この水はやばいんだよ!」 「やばいって? 」 「だから……」 言いかけてフーロンは絶句した。この水に触るとおかしくなって淫乱になりますなどと言ってすぐに信じてもらえるだろうか、そう考えて黙り込んだフーロンの耳にまたジョウイのいらいらした声が聞こえた。 「フーロン!四の五の言って僕だけ帰すつもりなんじゃないだろうね?!」 「違う!」 「じゃ、ささっと来い!」 「だからっ!この水に触るとまずいんだってば!」 「だからどうまずいんだよ!」 「……この水に触るとおかしくなるんだよっ!だから、その……」 「……それは花の方だろう……フーロン、いい加減に……」 「本当だよ!そう言ってったから!」 「……誰が?」 「……自称ここの守護者の魔物……」 「そんなことは言ってなかった……」 「……言ってなかった?」 ジョウイの言葉にフーロンは訝しげに呟いた。ジョウイは何か考え込んでいるらしく返事はない。 「ジョウイ、アイツに会ったの?!」 「フーロン、さっきの稲妻を消す方法はその人に教えて貰ったんだ。」 「……その……人?」 「少なくとも稲妻は本当に消えた。その人はおかしな作用があるのは花だけだって言ってた。」 「…………」 「信じてもいいと思う。」 「……こんな目にあわせた張本人なのに?」 「君が信じられないって言うのなら僕が試しに水に触れてみる、だから……」 「ダメだ!」 叫ぶようにそう言うとフーロンは大きく息を吸い込んだ。 「ジョウイ、念のために水しぶきが掛からないところまで下がってて。」 「フーロン!」 「アイツを信じたんじゃない、君の言葉を信じたんだ。それから……」 半泣きの声で付け加えた。 「僕の様子がおかしくなったら躊躇わずに逃げるんだよ、でないとヤバイから……」 フーロンはそう言うとそのまま勢いをつけて東屋目掛けて跳躍した。しかし水の壁を突き抜けたときに勢いも多少殺されたのだろう、東屋に着く少し手前にフーロンは落ちた。せめてもの救いはそこが小さくとも葉が浮いていた場所で花の中に落ちたわけではないことだろう。 「フーロン!」 呆然と座り込んでいるフーロンのいる場所目掛けてジョウイも跳躍した。 「馬鹿っ!来るな……わっ!」 派手な水音がして跳んできたジョウを受け止めた形のフーロンは全身水に潜ってしまった。慌てて顔を出してげほげほとやっている。 「ごめん、すぐに動かないものだから怪我でもしたのかと思って……」 「むしろ君が来た方が危ない、その場合……ってそうじゃなくてっ!」 「だから、ごめんって……」 「違う!だからこの水はヤバイかもしれないから離れてろって!」 「……平気みたいだけど、お互い……」 ぽつんと言うジョウイの顔をフーロンはきょとんと見た。 「……あれ?……本当だね……」 「……君、本当にこの水もおかしいって信じてたんだね……」 「…………あの女…………」 低い剣呑な声で呟くフーロンを見てジョウイは少し笑った。 「まぁ、君のことだから。稲妻だけだと多少の怪我は無視して壁突き破って逃げると思ったんだろうな。」 そう言うと立ち上がった。そしてまだ座り込んでいるフーロンに手を差し伸べながら言った。 「一緒に帰ろう。ナナミが待ってる。」 「……ナナミの名前出せば言うこと聞くと思ってるだろう……」 「うん、思ってる。実際、僕も君もナナミには弱い。」 微笑んで言うジョウイにフーロンは苦笑を返した。 「僕が弱いのはナナミだけじゃないんだけどね。」 そう言ってジョウイの手を借りながら立ち上がる。そして花に触れずに戻る方向を決めるために辺りを見渡した。その二人の耳に羽音が聞こえた。純白の羽が一片、二人の前に落ちてくる。二人は慌てて上空を見た。 上空ではこの遺跡の守護者を名乗る魔物が二人のことを見下ろしていた。 「つまらない……」 魔物がやさしい微笑を浮かべて、心底寂しそうに言った。 「本当に、どうして私が気に入った人たちは間違えないのかしら……」 「だから普通は間違えないって言ったでしょう?」 ジョウイが魔物に向かって言った。 「あそこで間違えた人をたくさん見たくせに……君にだって間違えやすい問題を出したのよ?」 その言葉にジョウイは少し笑った。そのときフーロンが横から険悪な声を出した。 「さっきから聞いてれば間違えるの間違えないの一体なんの話だよ。それに水に関する嘘はどういうことだよ?アンタの質問とやらに関係してるとでも言うんじゃないだろうね?」 魔物が面白そうに笑った。 「関係してるのよ、一番大事なものが本当に分かってるかどうか知るためにやったんだもの。それために一番気をつけなきゃいけないこともね。」 「あんな方法で何がわかるって言うんだよ?」 「分かるわ、さっきだってかっこよかったわよ?」 「さっき?」 魔物はフーロンを見ながらくすくすと笑った。 「アイツを信じたんじゃない、君の言葉を信じたんだ。」 「その言葉の何処がアンタの質問に対する答えなんだよっ!」 からかうようにフーロンの口真似をして言う魔物の言葉にフーロンは耳まで真っ赤になって怒鳴った。 「あんまりフーロンをからかわないでください。それより約束です。二人ともあなたの言う正解をしたんだから……」 「はいはい、帰してあげるわ。でも君もかっこよかったわよ?」 「え?」 「方法を探す。なんとしても二人で逃げる方法を探す。フーロンだけ逃げるなんて絶対フーロンは認めないだろうし、僕だけ逃げるなんて絶対しない。」 今度はジョウイの口真似をする魔物にジョウイが首筋まで赤くなった。その様子を見てくすくすと笑うと魔物が片手を上げる。それに合わせて二人の周囲の水が再び巻き上がった。 「なっ!」 水に巻き上げられ二人は思わず互いの腕を掴む。 「約束だから、ここから出してあげるわ。」 その魔物の言葉を最後に二人は互いの手を離さないようにするのに必死で他のことは何も分からなくなった。 海の上の白い霧をかき乱すように水の柱が現れた。それは砂浜と、天然の防波堤となっている奇岩の群の間で止まるといきなり崩れ落ちた。 「ぷはっ!ジョウイ!」 「大丈夫!」 「どこだここ……」 「あの砂浜じゃないかい、あそこに見えるの」 水の柱に巻き上げられて海まで戻された二人が互いの方に近寄りながら声を掛け合う。 「なんて乱暴な方法なんだ……」 「……とりあえず無事ではあるから僕は何も言わない……」 疲れた様に呟くとジョウイはフーロンの方を見た。 「戻ろう・・・・・・」 その言葉にジョウイから気まずそうに僅かに目をそらして首肯きかけたフーロンの鼻先に透き通った花が一輪落ちてきた。慌ててよけようとしたが腰まで海に浸かっている。思うように動くことが出来ず、それはフーロンの腕に触れると澄んだ音をたてて砕けて消えた。 「フーロン! 」 「来るなっ! 」 慌ててフーロンに駆け寄ろうとしたジョウイの鼻先にも同じように花が落ちてくる。気がついたフーロンが突き飛ばすようにジョウイを花から離そうとしたが僅かに間に合わず、それはジョウイの肩先に触れると、やはり澄んだ音をたてて砕けて消えた。 身体の奥から沸き上がってくる衝動がある。 波が身体を洗う度にその衝動は全身を駆け巡る。 互いの姿を見ないようにしながらその衝動を何とか殺そうとしている二人の耳にまた翼の音が聞こえた。 「どういうつもりだっ! 」 音がしたほうを睨みつけながらフーロンが叫んだ。それまで何もなかった空間に淡い燐光を放つ球体が現れる。 (お・せ・ん・べ・つ) 辺りに笑いを含んだ澄んだ声が響いた。 (口実がないと抱きあうことも出来ない強情っぱり達にご褒美を兼ねたお餞別。) 「なっ?!必要ないっ・・・・・・わっ! 」 叫んだフーロンの鼻先にもう一本遺跡の花が落ちてきた。よけようとして尻餅をついたフーロンは塩辛い水を飲んでしまい、慌てて立ち上がったところで花が頭の上に着地した。もう一度澄んだ音をたてて花が砕ける。 (大嘘つきにもう一本おまけ。) 「・・・・・・べ・・・つに、抱きあいたいと思ったこと・・・なん・・・か・・・・・・わっ!」 朱に染まった顔で切れ切れに呟いたジョウイの鼻先にもまた花が一輪落ちてくる。 (意地っ張りにも、もう一本おまけ。) 魔物のその言葉と同時にジョウイの髪に触れた花が澄んだ音を立てて砕け散る。 次の瞬間ジョウイが膝を折って崩れ落ちた。海の中に沈み込む。 「ジョウイ! 」 慌ててフーロンが水に沈んだジョウイの腕を掴んで立ち上がらせ、そして目が合った瞬間に二人の限界が来た。 そのまま貪るように唇を重ねる。 波の音に重なるように秘めやかな声が辺りに静かに響き始めた。 (時にはね、何も考えずに抱きあうことも必要よ。言葉なんてどうせまやかしなんだから・・・・・・) 魔物の声がひっそりと響いた。 (だからね、これはご褒美。仲直りの切っ掛けをあげるわ。) その声に僅かに苦笑の色が混じる。二人にはもう魔物の声は聞こえていないらしかった。ただ波に揺られながらひたすら互いを求めあっている。 (あなた達みたいな子はね、もう、あそこに来ちゃだめよ・・・・・・) 寂しげな魔物の声が遠くに引いて行った。霧が白く深く辺りを閉ざし始める。月に光も通さない白い闇の中で、残された二人はもう互いの姿しか見ていなかった。 朝の光が霧を払い始めている。 二人は並んで砂浜に寝転んでいた。白い砂が服と言わず髪と言わずに纏わりついて正直言って気持ち悪かったが起き上がる気力はない。 二人が正気を取り戻したのはついさっきのことだ。運のいいことに脱ぎ散らかした服はまだ近くを漂っていたから何とかそれを着て砂浜まで戻った。二人とも完全に脱力していてジョウイなどは何度も水の中に沈みそうになり、フーロンが抱えるようにして歩かなければならなかった。そのまま倒れるように寝転んでそのまま光が霧を払ってゆく様を見ていた。 「・・・・・・・・・帰らなきゃ・・・・・・」 ジョウイが怠そうに呟く。返事をするのも億劫でフーロンは黙っていた。 「でもその前に確認したいことがあるんだ・・・・・・・・・」 「・・・・・・何? 」 「色々考えてくれてたんだってね。ナナミに聞いた。」 砂のきしむ音がしてフーロンが動くのが分かった。ジョウイが顔だけを横に向けるとフーロンが背を向けて寝転がっている。 「気を遣わせてしまっていたんだね。」 「そんないいもんじゃない。」 ぶっきらぼうにフーロンが答える。 「・・・・・・ジル皇女って言っただろう? 」 背を向けたままのフーロンに向かってジョウイが言った。 「あそこに残ったら僕はジョウイ・ブライトに戻ってしまう。ジルがジル皇女になるように。」 ジョウイの言葉にフーロンは答えなかった。ただ頑なになった背中がジョウイの言葉をちゃんと聞いていることを物語っていた。 「あの峠でも言っただろう?ジョウイ・ブライトはもう、いちゃいけないんだよ。」 ジョウイは返事のないフーロンの背中に向かって言葉を続けた。 「君が嫌でなければもう少し一緒に旅を続けてもいいかな?」 風が砂をさらう音がさらさらと響いている。まだ残っている霧に吸われているのか波の音は案外聞こえない。ジョウイは返事をしないフーロンの方に身体を向けた。 「フーロン? 」 砂のきしむ音がしてフーロンが身体を屈めてゆくのが見えた。その音に混じって何か呟いているのが聞こえる。 「フーロン、聞こえない。」 「いいよ、二人でまた色んな物を見ようよ。君か僕かどっちかが厭きて嫌になるまで。」 「ありがとう。」 呟くようにそういうとジョウイはまた仰向けになった。疲労が眠気を呼んで瞼が降りてくる。 「よかった。君と・・・・・・君たちと旅をするのは・・・・・・かなり・・・楽しいことだ・・・・・・か・・・ら・・・・・・」 言葉はそのまま規則正しい寝息に変わる。その寝息を聞いてフーロンが身体を起こした。 「・・・・・・ひきょーもん・・・・・・・・・」 泣きそうな目でジョウイの寝顔を見ながら呟く。 「僕に君を切り離すような事が言えるわけがないだろう。君が寂しい思いをするって分かってる選択を選ぶわけがないだろう。」 フーロンはまるでひざまずくかのようにジョウイの横に蹲った。 「言っちゃいけないことを言ったのに。酷いことを言ったのに。ジョウイの卑怯者。どうして謝らせてくれないんだよ。どうして怒らないんだよ・・・・・・」 蹲った姿勢のままフーロンは砂ごとジョウイの髪を握りしめた。 「卑怯者・・・・・・・・・でも、ごめん・・・・・・・・・」 波の音が静かに、静かに響いている。 やがて魔物の城を呼んだ霧も去り、朝日の照らす白い砂浜には健やかな寝息を立てるジョウイと、その横で猫のように蹲って眠るフーロンの姿だけが残っていた。 |
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Fin
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