安達論文「神様は、貴方に何を期待しておられるか」
第1章、科学的真理の中に神様のお振る舞いを探す
(2) 生物の進化システム(1)……遺伝と変異
第2節 生命の誕生と神様
1 生命の進化
[エントロピー原理] 熱力学第2法則と呼ぶ法則がある。エネルギー保存則を熱力学第1法則と呼び、いわゆるエントロピー増大(ポテンシャル減少)の法則のことを熱力学第2法則と呼ぶのである。その熱力学第2法則によると、この宇宙は、自然状態では、全ての事物がポテンシャル(秩序,整然)からエントロピー(無秩序,混沌)へと変化して行く趨勢にあるという。
例を上げて簡単に説明をしておこう。容器の中の水にインクを一滴落とすと、そのインクは、次第に水中に拡散して行き、遂にはインクは、容器の中の水全体に満遍なく溶け広がってしまう。そして、自然状態では、一旦拡散したインクが元の一滴のインクに戻るようなことは決して起らない。その様に、この宇宙には、そうした非可逆的性質があり、それを《エントロピー増大の法則=熱力学第2法則》と呼ぶのである。
[エントロピー原理の逆行=進化] ところで、この宇宙で起っている進化と呼ばれる変化は、どう見ても、そのエントロピー増大の法則に逆行する現象のように思える。生物は、アミーバーのような単純なものから哺乳動物のような高等なものへと進化してきた理(わけ)だが、アミーバーがポテンシャル(秩序,整然)で、哺乳動物がエントロピー(無秩序,混沌)だなどとは、とても考えられない。
人間は、工場を作ってインクを製造している。インク工場では、自然界に高いエントロピー(乱雑,散漫)状態で存在している色素を、一滴のインクに濃縮するという、エントロピー増大の法則に逆行する仕事が行なわれている。即ち、自然状態では、決して元の一滴に戻ることのないインクでも、特別の装置を作って、特段の仕事を施せば、そうしたことも出来る分けである。
[進化のための装置] 神様は、エントロピー増大の法則が支配しているこの宇宙の特定の場所に、種々のメカニックな装置をお作りになった。恒星は、正に元素製造装置であった。惑星もまた、化合物の製造装置であった。そして神様は、この地球上には、更に、生命を誕生させ、それを進化させて行くためのまことに見事な《装置=システム》をお作りになったのである。
神様のお作りになった生物の進化システム(装置)について、簡単に解説をしておこう。学術界では、DNA(デ・オキシ・リボ核酸)の出現をもって、生命の誕生とする。DNAは情報の表象機能であって、それ自体には進化して行く性能など備わってはいない。DNAは自己複製を行う。その自己複製は、生体の発生・成長に当って行われる細胞分裂のときと、生殖細胞を製造する際の細胞分裂のときの、2種類の分裂の際に行なわれている。そして、後者の生殖細胞を作る際のDNAの自己複製が《遺伝》である。
DNAの自己複製は極めて精度が高い。だが、偶(たま)にミスも起る。それが《突然変異》である。突然変異は、宇宙線その他の放射線によるものが殆どだと言われている。突然変異の現れる確立は、人間の場合では、分裂を10万回行って1回くらいだという。
DNAが自己複製を繰り返している。そこに偶(たま)に突然変異が起る。変異したものと元のままのものとの間に《自然選択》の機能が働いて、より優れた生体を製造する技術情報が残り、他が淘汰される。そして、残った優れた技術情報を保持するDNAが、将来に向けて自己複製を続けて行く。それが生物の進化の基本システム(装置)である。即ち、生物の進化システムというのは、DNAという情報を表象し、伝承する機能を基本軸に据えたところの《情報工学的なシステム》なのである。
[進化システムの弁証法(対立物浸透の法則)] この生物の進化システム(装置)は、弁証法的構造になったシステムの典型である。遺伝は同じ物を作り続け、いわば生体の一定の構造をそのまま維持存続し続けようとする機能である。それに対して突然変異は、逆に遺伝子の情報を破壊し、変化させて、生体の一定の構造の維持存続を阻(はば)む機能である。即ち、両者ははっきりと矛盾対立した関係にある機能なのである。そうした、矛盾対立した機能の場合、形式論理によれば、遺伝が進化にとってポジティブな機能なら、突然変異は進化にとってネガティブな機能ということになり、逆に、突然変異が進化にとってポジティブな機能なら、遺伝は進化にとってネガティブな機能ということになる。だが、ヘーゲルが「矛盾はあらゆる運動及び生命性の根源である。矛盾があるが故に衝動が起こり、活動が始まる」と言っているように、この宇宙では、そうした対立矛盾した二つの機能が《場》を共にして働き合う状態になると《対立物の浸透の法則》が働いて、どちらもが合目的な機能になって、そこに、《進化》という価値増加的現象が起り始めるのである。
ダーウィンが『種の起源』を発表したのは、ヘーゲル死後28年も経ってのことであり、遺伝子や突然変異の発見は、更にそれよりも後になってのことであった。即ち、ヘーゲルは、生物の進化システムが、そのように見事な弁証法的構造になっていることは知らなかった分けである。彼は、あくまでも哲学的な演繹論理による推論で、《絶対精神(ヘーゲルは、神様のことを絶対精神と呼んだ)》のお仕事のなさり様として、対立物の止揚(アウフフェーベン)による進化、即ち『弁証法』を喝破し、人々に「矛盾は生命性の根源である」の語を残したのである。前述したように、エンゲルスは『自然弁証法』という遺稿集の中で、ヘーゲルの弁証法には、三っつの要素機能があることを指摘している。《対立物の浸透の法則》《否定の否定の法則》《量から質への転換の法則》の三っつである。遺伝と変異による生物の進化システムは、前段で説明したように、その三っつの法則の中の《対立物の浸透の法則》にピッタリと適合している。
[否定の否定の法則] この生物の進化システムは、もう一つの《否定の否定の法則》にも適合している。遺伝というのは同じ物ばかりを作り続ける機能なのである。だから、若しこの世に突然変異がなく遺伝だけだったら、35億年前に誕生した極く下等なコアセルヴェートのような生物が、今もそのまま生き続けており、生物の進化というような壮大なドラマは、この地球上には起らずじまいだったに違いない。即ち、遺伝はむしろ進化にとっては否定的な機能なのである。そして、その否定的な機能である遺伝の機能を否定破壊するのが突然変異なのである。否定的な機能を否定破壊すると 進化というポジティブな現象が起る。その様に、生物の進化システムというのは、正に《否定の否定の法則》にも適合した機能なのである。エンゲルスは、この否定の否定の法則について「数学で、マイナスにマイナスを乗ずるとプラスになる」ことを上げて、その実際的意味を説明している。
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