もしも、「小田原駅を中心とする中心市街地は駐車場が不足している。商業活性化のためにお堀を埋めたてて大駐車場を造る」という計画が持ち上がったとしたら、市民はとんでもないことだと猛反対するだろう。
ところが、八幡山の県立小田原高校では、〈お堀端の堀を埋めてしまうようなこと〉が行われようとしている。
小田原高校の敷地一帯は、〈覇者の古城の趾に立つ学びの窓〉と同校の校歌にもあるように北条早雲の八幡山古城である。このことは平成7年11月発行の〈『小田原市史』「別編 城郭」図版1‐3‐1八幡山古郭遺構名称図〉に詳しい。
平成16年4月に開校する、県立小田原高校と県立小田原城内高校を統合した県立単位制普通高校の校舎は、小田原高校のグラウンドに建設される計画が進んでいる。
グラウンド外側の道路には、お堀端のお堀に匹敵する空堀が埋まっている。グラウンド内や現校舎の一帯には曲輪(くるわ)などの遺構が埋没している。現に、グラウンドの一角を発掘調査したら、巨大な障子堀が出土した。
県教委が進める計画は、これらの中世城郭遺構を全面的な調査もせずに、校舎を建て半永久的に蓋をしてしまうことと同じで、例えて言えば、お堀端の堀を埋めるような暴挙ではないか。
悔いを千載に残すな
小田原城は、北条時代初期の中世城郭と近世城郭からなる日本最大の城郭である。
小田原城の最高地点に位置する御鐘ノ台(城南中学校裏側)と小田原高校一帯などの中世城郭遺構を保存整備し、近世小田原城とドッキングさせた歴史公園を整備すれば、この歴史遺産は、小田原を末永く潤す一大観光資源となる。
「新しい酒は新しい皮袋に」という箴言に倣い、新しい高校は、歴史遺産を埋め潰す現計画地ではなく、新しい場所に建設すべきではないか。新高校は女子生徒も多くなる。なおさらのこと、山上でなくてもよいのではないか。
今秋には新校舎の設計が発注されるという。悔いを千載に残してはならない。
(日曜日掲載)
歴史的遺産と自然環境
神奈川県の東の古都、鎌倉市は「鎌倉市民憲章」で〈わたくしたちは、鎌倉の歴史的遺産と自然及び生活環境を破壊から守り、責任を持ってこれを後世に伝えます〉と高らかに宣言している。
箱根・芦の湖畔の杉並木の中には、イギリスの貿易商バーニーが1922(大正11)年に立てた石碑がある。
碑面には次のように印されている。
〈西暦1727年中御門天皇享保12年4月倫敦(ロンドン)に於て出版せられたる「ケンピア(ケンペル)」氏著 日本歴史の序文に曰く/本書は隆盛にして強大なる帝国の歴史なり/本書は勇敢にして不屈なる国民の記録なり/其人民は謙譲勤勉敦厚(とんこう)にして其拠れる地は最も天恵に富めり/新旧両街道の會合する此地点に立つ人よ此光栄ある祖国をば更に美しく尊くして卿(けい)等の子孫に傅へられよ/箱根にて 大正11年10月吉日 於 扇港 無外居士書〉
「さらに美しく尊くして子孫に伝えられよ」という文言は、環境保全の原点である。
では、目を県の西の古都、小田原に向けると、わたしたちは、鎌倉市民憲章やバーニーの碑文のような高い理念を持っているだろうか。
もし、お堀を埋めて駐車場にするとしたら
お堀端通りの小田原城二の丸、三の丸のお堀は、国指定史跡・近世小田原城の目玉である。赤い学橋と隅櫓、銅門(あかがねもん)を取り巻く三の丸小学校前のお堀。この景観は貴重な観光資源であり、人々に安らぎを与える共有の財産である。