ジェラシーを少々
著:岡部導彦
図書室の静けさに耐え難い喪失感を味わいながら、増山は静かに椅子を引いて立ち上がった。
約束の時間はとうに過ぎていた。
待ち人の来ない理由は、増山にも察しがついていた。大方、最近忙しく駆け回っている文化祭関連の雑務に違いない。かく言う増山も、去年までは生徒会長として、また文化祭実行委員も兼ね、校内を忙しく動き回っていた人間の一人だった。
この時期の校内は、文化祭を間近に控えた準備で、放課後はどこもいっぱいだった。図書室のみは、放課後に自習をするための生徒に貸し出されてはいたが、そこも文化祭当日には、どこかの文化系部活が展示会場として使うはずである。
或いはまだ……、そう思って増山は踵を返した。
増山が、目指す生徒会室の前に立つと、中から騒がしい声が聞こえて来た。
どうも侃々諤々とやり合っているような騒々しさだ。声の主に、増山が気付かぬはずもなく、一瞬、扉を開けるか否か迷ったが、増山はそのまま扉を開けゆっくりと中に入った。扉を開けると、間断なく機銃掃射のような勢いで言い合う、二人の姿が増山の目に映った。
「だ・か・ら! ダメなものはダメなのよっ! どうしてそれくらいの常識がアンタには無いワケ? 何の為の申し込み制だと思ってるの? こうやって、アンタみたいなバカが生徒会室に押し寄せたら困るから、事前に確認を取って許可を出しているんじゃない。アンタ一人のワガママを許容してたら、他の人たちにも示しが付かないでしょ。ここは学校、集団生活の場所なの。いい加減に、それくらいのこと覚えたら?」
「せやからさっきから言うとるやないかっ! 無理を承知でこっちも頼んでるんや! だいたい、ワシ一人のワガママ言うとるけどな、こらあワシ一人の問題やない! 我がバンド全体の問題や。ひいては、バンドの音楽を聴けなくなるであろう、校内の全生徒、並びに文化祭に来る全ての参加者に取っての、最大の損失になるんやでぇ! そう言うことまで考えて、決定を下してくれ、言うてるんやないかい!」
侃々諤々をしていたのは、増山の予想通りの二人だった。
一人は増山の彼女である、生徒会副会長を務める野田聡子。先ほどから、激しい舌鋒でもって目の前の男をやり込めようとしている。切れ長の瞳が尚更つり上がって、凶悪な様相を示していた。
その野田と向き合って言い争いをしているのは、彼女と同じ一年で、同じ中学の出身らしい原田勇二だった。原田は奇妙な関西弁を喋りながら、野田に噛み付いている。校内でも有名な才媛、そしてまた雄弁家としても知られる野田に対して、後込みする所か、なお激しい調子で言い返している様は、増山の目にそれまでの原田の評価を一新させるべく映っていた。
その二人の近くで、ウンザリしたとも怖じ気付いたとも言えない、一種独特な表情を浮かべながら生徒会長の香西が、止める訳にもいかず、かといって参加することも出来ないまま、二人の様子を代わる代わる眺めていた。
野田と原田が入って来た増山に気付いた様子は無い。唯一、増山の存在に気付いたらしい香西は、軽く頭を下げて増山に挨拶を返した。
「――無理を承知で、ですって? 良く言うわよ。本当に無理な願いだとわかっているなら、こんなバカみたいな話、文化祭を一週間後に控えた忙しい生徒会室に持ち込まないでくれる? アンタ、常識無いにも程があるわ。世の中って言うのは、全て契約によって動いているものなの。あなたがこの学校にいるのも、そう言う契約をしているから。私が生徒会で働いているのも、そう言う契約をしているから。スタジオでバンドの練習が出来るのも、アンタが予約しているから。そうじゃない?」
「契約、契約って固いこと言わんと。同郷のよしみ、ってのもあるやろ」
「アンタに限ってそれはないわね」
「なんでやねん!」
「……お話の途中で悪いんだけど」
その声に、ようやく野田と原田は扉の方へと振り返り、増山の姿を確認した。野田は増山の顔を見ると、あっ、と声を上げバツの悪い顔をして見せた。約束のことを詫びているのだろうと思い、増山はそれに軽く手を挙げて答えた。原田の方はと言えば、増山に明らかに敵意の込めた眼差しを向け、その様子をうかがっていた。
「何の騒ぎだい? 教室の外にまで声が聞こえていたよ」
「ゴメンね。コイツがまたワガママ満載の進言をするもんだから、仕事が片付かなくて。わざわざこっちまで顔を出してくれたのね。ありがとう」
その野田の言葉を聞くと、尚、眼光鋭く、原田は増山に食ってかかった。
「おやおや、逢い引きの邪魔をしてしまったみたいやな、増山はん。そりゃあ悪いことをしましたな。そんな用事があるなら、もっと早う言うてくれたらよかったのに。んなら、話は早い。さっさと許可を出して、この唐変木とどこへでも行きゃあええやろ!」
「だから、許可は出せないの! アンタが諦めれば話は終わりにするわよ!」
「そらアカン。ワシは今日、許可を貰えるまで、テコでもここを動かん覚悟で来てるんやからな。カバンの中には、飯ごう炊飯の道具も揃ってるでぇ」
原田の口元に、嫌みな笑みが浮かぶ。それは野田に向けられていると言うよりは、増山に対して取られたようだ。増山は苦笑を浮かべると、二人に向かって口を開いた。
「……どうも話を統合すると、原田くんのバンドが参加申し込みを、今頃になって行うからその許可が下りない、とこういう風に見えるけど」
「その通りよ。このバカに言ってやってよ。体育館の使用許可なんて、半月も前から埋まっているのに! 今さらこんなことを言い出す奴らがいる? 常識で考えれば、許可なんて降りる訳がないじゃない!」
「ちょっと香西君、体育館の使用状況を見せてもらえるか?」
「あっ、はい。……これです」
一枚の書類を手に取り、香西は増山へと渡した。
「成る程。これを見ると、バンドの演奏は二時半からだね。その前は吹奏学部のコンサートか……。開けるとすれば、ここかな」
「ちょっと、何言ってるのよ! 吹奏学部のコンサートを外せる訳がないでしょう! 毎年の恒例行事よ。それにあそこの部は全国大会にも出てる優秀な部じゃない。コイツのバンドの犠牲になっていい部じゃないのよ!」
「誰も吹奏学部のコンサートを潰すと言っているんじゃないよ。場所を空けてもらうだけさ。いいかい。吹奏学部の演奏は、そうだな……。屋上でする、と言うのはどうかな。青空の下での演奏会、と言う試みも悪くは無いだろう。確か担任は小山先生だったよな。ボクの方からそれとなく、屋上での演奏会を提案してみよう」
「でも、それで納得しますか、吹奏学部が?」
香西が当然のような質問を増山に浴びせた。
「話し方次第だろうな。まっ、うまくいくかわからないけど、それしか方法は無さそうだよ。原田君、どちらにしろ、君のバンドは申請が遅過ぎる。これではどこにも君のバンドを押し入れる場所は無い。いくらこの場で野田と言い争っても無駄さ。ここは一つ、この可能性で納得してもらえないか?」
原田は顔に苦渋の表情を浮かべていた。それは増山には、今の言葉が気に入らないと言うよりは、そこまで言われては納得するしか無い、それ故の苦渋のように取れた。どちらにしろ、原田は増山にうう、とかああ、とか言う曖昧な返事をして、すごすごと生徒会室を後にした。
増山は一息ついたところで、野田を連れ出すか、香西を追い出すかどちらにした方が良いのか、そんなことを漠然と考えながら野田の隣の席に腰を下ろすと、やおら、野田がその口を開いた。
「もう! まったくもって気に入らないわね! 何だって、アイツのために懐柔策を提案しなきゃならないのよ。そんな甘やかすような態度で接していたら、アイツを調子付かせるだけなのよ! もう少し、世間の厳しさとか、常識だとかをキッチリと教えてやらないと! アイツ、あのままじゃ、本当にろくな大人にならないわよ!」
キッと開かれた双眸が、自分へと向けられていることに気付くのに、増山はしばらく時間がかかった。
「えっ? 俺?」
「そうよ。何だって、ああ言うことするの? ダメなものは、ダメだって教えてやらないと。これであなたの案が採用されれば、アイツらは簡単に出場枠を貰えることになるじゃない。……あなたのことだから、うまく立ち回って、きっと採用されるようにするんでしょうし」
愚弄とも賞賛とも付かない言葉で野田はそう結んだ。
野田のそうした態度は、増山に若干の危惧感を抱かせていた。それが杞憂に過ぎないであろうことは、或いは確信めいて判断していた増山ではあったが、だが同時に一抹の不安が胸を過ぎっていることは事実であった。
「――過保護過ぎるのは良くないってこと?」
「そうよ。何であそこまで甘やかさなきゃいけないの?」
「別に意味はないさ。はっきり言って、原田がどこで何をしようが、俺には興味も関心もないよ。でも俺の目の前で君と話をしているのは、はっきり言って不快だね。一秒でも早く、この部屋を出ていってもらいたかっただけだよ」
机に座って腕組みをする増山の横で、生徒会長の香西は居心地の悪そうな表情を浮かべる。暗に出て行けと語るような増山の言葉は、香西に取っても確実に機能していたようで、それじゃ、ボクはそろそろ……、などと言う逃げ腰の言葉を告げると、そそくさと生徒会室を後にした。
二人を残したまま、生徒会室には異様な空気が立ちこめていた。それは最後に言葉を発した増山の、その余韻がいつまでも停滞しているようで、増山自身、二の句を告ぐのに躊躇していた。野田がその影響を受けて口を噤んでいるのか、そこまでは増山にもわからなかったが、野田の口が開かないのもまた事実であった。
「――今の答えじゃ納得出来ない?」
ついに、増山が耐え切れずに口を開いた。室内に鬱積した沈黙を払拭するには、その言葉はあまりに陳腐で安っぽかったが、増山にはこの程度の言葉しか思い付かなかった。確かに増山には、先の発言がちょっとした失言だったこと、感情的な発言になってしまっていたことを、意識しないではいられなかったが、それを認めて繕うような真似こそ、増山には出来なかった。だから言葉は、その前の野田の発言に合わせて、とにかく室内に音を発生させたかったのだ。
だが、野田は増山のその言葉を聞くと、ゆっくりと振り向いて顔を上げた。
増山は、意外な野田の表情を見た。
野田は真理の道を究めた者が見る、悦楽の園へでも辿り着いたかのような、会心の笑みを浮かべて増山の顔を見つめているのだ。感極まるとでも言いたげなその表情は、増山にはまったく見覚えのない、見慣れない野田の一面であった。
「――何だよ」
「増山君、それはもしかすると『ジェラシー』と呼ばれる現象ではないかね。日本語で言うなれば『焼き餅』と言うことになる。どうかね?」
野田の、人を食ったようなその言葉は、増山に要らぬ自尊心を湧かせる言葉であった。
「違うね。君が好きか否か、と言うのはこの場では問題じゃないんだ。この場合の問題点は、俺が原田の話を聞きたくない、と言う点に尽きると思うよ」
「そっちが本音なの? 本当に?」
「しつこいなあ。本当だよ」
「その割には、ずいぶんと丁寧に扱っていたじゃない」
「それこそ、『ジェラシー説』を否定するものじゃないか。本当に焼き餅を焼いていたのだとすれば、原田に対する対応も自然と厳しいものになる。しかし俺はそうはならなかった。それはつまり、まだ冷静さを失っていなかった、と言うことを証明するじゃないか。つまりは、いかに原田を都合良く追い払うか、ボクがそう考えていたと言う説を後押しする事実だ」
二人きりの生徒会室も、この二人ではラブロマンスへと進展する気配は無い。野田は机の上に乗った書類を片付け始め、増山は椅子から立ち上がると、窓の方へと歩み寄った。
窓の外は焼けるような夕日が、ビルの谷に沈み行こうとしていた。強烈な西日が増山の両目を射る。だが増山は、まるで自身を試そうとでもするかのように、その夕日へとじっと視線を注いだまま、その視線を外そうとはしなかった。
「何してるのよ」
後ろから目隠しをされると、増山は目を閉じた。
瞼の裏側には、照り付けた夕日の残滓が張り付いていた。
「……何でもないよ」
野田の言葉が、どこか無機質なものに感じられ、増山はもう一度瞳を閉じた。
増山は窓を押し広げ、外気を取り入れた。そろそろ十月も終わろうかと言う頃合いだったが、予想以上に風は冷たくなかった。今年も暖冬だと言う気象庁の長期予報も、満更でも無いようだと思い、増山はそのまま窓を開け放したままにした。
「『焼き餅』って……」
机の上の書類を片付け終えたらしい野田が、おもむろに口を開いた。
「何だよ、まだその話か。割合としつこいね、君も」
「そうじゃなくて。『焼き餅』って、こう怒って嫉妬している様が、まるで餅を膨らませたように見えるから、膨らませた頬と膨らんだ餅を合わせた言葉よね」
「ああ、俗説ではそうだね。詳しい定説は聞いたことはないけれど」
「でも、あなたは別に頬を膨らませてなかったものね」
「……だから?」
「別に。ただ『焼き餅』じゃないんだなー、って。そう思ったのよ」
野田がバックを持って立ち上がった。
「窓締めて。駅前のマックにでも行こ。私、喉が乾いちゃった」
「ああ、そうだな」
野田の背中を見つめながら、増山は生徒会室の窓をゆっくりと閉めた。
予想出来ると言えばそれまでの話ではあるが、増山はシェイクを乗せたトレイを持ちながら、そのまま身を翻そうかとした瞬間、二階にいた人物と目が合ってしまい、避けようのない気まずさを感じてしまった。
「なに? 早く行ってよ」
後ろから来た野田にせっつかれ、仕方なくフロアの奥へと移動する増山に、憎たらしげな原田の声がかかった。
「おや、お二人さん。こんなところで会うとは、奇遇でんなあ」
「ゲッ、原田!」
後ろから来た野田が、呻くような声でその名を呼んだ。
増山は諦め、出来る限り遠い席に座ろうと、窓際の空いている席へと急いだ。その席へとトレイを置き、椅子を引いた増山であったが、野田は階段付近に留まったまま、原田への先制攻撃を開始する。
「あら、こんなところで作戦会議? 進歩しないわね、アンタも。まっ、作戦失敗を仲間と悔いるがいいわ。どっちにしろ、アンタの命運は増山の手にかかってるんですから」
おーほほほほ、と高らかな笑い声さえ出なかったものの、野田の嘲笑は原田以外の人間の目をも引いていた。原田と同席しているのは、野田の話しぶりから増山にはバンドのメンバーのように見えた。
「うっさいねん! どうせ、増山はんは外交手腕でも鳴らした生徒会長さんやからな。やると約束してくれたからには、キッチリわしらのバンドを出場させてくれるやろ。せやな、増山はん! 男に二言は無いもんな!」
原田の勝手な叫びに、増山は辟易したような表情で頷いて見せた。どちらにしろ、増山から言い出したことではあったし、言い出してしまった以上、原田は絶対に諦めないだろう。増山は吹奏学部の担任とは懇意にしていたので、はっきり言えばさほどの苦もなく受け入れられることは、想像に難くなかった。
「な〜んで、アンタのために増山がそんなことしなきゃいけないのよ! そもそも、アンタらがきちんと申請の期日を守らないのが行けないんでしょう! そんなつまんない用件のために、増山の貴重な時間を割かないで頂戴! 我が校一の秀才に、不遜を言うにも程があるわ!」
野田の咆吼に、フロア全体が静まり返ったような感覚すら増山は覚えた。原田のテーブルに同席しているメンバーも、口を開けて野田を見つめている。ただ一人、このフロアで黙ろうとしていないのは、その相手を務める原田であった。
「貴重な時間? こうやってマックに来て遊んでる時間があるんやから、わしらのバンドを救う時間くらいはあるやろ。なっ、増山はん!」
仕方なく、増山はしっかりと頷き返し、まだ言い足りない風体の野田を引っ張り席に着かせた。これ以上、無駄な時間を過ごしたくないのは、増山も同感であった。しかし離れた席が幸いしてか、引き離してしまえば野田も案外と大人しく、増山の向かいの席へと腰を下ろした。
「放っておけよ。いちいち相手をするから、うるさいんだろ」
「だって、見ていて何か腹が立つのよ、アイツ。やること成すこと中途半端だし、口バッカしで、全然中身が伴わないんだもん。中学の頃から見てるから、余計にムカツクのよね」
その言葉に、増山は言いようの無い焦燥感を抱いた。先ほどから増山の胸に湧く苛立ちの正体は、やはり増山が認めたがらないもの、野田が指摘した通りのもの、そうであるが故に、増山はそれを断ち切ろうと黙殺した。
「進歩の無い人間に構うことはないさ。ホラ、これでも飲んで」
増山の手から差し出されたシェイクを、野田は未だ納得のいかないような顔で受け取ると、そのまま口へと運んだ。そうした一連の動作を見つめながら、増山は内に抱いている稚気めいた苛立ちをゆっくりと沈静化させて行く。
「……でもさ、やっぱりそれっぽいよね」
「なにが」
「あなたの態度」
「俺の態度?」
「そう。『焼き餅』」
「そう来ますか……」
またぞろ、会話が自らの意図とは外れて、思わしくない方向へと進み始める気配に、増山は苦虫を噛み潰したような表情を浮かべた。そして、それに追い打ちをかけるかのような声が、増山の後ろから突如、湧き出して来た。
「なんや、増山はん。焼き餅やいてるんかいな、わいに! そらまあ、ワシはこの高校じゃナンバー1の伊達男やから、オマエさんが焼き餅やくんも無理ないわ! いっつ、この野田嬢を取られはしないか、と冷や汗もんやろ! ワシとは中学時代からの付き合いもあることやし、アンタの知らない野田情報も、ふんだんに揃えてるでぇ。例えば、中学ん時に野田が好きやった男の話とか……」
「原田!」
突如として現れた原田の姿に唖然とする間もないまま、増山は原田の話に引き込まれ、その続きを期待していたのだが、野田の怒声一過、さすがの原田も口を噤んでしまったので、増山は聞きたかった話を永遠に耳にすることも無く、この高校を去るのであった……。
「余計な話を持ち出すんじゃないわよ! だいたい、アンタどっから沸き出して来たの! ちょっと油断すると、どこからともなく現れて。人の話を盗み聞きしないでくれる!」
「盗み聞きなんてしてない、っちゅーねん。たまたまトイレがこっちにあるさかいに、この席の隣を通ったら、何やら増山はんがワシに焼き餅焼いてる言うからな、こりゃ、捨ておけん! 思うてこうして話に参加させてもらっとるんやないか」
「捨てておけばいいの! 何でもかんでも話に加わりたがるなんて、アイツの癖が伝染ったんじゃないの!」
テーブルの脇で立ち止まっていた原田に合わせるかのように、野田もいつの間にか立ち上がって大きな声を張り上げていた。
「餅と言えば……」
「――なに?」
未だ対峙した視線を外さぬまま、野田は増山の呟きに答えた。
「関西と関東って、餅の形が違うよね。ホラ、丸餅と角餅」
「ああ、そうね。まあ、わりと東西で文化は別れているから」
野田は気のない様子で、増山の言葉に対応した。
「でも餅ってその顕著な例だよ。同じ餅なのに、歴然と形が違う。ご飯はやっぱり、どこで食べてもご飯だろ? 肉じゃがだって、焼き肉だって、形が違うってことは無いじゃん。この違いは大きいと思う」
「別に焼き餅に形は関係無いやろ。どんな餅かて、焼けば膨れるんやから」
原田のもっともな言葉に、だが野田は敢えて無視をするかのような素振りでそのまま席に座ると、増山の話を聞く体制に戻る。増山はそれを確認すると、再び口を開いた。
「今、野田も言った通りに、形の違いはそのまま文化の差異を意味する。理由もなく、同じ食べ物が形を変えるなんてことは有り得ない。同じ小麦粉を使った料理でもある国ではパンになり、またある国ではナンになる。ピザになる国もあれば、タコスになったりもする。同じパンであったとしても、イギリスパンやフランスパンはまったく形状が違う。国によって形が違うのは、生産性の差異もあるだろうが、やはり文化的な差異があるからこそ、それが根付いていったんだと思う」
「餅は本来、丸餅やろ」
原田が立ったまま、腕組みをして答えた。
「鏡餅も丸いもんね」
「そう。鏡餅って言うのは、神様にお供えする神聖な食べ物さ。それを模したのが丸餅。だから本来的にはこちらが正しい。ただそれが関東以北に到ると角餅、切り餅になってしまう。これは丸と言う形状を簡略化した結果だ」
「でも丸を簡略化して、四角にすると言うのも何だか歯切れが悪いわ」
「もちろん、それだけでは無いだろう。つまりは、関西で出来た餅を関東などに移送する際に、丸餅よりも角餅の方が移送がし易い、なんて言うことも考えられるだろうね。都が関東に移ったのなんて、歴史的に見れば極めて新しい。商業・文化の発展地である関西から、食料が輸送されていたとしても不思議はないし、餅が携帯に優れ日持ちする食料であったことも否定できない」
「それじゃ、本来は関西で出来た餅が、関東に渡る際に簡略化されて入って来たの? 何だか説得力の無い説だわ。だいたい農耕をしている地域なら、自分たちで餅をついたと考える方が自然じゃないかしら。そう考えれば、関西から移動する際に角餅になったと言うのは、どこか釈然としない。もっと他に理由が考えられそうな気がするけれど」
「俺が言っているのは、平安時代とか室町時代とか、そのレベルの時代を言っているんじゃないよ。稲作が日本に伝えられただろう、弥生時代の話をしているんだ。もちろん、弥生人は渡来人で、源日本人ではない。つまりは九州地方から段々と日本列島を北上して行くんだ。その課程で稲作が伝わる訳だけれど、稲作とともにそれらを祝う行事と言うのも、同時に広められたはずだ。その中で、新年を祝う行事、鏡餅を飾ると言うのも伝えられたんじゃないかな」
「あらら、そないなことを言い出すんかい? 増山はんともあろう人が」
「……何だい?」
急に割り込んで来た原田の横槍に、増山は表面上は変化無く応対する。
「鏡餅っちゅーのは、比較的新しい行事なんやろ。少なくても歴史で確認されているのは、『元禄年鑑』に載っている丸餅と角餅の重ねられた絵が残っているくらいで。だから歴史的見地に立って見るなら、元禄以後と言うのが通説やないか」
「それは違うわ」
黙って話を聞いていられない原田に、野田は痛烈なカウンターを見舞う。当然、面白くなさそうな顔で原田の視線が飛ぶが、野田がそれを気にしている感じは無い。
「確か『源氏物語』にも鏡餅みたいなものがあったはずよ。鏡餅とは呼んでなかったかも知れないけど。確かあれは……。「もちひかがみ」って言ってたかな。固いものを噛んで、健康を祝う『歯固め』とか言う行事じゃなかった?」
「『もちひかがみ』はあくまで新年を祝う上での餅や。餅ではあるけれど、鏡餅とは違うやろ。鏡餅は今では固くなって、それを鏡開きで雑煮などにして食べるから、そうした発想も出来るやろけど、鏡餅が歯固めになるんは、平安末期や」
否定的な原田の言葉に、だが野田はにやりと薄ら笑いを浮かべて答えた。
「あらあら、破綻してるわね。鏡餅は元禄以降、と言ってたのに、平安末期に鏡餅があったことを認めてる。論理の破綻ね」
思わず言葉の詰まった原田を見て、増山はおもむろに口を開いた。
「確かに、元禄以降と言う通説もあるし、野田の言う『歯固め』から鏡餅が平安時代にあったと言う説もある。けれど、文章に残っていないからと言って、それが存在していなかったと言うのは間違いだと思うよ。鏡餅がどうして鏡餅なのか? それは丸餅が鏡を現しているから。では神に捧げるべき貴い食料を、なぜ鏡に模さなければならないのか? それは鏡が、神聖視されていたから。鏡を神聖視するのは、極めて古い発想だとは思わないかい? 平安・江戸期に出来たとするのは、少し無理があるよ。あまりに巷間に広まっていたので、改めて文章に残す必要もなかった。それくらいに鏡餅と言うのは、古い発生なんじゃないかな」
「……成る程ね。それで弥生期、稲作と同時期に餅も伝わったんじゃないのか、そう言うのね。でも移動しながら餅を運ぶから角餅に移行した、と言うのはどこかこじつけが過ぎるんじゃない? それなら運んでいたうちに、角が取れて丸くなった、って言われた方が納得が行くわ。だいたい、角餅と丸餅でそんなに持ち運びに影響する形でもないでしょう? それなら、形を変えたくらいで軽くなる訳でもないでしょうに。それに作ってから移動するより、移動した場所で作った方がいいじゃない。どうしてそんな面倒なことをしなければいけないのよ」
「君はあまり物事を考えないで喋ってるだろ? 悪い癖だ。いいかい? 渡来人は日本列島を熟知していた訳ではないんだ。現代人の俺達と同様に考えてはいけないんだよ。『魏志倭人伝』の記載する日本列島すら、まったく正しくはないんだ。渡来人が列島の地理を知りうるはずが無い。この先がどうなっているのか、農耕に適した土地なのか、それとも見果てぬ海に辿り着いてしまうのか、そうしたことは渡来人にはわかるはずも無い。そう言った状況下で新天地を目指して行くとすれば、そこに食料を持参すると言うのも当然のことだろう。しかも餅は、携帯に便利で食べやすく、日持ちもする。あの時代としては最高の携帯食料じゃないか。それに丸餅よりも角餅の方が携帯しやすいのは自明の理だ。渡来人は縄で括ってか、袋に入れて持ち歩いただろうから、重ねやすい角餅が移動に適しているのさ。そう言えば『元禄年鑑』に載っていた鏡餅も、角餅が下になっていなかったっけ?」
「そないなもん、覚えとらんわ」
原田がぶっきらぼうに答えた。
「ともかく。詰め込みやすい角餅と言うのが、移送に適していると言うのは事実さ。確かに丸餅でも支障はなかったかもしれない。事実、辿り着いた土地では丸餅を作ったかもしれない。だが再び移動する際に、やはり角餅を持って行ったことだろう。近畿地方までは、当時の日本でも栄えていただろうから、或いはそれは見果てぬ大陸への冒険ではなかったかも知れない。だが近畿より先は、国らしい国の無い未開拓地だ。その旅程の度に、やはり渡来人は角餅を持って臨んだことだろう。そうして繰り返される中で、関東以北に住んでいた原住民が、初めて餅を見た時の形と言うのが、常に角餅であっただろう事実は揺るがない。そうだからこそ、関東では角餅が定着したんだと俺は思うね」
「――せやけど、おかしいなあ」
再び口を挟むのは原田だった。増山は何気ない風を装いながら、その不躾な原田の視線を受け止める。
「弥生期に本邦にもたらされた米は、うるち米やろ? 餅米の流入は、弥生期以降と言うのが定説やないか。オマエさんの話を聞いていると、そこらへんのことがどうもおざなりにされてるみたいやけど」
「定説はあくまでも定説だよ。座りがいい説かも知れないけど、真実だとは限らない」
「そんなら古墳から発掘されるんが、蒸籠(せいろ)や甑(こしき)のみ言うんはどう説明するんや」
増山は、やはりこの原田と言う男を、ただの変人としてしか見てはいなかったのかも知れない。彼の口から繰り出される質問は、どれも極めて的を得た質問で、その背景にしっかりとした歴史理解があることも窺える。決して、ただの賑やかし的存在ではないようだった。野田との口論にそう簡単に屈しないのも、それはただの屁理屈ではなしに構築された彼なりの理論を持ってして対処しているからなのではないか、増山はそう判断を改めずにはいられなかった。
「……確かに、そう言う事実があるのは知っている。しかし中国では漢代(紀元前二百年頃)の文献『礼記』や『説文』において、『粘る稲』についての説明がある。これは明らかに餅米のことだろう。『稲』と言う字が餅米を指すと言う説もあるくらいだ。弥生期に日本に来た渡来人が、うるち米のみを持ち込んだとは、とうてい思えない」
「それはあくまで、中国での話やないか。仮説の上に仮説を構築すんのは止めてもらおか。ワシはな、もし稲作期にうるち米と餅米が同時に伝わっていたなら、なぜ遺跡から臼やら杵なんかが出て来んのや、言うてんねん」
「それはやはりうるち米と餅米では、生産量に格段の差があったからだろう。餅はその収穫量の少なさから、貴重な食べ物としての餅を生んだんだ。もちろん、大量に餅を搗くこともないから、臼や杵と言った道具もまだ出来てはいなかった」
最後の説明に納得したのか、原田は成る程、一理あるなと呟いて考え込んでしまう。その時を待っていたかのように、今度は野田が悠然と口を開いた。何かしら、確信めいた思いを秘めているらしい野田は、頬を少し紅く染め、議論に熱中しているのは火を見るより明らかだった。そんな野田の顔を、増山は愛おしげに見つめる。
「――それじゃ質問を変えるわ。丸餅の方が作りやすいじゃない」
「えっ?」
「角餅。今は問題無いけれど、昔は作り辛かったと思うわ。ついた餅を丸めるのは簡単だけど、四角くするのはかなり面倒なはずよね。もちろん、それが移送の際に重要な事だとすれば、そうすることも有り得るだろうけど。でも積み込み易さと作り難さ、どちらが特出しているか考えるなら、作り辛い方がそうなんじゃないかしら? それなら、多少積み込む量が減ったとしても、私なら丸餅を担いで行くけど」
「確かにそうやなあ」
立ったままで、原田が野田の意見を後押しする。
「型なんかを使って作る時代もあったけれど、あなたの言っているのは弥生時代ですもの。当然、そんな道具はなかったわよね。だいたい、そんな道具を作るヒマがあるなら、丸餅でも十分よ。うちのおばあちゃんは関東の人だけど、家で餅を作る時はやっぱり丸餅よ。どうしてかわかるわよね? その方が簡単だからよ。餅つき大会で出される餅も、やっぱり丸だわ。それは関東でも一緒だと思う。子供が泥団子を作るとき、やっぱり団子を丸めるでしょ。粘土とかでもそうよね。あれは、団子が丸いから丸めているんじゃなくて、ものを丸めようとする行為と言うのは、人間の自然な行動なんじゃないか、って気が私はするわ。結局のところ、角餅を作るのはとても面倒な作業なの。どうしてそれが『簡略化』なのか、私にはそこがどうしても納得出来ない。簡略化すると言うのなら、角餅から丸餅にするでしょ。丸餅から角餅じゃ、簡略してることにならないじゃない」
「ああ……」
「それともう一つ、私が気になっているのが、その『渡来人よりもたらされた』と言う部分なの。弥生人は渡来人で、稲作を日本に持ち込み、それと同時に祝うための行事も伝えられた、ってあなた言ったわよね。でも中国には新年に餅を飾るような習慣は残っていないわ。確かに、新年に餅を搗いて食べる風習は残ってる。でも、飾ると言うのは無い。しかも鏡餅と言う形態を取るものは皆無だわ。つまりそれは、伝えられた、と言う説を根本から覆すものじゃない? 鏡餅に代表される新年行事は、極めて日本的なものなのよ」
増山には、野田が既にそれなりの理論を構築しているだろうことは、予想していた。話し方があまりに確信的に聞こえていたし、それ以上に自説を展開させる前の地均しとでも言うような議論の展開が、増山の思いを強くしていた。
「……なら聞くけれど、君は丸餅と角餅の違いを、どう分析するんだ?」
「ズバリ、日本国旗ね!」
そう言うと野田は、またも会心の笑みを浮かべて見せた。
「日本国旗? 日の丸のことか?」
「そう。日の丸は中央部に赤い丸、そして国旗自体は白い四角をしている。つまり、丸餅と角餅は日の丸を模した訳よ」
「……日の丸が国旗になったのは、つい最近の話じゃないか」
「――そら正式に、っちゅー各個書きが必要な話やな。確か一九三一年にも国旗の規定を認定しよう、とした動きがあったけども、会期切れ審議未了で終わっとったな。同時期に『国旗記念日』制定の動きもあったはずやったけど、そっちもうやむやのまんま終わったはずや」
原田はいつの間にか、増山の隣の席にどっかりと腰を下ろしてしまっていた。普段の野田なら癇癪の一つでも起こしそうな原田の不遜な行動だが、自らの援護射撃ともなった原田の言葉に頷いたのみだった。
「確かに『国旗国歌法案』が正式に可決されたのは、一九九九年のことだわ。でも国会審議を待つまでも無く、日本は昔から『日の丸』を国旗として愛用していた」
「せや。確か日の丸を国旗として認める動きは、江戸幕府にまで遡るんやなかったか? 幕府に対して、薩摩藩主の島津が船の目印に、言うて認めさせたんや。列強各国は当時既に日本近海に現れとったし、その船がみんなそれぞれの国の旗を下げてたんも影響しとったんやと思うでぇ」
「そうね。他国の船と見間違わないために、この時期の国旗制定は必須だったはずよ。でもまあ、幕府は確かのらりくらりとして、なかなか許可を与えなかったらしいけど」
その野田の話しぶりは、御上はいつの時代も変わらない、と言いたげな批判めいたものだった。しかし増山には、野田の論旨が未だに伝わって来なかった。
「――それで、それが餅とどう関係して来るんだい?」
増山の、苛立ちを押さえたような言葉は、ただ野田の相好を崩す役にしか立たなかった。にやりと口元に笑みを浮かべた野田の表情は、答えを出し惜しみする名探偵さながらに、憎たらしげなものだった。
「『日の丸』が何を表現しているかわかる?」
今や議論のイニシアチブは完全に野田に掌握されていた。野田の笑みを浮かべながら発せられた質問を受けると、増山はまるで自分が出来の悪い生徒にでもなった気分であった。もっとも校内一の秀才と呼ばれる増山に、こうした態度を取るような教師は今までに一人としていなかったのだが。
「そりゃあ、日の丸は日出づる国である日本の、その日の出を表しているんだろ。一番最初に日の昇る国と言うのを、キャッチコピーにしているんだから」
「そうよね。つまりはその概念自体は、もっと昔からあった訳じゃない。それなら鏡餅や、餅に代表される東西の形の違いが、それら概念的なものの影響を受けているだろう予測を、否定するだけの根拠は無いわね」
野田が断言するかのようにそう言って増山を見た。
野田の結論は、既に提示されている。『東西における餅の形状の違いは、国旗である日の丸に由来する』。そうした結論を提示して置いて、野田はゆるゆるとその答えへ到る課程を説明しようと言うのだ。増山が国旗の制定が近年である、と言ってその論を退けようとするであろうことも、野田には既に承知の事であったのかも知れない。
「……考えても見ると、そんだけ長い間正式な決定も無しに国旗として使えていた、言うんもおかしな話ではあるわな。普通は、もっと早う決めておかなアカンことやろうし。それを許容できたのは、まあ日本人的な要素もたぶんにはあったんやろうけど、それ以上に『日の丸』と言う旗に、日本人が愛着を持っていた、或いは違和感を感じなかった、と言うことも考えられそうな気もするなあ。それが、野田が言う概念的な問題? なんやろうけど」
原田が、増山の横で腕組みをしながらゆらゆらと自分の感想を述べた。
「そう。もし本当に日の丸が国旗に相応しく無いのなら、もっと前からそれに対する反対が起きたでしょう。それが起こらなかったのは、やっぱり『日の丸』と言う印が、日本人には馴染み深いものであったことの証なのかもしれないわね。『国旗国歌法案』を見てもわかるけれど、国歌としての『君が代』はかなりの物議を醸していたけれど、『日の丸』の方はと言えば、大した反対意見も出なかった。せいぜいが、第二次大戦・軍国主義の残滓が感じられる、と言う程度のものなの。はっきり言って、ほとんどの人が抵抗無く、日の丸を受け入れられるのは事実としてあるわね」
黙って原田と野田の意見を聞いていた増山は、おもむろに口を開いた。
「……その概念的な問題としての『日の丸』は認めない訳にはいかないね。確かにデザインとしての日の丸と言うのは、相当に古くから伝わっているものだ。今思い出したけれど、屋島合戦のおり、あの那須与一が射落とした扇に、確か紅色の日輪が描かれていたはずだ。戦国時代には、上杉謙信や伊達政宗、武田勝頼と言った武将が、日輪を旗指物や馬標などに用いていた。それに豊臣秀吉が南蛮貿易をした際の朱印船にも、日の丸は使われていたはずだ。もちろん、これらは全て正式に国旗としての採用ではないけれど、日の丸、日輪と言う意匠が古くから人々の目に慣れた代物であることは疑えない」
「――いきなり、よくもまあそんだけ出て来るもんやなあ」
横で原田が呆れ顔でそう言った。だが増山は構わずに続ける。
「少なくても国旗成立が近年であると言う理由で、君の論を退けることは出来ないな」
「なんや、自分で自分の首を絞めてるだけのような気がすんのは、ワシだけなんかな、増山はん?」
「別に、俺は自らの間違いを自分で正せる、それだけのことさ」
増山はさらりとそれだけ言うと、野田に先を促すような視線を送る。野田はその視線を受けると、廊下に投げ出すように組んでいた足を組み替え、悠然と語り出した。
「増山、あなたさっき『鏡餅は鏡を模した』って言ったわよね。……鏡餅が鏡を模している、と言うのはその通りだと思うわ。でもそれではなぜ鏡は、そして発掘される銅鏡の多くが円形をしているのかと言えば、それは光を反射するもの、そこから太陽を連想させるからに他ならないと思う。つまり、神に捧げるべき鏡餅は、太陽を模したものであると言えるのね。太陽神が多くの国で登場するのは、当然日本においても別ではないわ。概念として、太陽は恵みの象徴でもあるのだから。だからさっき増山が、『鏡が神聖視されていた』と言ったけど、鏡自体が神の模造品であるからこそ、そうした崇拝に繋がったんじゃないかしら」
野田が先ほどから『概念』と言う言葉を繰り返すことに、増山は少し引っかかっていた。東西で餅の形状が異なることに、果たして概念的な問題が絡んで来るのだろうか? 増山は先送りにされている野田の心意を危ぶみ始めていた。
「成る程。そうなると『天照大神』ってことになるんか? 日本神話に名を残す太陽神と言えば、それくらいしか思い出せへんもんな」
「天照大神に代表されるように、日本人は古くから『日』に対して敬意、崇拝を払っていたのよ。ところで増山。あなた、自分の名前の意味を知ってる?」
突然、何の関連も無さそうな話を向けられ、増山は少し答えを窮した。
「名前の意味? どういうことだよ」
「増山克彦。これがあなたのフルネームよね。さて『克彦』だけど、字義から言うとどういう意味になるのかしら?」
「……『彦』は確か、男性神を意味する言葉だったよな。彦星とかって言って。だから克は克己の克だから、神を越えるべき男、とでも言おうか」
「――よくもま、自分の名前をそこまで好意的に受け止められるな。神を越えるべき男やて? 笑かしよるなあ」
原田の揶揄するような言葉にも、増山は気にした素振りを見せない。
「さすがに、詳しいわね。でも『彦』について、もう少し掘り下げることが出来るんじゃない?」
「……さあ、どういう意味だい? 男性神を意味する、ってくらいの知識しか、生憎と持ち合わせてはいないね」
「――そもそも『OO彦』ってのは『日の子』を意味しているのよ。あなたが言った通りに、彦が男性神を表しているのは事実。それの語彙が『日の子』であると言うのは、『天照大神』に見る太陽を神と崇める信仰が、そのまま字に現れたと見ることが出来るんじゃない? 蛇足だけど、『OO姫』って言うのは『日の女』って意味よ」
「――それで、どうなるんや?」
「日を崇拝するのは、農耕を行うようようになって、ことさらに強くなった概念でしょう。農業に携わる人々にとって、自分たちの努力ではどうにもならないのが天候だもの。弥生期の農業において、天候の有無はそのまま生死に関わる問題だったの。鏡餅は稲の神に対して供えられるものらしいけど、同時に太陽神に対する祈りも込められていたのでしょう。だからこそ、その形は鏡になったのだと思うわ。
その鏡の形状を受け継ぐのが、関西地方に残る丸餅よね。つまり餅としてはこの形の方が自然な形と言えるわ。問題なのは、どうして関東以北には角餅が伝わっているのか、と言うこと。これを『日の丸』の概念を用いて考えるわよ。丸餅=日輪だとすると、丸餅と言うのは、言い換えれば鏡餅と言うのは原始的太陽神に対する信仰と言える訳よ。信仰の対象としてはかなり古いものなの。それに対して、関東以北に現れる角餅は鏡餅のような太陽神を崇めるためのものではない。それはその形状の違いからも明かよね」
二人の顔を見比べながら、野田は話を続ける。その野田の視線が、まるで二人を試すようなものに感じられ、増山は野田の話を理解しようと、その言葉を何度も頭の中で繰り返した。
「――つまりは、関東関西の餅の形状の違いは、そのまま信仰対象の違いが原因である、と君は言いたいんだね?」
「ご明察。その通りよ」
「はあ、わかり辛い物言いやな。んで、丸餅の対象が太陽神であることはわかったけど、んなら角餅ってのは、何を信仰の対象としとんねん。それがわからなけりゃ、今の話も意味ないでぇ」
原田の当然の言葉にも、野田は含み笑いをこぼしながら返す。
「そこで、ようやく日の丸と繋がるんじゃない」
「日の丸と……。それは、関東以北の角餅と言う形状の変化は、信仰対象としての天皇である、と言うことか?」
増山の飛躍した推論に、原田は驚き、そしてその解答を求めるように野田の顔を振り返る。増山も解答を得ようと野田の面白がってるその視線と、自身の視線を重ねる。野田の口元に浮かぶ笑みは継続されたまま、増山へと口を開いた。
「またまた正解。増山には三点あげるわ」
「一発で当てて、三点しかもらわれへんのかいな」
増山にしてみれば、正解を出して三点貰う、と言う発想からして理解できない。貰った点数はどうすればいいのか? 貯めれば何かしら貰えるのか? そうした疑問を口にしようかしまいか、増山が悩んでいる間に野田は正解を解説する。
「今、増山が言った通り、私の考えでは関東以北の餅の形状が角餅であるのは、その信仰対象の変化が原因であると考えてるの。それはすなわち、原生的な太陽神信仰を源とする鏡餅=丸餅から、近年的な現人神としての天皇信仰への移り変わりを示すものであると言えるわ。だから元々はどの地域でも丸餅を、すなわち太陽神信仰を残していたと思う。農耕民族としては当然のことだと思うわ。ところが日本では、近年になって天照大神と言った古代神を超越する神が現れた。当然、天皇のことよ。その天皇が実質的な支配権を取り戻し都に返り咲く、そうした契機が訪れた」
「一八六七年の大政奉還に王政復古やな」
「――その天皇の移動に伴い、関東地方を皮切りに、それ以北の地域で角餅が主流になった。そう言いたいんだね、君は」
「もちろん、それ以外にもいろいろと細かいことはあるの。国旗の日の丸は中央に紅の日輪、そしてそれを白い旗が囲んでいる。これはすなわち、日の丸が太陽を表しているのよね。それじゃ、白地の部分は? それは太陽、天空との対置としての大地を表しているんじゃないかしら? その大地を統べるのが天皇なのだとすれば、太陽神を崇めるべき丸餅に対して、天皇信仰による角餅と言う図柄も承諾できるはずよ。それに明治維新後、日本は急激な西欧化を推し進めたわ。富国強兵が叫ばれた頃、日本では工業化が進んでいた。特に発展したのはやはり関東地方なの。産業の工業化によって製品はより機械化されやすい形状が求められるわ。人が手で作るときに丸い形が作りやすいと言っても、機械にそれが出来ると言う訳じゃない。機械化するなら角餅の方が作りやすいの」
腕時計に目をやりながら、野田は自説を解説する。その野田の様子を見ながら、増山はじっと考えていた。その説はユニークな発想の元に出された新説であることは、増山にもわかっている。しかしそれはキッチリと固められた堅牢強固な論理の元に構築されている、とは言い難かった。その要塞を切り崩すのは増山にとって、なんら難しいことではなかった。或いは、増山が黙っていても、隣に座る似非関西人によって、それは行われるのかもしれない。増山は隣の出方を伺うように、口を開くのを躊躇った。
「オモロイ、おもろいなあ。その野田嬢の説はユニークや。さっき増山はんが言うとった『弥生人伝来説』よりよほど面白い説やないか。それでいて、要所要所はきちっとロジックで固められておる。特に、丸餅が太陽神信仰であると説いた後に、角餅の信仰対象を天皇に求めたのは傑作やな」
だが、増山の思いとは裏腹に、原田の口から漏れた言葉は野田の理論を突き崩すような代物では無かった。だが増山は評価を変えざる得なかった原田に対して、それすらも何かしらの腹案あってのことなのではないかと、訝しまずにはいられなかった。
「あら、原田から誉められると思わなかったわ。増山、あなたはどう思う?」
「……確かに、ユニークな説ではあると思うよ。これだけ短い間に、良くそんな案を思い付いたものだと、感心する思いさ――」
「何だか、『だけど』って続きそうな言い方ね。歯切れが悪いわ」
野田の言うことは紛れもない事実であった。増山はその続きを言おうとしていたのだ。だがそれが原田との共同戦線になるとするのなら、それは増山の望むところではなかった。それよりも、原田が反対尋問に立つのなら、野田との共同戦線を張って、それを撃破する方をこそ望んでいた。増山が歯切れの悪い物言いになったのは、そのせいだと言えるだろう。増山はチラリと、隣に座る原田を盗み見た。
その視線に気付いたのか否か、原田は増山の望み通りに口を開いた。
「別にワシは誉めた訳やないで。ユニークな説や、言うたまでや。今の野田の説は話としては大いに楽しめた。けれど反論を上げようとすれば、それこそ枚挙に暇は無いで。なあ、増山はん? アンタもそれに気付いていたから、口を噤んだんやろ?」
「――どういう意味よ」
野田の剣先の鋭い視線は、だが発せられた原田ではなく、正面で黙り込んでいた増山へと向けられた。少し面を伏せていた増山だったが、その野田の双眸が限りなく険しくなっているだろうことは、経験から察せられた。
「そう言う意味じゃない。野田の意見はなかなか良く出来ている。俺はその説を自分なりに検討していたまでさ。原田が何を言いたいのかは知らないけど、俺は野田の説に反論する意志はないよ」
真っ正面から、増山は野田の視線を受け止めた。真贋を見極めようとするかのような、野田の鋭い視線は瞬きすることもなく増山の瞳に注がれていた。受け止めるには酷な視線だ、増山はそう思った。野田の視線は偽りを許そうとはしない、確固たる意志の元に発せられている。刹那、目を反らした瞬間に跳びかかって来る猛獣の視線だ。それは豹や虎を目の前にし、その視線から逃れずに見つめ合うような勇気を必要としていた。増山には、そこまでの勇気はなかった。
「――言いたいことがあるなら、言えば?」
無機質な声だった。増山に向けられる視線が、燃えるような真摯な眼差しから、絶対零度の睥睨するかのような視線に変わっていた。
「言われへんよな。野田嬢の怒りを買うかもしれん、となればつい口を噤みたくなる気もわかるでぇ、増山はん」
嬉々とした響きで原田が言うのが増山の耳に届く。だがその声がひどく遠くから聞こえてくるかのような錯覚を増山は感じていた。錯覚と、自ら認識できているのなら、まだ自分の感覚は狂ってはいない、増山はそう理論で押し切ると、再び野田の視線と対峙した。見る者を圧迫するような視線だった。増山は意識的にその視線から目を反らさずに、それでいて目の焦点はぼかしたまま話し始めた。
「別に、格段君の意見に反論がある訳じゃない。特に問題はないと思っている。それは事実さ」
「――別に、特に、ね。あなたらしくない、言葉の選択だわ」
揚げ足を取るかのような発言をすると、野田は不意に増山から視線を外した。
「……論理的な矛盾と言うのはさほど無いと思う。でも事実がどうであったか、と言う検証は確かに必要だろうね。富国強兵は大正・昭和になって成果をあげたものだ。明治維新から何十年もたっている。時代的なズレがあるよ、君の説ではね。それに工業化されたのは、何も関東地方のみではない。関西でも多くの都市が工業化の波に晒されていった。工業化と角餅を結び付けるのは横暴じゃないかな。それに国旗が四角いのは万国共通の意識だ。日の丸以外の部分を意図的に四角にした、と見ることは無理だ。国旗が四角いから、角餅と言うのにも無理があるように思うけど」
一息に言ってしまった方が、増山にはかえって楽だった。反論を上げている最中は他のことを考える必要も無い。自分の中にある、安っぽい感情に支配されたり、安易な策を仕掛けようとした蒙昧な自分も見えない。思考の波に陥っているほうが、今の増山には楽なのだ。
「なんや、それじゃ結局、野田嬢説のどこに賛同できる、言うんや?」
原田が、やはり戯けた調子でそう言って来た。
コイツは、意図的にそうやって波乱を起こそうとしているんじゃないか、そう思う増山の疑念はすでに確信へと変わっていた。見た目通りの道化ではない、増山は先にそう気付いていたはずなのに、ここに来てその原田の策にハマってしまったように思えた。その自らが仕掛けようとしていた策に、自ら陥っていることが、ことさら増山には屈辱的だった。それが焦燥感を生んだのか、原田の言葉に増山は慌てて付け足す。
「それぞれの餅に対して、信仰する神の違いを示した部分には、大いに賛同できると思う。とても画期的な説だと思った。これは事実だよ」
「――成る程ね。こ・れ・は・事実だと思ってもいいのね!」
明かな不快感を伴い、野田の発言は室内を震わせた。
その野田の声に、一瞬、白熱した意識で我を忘れた増山が、柄にもなく少し大きな声を出した。
「そうやって揚げ足を取るような真似は止めろよ! 自説が覆されるのが、そんなに屈辱的なのか? いつから君はそんな傲慢な女になったんだ。批判されるのを許せないなら、自説を提示するのを止めることだ」
「――私が言ってるのは、そんなことじゃない!」
再び、野田の双眸が燃え上がるように爆ぜる。増山は正面からその視線を受け止めた。その視線は先ほどまでの挑むような視線とは違い、激しく訴えかけるかのような視線だった。だが……、増山にその視線の違いはわからなかった。増山に映った野田の視線は依然、険しく対峙しづらいものでしかなかった。
「まあまあ、お二人さん」
増山には、そのおざなりにも聞こえる原田の仲裁が、それでも有り難かった。これ以上野田と対峙するのは、増山でも苦痛でしかなく、それは睨み合う野田とて同じであっただろう。
スッと、二人の視線は外れた。
視線が外れる瞬間、野田の口が開きかけたように、増山には見受けられた。だがその口が開くことはなかった。野田は何も言わずに椅子から立ち上がると、そのまま落ち着いた動作でトレイを持ってテーブルを後にした。
増山は追う気にはなれなかった。判然としない気持ちでは、野田には見透かされてしまう。それがわかっていたから、増山は追えなかったのだ。
隣に座る原田の存在が無性に疎ましかった。
原田さえいなければ、こんな話にはならなかったのに。そうしたさもしい、浅ましい考えが脳裏に浮かぶことを、増山は止められずにいた。そう考えてしまう自分がいやだった。このままこうしていれば、その思いに浸食されてしまい、自分が墜ちて行くような不安に苛まれた増山は、ゆらゆらと口を開いた。
「……東西による違いを決定付ける結論は、結局、どちらの説でも構築することは出来なかった。どちらが正しかったか、なんて所詮はわからないことだし、そんなことを言い争うことは無意味だったんだろう。こうした民間レベルの文化の差異を探るには、民族学的な見地から詳細を辿るしか道はない。だとすれば、机上の空論をいくら繰り返したところで、それは虚しいことでしかない。真実がどうであるか、俺が興味を持っていた訳ではないんだから。それは野田にしても同じことさ。彼女も餅が東西で形が違うことに、ことさらの興味を抱いていた訳じゃないんだ。なんでこんなつまらない話をしてしまったんだろ。マックで高校生が話す話題に、こんな不似合いなものを選ぶ必要なんて微塵もないのに」
増山は自虐的な笑みを浮かべて原田を見た。原田は隣の席から立ち上がって、先ほどまで野田の座っていた席に腰を下ろした。
「―― 一つ、思い出したことがあるんや。聞いてもらえるか?」
野田のことだと悟った増山は、声を出さずに頷いて見せた。
「さっき増山はんも言っとったけど、弥生人伝来説ってのはある程度信憑性のある話だとワシは思っとる。細かい点での問題は確かにあったけど、野田の説を採用するよりは、いろんなところで整合性が持てるんは事実や」
「ちょっと待て。何の話だ?」
予想を明らかに裏切られた増山は、思わずそんな声を上げた。
「決まっとるやろ。餅の話やないかい。……ワシは思い出したことがあるんや。ワシの父親はな、東北の出身や。凍み餅、って知ってるか? これは東北の方に伝わる餅の種類なんや。搗いた餅を、こう外で乾燥させるんやな。んで氷みたくする。カチカチや。そうするとやな、えらく保存が利くようになるんや。二、三ヶ月は余裕で食える。年明けに搗いた餅を、五月の節句の時に食ったこともある。それくらい保存が出来るんやな。んで、母親の田舎が関西の奈良なんやけど、ここにも保存の利く餅の種類ってのがある。奇遇な話やけどな。かき餅言うたかな? こっちはあんまし食べた覚えがないもんやから、記憶があやふやなんやけど。とにかく、そう言う保存に適した餅の種類、言うんがいろいろある訳や。昔、秋田の田舎に行った時に婆ちゃんと母親が話してるのを、子供の頃聞いていたんや。そいつを思い出してな」
「――何が言いたい」
「わからんか? いいか。保存の利く餅ってのは、東北、信州に多く伝わってる。これはさっきの区分から言えば、関東以北の部分に収まる範囲やな。んで母親の実家のある奈良やけど、不思議なことに関西でそうした餅の製造方法があるのは、せいぜい奈良県だけで、他の県にはまったく言っていいほど無いらしい。関西、近畿地方でそれやから、それ以西では皆無やと思うんや」
「それがどうした?」
「なんや、めっきり頭の回転が悪くなったんやないか、増山はん? 要するにや、関西には餅を長期保存しなければならない理由が無い、っちゅーことやないか。それに比べて、関東以北にはそうした製造が多く伝わる、言うことはそうした必然性があった、言うことやろ。それが論理的帰結やないか」
ようやく、増山にも原田が言おうとしていることが見えて来た。
「成る程……。そうか、それはすなわち、俺が先に言った『弥生人の移動』の道筋である、と考えても良い訳か」
「せやろ? つまり見果てぬ土地を目指し、先行きがわからぬ旅に出るために、長期保存が可能な餅を用意した、と考えられるんや。現在の奈良辺りは確かに古代でもある程度の都があった地域や。そこから先は辺境やな。そうしたことを考えると、辻褄は合うんやないか?」
遅すぎた解答は、原田に因ってもたらされた。望みもしていなかった解答を手に入れても、増山の目に喜びはなかった。その代償に支払わされたものが、あまりにも大きく釣り合わないと考えていたのだろう。
「――増山はん。どうして野田嬢が怒ったか、わかってない様子やな」
鋭い視線の対象として、原田ほど似合う者はいないと考えていた増山にとって、それを逡巡する謂われは全くなかった。躊躇い無く向けられる視線に、辟易とした顔をして見せた原田は、半ば呆れ気味とも取れるような口調で呟いた。
「アカンなあ、そう言う態度では」
「……原田にはわかってるのか?」
「伊達に、付き合いが長い訳やないからな」
そう言いながら、原田は席を立った。
見られることを意識してか、ことさらゆったりとした動作で、原田は元いたテーブルへと戻って行った。去って行く原田の背中を見送りながら、何か決定的な結論が垣間見えた気がしていた。それは自分と野田との間に横たわっている浅い溝に過ぎない、と思っていた。それこそが、決定的な差異であることに気付けずに。
1999/12/19
参考文献
もち(糯、餅)
著者:渡辺忠世・深澤小百合 法政大学出版局
日本の菓子 〜祈りと感謝と厄除けと〜
著者:亀井千歩子 東書選書
「日の丸」「君が代」ってなに? 〜日本のシンボルを考える〜
著者:小田嶋孝司 毎日新聞社