その時の思考
不愉快に背中を駆け抜ける感触は、決して快感とは言い難く、か
と言って拒否をしようと身をよじることも、頭をかすめる問題の果
てに、無様に追いやられるのみで、そのまま感触を味わい続けるた
め、或いはただ惰性のまま、その指の動きを止めようとする行為へ
は結び付かず、そのつど繰り返される、無意味に室内を震わせる歓
喜めいた呟きは、その事実を肯定も否定もしないまま、すべての行
為を認知しており、背中、胸、そして足にまで伸びる、ひたすらに
続けられる口付けに、どのような心境で臨めば良いのか、判断のつ
かぬままに、だがその判断を促そうとする者もそこにはおらず、曖
昧模糊とした気持ちのまま、続いていく現実に、現実性など微塵も
見出せずに、時はただ漠々と流れ、それに伴う荒々しい息遣いの奔
流、力強く揉みしだく指先のささくれ、広がっている額から滴り落
ちた汗の波紋、自分を包み込んでいる様々な現象は、確実に自らの
深淵へと向かって邁進し、それを拒もうとする手段のないまま、そ
れを拒もうとする意識は膨れ上がり、自己の中で処理し切れない矛
盾を抱え込むこと、それを止めることもままならず、伏せていた瞼
を押し開き、そこにそびえ立つ怒張した海綿体の隆起に、そっと自
らの唇を寄せ、それを含み、僅かずつ転がし刺激を与え続ける舌と、
意識の中で繁茂し続ける拒否感とが、一致する気配は今やまるでな
くなり、現状に際して、自己と言うべき普遍的だと思われていた存
在は、まったくその影を潜め、何か新たな存在に、すべての権限を
委ねてしまおうとするかのような、崩壊した自己意義の前に、屈せ
ざるを得ない諸々の感覚、それを快感と呼ぶのか、或いは何か別の
表現方法があるのか、無意味な問いの羅列によって、僅かな居場所
を確保しようとするのが、自己と呼ばれる、普遍的だと夢想してい
たものの正体なのか、判然としない事実を前に、抵抗の意志は薄弱
と消えかけ、朧気な自我は愚鈍な嬌笑を室内に響かせ、それを勝手
な解釈でしか受け取ろうとしない存在は、不規則なリズムで腰を刻
むと、白濁とした液体を私に吐き出した。