登場人物        

           

シホ    (星川ひかり)      

ロンリイ        (木谷みどり)           

ウィンディー(水木さやか)           

           

魔女  (金田一明子)

夜の博士

シリウス

リゲル

ベテルギウス

雨降り星

 

占い師

先生、渋谷、中山

 

ホールの人

 

星川勇

 

*************************************************************************

★…回想   ●…劇中劇 

 

    劇中劇「降るような星空」・フィナーレ

 

緞帳が上がる。
舞台では創作劇「降るような星空」のフィナーレが行われようとしている。
全員が横一列に並ぶ。

星川 本日は長い間私達の劇をご覧くださいまして、誠にありがとうございました。「降るような星空」いかがでしたか。気にいっていただけたでしょうか。もし、よろしかったら、今晩夜空を眺めてみてください。きっと今日出てきた星達が優しい光を投げかけてくれるはずです。温かい拍手、声援本当に、

全員  ありがとうございました。

 

そこに金田一が泣きながら入ってくる。

 

金田一  ありがとうございました。ありがとうございました。    

 

暗転

 

113日(文化の日)AM10:00

星川  御苦労様。(みんなの緊張が一気にとける。泣いている金田一に)ちょっと、明子。フィナーレの練習で泣くことないでしょ。

 

金田一笑う。

 

星川 どうしたの。1時間の遅刻じゃない。

金田一 ごめん、雨がすごくてさ。

星川 しっかりしてよ、午後は本番なんだから。

水木 髪、びしょびしょ。

金田一 外の雨、半端じゃないよ。

木谷  台風21号が近づいてますからね。

金田一  外ホントすごい雨だよ。これじゃお客さん集まらないよ。

星川  大丈夫。天気予報でも11月に台風が上陸する可能性は少ないって言ってたもん。東にそれる。午後には晴れる。

水木  もし来たらどうすんの。

星川  来ない。台風は来ない。

水木  でも、もし来たら?

木谷  今、台風のこと心配したからって、進路が変わるわけじゃないし、練習しませんか。

星川  …そうね。それじゃ最後の通し練習するから第一幕の準備して。

 

みんな、準備をする。

 

星川 (舞台を見回して)これが本番前の最後の通し。気合い入れていこう。

みんな    (それぞれ返事をする)

星川 緞帳下ろしてくれる。

 

緞帳が下りる。

 

星川の声  場内アナウンス入れて。

アナウンス担当  はい。これより上演いたします劇は星川ひかりによる創作劇「降るような星空」です。どうぞ御ゆっくりお楽しみください。

 

    劇中劇「降るような星空」 第一幕「夜の博士」

 

シホが一人で泣いている。

泣いているシホの前に暗いイメージの少女が現れる。ロンリイである。

 

ロンリイ  あんた、そんなところでどうしたの。なんで泣いてるの。

シホ  (夜空を指差して)星が、星がどこかに行ってしまったの。

ロンリイ  それがどうかしたのかい?

シホ  病気の弟が星が見たいと言っているの。勇、今、独りぼっちで寝てるわ。

ロンリイ  独りぼっちか、独りぼっちって淋しいもんなんだよな。

シホ あなたも独りぼっちなの。

ロンリイ ああ、誰からも相手にされなくて、ぐれちまってこのざまよ。

シホ 私も独りぼっち。でも私、お空に星が輝いていれば、独りぼっちでも淋しくない。

ロンリイ  星か…。もしあの日、夜空に星が輝いていれば、あたしもこうにはならなかったかもしれない。けどあの日の夜、空は真っ暗で何も見えなかった。

シホ  あの日って?

ロンリイ  いいんだ…もう。

シホ  

ロンリイ  いこう。

シホ …

ロンリイ 星を探しに。

シホ  星を探しに?

ロンリイ ああ。

シホ 私たち、これで独りぼっちじゃなくなるわね。

ロンリイ …名前は?

シホ  シホ。

ロンリイ  シホ…、星の反対か。

シホ  そういえばそうね(笑う)。

ロンリイ あたしはロンリイ。よろしく。さあ、行こう。

シホ あてはあるの?

ロンリイ  (首を振る)。どうにかなるだろ。

 

ロンリイはシホを連れて客席に下りて行く。
照明は二人が持っている懐中電灯の明りのみ。

 

シホ  すいません。星がどこに行ったか知りませんか。

ロンリイ  (観客に)すいません。星がどこに行ったか知りませんか。

 

これを繰り返す。

 

ロンリイ  すいません。(一人目に)担任の先生は好きですか。(二人目に)好きな人は誰ですか。

シホ  何を聞いてるの。

ロンリイ  いやちょっと。

シホ 真面目にやってよ。

 

そのとき突然客席の中から声をかけられる。

 

声   ちょっと、そこの人。そこの人。

シホ  私達のことですか。

    そうだ。おまえ達だ。

 

そういって声の主が客席から立ち上がる、その人はみすぼらしい身なりをした占い師である。

 

占い師  あなたがた、星をお捜しだね。

ロンリイ  どうしてそれを、

占い師  わかったのかというのかい。私の占いに、今日ここに星を捜している2人組が通るとでていたのさ。

ロンリイ  あんた占い師?

占い師  さよう。あなたがたにこれをあげよう。

 

そういってぼろぼろの紙を渡す

 

ロンリイ  なにこれ?

占い師 地図だよ。

シホ 地図?

占い師 その地図に×印がついているだろう。そこにお行き。

ロンリイ  ×印のところには、何があるの?

占い師  夜の博士の館だよ。

ロンリイ  夜の博士の館?

シホ  そこに行けば星に会えるの?

占い師  そこには夜の博士がいる。博士に会えば道は開ける。

ロンリイ  夜の博士って誰?

占い師  会えばわかる。さあ、急ぎなさい。夜が明ける前に着かないといけないよ。

 

占い師退場。
二人、地図を見ながら客席を歩きだす。

 

ロンリイ  こんなときに星明りがあればな。

シホ  あそこに大きな建物が見えるわ。

ロンリイ  (地図を食い入るように見て)あれが、夜の博士の館のようね。

シホ  なんか不気味な建物ね。

 

二人、舞台上に。

 

ロンリイ  何か書いてある。

シホ  読んでみて。

ロンリイ  ○○中学校(自分の学校名を言う)。なんだこれ、うちの学校じゃない。どうして、あたしの学校が夜の博士の館なの。

シホ  とにかく中に入ってみない。

ロンリイ  学校嫌いのあたしが夜まで学校に来るとはね。

 

暗闇の中を懐中電灯を照らしながら歩く二人。暗闇の中に二人の靴音が響く。

 

シホ  (突然)ロンリイ。

ロンリイ  なんだ突然、びっくりするじゃないか。

シホ  (もじもじしている)

ロンリイ  なんだトイレか。困ったな、どうしてこんなときに。

シホ  しょうがないじゃない。

ロンリイ  この学校のトイレは、夜恐ろしいことが起こると言われているんだ。

シホ  どんな恐ろしいことが起こるの?

ロンリイ  あたしの友達のさおりが、夜、こっそりこの学校に忍びこんでトイレに入ったときのことだ。

シホ   なんでわざわざ夜忍びこんでトイレに入るの。

ロンリイ あいつは、夜になると学校のトイレに入りたくなる病気なんだ。そんなことはどうでもいい。話は最後まで聞きな。いいか、さおりがトイレに入ったとき、恐ろしいことが起こった。

シホ どんなこと。

ロンリイ さおりは2階の女子トイレに入った、しかし出るときにはそこが男子トイレになっていたというんだ。恐ろしいだろう。だからトイレは後。

シホ  いや。

ロンリイ  しかたないな。それじゃ、あたしは外で待ってるからすぐ戻っておいで。

 

シホはトイレに入る。

 

ロンリイ  それにしても、夜の学校ってもんは不気味なところだ。昼間とは全く別の顔を持っている。

 

シホはなかなか戻ってこない。

 

ロンリイ  遅いな。(トイレのドアを開けて)シホ。どうした。…いない。誰もいない。

 

ロンリイが振り向くと、後ろにシホが立っている。
驚くロンリイ。

 

ロンリイ  シホ、どうやってトイレの外にでた?

シホ  そこ、男子トイレだけど。

ロンリイ  ほんとだ。おかしいな、確かにさっきは女子トイレだったのに。やっぱりさおりの言ったことは本当だったんだ。

シホ  学校っておかしなところね。

ロンリイ  昼間はこうじゃないんだ。

シホ  この教室から開けましょう。

ロンリイ ここは開けちゃいけない。

シホ  なんで。

ロンリイ  ここはだめだ。いやな予感がするんだ。

シホ  なぜ。

ロンリイ  ここ、あたしのクラスなんだよ。

シホ  …(恐る恐る)開けるわよ。

ロンリイ  どうなってもしらないよ。

 

シホ開ける。
そこで英語の授業が行なわれている。
静止している2人の生徒。

 

先生 席について。

2人 はい。

 

先生がロンリイに向かって。

 

先生 ロンリイさん。


その言葉にロンリイがその中吸い込まれるように入っていく。

 

先生  She is an English teacher I like very much.さてこの訳はどうなるでしょう。渋谷さん。

渋谷 彼女は私が大好きな英語の先生です。

先生  よくできましたね。次の問題は、中山さんね。I saw a cat that had blue eyes.この訳は。

中山 はい。「私は青い目をした猫を見た」だと思います。  

先生  けっこうです。次はロンリイさんね。ロンリイさんにはどんな問題にしましょうか。そうそうこれがいいわ。I am Alice.これを訳してみて。

ロンリイ  なんであたしだけそんな易しい問題なの。

先生  まずはこれを解いて、それから難しいのに進みましょう。

ロンリイ  元の文をもう一度言ってください。

先生 I am Alice.よ。

ロンリイ  私は一匹のリスです。

 

みんな大笑い。先生までさんざんばかにして笑う。ロンリイの目の色が変わる。

 

ロンリイ  上等だぜ(この言葉にみんなが凍りつく)

先生  ロンリイさん、今なんて言ったの。

ロンリイ  「上等だぜ」って言ったのさ。おい、おめーそれでも先生か、よくも笑ってくれたな。

先生  そ、それは誤解よ。

ロンリイ  5階?ここは2階なんだよ。(渋谷と中山に)おいおまえら、そんなにおかしかったかよ。

渋谷  いえ…そんな…

中山 そんなつもりじゃ…

ロンリイ  上等だぜ。

 

暗転

 

ロンリイ  そう、あの日なんだ。あの日の帰り道、心の中にぽっかり大きな穴があいて、思わず夜空を眺めたっけ。夜空は星一つない漆黒の闇。あたしは独りぼっちだった。どうしようもなく独りぼっちだった。あのときもし星が一つでも輝いていたらあたしの人生、変わっていたかもしれない。

シホ  さっきのロンリイ、本当のロンリイじゃない。今の優しいロンリイが本物よ。

ロンリイ  嬉しいこと言ってくれるじゃない。

シホ  ねっ、あそこ、電気がついてる。

ロンリイ  ほんとだ。あれは、理科室。

 

2人がそこに近づいていく。

 

シホ  開けるわよ。

 

シホそっとドアを開ける。
中央の脚立に白髪頭で眼鏡をかけた一人の老人が座っている。

 

シホ  向こうに誰か座ってる。

ロンリイ あれうちの先生じゃないぞ。

    誰じゃ。

 

二人は恐る恐る中に入る。

 

シホ  あなたは…

夜の博士  私か、私は夜の博士。

シホ  あなたが…

夜の博士  ここに何をしに来たのかな。

シホ  星を捜しに来ました。

夜の博士  星を捜しにか。

シホ  博士。星はどこに行ってしまったの?

夜の博士  人間の目に見えた星のほとんどはこの地球上にいるよ。

ロンリイ 地球上に!

シホ  どうやって捜せばいいんですか。

夜の博士  傘を目印にしなさい。

シホ  傘?

夜の博士  そう、傘じゃ。星は傘をさしている。その傘が星の魂なんじゃ。夜空での光はその傘が出しておるのじゃ。

シホ  傘をさしている人は星なの。

夜の博士  いや、そうじゃない。傘をさしている人の中に星が紛れているということじゃよ。

シホ  その星を捜し出せば夜空に星が戻るのね。

夜の博士  それがそう簡単にはいかんのじゃ。

ロンリイ どういうこと。

夜の博士 星は「星を見たい」と願う人の心がないと輝けないんじゃ。

シホ  「星を見たい」と願う人の心?

夜の博士 そうじゃ。傘は鏡の働きをしていると考えたらいいじゃろう。星を見たいという人の心を反射して光にする、傘はそんな働きを持っておるんじゃ。人々が心の底から「星が見たい」と願えば星は必ず夜空に戻ってくる。しかし、「星が見たい」と願う人の心を奪い集め、夜空に星を戻すことを妨げようとする邪悪な存在があるのじゃ。

シホ  邪悪な存在って…

夜の博士  空の魔女じゃ。

シホ 空の魔女?

夜の博士 そう、空の魔女みよちゃん。

シホ・ロンリイ みよちゃん?

夜の博士 (頷いて)みよちゃんに打ち勝ち、「星が見たい」と願う心を取り戻さなければ星は夜空に戻ってこない。

シホ どうやったらみよちゃんに勝てるの?

夜の博士 みよちゃんの弱点は帽子じゃ。それを取ればみよちゃんは力が出せない。

シホ 帽子…

夜の博士 さて、もう夜も終わりだ。私はこれで失礼するよ。

 

夜の博士は赤い傘を取り出す。

 

ロンリイ  そ、その傘。

夜の博士  昔の人は私のことを「夏日星」と呼んだ。おまえ達には火星といった方がわかりやすいかな。

シホ  お願い、夜空に戻って。

夜の博士  私だって戻りたいさ。しかし、私だけの力ではどうにもならんのじゃよ。私のような年寄りが夜空に輝くには、100万もの人が「星を見たい」と願わねばならんのじゃから。

シホ  私が「星を見たい」と願う心を取り戻すわ。博士のために。

夜の博士  ありがとう。あんた、優しいね。名前は?

シホ シホです。

夜の博士 いい名前だ。シホちゃん、あんたにこれをあげよう

 

そう言って赤いリボンを渡す。

 

シホ これは?

夜の博士 それは幸せを呼ぶ赤いリボンじゃ。

シホ  幸せを呼ぶ赤いリボン?

夜の博士 つけてごらん。

 

シホがリボンをつける。

 

シホ 似合う?

夜の博士  ああ。

シホ  博士。ありがとう。

 

博士は傘をさしてその場から去っていく。

暗転

 

113日 AM10:30  ホール

 

星川  はいそこまで。御苦労様。さやか。二幕の準備は。

水木  OKよ。

 

金田一 が現れる。

金田一 外、風がすごく強くなってる。

水木 大丈夫かな。

星川  大丈夫。11月の台風は日本には来ない。午後には晴れる。場内アナウンス入れて。

アナウンス担当  はーい。「これより、『降るような星空』第2幕を上演いたします。どなた様も、お席についてお待ちください」

 

    劇中劇「降るような星空」第二幕・空の魔女

 

プロペラの飛行機が着陸する音。
飛行機の上にウィンディーがプロペラを表わす骨だけの傘を持って立っている。
シホ登場。

 

シホ  ウィンディーってあなた?

ウィンディー そうだけど。

シホ  私、シホ。

ウィンディー 何か用?

シホ  お願いがあるの。

ウィンディー なに?

シホ  私を空に連れて行って。

ウィンディー 空に…お金はあるの?

シホ  (首を振る)

ウィンディー お断り。私、あんたの遊びにつき合うほど暇じゃないの。

シホ  遊びじゃないわ。

ウィンディー じゃ、何しに空に行くっていうの?

シホ  魔女を倒しに。

ウィンディー 魔女を。なんでそれを私に頼むの?

シホ  魔女は雲の中に住んでいるそうなの。魔女の住む雲の中は未知の世界で、その中を飛ぶには天才的な飛行テクニックが要求されるんですって。そんな天才的飛行テクニックをもっている人間は、ウィンディーただ一人だって、諸星隼人さんが言ってた。

ウィンディー それ誰?

シホ  近所のおじさん。

ウィンディー 魔女と戦うのは誰?

シホ もちろん(そういってウィンディーを指差す)。

ウィンディー 魔女を倒すと何かいいことがあるの?

シホ  魔女が盗んだ「星が見たい」と願う心が人々に戻ってくるわ。そうすればまた夜空に星を見ることができる。勇にも降るような星空を見せてあげられるわ。

ウィンディー 勇って誰。

シホ  私の弟。重い病気なの。星を見たいという気持ちが生きる支えになってるの。

ウィンディー 星か。あんた、飛行機から星を見たことあるかい。

シホ (首を振る)

ウィンディー 様々な宝石が空いっぱいの黒曜石の壁にはめ込まれているんだ。

シホ 

ウィンディー 乗んなよ。

シホ  連れてってくれるの?

ウィンディー (うなずく)

シホ あ、ありがとう。

ウィンディー 感謝なんかしなくていいんだよ。私も星が見たくなっただけなんだから。それと、お金は払ってもらうんだよ。

シホ …。

ウィンディー 勇君の病気が治ったら。

シホ  はい。必ず。

ウィンディー (シホに)さあ乗って。

 

骨だけの傘をまわす。エンジンそしてプロペラ音。

飛行機の離陸音。

 

シホ  飛んだ。飛んだわ。

ウィンディー しっかりつかまってなよ。

シホ  わーみんなどんどん小さくなっていく。

 

飛行機が飛んでいく。

 

ウィンディー   あんたのうちはどこにあるの?

シホ  あのビルよ。

ウィンディー  あのビルのどこ。

シホ 99階のあの部屋。

ウィンディー   ずいぶん高いところに住んでるのね。

シホ  あそこで勇が私の帰りを待っている。待ってて、必ず星を捜して帰るから。

 

飛行機が飛んでいく。

 

シホ  わー、真っ白な雲。綿菓子みたい。

ウィンディー いろんな形の雲があるだろ。

シホ  あれは鯨だわ。こっちにはゾウさんもいる。あれはカバね。

ウィンディー 鯨にゾウにカバか…今じゃ縫いぐるみでしか見られないけど、昔はこの世に存在したんだってな。

シホ …

ウィンディー さて、それじゃ、仕事にかかるとするか。

シホ  あては、あるの。

ウィンディー ない。

シホ  どうやって捜すの。

ウィンディー 風に聞くの。

シホ  風に?

ウィンディー そう。風ってのはね、友達になればなんでも教えてくれる。さあ、こうやって手を広げてからだ一杯に風を浴びてごらん。

 

風の音

 

シホ わあっ、気持ちいい。

ウィンディー 風に魔女の居どころを聞いてごらん。

シホ  風さん、魔女がどこにいるかを教えてください。風さん、魔女がどこにいるかを教えてください。

 

風の音

 

ウィンディー どう、風の声が聞こえた?

シホ (首を振る)

ウィンディー 耳で聞こうとしちゃだめ、心で聞くの。

シホ  風さん、魔女がどこにいるかを教えてください。風さん、魔女がどこにいるかを教えてください。

 

風の音

 

シホ  なんか、こっちからの風を浴びると胸の中が凍りつくよう。

ウィンディー  確か。

シホ  ええ。

ウィンディー  魔女がいるのはそっちの方向ね。行くわよ

 

飛行機が飛んでいく。

 

シホ  あそこにあるすごーく大きな雲。あの中から冷たい風が吹いてくる。

ウィンディー  魔女の住んでいるのはあの雲の中。さあ、雲の中に入るよ。

 

雲の中に突入する。
暗転

 

シホ  雲の中は真っ暗なのね。

ウィンディー  この雲、少し様子が変。普通の雲とは違うようね。

シホ  下を見て。雲の中に陸があるわ。

ウィンディー  下りてみよう。

 

飛行機が着陸する。
舞台が明るくなる。
そこには傘をさした人たちがいる。

 

シホ 星、星だわ。

シリウス あんたがたは誰だい。

シホ 私たち、人間です。

シリウス 人間…

シホ あなたがたは星でしょ。

シリウス  ああ、私はシリウス。こちらがリゲル。後ろにいるのがベテルギウス。この子どもは雨降りだ。

シホ ウィンディー、星に会えたわ。

ベテルギウス  ねえ、人間がどうしてここに来たの?

シホ 魔女が盗んだ「星を見たい」と願う人の心を取り戻しに来ました。

シリウス  どうやって取り戻すのかね。

シホ 魔女を倒すんです。

リゲル 人間に魔女が倒せるもんか。

シホ そんなこと分からないわ。

リゲル たとえ「星を見たい」と願う人の心が戻っても、星が見える環境はすぐには戻らねーぜ。

シホ  どういうこと。

リゲル  知らねーのかい。今、空はとんでもなく汚れているんだ。

シリウス  魔女に心を奪われて以来、人間は環境を破壊し続けてきたからね。

ベテルギウス  オゾン層の破壊は困ったもの。紫外線が強くなってさ、お肌の手入れが大変なのよ。

雨降り星  スモッグで息をすることも大変なときがあるわ。

リゲル  俺達が一休みしていた海も汚染されて、魂の洗濯ができねー状態だしな。

シリウス  「星を見たい」と思う人の心が戻っても、この環境を変えないうちは私達の光は人々の目に届かんだろうな。

ベテルギウス  昔は良かったわ。私の美しさに涙を流した男が何人もいたわ。

雨降り星  竜宮城での兄弟達といとこの昴との暮らし、毎日が楽しかったわ。でも今はみんなの消息もわからない(泣く)。

リゲル まったくおめーはすぐ泣くんだから。

雨降り星  だって私は雨降り星。昔は雨は私の涙と言われていたのよ。

シリウス  昔は私達星と人が、本当にうまくいってたよ。

ウィンディー   昔を懐かしんでばかりいないで、これから先、また、星と人間が友達でいられる時代を作っていくことを考えない。

ベテルギウス  私達また夜空に輝けるの?

リゲル  期待しちゃあいけねーよ。あの恐ろしい魔女みよちゃんとどうやって戦うってんだい。あいつは魔女の剣を持っているんだぞ。

ウィンディー 魔女の剣?

リゲル  何でも真っ二つにする恐ろしい剣だ。

雨降り星  私の傘を使って。

リゲル  おめーやっぱりガキだな。俺達の魂である傘を渡すってことがどういうことかわかってるのか。

ベテルギウス  傘を手放して30秒が過ぎると、仮死状態になってしまうのよ。

シリウス  最低一年は目を覚ますことができんのだぞ。

雨降り星  それでもいいの。私の傘を使って戦って。これなら魔女の剣でも切れないわ。魔女を倒して。私また夜空に輝きたいの。

シリウス  私も貸そう。

ウィンディー   ありがとう。それではこうやって戦うことにする。20秒たったら言って。そしたら傘を交換するの。あなた達の魂、大切にするわ。

ベテルギウス  それじゃあ、私も貸さないわけにいかないじゃない。リゲルあなたは?

リゲル  (みんながリゲルを見ている)貸せばいいんでしょ。貸せば。

ベテルギウス  私達って美しいわね。

 

雷鳴が轟く。それと同時に魔女が現れる。
魔女はほうきと一緒になぜかラジカセを持っている。

 

星達    みよちゃん!

魔女  おや、見かけない顔だねぇ。あんたら何しにここに来たんだい?

シホ  「星が見たい」という人の心を取り戻しに来たの。

魔女 冗談だろ。世界中からこれを集めるのは大変だったんだよ。そんな簡単に渡せるかい。人間は苦労して集めたものを簡単に盗み出していく。全くずるい生き物だよ。

シホ もともとはあなたが盗んだんでしょ。

魔女 今なんて言ったのかな。最近耳鳴りがひどくてね。ともかく私の集めた人の心を欲しがるところを見ると、あんたらはまだ「星を見たい」と願う心を持っているんだね。それではそれをいただくとするか。

ウィンディー 取れるもんなら取ってごらん。

魔女  ずいぶん勇ましいこと。でも私は魔法が使えるのよ。空の魔女の空の魔法を。

ウィンディー   空の魔法?どうせたいした魔法じゃないんでしょ。

魔女  言ってくれるじゃないの。

ウィンディー   どんな魔法があるの。

魔女  死ぬ前に教えてあげるわ。私の一番恐ろしい魔法、それは空の魔法、美空ひばり。

ウィンディー   なにそれ。

魔女  この魔法をかけられた人間は、「川の流れのように」を歌わずにはいられなくなるのよ。

ウィンディー   ばかばかしい。もっとまともな魔法を使ったら。

魔女  私の魔法をばかにしたね。それじゃあ、その魔法をかけてやる。

 

魔女がラジカセのスイッチをオンにして「川の流れのように」を流す。

 

魔女 ええい。空の魔法、美空ひばり。

 

ウィンディーその魔法をシリウスから借りた傘ではね返す。

自分の魔法を浴びた魔女は「川の流れのように」を歌い出す。

 

魔女  いかん、いかん。自分の魔法にかかってしまった。よくもやってくれたわね。

シホ ウィンディー、魔女の弱点はあの帽子よ。あの帽子を取って。

魔女  私は帽子を取られても平気さ。

ウィンディー ごまかしてもだめさ。その帽子、いただく。

魔女  そんな手でくるだろうと思って、帽子の下にもう一つの帽子を被ってるのさ。

 

そう言って帽子を取る。
魔女は帽子の下に赤い海水帽を被っている。

 

魔女 どうだ、まいったか。

ウィンディー 情けない魔女だ。

魔女  それでは本気で戦うとするか。風よ吹け。嵐よ吠えろ。稲妻よこいつらを引き裂け。

 

稲妻が走った。
魔女のところに魔女の剣が飛んでくる。

 

雨降り星  気をつけて魔女の剣よ。

 

ウィンディーと魔女の戦いの幕がきって落とされる。
ウィンディーが「星を見たい」と願う人の心が入っている袋を魔女から奪う。

 

ウィンディー   この中に「星を見たい」という人の心が入っているのね。さあ、シホ、その袋を開けて。

魔女  せっかく集めた心をどうする気だい。

 

星達がその袋を開ける。中から紙吹雪が舞い落ちる。

 

魔女  おお、私が苦労して集めた人の心が…ほうきよおいで(ほうきが飛んでくる。魔女はほうきに乗って逃げようとする)

ウィンディー   逃げる気。そうはさせないよ。(ほうきをつかむ、そして魔女を傘で一突きにしようとした瞬間)

シリウス  待ってくれ。

ウィンディー   どうして。

シリウス  思い出したんだ。

ウィンディー  何を?

シリウス みよちゃんあんた、私と70年前に会ってるね。

魔女  なんのことだい。

シリウス  あんたの正体がわかったよ。

ウィンディー 魔女の正体?

シホ  魔女の正体は何なの?

シリウス  星だよ。

ウィンディー 何だって。

シホ  魔女が星なの?

シリウス  ほうき星だよ(その言葉に周りのものはずっこける)

ウィンディー   下らないしゃれ言わないでよ。

シリウス  いや、本当のことだ。

リゲル  魔女はほうき星だったのか。

ベテルギウス  ほうき星って私達と違って何十年に一度しか輝くことができないからひねくれてこんなことしたのね。

雨降り星  かわいそうな星ね。

魔女  子どもに同情されるほど落ちぶれちゃいないよ。

シリウス  助けてやってくれ。

ウィンディー   そしたらまた…

シリウス  「星を見たい」と願う人の心はもう取り戻した。それで十分さ。

ウィンディー よし、逃がしてやる。今度は宅急便の配達でもやって世の中の役に立てよ。

魔女  余計なお世話だ。

 

ウィンディーが魔女のことを放すと、嵐に乗って魔女は逃げ去る。

 

シリウス  さあ、この嵐に乗って旅立とう。

 

嵐が激しくなる。

 

ウィンディー   シホ、私達も行くよ。早くしないとこの嵐で飛行機が壊れちゃう。さあ、乗って。 

 

暗転

ウィンディーとシホ飛び立つ。風で飛行機はきりもみ状態となる。

 

ウィンディー()   操縦がきかない。

シホ()  ウィンディー。

 

そのとき雷が飛行機に落ちる。
二人の叫び声。

 

    劇中劇「降るような星空」・ラストシーン

 

シホが舞台中央に倒れている。
目を覚ますと夜空には降るような星空

 

シホ 星だわ。星が夜空に輝いている。なんか手でつかめるよう。降るような星空。これが降るような星空なのね。

ウィンディー 嵐が汚れた空気を吹き飛ばしたのね。

シホ ウィンディー!

ウィンディー これが、降るような星空か。星明りってずいぶん明るいのね。

シホ  地平線近くで明るく輝いている白い星はシリウスね。あの青い星はオリオン座のリゲル。その上の赤い星はベテルギウス。その隣は雨降り星。もう泣いちゃだめよ。

 

ロンリイがいつの間にかシホの後ろに立っている。

 

ロンリイ 夏日星が赤く燃えている。博士も夜空に戻れたんだな。

シホ     ロンリイ、来てくれたの?ありがとう。

ロンリイ  水臭いこと言うなよ。けど、星ってこんなにきれいだったんだ。なんか、涙が出てきちゃった(言い方が今一つロンリイに成り切ってなく、木谷の地が出てしまう)

ウィンディー   こうしてると、なんか星空に吸い込まれてしまいそう。

 

3人がうっとり星空を見つめる。しかし見つめかたが今一つきれいな絵になっていない。

 

シホ  (大声で叫ぶ)勇、勇。私の声が聞こえる。見てご覧なさい。降るような星空よ。勇の見たがっていた降るような星空よ。

 

暗転

 

113日 AM11:00

 

星川  御苦労様。この後のフィナーレはさっき練習したからカットします。さてと、ラストシーンだけど、ちょっと直していいかな。みどり。

木谷  はい。

星川  「星ってこんなにきれいだったんだ」のところもう一度やってくれる。

木谷  「星ってこんなにきれいだったんだ。なんか涙が出てきちゃった」

星川  ロンリイっぽくない。まだ地が出ちゃうな。下を見ないで。美しい星空を見て泣いて。降るような星空を想像して演技して。

木谷  私、そんな星空見たことないんです。

星川  …。

水木  みんな見たことないんじゃない。私だって天の川さえ見たことないもん。

星川  それで最後に星を眺めるところがきまらないんだ。とにかく最後のみんなで星を見るところもう一度やってくれる。

 

水木と木谷が反応する。

2人がラストのポーズで星空を眺める。

 

星川  どうもこのポーズがきれいじゃないな。(そういってポーズを変えていく)うん。これがいい。本番ではこのポーズをして。

 

それぞれが反応する。

 

水木  ひかり、一つ言っていい。

星川  何。

水木  シホが「勇、勇」って大声で叫ぶところ、なんか浮いてない。あれで劇が壊れるような気がするんだけど。

星川  叫ばないと声が聞こえない。

水木  十分聞こえる。そう思わない。

金田一  聞こえるよー。

水木  シホって女の子、かわいらしい女の子でしょ?そのかわいらしい女の子があんな風に叫んじゃ、イメージが崩れる。もっと囁くように言って欲しいな。

星川  …でも、あそこは叫ばないとだめ。

水木  どうしても。

星川  どうしても。演出は私。私の言う通りにして。

水木  どうしてそう頑固なの。確かに演出はひかりだけど、この劇を作ってるのは私達みんななんだよ。

星川  あそこはあのままやらせてほしいの。


2人がにらみ合う。 

この時ホールの人(女性)が現れる。

 

ホールの人 責任者の方はどなた。

星川   はい、私ですけど。

ホールの人 ちょっと事務所まで来てくれる。

星川 はい。

 

星川がホールの人と一緒に出ていく。

 

水木 (ため息)なんかやる気なくなっちゃった。なんであー頑固かな。毎日しつこく劇に出てくれって頼んでくるから、しかたなしに出てあげることにしたっていうのに。ラストシーンくらい私の意見を聞けっての。

金田一 何が、「叫ばないと声が聞こえない」、だよな。人一倍大きな声して。

水木 ひかり4月にこの学校に転校してきたんだよ。普通、はじめはおとなしくしてるもんじゃない。来てそうそう劇をやりませんかだもん。どうかしてるよ。

木谷 影でひかりさんの悪口言うのやめませんか。

水木 さすが優等生、言うことが違うね。

木谷 そういう言い方やめてください。

水木 優等生だから、優等生って言っただけ。みどりが優等生じゃなかったら優等生なんてどこにもいなくなっちゃうじゃない。

金田一 みどりだって、あんなふうに演技直されたらいい気分しないでしょ。

木谷 私、優等生って言われる方がいやです。

水木 どうして。

木谷 だってそれって馬鹿にした言い方じゃないですか。

水木 …

木谷 馬鹿にしてますよね。

水木 してないよ。

木谷 してます。

水木 …

木谷 優等生、ガリ勉、点取り虫、みんな陰で私のことそう呼んでるんです。そんな私に、あんなふうにはっきりものを言ってくれるのひかりさんだけですから。

水木 あっそ、でも私、あのラストだけは引けないな。これは私達の劇でもあるんだから、あのシーンだけは、叫ばないでやってもらう。

 

そこに、星川が戻ってくる。

 

水木 ひかり、

 

その時突然、星川が泣き出す。

ホールの人が追いかけてくる。

 

ホールの人 わかってくださいよ。

星川   この日のために4月から練習してきたんです。やらしてください。

ホールの人  そう言われても。

星川 (涙声で)お願いします。劇を、劇をやらせて下さい。

木谷 どうしたんですか。

星川 劇を中止にしろって。

みんな …。

ホールの人 台風が上陸したの。交通機関がストップしたら、みんな帰れなくなっちゃうでしょ。

木  台風が…。

ホールの人 埼玉県に大雨洪水警報が出てるの。

みんな  …。

ホールの人  わかってくれた?

星川 やらせてください。

ホールの人 だからそれは無理っていってるでしょ。

星川 やらせてください。

ホールの人 いいかげんにして。ホールを閉めるのは30分後、いいわね。

 

ホールの人舞台から去る。

 

水木 しかたない。さ、片付けて帰ろう。

星川 劇を諦めろって言うの。

水木 残念だけど、仕方ないじゃない。

星川 諦めることなんてできない。なんのための練習だったの。今までの苦労はなんだったの。

水木  苦労したのはひかり一人じゃない。

金田一  あーあ、中止か。

木谷  ひかりさん。また次の機会にやりましょう、だからそんなに泣かないで、今日のところは帰りましょう。

星川  いや。諦めるなんて、諦めるなんてできない。

木谷  ひかりさん…

水木   (木谷の腕をつかんで)ほっときなよ。

木谷  でも…

水木  さっ、帰る支度しよう。早くしないと私達も帰れなくなっちゃうよ。

  

みんな帰る準備を始める。
泣き続けている星川。
心配そうに見つめる木谷、しかしその木谷も水木達と一緒に帰っていく。

星川が一人舞台に残る。

暗転

嵐の音が響く。

 

113日 PM7:00   水木宅

舞台中央に電話が一台置かれている。外は暴風が吹き荒れているようだ。その音が部屋の中まで聞こえてくる。電話が鳴る。水木が出てきて受話器を取る。それは星川ひかりの母からの電話である。

 

星川家→水木

水木  はい。水木ですけど。…はい、私です。(ひかりの母の言葉)…えっ。ひかりまだ帰ってないんですか。…ええ、解散したのはホールです。だいたい11時半くらいだったと思います。それからはみんなばらばらで。(ひかりの母の言葉)…私達と別れたときの様子ですか。中止ということにすごくショックを受けて、どうしても劇をやるんだって泣いてました。私達もショックでしたけど、ずっと演劇をやってるひかりのショックは私達とは比べものにならないようで…。(ひかりの母の言葉)えっ、そうなんですか。ひかり、劇をやるのこれか初めてなんですか。…いえ、知りませんでした。みんなも知らないと思います。(ひかりの母の言葉)…はい。はい。…わかりました。私からみんなに電話してみます。何かわかったら電話しますから。(水木受話器を置く)

 

しばらくその場に黙って立っている水木。

そして電話に向かい受話器を廻し出す。

暗転

嵐の音が響いている。

明かりがつくと水木がダイヤルを廻している。

水木は星川家に電話をかけている。

 

水木→星川家

水木  あっ、星川さんのおたくですか。私、水木と申しますが。あっ、お母さんですか。誰も、一緒じゃなかったみたいです。ホールは捜しましたか。(ひかりの母の言葉)警察で…。(ひかりの母の言葉)そうですか、全部鍵がかかってたんですか。お母さんは何か心当たり、ないんですか。(ひかりの母の言葉)…そうですか。一つ伺っていいですか。ひかりがこの劇を始めたのはなぜですか。(ひかりの母の話を聞きながらだんだん水木の顔色が変わっていく)…そう、そうだったんですか。それで「降るような星空」っていう劇を。そんなわけがあったんですか…。(我にかえって)あっ、見つかったら電話ください。失礼します。

 

受話器を置いた瞬間停電。

 

水木 停電。


嵐の音が大きくなる。

水木は懐中電灯を取ってくる。

水木  ひかり、なんで今まで話してくれなかったの。

 

水木、部屋から出ていく。

暗転
嵐の音が響く

 

113日 PM8:00  ホール

停電で真っ暗なホールの客席を懐中電灯を照らしながら星川が歩いている。星川は舞台に登り懐中電灯で客席を照らす

 

星川  劇が終わる。緞帳が下り、客席から万雷の拍手…(静まりかえった客席を眺めて)幻。全てが幻。静かね、誰もいないホール。
 勇、ごめんね。やっとここまでたどり着いたのに、劇、中止になっちゃった。もう、だめ。お姉ちゃん、もうだめ。

 

そのとき客席から声が聞こえる

 

  諦めちゃだめだよ。

星川 誰?

  諦めるなんてお姉ちゃんらしくないよ。最後まで希望を持たないと。

星川  勇?勇なの?

  またやればいいじゃないか。お姉ちゃんならできるよ。

星川 勇!勇!

 

暗転

 

★弟・勇との思い出

◆山にて

 

    お姉ちゃん、お姉ちゃん。ちょっと外に出てごらんよ。

ひかり    どうしたの。

    (空を指差して)ほら。

ひかり    わー。すごい星。

    お姉ちゃん。あそこ。

ひかり  流れ星。あっ、あそこにも。すごい。流れ星ってこんなに明るいんだ。私、流れ星見たの生まれて初めて。

    今日はペルセウス座の流星群が最大になる日なんだ。

ひかり ふーん。勇、星のことよく知ってるわね。

    (照れて)お姉ちゃん。よかったね。山に来て。

ひかり  勇。今日のこの星空、ずっと覚えてようね。

    うん。

 

ストップモーション・溶暗

 

     星川家

 

ベランダに勇が倒れている

 

ひかり  勇!勇!どうしたの。

    大丈夫(ゆっくり起き上がる)。星を見てたら目眩がしちゃって。

ひかり  これで何回目。お医者さんに診てもらった方がいいわ。

    大げさだよ。星がきれいすぎただけ。それで目眩がしたんだ。

ひかり  勇…

 

ストップモーション・溶暗

 

     病院

 

二人は舞台前方に腰かけている。そこはベッドの上を意味する。勇は毛布にくるまっている。

 

ひかり  勇。今晩はお姉ちゃんがこの病室に泊まるからね。

   

ひかり  お母さんの方がよかったかな。

  (首を振る)お姉ちゃん。人って死んだら星になるの?

ひかり  なんでそんなこと聞くの。

  お姉ちゃん、窓開けてくれる。

 

ひかり窓を開ける。

 

  晴れてるのに、今日も星出てないね。病院に入ってからまだ一度も星を見てないや。

ひかり  仕方ないわよ。周りがこんなに明るいし空気も汚れているから。

  星が見えないなんて淋しいな。これからは、星が見えるところなんてなくなっちゃうのかな。そのうちみんな星なんてもの忘れちゃうんじゃないかな。(宙を見つめて、「エイ!」というポーズをとる。)

ひかり  どうしたの?

勇 「電気よ消えろ。汚れた空気よなくなれ」って願ったんだ。でもだめだね。

ひかり  魔法使いじゃないんだから。

  始めなくっちゃ。

ひかり 何を始めるの?

勇 劇を作るんだよ。

ひかり  劇?

勇 うん。「降るような星空」っていう劇。星がなくなった世界に星を呼び戻そうと努力する一人の女の子を主人公にした劇さ。その劇を観た人は降るような星空が見たくなって、星が見える環境を取り戻してくれるよ。

ひかり  また夢みたいなこと言って。

  お姉ちゃん。僕本気だよ。

ひかり  無理しちゃだめ。治ってからにしなさい。

  今じゃなくちゃだめだよ。だって…、僕…、僕もう助からないんでしょ。

ひかり  なにばかなこと言ってんの。

  わかってるんだ。もし僕死んだらお姉ちゃんが僕の代わりに劇を書いてよ。そして降るような星空を取り戻して。ここじゃ僕が星になってもお姉ちゃん、僕のこと見ることできないでしょ。

ひかり  怒るよ。勇の病気は治るんだから。

  …、ごめん。

ひかり  そうだ、治ったら、また山に星を見に行こう。

  うん。お姉ちゃん。山で見た降るような星空、きれいだったね。

 

ストップモーション・溶暗

 

     数日後の病院

 

勇が毛布にくるまり寝ている、その勇を揺り動かして。

 

ひかり  勇!勇!どうしたの。返事をして、返事をして。勇!勇!

 

溶暗

 

113日 PM9:00

星川が舞台中央に倒れている。
寝言で「勇、勇」と言っているのが聞こえてくる。
しばらくして星川は目を覚ます。

星川、懐中電灯をつけ、ドアを開けてホールの外に出ていく。
台風は去った。停電のため外は真っ暗。

 

星川  風が…やんでる…

 

台風が汚れた空気を運び去り、そのため降るような星空が見える。あまりの美しさに声がでない

 

星川 星だ、星がこんなに一杯。山で見たあの星空と同じ。

 

星川の手には赤いリボンが握られている。何を思ったのか、星川は後ろ向きになりそのリボンをつける。そして振り向く。その瞬間、星川はシホになる。そして「降るような星空」のラストシーンを演じる。

 

星川(シホ)  星だわ。星が夜空に輝いている。なんか手でつかめるよう。降るような星空。これが降るような星空なのね。

水木(ウィンディー) 嵐が汚れた空気を吹き飛ばしたのね。

星川  さやか!

水木  さやかじゃない。

星川 …

水木 私はウィンディー。やっぱりここだったのね。

星川 どうしてここに?

水木 そんなことどうだっていい。さっ続けるよ、ラストシーンを。

 

水木はウィンディーになって歩き出す。

 

水木(ウィンディー) これが、降るような星空か。星明りってずいぶん明るいのね。

星川(シホ)  地平線近くで明るく輝いている白い星はシリウスね。あの青い星はオリオン座のリゲル。その上の赤い星はベテルギウス。その隣は雨降り星。もう泣いちゃだめよ。

 

木谷が星川の後ろに来ている。

 

木谷(ロンリイ) 夏日星が赤く燃えている。博士も夜空に戻れたんだな。

 

星川 みどり、どうしてここに!

木谷  台詞が違います。主役のひかりさんが台詞を間違えちゃだめじゃないですか。

 

そこに「ひかり」「心配させんなよ」という言葉が聞こえてくる。
その言葉と共に劇の仲間達が現れる。

星川、涙で目が潤んでいる。

 

水木 泣くなよ。

星川 …

水木 さっ、台詞を続けて。

 

金田一が魔女のシーンで使ったラジカセを地面に置きラストシーンの音楽をかける。

仲間達は観客として星川達の前に座る。

 

星川(シホ) (涙声で)ロンリイ、来てくれたのね。ありがとう。

木谷(ロンリイ) 水臭いこと言うなよ。しかし、星ってこんなにきれいだったんだ。なんか、涙が出てきちゃった(先程のリハーサルよりずっとうまくなっている。本物の涙が木谷の目からこぼれている)

水木(ウィンディー) こうしてると、なんか星空に吸い込まれてしまいそう。

 

みんなうっとりと星空を見つめる。

 

星川(シホ)  (小さい声で)勇、勇…

水木  カット。

星川 …

水木 ひかり、なに囁いてるの。

星川  だって…

水木 (まわりに)そんな囁くような声じゃ聞こえないよな。

 

みんなが口々に「聞こえない」と言う。

 

星川 …

水木  叫びなよ。そうしなくちゃ聞こえないんでしょ。勇君に。

星川 

 

星川が水木を見つめる。うなずく水木。
振り返り、みんなの顔を見る。みんなは優しく微笑む。

 

星川(シホ) (その微笑みに励まされ、ゆっくり前に歩いていく。そして宙を見て涙声になりながらも精一杯叫ぶ)勇、勇。私の声が聞こえる。見てご覧なさい。降るような星空よ。勇の見たがっていた降る