ア ル メ ニ ア 料 理 Армянская кухня
補遺1
アルメニア料理は、アジアでも古い料理のーつであり、ザカフカスでは最も古い料理である。その特徴は、すくなくとも西暦紀元前一万年のアルメニア民族形成期に形づくられ、現代にいたるまで三千年以上にわたって、多くのものを残している。同時に、アルメニアの人民は、十月革命とソビェト・アルメニアの創設以前は、きわめて不遇な条件下におかれ、自分達の国家と国土の一体性を奪われていたことを考慮しなければならない。
西暦紀元前 6世紀に形成されたアルメニア国家は、紀元前2 世紀にはすでに西と東に分裂し、古ローマ、ペルシア、ビザンチン、アラブ人への従属を経験し、紀元後7
世紀以後は数百年にわたってアラブ、蒙古、トルコ、イランによって占領された。17世紀から19世紀のはじめまで、アルメニアは、トルコとイランの間で分割されていた。この時期にアルメニアの経済、その人的、物的資源は衰えたが、精神,物質文化は変わることなく、アルメニア料理も滅びなかった。それどころかアルメニアは、セルジュク・トルコの料理に大きく貢献し、その後、実はアルメニア料理である多くの料理が、トルコを通じて、あたかもトルコ料理であるかのようにヨーロッパに知られるようになったほどである
(たとえはドルマがその例である) 。
さらに本来のアルメニアの領土だけでなく、アジアやヨーロッパでそこに移住したアルメニア人がつくった無数のアルメニア人居住地、すなわち遠くの外国でも、アルメニア料理は、アルメニア人民のその他の民族的特質と同じように、典型的な特徴をもちつづけた。
アルメニア料理の伝統とその継承は、きわめて多くの面 (古い調理技術の利用、料理のつくり方、食品材料の構成、味覚の保持、好みの料理の型)
に見られる。
アルメニアで、はじめてとりいれられた竈の型 (トニール) や食器の種類 (焼物)
は、料理の性格にも影響しながら、ザカフカス全体に広がった。トニールはパン加工品や若干の肉料理やスーブの特殊さをうみだした。そこで野菜が焼いて料理され、カーシャが蒸され、魚や鳥が焼かれる。アルメニア料理の中の多くの料理の名称は、ヨロツパの人々がしているような材料ではなく、その料理をつくる器の名称に関連づけられている。たとえばブトゥーク、クチューチ、タパクなどだが、これらはすべて陶製の器の種類であると同時に、スープや二の膳料理の名称でもある。アルメニアのこの伝統は、隣人であるグルジア人やアゼルバイジャン人にも伝わっている。
アルメニア料理の作り方について言えば、−般に複雑で、多くの場合手間のかかるものである。アルメニアの肉、魚、野菜料理の多くの調理は、時間と手間がかかるつめ物づめ、泡立て、ピューレやスフレの製造の上に組立られている
(コロラクとコロリク) 。
アルメニア料理の調理のもうーつの特徴は、他の東方料理と同じように、操作を細かく分け、その後で料理の部分を合わせることと、操作を何回か変えることである。この二つの特徴は、たとえばアルメニアの菓子を作る時にはっきりとあらわれている。たとえば、多くの層を重ねる生地
(パイ型) ( ガタ、ナズーク) を作る過程は、手間がかかるものであり、果物とくるみから作る糖菓を作るには長い時間がかかり、手間がかかる
(それは、時には数段階にわたり、半月以上つづくこともある) 。さらに、糖菓を作る手法は、多くの工夫と多くの操作の反復を特徴としているが、その手法によって、ありふれた野菜
(なすび、青トマト、かぼちゃ、熟していないくるみ、西瓜の皮) でさへも、特色のある、味も風味もさらに濃さの点でも洗練された菓子に変わるのである。
調理法の多様性は、スープにもはっきりみられる、ここでも、酸乳,たまごべ一スのスープ(
スパス、タノヴィ) と分けて作られるポズパシュ、複雑なラプシァ (タルハナ)
があり、最後に煮汁のなかにそれとは別に作られた多くの具が入れられる。
これまであげた調理法の主な目的は、上品なもの (料理) を作ることである、時間のかかる複雑な処理と多くの物を加えることによって、その味はいちじるしく豊かになる。ここからひき肉料理の豊冨さがでてくるが、そのひき肉料理に、挽かれた形で他の材料も加えられる。たとえばコロラク、スフトラツ、トルマ等である。
アルメニア料理にも、自然の肉料理があることは言うまでもない、たとえばアルメニア・シャシリーク、パストイネル、肉クチュチであり、家禽の丸のままの料理もある。またそれらは、第一に非常に古いもので、現代料理ではまれにしか使われず、現在ではもっと簡単なものと思われている。第二にそれらの料理で、肉は自然の形も残してはいるが、新しい味でもすぐれている。
このように、アルメニア料理には、構成の点で多種多様な料理があり、それは複雑で、豊かな、こったとも言える味と風味の感覚できわだっている。この味と風味全体が、ただ独特の調理過程だけで作られるのではなく、食品素材の構成そのものに大きく条件づけられていることは言うまでもない。アルメニアの食品素材は多くの世紀にわたって安定しており、それはアルメニア高地とアララト盆地の自然条件と完全に結びついていた。アルメニア高地での古代畜産の発達は、徐々に飼育される家畜と家禽の種類の多様さをもたらした。アルメニア人は、雌牛、雌羊、水牛、豚、七面鳥、鶏、がちょう、あひるを繁殖させてきたし、今も繁殖させている。アルメニア人は、野生動物も利用している。アルメニア料理には、他の料理ではきわめてまれな、−つの料理で違う種類の肉の組合せが見られる。たとえば、最も古い料理のーつであるアルガナクは、鶏と鹿の肉を組み合わせている
(鹿の肉は、鶏のヴィヨンで煮られる) 。
畜産は、また様々な乳製品の源泉にもなった、その乳製品の基本的なものは、壺や皮袋で作られる塩入りチーズ、マツーンの派生物かまたはマツーンと甘い乳製品を色々な割合で組合せたものである酸乳製品である。
牛乳の加工品であるこれらの製品は、アルメニア料理できわめて重要な役割を果たし、またそのまま使われるだけでなく、べ一スとして、また材料として多くの料理に入れられている。
アルメニア人の食事で、チーズが大きな場所を占めている。発達した家庭チーズ製造は、チーズの種類の多いことだけでなく、乳漿の特色ある利用やその再加工を特徴としている。たとえばマツーンの乳漿またはバターの乳漿からトゥバロ一クのジャジィクと長期間保存するための乾燥乳漿・チョルタンが作られる。これらの乳製品はすべて、パンとならんで人民の恒久的な、欠かせないまた尊敬すべき栄養食品に含まれている。
それらは、朝食に多く食され、その他に昼食でも食されている。
アルメニアの肥沃な盆地で農業が早く発生したことが、何千年もかかって確立したアルメニニア料理での穀類
(スペルト小麦、きび、大麦、小麦、米) と豆類{いんげん、大豆、レンズ豆、山えんどう)
の多くの種類の、しかも普通 (たとえばロシア料理のように) 両方を別々にしてでなく、組合せて利用することを生み出した。例えばスープのゼルヌーシュカは数種類の豆とひき割りで作られる。様々な穀物・豆カーシアもある。一般に、これらの料理は冬の料理である。強調しなければならないことは、アルメニア料理では、ひき割り料理とスープに、あらかじめ特に加工された小麦のひき割りが使われることである。それはザバールとコルコトで、ザバールは、ざっとゆでて乾かし、その後でふすまをとった小麦から作る挽き割で、コルコトは、わずかに水で湿し、ふすまをとって乾かした小麦で作るひき割りである。ここにも穀物の味に影響を及ぼす複雑な作り方がある。それでアルメニアの独創的な食品素材を抜きにして、アルメニア料理を再現することは、非常に難しい。
食事で大きな割合を占める基本的な粉加工品は、独特のパン・バラシュである。粉加工品を作るためには、数種だけでなく、15種類にも及ぶスペルト小麦が利用される。小麦粉が一番広く使われているが、じゃがいもやとうもろこし澱粉とまぜられることもある。
アルメニアの独創的な粉は、煎った小麦からつくる粉バヒンズである。生地を作らずに小麦粉でつくる古い民族料理からハシルとアスダをあげねばならない、それは乳漿、またはぶどう・ジュースをベースとする粉を入れたキショールのようなものである。小麦粉は、主に菓子や各種のパン
(ラパシュやマトゥナカシュ) を作るために使われる。
アルメニア人の食事で、野菜と果物が大きな役割を果している。外コ−カサスの各地と同じように、それは生、乾、塩漬け、酢漬けとして使われている、その他に、野菜と果物は、スープや二の膳料理を作る時の欠かせない材料となっている。さらに、野菜だけでなく、果物
(マルメロ、プルーン、レモン、ざくろ、乾ぶどう、乾あんず) が、肉や魚を調理する時に広く利用されている、このことが肉や魚
(とくに漁料理) に独特の味をつけている。アルメニアの肉スープに、じゃがいもや玉葱とともに、りんご、マルメロ、乾あんず、くるみが、また魚料理にさんざしの実、きのこ料理にプルーン、すもも、乾ぶどうがよく入れられる。
アルメニアでは、完全にそれだけで野菜料理が作られることはまれである。その場合、基礎になるのは、なすび、かぼちゃ、豆
(えんどう、レンズ豆、いんげん) であり、それに他の野菜や果物、スパイス、牛乳またはバターが加えられる。アルメニア料理に使われる野菜はザカフカスと変わらない。隣接の共和国よりも、アルメニアで多く使われるのは、おそらくオクラだけであろう。野菜料理には、その他に野草
(約300 種ある) とスパイスが加えられる。スパイスのうちで好まれているのは黒胡椒、キンザ、はっか、ヱストラゴン、バジル、きだちはっか、それにいうまでもなくにんにくと玉葱であり、菓子用に肉桂、カルダモン、クローブ、−部サフランとバニラが使われている。
このスパイス群は、グルジアやアゼルバイジャンと幾らか違っているが、その構成よりは、使用されるスパイスの割合に違いがある。たとえば玉葱は、常にまたかなりの量で用いられるが、−方にんにくは、ひかえめに、それも生ではなく、酢漬けのにんにくが多く、しばしば使われる。アルメニア料理では、地方の魚が材料として利用され、そのための独自の調理法がつくりだされた。基本的な魚は、デリケートな味を特徴とするいわなである。それはまたアルメニアの魚料理の調理法であるプリプースカニェを生みだした。その調理法によれば、魚のデリケートな濃度がつねに最大限に保たれる。
最後に、アルメニア料理での油の使用について若干ふれねばならない。大部分の料理が濃縮バターで作られる。それはスープ、肉、鳥類、魚、野菜の蒸し煮や焼くのに使われ、菓子にも使われる。アルメニアでは濃縮バターがマツーンから作られ、マツーンは羊乳から主として作られるのでそれには独特の酸味と風味があり、それが料理にも移っている。マツーンから作ったバターがないとき、アルメニア料理をつくるには、農民のバタ一やアマチュアのバターを使ってもよい。植物油は、アルメニア料理ではほとんど利用されない、利用されるのは、魚と若干の野菜料理
(いんげん、なすび) をつくる時だけである。植物油もごま油が伝統的なものだが、オリーブ油から最近では日まわり油に変わっている。
アルメニア料理の味の質には、その熱処理の方法も注目すべき跡をのこしている。−般に肉、鳥、野菜料理の熱処理は複雑なものである。ある料理または材料、例えば肉が炒められ、煮られ、蒸されることがある。こんろで調理するときの過程として、また熱処理の一つとしての
(オーブンまたはトニールでの) 蒸し (焼き、煮) が 多いと言えるだろう。だからアルメニア料理の多くが気持のよいデリケートな濃さ
(いわば口でとろけるような) と、特に極端でもない酸味とピリッとした味、風味ですぐれているのである。
アルメニア料理おわり