白 ロ シ ア 料 理
補遺1
白ロシア人民の歴史的運命の特殊性は、その文化の形成と発展に大きな影響を与えてきた。1917年の偉大な10月社会主義革命まで自分の民族国家を持たず、ロシアのギリシア正教、宗教合同派とカトリック教会の十字砲火にさらされていた白ロシアの人民は、困難で、複雑な矛盾した条件の中で、自分たちの民族の特色と習慣を守らねばならなかった、それには民族料理をふくむ物質文化も入っていた。
このような条件の中で、白ロシア料理は、一面では白ロシアをとりまくスラブ民族
(ロシア人、ウクライナ人、ポーランド人) の料理への親近性をもちつづけ、一面では非スラブ系の隣人であるリトワニア人やラトビア人の料理から一定の影響をうけてきた。それだけでなく、長い間切り離されていた白ロシアの東部と西部の調理技術は、違って発展し、異なる影響をうけた。これらのことがすべて、白ロシア料理のそれまでにつくられていた特徴の確立を妨げ、民族料理の手法や白ロシア料理だけがもっている個々の料理の開発にブレーキをかけた。
統一した民族料理形成の特に著しい障害となったのが、民族や宗教の違いと固くからみあった身分による違いだった。農民は白ロシア人でギリシア正教徒だったが、ポーランドの小貴族の一つであるシュリャフタは白ロシア人だが、とくに宗教合同派教徒だった、特権貴族階級は民族的にはポーランド人とリトワニア人で、宗教はカトリックに限られていた。ここから当然農民、小都会や都会の住民の違いだけでなく、「マグナート
(ポーランド人の大地主) 」、「ガスパード (領主) 」、「パン (地主) 」、「シュリャフタ」料理と庶民料理の違いが出てきた。白ロシアの支配階級とそれと張り合っていたシュリャフタの料理は、大ポーランドと一部分はドイツ料理の影響を強くうけて形作られ、一方町人、手工業者、小都会住民の料理に影響を与えたのは17世紀に白ロシア領内への大量の移住が始まったユダヤの居酒屋料理だった。
白ロシアの農民料理は、19世紀末から20世紀の始めまで、古ロシア料理に根ざす独特の特徴をしっかりと保っていたが、それは13〜14世紀、時にはもっと遡って、クリビチーやドレゴビチー
(いずれも古代ロシアに植民したスラブ族の一派) の作り出したものだった。
それとともに、農民の料理には、地域の違いが強く見られた。たとえばビチェブスクの人とモギリョフの人の農民料理は、グロドノ地方の西部白ロシア人の料理と違い、これらの両者はまたパレシア湿地帯の住民やパレシアの影響をあまりうけていないピンチュークの人の料理とも違っていた。
だがこれらの矛盾にもかかわらず19世紀の末までに、白ロシア料理が自立できるようになったのは注目すべきことである。
こうして現代白ロシア料理の土台となったのは、東部と西部諸州の農村住民の料理だった。その料理には、主にポーランド料理の影響のもとに作り出されたが、白ロシア風にアレンジされ、白ロシアの領土内に広く普及していた都市住民の料理がとりこまれていた。その結果、白ロシア料理には、よく利用される好みの材料群と、独特の調理法、食品素材の事前処理と熱処理の手法が現われた。このことが、白ロシアの台所が全体としては、隣接する他の民族のどれにも見られないような料理を選びだす結果をもたらした、もっとも、個々の料理の調理原則は、ロシアやウクライナや、ポーランド、リトワニアの人々にとって全く縁のないものではなかった。
しかし、これら三っの料理で利用される材料が似ていることと、竈の型の共通性
(白ロシア料理が作られるロシア竈) は、表面だけ見ると、白ロシア料理は、ロシア料理の一つの支流であるような印象を与える。
ところが決してそうではない。白ロシア料理でよく使われる材料をとってみよう。第一に、それは様々な種類の「黒い粉」
(えん麦、ライ麦、大麦、そば、えんどう) であり、さらに白ロシアでパンにされるのは、ライ麦粉であり、その他の粉物には、えん麦粉があてられる。
昔、えん麦がとくに利用され、またイーストを知らなかったことが、白ロシア料理が事実上ブリヌィもピロークも知らない結果となり、えん麦粉の特性
(白ロシアで行われているえん麦の自家醗酵によるその下ごしらえと加工) がブリヌィやピロークの妨げになっていた。それでえん麦粉から作られる白ロシアの「ブリヌィ」いわゆるラスチンヌィエは、ロシアのものとは全く似ていない、それはラスチーナすなわち自然に醗酵した粉と水の混合物から直接作られる。ピロークも、どのような形にしろ、白ロシア料理にはもともとなかったのである。
粉利用のもう一つの特色は、多くの種類の粉を混ぜることが多いということである。一種類の基本になる粉
(ライ麦粉、えん麦粉) に、大麦、そばまたは小麦、えんどうの粉を混ぜるのである。
もちろんソビェト権力の時代に、白ロシアでも全国と同じように、小麦粉の使用が広く普及した
(それとともに、これまで白ロシア料理になかった料理も出現した) 、またそこでは小麦粉から、軟化剤として重曹を使い、イーストを使わない粉物も多く作られるようになった。
野菜の中で、白ロシア料理に特徴的なものは、きゃべつ、えんどう、大豆、にんじんそれにいうまでもなくじゃがいもだが、それには特別の場所があてがわれている。
実際白ロシア料理の特徴は、約 25 種類のじゃがいも料理があり,それぞれ似ていないばかりか、これらの料理がメニューにしっかり定着していて、民族料理の欠かせない、重要な一部になっていることである。このことは、白ロシアへのじゃがいもの進入がロシアより約75
〜90 年早かったという歴史上の理由と、澱粉が多く、味のよい品種のじゃがいもの育成と成長が容易である自然・気象条件によって説明される。だから、時によっては、澱粉の少ない、水っぽい品種のじゃがいもを使った場合、白ロシア以外の所では白ロシアのじゃがいも料理と同じ美味しさが作り出せないこともある。
白ロシアの自然・地理条件が、きのこ、森の液果類、野草 (アエゴポディウム、ぎしぎし)
、りんご、梨、川魚、えび、牛乳、トゥバローク、スメタナのような材料の広範な利用を助けている。これらの材料は、ロシア民族の料理の特徴でもあるが、白ロシア料理でのその利用の形と手法は幾分違っている。
例えば、きのこは煮たり蒸したりだけで、焼いたきのこ料理を白ロシア料理は知らない
(それは、20世紀の始めまで、きのこのマリネード漬けや塩漬けを知らなかったことと同様である)
。一般に、きのこはそれだけが料理に使われず、つねに添え物 (主な料理に味をつける「かくし味」)
として利用されている。それで、白ロシア料理は、きのこそのものだけでなく、またそれよりむしろ乾燥きのこの粉を利用する、その粉はユーシカ
(魚肉スープ) や二の膳の蒸し煮の野菜や肉料理にふりかけられる。全く同じように魚も揚げないで、うろこをつけたまま丸で焼いたり、ざっと炒めた後特別な方法で乾かすか、クリョーツカ
(スープに入れる小さいだんご) やガールカなどに入れて、詰め物として利用されている。
牛乳料理については、ここでも純粋の牛乳料理はない、そのかわり牛乳の様々な加工品
(トゥバローク、スメタナ、乳漿、バター) が、粉、じゃがいも、野菜、きのこが入っている多くの料理で、欠くことのできない添加物である「ザビヨールカ」(
調味料としてのクリームなど) 、「ザクラース」 (かくし味) 、「パローガ」
(汁) として利用されている。
森の液果類、梨、リンゴは混ぜられることがない、それらから作る料理 (クラーガ、キショーリ、クワス、ピューレ、ザペカーンカ)
は、一種類の液果や果実から作られる。
白ロシア料理での肉の使用と下ごしらえにも、多くの特色がある。豚の脂身や豚肉の使用は、白ロシア料理をウクライナ料理に近いものにしている。だが白ロシアでは、脂身
(サーロ) は、ほとんど冬、薄い塩漬けで、かならず皮をつけて食べられている。それはじゃがいもと一緒にかじって食べられ、肉の役割を果たしている。また大部分の料理を作るための脂肪分として、脂身の他にスメタナ、濃縮バター、植物油
(かっては大麻油、現在は日まわり油) が、多く利用されている。豚肉は、肉としては、主に家庭作りのソーセージやブヤンドリーヌィ
(ざっといぶしたハム) またはカリョーイカに使われている。脂肪のない豚肉と羊肉は,
大きな塊 (普通、後足のもも全部) で焼かれるが、それが白ロシアの民族料理であるピャチストである。家禽のなかでは、がちょうが好まれるが、それも焼いたものである。
古い白ロシア料理の特徴は、肉や家禽 (がちょう) の塩漬けである。その塩漬けからサラニーナとパラトークが作られる、それともう一つの特徴は、内臓
(もつ) の使用であり、とくに胃でつくる料理や軟らかく煮たヴィメニである。
主要な食品材料と、その利用についてこれまで述べた簡単な列挙からでも、白ロシアで好まれている熱処理の方法は、焼き、煮、蒸し焼き、蒸し煮であることを指摘できる。それに、全く正反対の下ごしらえの二つの方法を付け加えねばならない。それは、大きな、分割しない塊で利用する[足
(もも) 全部の丸焼き、胃全部、がちょう一羽、魚一匹の丸焼き] ことと、逆に材料を細かく刻むか、細分するか、つぶす、すなわち熱処理する前に、肉であろうと,
野菜やきのこであろうと、刻んだ団子や挽き肉状にしたり、ピューレや粉にすることである。はじめの方法は大昔から行われており、二番目の方法は、はるかに遅い時代の特徴であり、ポーランド料理から借りてきたものだが、これが最も発達している。
一種類の材料 (肉、魚、じゃがいも) やとくに主要な材料に、その他のものをごく少量混ぜて作る細かく刻んだ団子状のものや、ピューレ状のものを利用することによって、白ロシア料理は、数多くのじゃがいも料理
(ドラニキ、ツィブリキ、グリビシュニキなど) 、多くの肉料理 (ヤリャキー、マカニーナ、バントロフキ,
カルバスィ) それに多数の組み合わせ料理 (クリョーツキ、ガルキ、スラズィ)
をつくりだした、それらの料理は、白ロシアの外にも広まっている。
細かく刻むことと並んで、白ロシア料理では食品を軟らかく十分に煮る方法がとられている。そのために材料を長時間煮ることと、長い間蒸気や熱湯で軟らかにすることが行われている、それで材料を最後には濃いカーシャ状のものにしなければならない。料理の濃さを人工的につける方法さえ知られていた、その場合粉、澱粉といわゆるザコロータが料理に加えられる。
料理が十分に軟らかく、材料の形が残っていないことが、古い白ロシア料理では理想的とされていた、それが、料理の材料全部を容器
(壺、鋳鉄製の鍋) に同時にいれ、それにほとんど一杯のの水を入れることを生み出した。さらに、汁があふれるのは、温めるために利用される熱を強めるのではなく徐々に弱めることで防がれた、こうして料理は非常にゆっくりと徐々に、時によっては一昼夜かけて煮られていた。このような火の調節は、ただロシア竈だけが出来るので、新しい熱源
(温度が上昇するだけで、降下しない) を使用する現代の白ロシアの台所は、昔の伝統をついだ料理の幾つか、とくにザコロータの入った濃厚なスープをあきらめている。だが今では、重い粉の添加物でスープの濃度を人工的に高めなくても、一の膳と二の膳の料理を同時に作れるので、あきらめることはない。だから、ここではすたれたザコロータ入りのスープはあげないことにする。だが、それにふれておかねばならない、というのは白ロシア料理の過去に形作られた一の膳と二の膳の質をあわせもった一つの料理を作るという伝統が、今日まで保持されている白ロシアの多くの調理法や調理技術に跡を残しているからである。とくに材料を料理で果たす役割に応じてグループに分けることがしっかりと確立している。それはプリバールキである。
プリバールキ、これは量でも、料理中での決定的な役割の点でも料理の基礎であり、料理にその名がつけられる基本的な材料である。その役割を果たすのは、普通、きゃべつ、かぶら、にんじん
(つねに、それぞれその一種類だけで使われる) のような野菜と、ひき割 (小麦、大麦、そば)
である。
ザクラースィ 、料理を飾ったり、主要な味や栄養をそえる材料である。これに含まれるのは肉
(豚または羊肉) またはビャンドリーナ (ソーセージ、ハム、ロース、脂身をまぜたもの)
、魚、きのこである。ザクラースィも、一つの料理では、それぞれ別に使われる。
ザコロータ、料理を濃厚にするために使われる材料。普通、料理の性格に応じた穀粉か数種の穀粉をまぜたもの、またはじゃがいも、澱粉である。穀粉は、汁物料理
(スープ) だけに入れられ、じゃがいもは二の膳料理の濃度の高いもの特に脂肪分を吸収するものとして油気の多い料理に使われる。
バローガ、液体状の脂肪で、その役割は料理のカロりーをふやすだけでなく、それを乾かないようにすることである。バローガの役割を、牛乳
(生および酸敗したもの) も果たすことができるが、スメタナ、濃縮バター、溶かした内臓の脂身、大麻や亜麻の油
(現在は日まわり油に代わっている) であることが多い。
プリスマキ、ごくわずか加えて風味をつけたり、味にニュアンスをつける材料で、料理をより魅力あるものにし、独特なものにする。白ロシアで使われるプリスマキには、玉葱、にんにく、ディル、キャラウェイ、黒胡椒、ローリエ、コエンドロの種子がある。
これら五っの材料グループ、おそらく若干の場合、ザコロータをのぞいて、これらのグループによって、今日の白ロシア料理の主要な一の膳料理と二の膳の大部分の料理が作られている。
白ロシア料理の伝統である、なかば汁状で、なかばこってりした濃度を次の料理はもっている。まず第一に野菜科理だけでなく、何よりも肉料理と考えられているもの、例えば、ビゴースや、とくに今でも人気のある、多くの種類のムイーカニン
(マカニンまたはマチャノーク) 、粉と甘いもの (液果、糖蜜) をまぜたものであるサラドゥーハとクラーギのような、なかば甘いデザート料理である。
とくに次のことを強調しておかねばならない、それは白ロシアの伝統的な民族料理で、主要なことは、構成が独特であるということではなく、この材料を処理する過程と、何らかのきわめて単純で、平凡な、しかも
一 つの自然の材料、例えば、えん麦、ライ麦粉、じゃがいもをかなり複雑で、つねに時間がかかり、冷たいままの処理と熱処理とを組合せることが多い処理をして利用することである。この典型的な例としてあげられるのは、えん麦のキショーリである。それは一種類の材料、すなわちえん麦から三昼夜にわたる10以上の操作の結果作られる料理である。もうーつの例は、全く同じ材料
(じゃがいも) から (汁を足したり、逆に絞ったりして)液体の量をかえたり、脂肪や何らかのプリスマキを加えて、味も作り方もちがう20以上の料理がつくられることである。
民族料理で、穀粒やふすまに加えられる長時間で、手間のかかる処理 (醗酵による酸味づけ、麦芽による甘味づけ、醗酵をふくむ)
は、この単純な材料に生化学的過程をひきおこすが、その過程は、材料の成分を数倍も複雑なものにし、それによって料理の栄養価とその消化・吸収性を高めるのである。
白ロシア料理の純粋な味の質について言えば、それはきわめて高い、とくに、冷めてから温めなおしたものでなく、作りたてての
(たとえば、じゃがいもと粉をふくむ料理) 熱い「ほやほや」の料理では、とくにそうで ある。
白ロシア料理終わり