ト ル ク メ ン 料 理
補遺1
トルクメン料理は、これまで研究の対象とされていなかつた。それは次のような事情からである、第一に、トルクメン料理は、調理法でもまた利用する材料の種類の多くでも、その他の中央アジア民族であるウズベクやタジクに近いので、トルクメン料理というものはない、と長い間考えられていたからである。第二に、トルクメンのさまざまな地区の住民には、食品の分野も含めて、それぞれ民俗的な特色があり、そのことがトルクメンの民族料理の全般的な特徴づけを、これまで困難にしてきたし、今でも困難にしているからである。
しかしトルクメン料理は、−連の特色によって、ウズベク、タジク料埋と区別される。その特色は、何よりもトルクメンの特殊な自然条件、人口の異常な分布、トルクメン人相互の交通の不便と関連がある。
わずかなオアシスしかない、ぼう大なトルクメン砂漠が、牧畜を仕事とするようにさせ、トルクメンの多くの者にとって、肉と乳が主要な食品となるのを促した。ただ若干のトルクメン人、例えば、農業にたずさわったムルチャリン人の間では、かって粉物料理が主要なものだった。
トルクメン入は、何よりも羊肉を重視する。しかし、それを多く使うのは、トルクメン・テキン族とトルクメン・イオムード族で、サリーク族やその他のトルクメン人は、ジェイラン
(山地の野生の山羊) 、若い非役畜のらくだ、野鳥 (きじ、しゃこ、うずら) の肉を利用している。牛肉は、かってはトルクメンではあまり知られていず、イオムード・ブリバルハネツ族の間では全く知られていなかった。
トルクメン料理には、他の中央アジアの諸民族の料理よりもはるかに多くの純粋な肉料理がある、もっと詳しく言えば、他の材料をまぜず、つけ合わせもつけないで熱処理される一種類の肉だけで作られる料理がある。
多くの場合、トルクメンには、中央アジア全体に共通する肉の調理法がある。すなわち、肉を少量のその脂身で炒めて、内側にうわ薬をかけた胸製の器に保存する
(トルクメンでは「ゴブルマ」とよばれており、カザフやウズベクの「カブルダク」に似たものである)
ことや、若い動物の肉を炭火で焼く (ケバブ、またはシャラ) ことである。さらに「ケイークジェレン・ケバブ」すなわち山地の若い野生の山羊の肉のシャシリークは、トルクメンの民族的なシャシリーク
(ケバブ) である。最後に、トルクメンではタジクスタンのように、肉がタンドィル
(タムドイル) −かまどーで焼かれることが多い。
それとともに、トルクメンには、周辺の民族にない民族独自の肉の調理法や貯蔵法がある。それは特殊な気象条伜
(気温の高さ、熱い乾燥した風、熱く焼けた砂) から生まれたものである。イオムード族の間でよく行われているこのような方法のーつに、焼けるような太陽の下での風による肉の乾燥がある。非常に大きな肉のかたまりで骨をつけたものが、長い竿の先にくくりつけられ、数日おかれる。この天日乾燥の肉は「カクマチ」と言われる。もうーつの
(テキン族の) 方法は、違う環境を組合せたものを基礎にしている。あらかじめ下ごしらえした、
(すなわち洗って、塩ととうがらしをすりこんだ) 羊または山羊の胃に、小さく切った肉と脂身を、空気が残らないように固くつめる。それから胃を閉じて、日中は焼けた砂の中に埋め、夜間はとりだして、高い竿にくくりつける。このような条件の交替を、胃が乾燥するまでくりかえす。そうすれば、胃の中の肉に独特のよい味がつき、長期間いたまない。この肉はガリン
(ジェルドチュノエ) と言われる。
現代のトルクメン料理では、純粋の肉料理が、中央アジアやカザフスタンのその他の民族の間に普及している肉・ひき割り、肉・生地、肉・野菜を組合せた料理すなわちピラフ、マントウィ、ベシュバルマク等に、ますます多くの場所をゆずっている。
もちろんこれらの料理は、トルクメンでは、独自の名称がつけられ、違う名称のことが多い。それで、全く違う料理のように思われることが多いことになる。たとえば、ピラフはトルクメンではアシュ、マントゥイはビョーレク、ベシュバルマクを大部分のトルクメン人は、グーラクとよび、テキン族ではベルケ、北部イオムード族はクルトゥークとよんでいる。この例からも分かるように、トルクメン料理は、ウズベク・タジク料理とカザフ・キルギス料理の典型的な料理を組合わせている。
トルクメンの二の膳料理のほんの一部が、特殊な調理法と周辺民族にはない材料の組合せで目立っている。そのような料理として肉・ひき割り、肉・生地でつくられるオグルジャリ・アシュ、イシュトイクマ、エトリ・ウナシュ、ガトィクリ・ウナシュがある。
乳類について言えば、一番つかわれるのはらくだと羊の乳で、それから主に乳酸発酵、チーズ酵素、アルコール酵母の助けをかり、その後こしたり、まぜたり、しぼったり、乾燥させたりして、さまざまな乳料理をつくりだしている。乳加工品には、複雑な生物学的、物理化学的な処理が加えられる。例えば、トルクメンの独創的な乳製品であるアガラン、チャル、カラグールト、テレメ、スィクマン、サルガンである。トルクメン料理の乳製品の独創性は、もととなる材料
(らくだの乳) の独自性だけでなく、トルクメンの気象条件 (乾燥した亜熱帯)
が、他では再現できないことによるものである。その気象条件が、乳酸発酵や酵母醗酵のめの特殊な条件をつくりだしている。
らくだ乳とその加工品、主にチャルはトルクメンの西部と南西部独特のもので、東部や南東部のオアシスでは羊乳が多く使われている。
ウズベク、タジク料理と違い、トルクメン料理では、野菜が使われることははるかに少ないが、これもやはり気象条件と多くは、過去の生活様式が農耕でなく、半遊牧であったことによって説明がつくものである。大根やトマトが多く利用され、かぼちゃやにんじんは、かなりまれで使われる量も少ない、マシュ
(中央アジアの小いんげん) はさらに少ない。食事の中に野菜がないことは一部は野草{ぎしぎし、トルクメンあかざ
(ガラ・セリマ) 、トルケスタン・スカンポ (イ
スマナク) 、ばらもんじん (きばなばらもんじん) の球根}で補われている。果実では、あんずが一番多く、肉や粉物料理だけでなく、魚料理にも使われている。瓜類では、まくわ
西瓜がよく利用されている。
使用されるスパイスも、ウズベクやタジク料理といくらか違っている。イオムード・ブリバルハネツ族、テキン族、サリーク族に欠かせない玉葱ととうがらし、イオムード・オグルジャリネッ族の黒胡椒とならんで、多くのトルクメン人は、はっか,野生のパセリ、アジュゴンを、またテキン族は、野鳥科理にブジュグン
(ピスタチオの木につく虫こぷ) をよく使っている。トルクメン人は、ターメリックのかわりにサフランを使っている
(とくにオグルジャリネッ族) 、またアギまたはその代用物のにんにくも使われている。おそらくトルクメン人はソビェト国内でスパイスとしてアギ
(チョムチ) *を利用し、きらにそれから特殊な調味料であるアラシュ (イオムード族のところで)
をつくる唯一の民族であろう。
*アギは南東カザフスタンで野生のものが見られるが、カザフ料理でそれが使われているという情報は著者のところにはない。しかし、シニッジャネやドゥンガーネ族の中のカザフ人やカザフスタンに住んでいるウィグル人は、かってアギを使っていた。アギの臭いが強いので、わずかしか使われない。料理には入れられず、アギのかたまりで鍋の底に1
〜2 本の線を描いて、それから米、野菜、肉などを入れる。料理全部ににんにくや玉葱の風味をつけるには、それで十分である。一本の線が、においの強さでは、玉葱二個に匹敵する。
脂肪の組合せでも、トルクメン料理は、中央アジアの他の民族の料理と違っている。中央アジア全体でよく使われているクルジュク種羊の脂身を溶かしたものよりも、らくだ乳からつくられた濃縮バター
(サルイ・ヤグ) がトルクメンでは、はるかに広く使われているし、また特にごま油が使われている。トルクメン人は、肉料理を作る時だけでなく、粉物、デザート、魚料理にもごま油を利用している。
トルクメンにカスピ海沿岸のイオムード・オグルジャリネツ族が作る魚の民族料理のあることは、トルクメン料理全体を、他の中央アジア料理とはっきり違うものにしている。アムダリア河とシルダリア河の岸に沿って住んでいるカラカルパク人の間でさえ、魚料理はあまり見られない。ところがオグルジャリネッ族のところでは、魚料理は料理の中心的な場所を占めている。さらに、材料そのものがありふれたものでなく、中央アジアの条件では数すくないものであるだけでなく、調理法も特殊であることを強調しなければならない。
トルクメン・オグルジャリネッ人は、中央アジアの伝統的な調理法 (たとえば焼き串か、よく熱した油や、釜で焼いたり、炒めたりする)
や、アジアの伝統的な植物性材料{ごま、米、あんず、乾ぶどう、ざくろジュース
(これらはヨーロッパ人の考えでは、魚と全くあわないものである) }にも魚を適応させている。その結果、よく考えぬかれた基本材料の割合、スパイスと脂肪の人工的な組合せによって、新しい口あたりのよい、意外な効果の味がでる不思議な混合が作りだされた。
トルクメンの魚料理を作る基本的な条件は、とりたてが一番よいが、新鮮な魚があることである。このような魚だけが、甘酸っぱい調味料によくあう、その場合、魚の種類は、そう重要なことではない。オグルジャリネッ人は、とくにアショートリナ、セブリユーガ
(いずれもちょうざめの一種) 、海と川のとげ魚、なまず、ぼら、サザーン、クトゥーム
(いずれも鯉科の魚) を利用している。
トルクメン以外の所でトルクメンの魚料理を作るのに利用できるのは、前にあげた種類の魚以外に、たら、メルルーサ、マクロルース、ノトテニア、おひょう、すずき科、鯉科の魚すべてである。その場合、冷凍した海魚または切り身は、事前に解凍しなくてもよい。−方、独特のにおいがあり、甘酸っぱい調味料にあわないにしん類の魚はすべて利用できない。
ちょうざめ等の高級魚は、トルクメン料理ではシャシリーク (バリィーク シャラ)
やカブルダク (バリィーク カブルダク) を作るために、とくによく使われている、その場合、肉のための調理法がそのまま使われる。
バリィークシャラ用に、樹枝 (焼き串) に輪切りの玉葱と交互に刺して、塩をした魚のかたまりが炭火で焼かれる。バリィーク
カブルダク用には、普通のカブルダクのように、骨をとった魚の小さな片を大鍋に入れてその魚の脂
(腹膜の部分からとくに切り取ったもの) で炒める。場合によっては、過熱したごま油をすこし加えることがある、陶製の細くびの壷に入れた後、とかしたクルジュク種羊の脂身を入れる。その他の魚料埋
(カプラマ、チョーメ、バリィーク・ビョーレク、バリクリ・ヤナフリ・アシュ)
は材料の組合せと処理法が、はるかに複雑である。そのうちのあるものは、ピラフやマントウィ、すなわち肉物料理の作り方を思わせる、あるものは肉料理の中に似たものはないが、それは肉にくらべて魚は早く作らねばならないからである。
オグルジャリネツ人は、普通、魚に事前処理と熱処理の混合した処理を加えている。例えば、魚を野天干しにして、次に焼いたり、塩や酢で処理して、その後蒸し煮にしたり、揚げたりする、またはゆでてから蒸したり、酢を加えたりする。このような操作の主な目的は、−緒に入れる材料やスパイスの甘酸っぱい風味や甘く、ぴりっとした風味に魚をなじませることである。
このように、共和国南西部のトルクメン人によって作りだされた魚料理は、−般の中央アジア料理のなかでもずばぬけたものであり、世界の調理技術にたいするトルクメン民族の独創的な貢献である。
それでトルクメンの主要な民族料理のスケッチにあたって、らくだ乳で作る最も独創的な乳製品とオグルジャリネッ・トルクメン人の魚料理に主な注意をむけたのである。
トルクメンの大部分、とくにゥズベクスタンとタジクスタンに接するトルクメンの東部と中心部地区では、料理は、これらの共和国の民族料理にもっと近いものである。
カスピ海沿岸のトルクメン入と共和国東部地区のトルクメン人の伝統的な料理と味の違いは次の例からもうかがえる。テキン人が牛肉を食べた時、気にいれば、「すばらしい、羊肉のようだ」と言う。ところがオグルジャリネッ人が羊肉を食べた時、それなりの流儀で「すばらしい、まったくアショートリナ
(ちょうざめの一種) のようだ」と褒める。
よく知られているが、トルクメン人も中央アジアの他の民族のように、茶をよく飲むが、テキン族、サリーク族、メルベツ族は、すぐ隣のウズべク人のように緑茶を飲み、−方イオムード・ブリパルハネッ族とオグルジャリネッ族は、カザフ人のように、紅茶を飲んでいる。その場合、彼等は紅茶にしぼりたてのらくだ乳を入れて飲む。らくだ乳で茶を「いれ」、一寸炭火にかける。茶をいれるのに、水のかわりに乳を使うのは、イオムード人が住んでいる地域の水が、塩からく、硬いからである。
砂糖菓子について言えぱ、トルクメンの糖菓は、基本的には、ウズベクと同じであり、その種類は、西瓜とまれにぶどうのジュースから作られるナパートとべクメス
(ドシャブ) にまとめられる。トルクメンだけのただーつの糖菓は、ゆり科の植物であるチェリシュ
(チウィリシュ) −Eremurus grandiosa L.−の根から作られる特殊なハルバ・タイプのものである。イオムード人は、その根からトラガカント・ゴムをとって、植物
(ぶどう、西瓜、まくわなど) のジュース、スパイスとまぜてジャム状のものを作っている。
トルクメン料理おわり