“国連の法廷”へ きのう、関西空港から、一人の在日韓国人一世のお年寄りが、スイスのジュネーブに向けて旅だった。
滋賀県甲西町に住む姜富中(カン・プジュン)さん。81歳。見送りの人たちに振った右手の指は、親指を残して4本とも根元から切断されていた。太平洋戦争中、旧日本軍に徴用され、戦地で重傷をおった傷あとである。姜さんはこのとき、右目もほぼ失明した。 しかし姜さんは、この戦争でけがをしたり死亡した元軍人軍属や遺族に支給されている障害年金は受け取ったことがない。日本国籍でないというのがその理由である。そこで姜さんは93年、「日本人と同じ補償がないのは憲法違反」などとして、国を相手取り戦後補償訴訟を起こしたが、今年4月、最高裁は上告を棄却。姜さんの敗訴が確定した。 今度の旅の目的は、「日本での手だては尽くした。国連に訴えるしか解決の道は残されていない。これでは、死んでも死にきれない」と、ジュネーブにある国連の社会権規約委員会に意見陳述するためなのだ。 裁判で争っていた99年、私がキャスターをしていた三重テレビの番組で姜さんの特集をしたことがあったし、昨年、私が審査した民間放送連盟賞近畿地区報道番組部門では、姜さんを取り上げたMBSの番組が賞を受賞した。日本の植民地時代の朝鮮半島でうまれた姜さんは、少年時代、三重県津市で働いていた兄を頼って渡日、ここから旧日本海軍の軍属に徴用され、ソロモン諸島で大けがをした。 戦後20年以上経ったある日、姜さんは日本人の戦友から、いくら年金をもらっているのか聞かれ、はじめて元軍人軍属に年金が支給されていることを知って仰天。だが役所にたずねるとあなたは受給資格がないとにべもない。日本国籍を強制されて「日本軍属」として重傷をおった、にもかかわらず、だ。姜さんと同じ程度の障害を持つ日本人なら現在までに約4000万円が支給されている計算になるという。 昨年、旧日本軍の軍人軍属として死亡したり、重度の戦傷病者となった在日外国人や遺族に、一時金を支給する弔慰金等支給法が成立した。戦傷病者本人に400万円、遺族に260万円を支給するという内容だが、姜さんたちの「日本人と同様に」という願いはかなわず、歴然とした格差が残った。姜さんも、それを受け取るつもりはない、という。 小泉首相が靖国に参拝することについて、永六輔さんがこんなことを言っていたのを思い出す。 「小泉さん、だったらその前に、中国や朝鮮半島、アジアの国をお回り下さい。それらの国々と、それらの国の人々に、私たちの国は何をしたのか、その報告を持って、靖国に行って下さい」 (日刊スポーツ「熱血サイト」大阪エリア版 毎週金曜日担当) |