アメリカから「悪の枢軸国」と名指しで非難された朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)。国内では不審船問題や日本人の拉致疑惑が取り沙汰されているが、その拉致疑惑問題を取材すべく、わが事務所のスタッフ・吉富有治が先月20日、神戸で有本明弘・嘉代子さん夫妻とお会いした。北朝鮮に拉致された疑いが持たれている有本恵子さんのご両親である。 ![]() 19年前、大学を卒業した当時23才だった娘の恵子さんは英国に留学。旅行先のコペンハーゲンからの手紙を最後に消息を絶った。 だが先月、日航機「よど号」を乗っ取ったメンバーの元妻・八尾恵さんが「私が有本さんを北朝鮮の工作員に引渡した」と証言したことで、恵子さんが北朝鮮にいることはほぼ確実となった。 この八尾さんの証言は新聞やテレビでも大きく扱われたが、テレビ朝日の「スーパーJチャンネル」が先月2日、有本さんと八尾さんの対面を独占的に放映したことで、拉致疑惑問題は大きな衝撃とともに世論の関心を呼ぶことになった。 いわば被害者と加害者の直接対面。有本さんが八尾さんに罵声を浴びせても無理からぬところではあるが、意外にも有本さん夫妻は彼女を優しく見守るだけだった。 吉富は夫妻にそのときの気持ちを尋ねてみた。 「私たちに会うなり土下座されて驚きました。正直、それまで八尾さんに怒りを持っていたことは事実です。人づてに『悪いことをした。ご両親に謝りたい』と語っていたことも聞いていましたが、それでも文句のひとつも言ってやろうと思っていました。でも、会って『自分も北朝鮮に残した子どもがいるが、子どものことは諦めました。事実をすべてご両親に話します』と泣いて謝る姿を見て、逆に私たちも泣くばっかりで何も言えなかったのです」と母親の嘉代子さんは語り、父親の明弘さんも「八尾さんは悲壮な決意を持ってすべてを話してくれた。いまは大事な協力者です」と言葉を結んだという。 恵子さんが行方不明になって19年。娘の捜索に辛酸をなめてきたという有本さん夫妻は、外務省に批判の矛先を向ける。「娘が北朝鮮にいることが分かり、ある政治家の紹介で外務省へお願いに行きましたが、逆に『国交がない国だから解決は難しい。それにあまり騒ぐと娘さんに危害が及ぶかもしれない。黙っておいたほうがいいのでは』と言われる始末。つくづくダメな役所だなぁと感じました」(嘉代子さん)。ムネオ疑惑で37人の処分者を発表した外務省だが、何が処分理由なのかもわからない。有本さん夫妻は10年以上前からその体質を感じ取っていたのだ。 さて、吉富の最後の質問は、いま恵子さんに会えばどのような言葉をかけますかだった。「親の反対を押し切って留学したからこんな目に会うのや。絶対怒ったる」。だが明弘さんのその目にはうっすらと涙が滲んでいた。 (日刊スポーツ「熱血サイト」大阪エリア版 毎週土曜日担当) |