◇第8回◇
どう考える 日本経済の現状
戦後半世紀、我が国は世界第2位の経済大国にまで発展した。
終戦時のあの荒廃した中から、よく立ち直り、ここまで経済を発展させた原因は何だろうか。
とにかく、ゼロからのスタートであったこと、国民の勤勉性や叡智によるところが大きかったことは間違いない。
また、我が国は、最初は軍備を持たなかったし、その後も軍事費に多くを費やすことなく、専ら国民生活の向上に主眼を置いた経済に専念出来たことは、大変恵まれた環境にあったと言えよう。
しかし、現在はバブル崩壊後不況が長く続いており、小渕、森政権は、景気回復を第一義の政策に掲げてきたし、今回の小泉政権も景気を重視していることに違いはない。
このように世間では不況不況と言っているが、これだけ長く続くと、現在の不況ということについて少し考え直してみる必要があるのではないかと思う。
ここで戦後からの我国経済の経緯をみてみよう。
昭和30年頃までは、廃墟と化した敗戦からの復興期であり、我国は着実に復興を成し遂げることができた。
それ以降は、日本経済の成長期に入った。
その原動力は、テレビ、電気冷蔵庫(当時は氷の冷蔵庫に対し電気冷蔵庫と言った)洗濯機等の普及である。
生活レベルの向上により、これらは生活必需品となった。
更に、その後もカラーテレビ、クーラー、マイカーの普及等によって、我国経済は高度成長を達成することができた。マンションの建設や宅地造成等住宅産業も脚光を浴びてきた。
しかし、今 冷静に考えると、日本経済は1980年(昭和55年)代にはある意味では成熟期に達していたと思う。
それ以降の経済成長は、戦後一貫して伸び続けた経済は これからも益々伸び続けるに違いないという錯覚がもたらしたもの、即ちバブルである。
このバブルに大きな役割を果たしたのが金融機関や不動産関係の業界であり、これに歯止めをかけるべき政府や地方自治体も、これに乗っかったということが言える。
バブル経済というのは、実態が伴わない、見せかけだけの経済成長であるが、これに国全体が踊らされたという訳である。
我国の狭い限られた国土の中では、土地の値段は益々上昇することはあっても下がることは有り得ないという神話を、ほとんどの国民は信じ、土地の価格は急速に上昇していった。
バブル期を振り返ってみると、今では考えられないような現象が起こっていた。
全てが右肩上がりの中で、土地は益々高騰し、地上げ屋の出現、銀行は土地が担保なら十分な審査もせずに将来の値上がり分まで見越して融資をした。
勤労者(含公務員)の大幅ベースアップも毎年行われ、企業は将来に備えて新規採用を増やし、新卒者の入社試験では、学生の方が企業を面接するという 今では考えられない光景も見られた。
バブルで潤ったのは、銀行、証券、保険等の金融機関や不動産業界で、製造業そのものは バブルの恩恵はそれ程受けていない。(製造業の中にも、財テク等でバブルに乗り遅れまいとした企業もあったが…‥しかし、これらはバブル崩壊後大きな重荷となっている)
理工系の学生が、金融機関に就職するという不可解な現象に、工学部の教授が嘆いていたという話はこの辺の事情をよく物語っている。
市町村等地方公共団体も、これに乗り遅れまいとして、第3セクター方式等で各地にテーマパークやリゾート施設を作るのが流行った。そのほとんど全てが失敗に終わり、地方公共団体の財政を圧迫している。シーガイヤ等はその典型だ。
バブルの後遺症は極めて大きい。その最たるものが不良債権だろう。
日本を代表するような大会社、山一証券、長銀や日債銀等が次々に破綻したことをみても、バブル崩壊が日本経済に与えたダメージが如何に大きかったかが分かる。
バブル崩壊後、歴代の政権は、景気回復を最重要課題として毎年莫大な公共投資を行ってきたが、その成果は全く挙がらなかったどころか、国の財政を大きく圧迫し、国民の将来への不安を一層かきたてる結果となっている。
このような政策の継続は、我国の将来を益々深みに陥れるだけだ。
小泉総理の言う「構造改革なくして景気回復なし」の「景気回復」という意味がよく分からないが、今は経済成長を指向する時ではないと思う。
今、最も大切なことは、バブルによるダメージから 如何に早く着実に復興?するかということこそ急務だと思う。丁度、我国が敗戦の廃墟から10年かけて復興したように…。
景気回復のために、もっと消費を伸ばす政策をとるべきだと主張する議論も多いが、これも無理な話だ。
不況と言っても国民生活のレベルが下がっているとは思われないし、おおかたの人々は、欲しいものは既に持っており、金が無いから買わないのではなく、買いたいものが無いから買わないのが本当ではないか。
国内消費は増えないのに、海外旅行は相変わらず盛況なのは、そのことをよく物語っている。
日本の高度成長期、即ち「今度はあれを買いたい…」等と言っていた昭和30年〜40年代とは事情が違うのである。
景気回復の起爆剤としてIT革命が取り沙汰されているが、これは2年や3年ではとても無理だろう。
通信速度の問題やまだまだ高い接続料金の問題等もあるし、パソコン等が生活必需品になる日がすぐ来るとは思えない。
そう考えると、当面我国には、高度経済成長をもたらす材料はないと考えるのが正しいのではないか。
更に、あと数年すると我国の人口は減少し始める。しかも若者が減り、高齢者が増えていく。
これからは、右肩下がりの時代になっていくことも予想され、それに耐え得る体制を作り上げる必要がある。
したがって、これからの経済政策は、経済成長ばかりに重点を置くのではなく、国民生活の現在のレベルを如何にして保ち、且つ安定させるかに重点を置くべきだ。(勿論、国民生活の維持安定には、最低限の経済成長は不可欠であり、これからは低くとも着実な経済成長が望まれる)
また国民も、多くを望むことができない時代が当分続くことを認識すべきだろう。
小泉政権の構造改革の中身は未だ見えてこないが、バブル崩壊の後遺症からの早期着実な立ち直りと国民生活の維持安定のための構造改革であって欲しい。
同時にまた、構造改革の過程で生ずる諸問題、特に失業問題等のセーフティネットには、万全を期してもらいたいものだ。(2001.06.15)
次回は〔第9回〕
「構造改革と規制緩和」(2001.07.01)