◇第23回◇
医療保険制度改革について(その2)
これまで明らかになっている政府の医療保険制度改革案について考えてみたい。
全般的にみると、日本医師会やこれを後押しする自民党族議員らの強い抵抗のため、今回の医療保険制度改革も後退したものになった。
医療保険制度改革案の内容を個別に見てみると
- サラリーマンらの自己負担を必要な時に 2割から3割に引き上げることになったが、すでに述べたように、保険財政が厳しく、保険料率をアップする健康保険組合が続出している現状や国民健康保険が3割になっていることを考えると、やむを得ないと思う。
しかし 実施時期が はっきりしていない。 政府は2003年度からと言っているが、自民党厚生族は あくまで必要な時と言っており、引き伸ばし作戦で抵抗の構えだ。
現に、1月24日厚生族のドン丹羽雄哉氏(自民党医療基本問題調査会長)は、法案に3割負担を明記したら、法案全体に賛成できなくなると坂口厚生労働相に申し入れ、圧力をかけている。 これに対し小泉首相は、「あんまり日本医師会の言うことを聞くより、国民全体のことを考えてもらいたい」と批判した。
全く小泉さんの言う通りだと思う。
日本医師会は、患者の自己負担増は、患者減につながるため、絶対反対であり、保険財政のためには保険料を上げて対応すべしという立場である。 ここでも丹羽氏をはじめとする自民党厚生族議員が、医師会の利益代弁者であることを見せつけている。
- 丹羽氏らの主張は、3割負担は景気回復の足を引っ張るというものだが、これは逆である。3割に引き上げなければ、保険料を更にアップしなければならない。保険料は原則労使折半なのだから、保険料の引き上げは所得税と法人税の引き上げを行ったのと同じことになり、こちらの方がよほど景気回復の足を引っ張ることになるのである。
- 2003年度から被用者保険に総報酬制を導入する、即ちこれまでは毎月の給与が保険料算定の基礎になっていたが、これからはボーナスからも保険料を徴収しようというものである。
これはサラリーマンら一般勤労者の負担増、即ち国民負担率増になること、負担と給付の公平等の面から あまり好ましいこととは言えない。
しかし、被用者保険財政の厳しい現状に鑑みると、これも導入やむを得ない。
2003年度から政府管掌健康保険の保険料率をアップすることになったが、政管健保財政の現状や多くの健康保険組合が保険料率をアップしていることからみても当然だと思う。
2002年度、診療報酬を2,7%引き下げることになった。
唯一診療側の痛みの部分であるが、遅きに失したというべきである。
しかも、診療側の純粋な引き下げ部分は僅か1,3パーセントであり、残り1,4パーセントは薬価や医療材料等の引き下げである。 健康保険組合連合会等は6パーセント位を主張していたのに、1,3パーセントとはあまりにも低い。
これまで殆ど毎年診療報酬を引き上げてきたのだから、今回の引き下げは画期的なことだと政府は言っているようだが、私はそうは思わない。
薬価引き下げ等を含めて2,7パーセントの引き下げでは、どれくらい効果があるのか、はなはだ疑問である。
あまり一般的に行われない診療部分の報酬を引き下げて、全体として平均1,3パーセント引き下げるようなことをすれば、医療費の軽減にはならないことになるし、今後監視していく必要がある。
高齢者医療の自己負担は定率1割(高所得者は2割)とし、患者負担限度額は通院は原則12,000円/月(低所得者8,000円 高所得者40,200円) 入院は原則40,200/月(低所得者15,000円 高所得者72,300円)とすることになった。 高所得者や低所得者の負担限度額に格差を設けたのは評価できる。
しかし、当初は70〜74歳は2割負担だとか、負担限度額は設けないと言われていたのが、医師会や族議員らの抵抗で後退したのである。
高齢者医療の対象を70才以上から75才以上に段階的に引き上げることになったが、老人医療費の急激な上昇の実態からすればやむを得ないのかもしれない。
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以上のような改革で、我が国の医療保険制度が維持できるとは到底思えないし、問題の先送りにしか過ぎない。
将来に亘って医療保険制度を維持するには、近い内にもっと大きな改革をやらねばならなくなるだろう。
今回の改革案で最も残念だったのは、高齢者医療費伸び率抑制制度(人口増加率や経済成長率を勘案して法律で医療費伸び率を抑制する)が実現できなかったことだ。
急上昇している老人医療費の伸びを抑えるには、この伸び率抑制制度しかないと思われる。将来必ず問題になると思う。
老人医療費の伸びを抑えることは、すなわち医者の収入を抑えることであり、医師会としては 猛烈に これに反対し、族議員と共に今回はこれを葬り去ってしまった。
医師会の政治力の強さを、ここでもまざまざと見せつけた格好だ。
莫大な老人医療費を一体誰が負担しているのか、についても忘れてはならない。
老人医療費の大半は、今不況の波をまともに被っている現役層が、老人保健拠出金として保険料の中から払っている。
このため、保険料率は上がる一方で国民負担率は上昇し、増税したのと同じ結果になっている。
政府はこの不況下で増税はしないと言っているが、増税と同じことを平気でやっているのである。
多分今の現役層が老人になった時は、今のような手厚い医療制度は受けられないだろう。
小泉総理は、今回の改革を三方一両損と言っているが、これには承服できない。
三方とは、診療側、患者側、保険者側を指しているが、患者と保険者は一般国民である。国民対診療側という構図で捉えるべきであり、三方を同列に並べるのはおかしい。
国民の側は、患者の自己負担増と保険料率アップのダブル パンチで大幅損になるのに、診療側の損はあまりにも少なすぎる。この点からも三方一両損にはなっていない。
医師会にとって健康保険制度は、金の卵を産む鶏のようなものだ。あまり わがままを通すと金の卵を産む鶏を殺してしまうことになる。
医師会の猛省を促したい。
医療保険制度改革に限らず、小泉さんが掲げる構造改革は、業界と癒着し、既得権益を守ろうとする族議員らの抵抗にどう打ち勝つかということに懸かっているようである。(2002.02.01)
診療報酬明細書(レセプト)のチェック 審査体制について
各都道府県に社会保険診療報酬支払基金という特殊法人がある。
医療機関は、この支払基金に診療報酬明細書(レセプトと言う = 一種の請求書)を提出して 診療報酬を受け取る仕組みになっている。
支払基金では レセプトを審査して診療報酬を支払うわけだが、レセプトの数が膨大なため、1枚のレセプトのチェック時間が数秒とも言われている。数秒間でチェックできるはずがない。
健康保険組合に回送されてきたレセプトを、保険者側(健康保険組合)がチェックして誤りを発見しても、それを医療機関に直接指摘して是正してもらうことはできないことになっている。
その場合は支払基金に申し出て、支払基金を通じてしか是正してもらえない。
レセプトの審査機能を社会保険診療報酬支払基金という特殊法人が独占した形になっている。( この特殊法人も厚生省役人の天下り先になっている )
このためレセプトの審査(チェック)は極めてずさんになっており、過誤請求や不正請求、更には濃厚診療の温床にもなり、医療費高騰の一因ともなっている。時々診療報酬の不正請求が摘発されるが、これは氷山の一角に過ぎない。
この不合理を例え話にすると分かりやすい。
息子(患者)が店(医療機関)で、つけで買い物をした。後日請求書が親(保険者)に廻ってきたが、親はその請求書の内容が正しいかどうかチェックして誤りを発見しても、直接その店(医療機関)に申し出ることが出来ない、取り合えず言われるままに支払わねばならないという、まことに不合理極まりない仕組みになっているのである。
これに関連し、先日 政府は、この規制を解除し、保険者側がレセプトの審査や支払を自前で行うことを可能にする方針を固めたとのことだが、これは大いに評価すべきである。
しかし、これまた医師会や族議員の大きな抵抗が予想され、政府の方針通り実現できるかどうか不透明であり、成り行きを注目したい。(2002.02.01)
次回は〔第24回〕
「ヒューズがとんだ話」(少年時代の思い出 T)(2002.02.15)
【出来事】
- 1月21〜22日 アフガニスタン復興支援会議(於東京)
- 1月21日 第154通常国会召集(会期 6月19日まで150日間)
- 1月27日 大相撲初場所千秋楽 大関栃東優勝13勝2敗(大関千代大海と決定戦)
- 1月29日 田中外相と野上外務省事務次官を更迭
- 1月29日 2001年度第2次補正予算案 関連法案を与党3党だけで衆院本会議で可決(野党はNGO 2団体のアフガニスタン復興支援会議参加排除問題をめぐる政府対応に反撥して欠席)
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