◇第57回◇
車の小話(その2)
〔中古車が新車に化けた話〕
最初に買った中古の軽自動車は、かなり活躍したが、とうとうポンコツになってしまった。
買い換えることにした。昭和45〜6年頃の話である。
今度は普通車の新車を買うことにし、各社のセールスマンを呼んで検討した結果、価格や条件から 当時日産が新しく売り出した前輪駆動の1,000CCのチェリーという車に決めた。
発注して数日経った時、セールスマンが来て、納車が少し遅れると言う。
更にセールスマン曰く 「もしよかったら、今 私が乗っている車を買いませんか。まだ1,000キロしか走っていませんので新品同様です。しかし、すでに登録済なので中古車価格でいいですよ」 と言う。
私が発注したのと同じ車種である。6〜7割の値段でいい、しかも、税金(取得税、重量税、自動車税)、自賠責保険料、登録に要する費用などは、全て払ってあるので負担する必要はないと言う。これだけでも10数万円にはなる。私はこの話に乗った。
ポンコツ軽自動車を12万円で引き取ってくれたので、新品同様の車を 実質半値で手に入れることができた。
勿論、車の調子は上々で快調に走った。
それから1年近く経過した或る冬の日、車の異常に気付いた。スピードを出してカーブを曲がる時、車内の後ろの方で 「ガリ ガリッ」 という異音を発するのである。
さっそくセールスマンを呼んで、事情を話し、欠陥車ではないかと言った。
彼は 「すぐ調べてみます」 と言って代車を置いて車を持ち帰った。
1週間後セールスマンがやって来て曰く
「調べてみたが、どうしても原因が分かりません。本社と相談の結果、新車と交換することにしました」 と言う。2〜3日後に新車が届いた。
中古車で買ったのが、新車になったわけだ。しかもこれまで税金も保険料も払わず、1年近くも ただ乗りしたようなもので こんなうまい話はないと思った。
しかし、話はこれで終わらない。
また、1年経って冬になった。
また、同じ現象が起こった。カーブを切ると前と同じように「ガリ ガリッ」という音がする。
セールスマンを呼んだ。彼は、前回と同じように代車を置いて、車を引き取って帰った。
2週間後、例のセールスマンが車をもって来た。曰く
「今度は本社工場に送って徹底的に調べましたよ。車の後部で音がするので、トランクに人を乗せて走ったりして、異音の発生源を調べました。原因は分かりました。泥除けが地面と接触して出る音でした。短い泥除けに換えましょう」と言うのだ。
最近の乗用車には、ほとんど“泥除け”なるものはついていないが、一昔前までは、車輪が泥水を後ろに跳ね上げるのを防ぐため、車輪の後に ゴム製の泥除けがついていた。
冬、カーブを切って車体が傾いた時、寒さのために硬直した泥除けが、地面と接触して、それが車体と共鳴して異音を発するのである。
原因が分かってしまえば、「なーんだ そんなことか」 と全く問題ではない。
私は 「泥除けを換えてもらうには及ばない。色々ご苦労をかけましたね」 と言って帰ってもらった。
後日、そのセールスマンには、親切にしもらったし、迷惑も掛けたので夕食をご馳走して 一杯呑ませてやった。彼は感激して、パトカーを警察に売り込む苦労話など興味ある話も聞かせてくれた。
これには、更に後日談がある。
或る日、会社の公用車(黒塗りのクラウン)に乗った時のことである。これも寒い冬だった。
後部で、私の車と同じように 「ガリ ガリッ」 と音がしたのである。
私は、運転手に その原因を説明してやろうと 「今、ガリ ガリッと音がしたね…」と話しかけた。運転手は、すかさず答えた。
「これはですね、泥除けが地面に当たって出る音です。冬寒くなるとゴムの泥除けが硬くなってこんな音が出るのです」。
さすが我が社の運転手だと思った。
だって、天下の日産の販売店が あんなに苦労してやっと原因を突き止めたというのに…。
車との付合いも、随分長くなった。もう数台は乗り換えた。
最近は、年をとったせいもあって、健康のためできるだけ歩くことにしている。
それでも、ゴルフに行く時は欠かせないし、私にとって車はやはり必需品だ。
遠出をする時は、運転席で深呼吸をして安全運転を確認して出発し、帰宅した時は、今日も無事故で帰ってこられたと、意識的に思うようにしている。
自動車は、いつ走る凶器に変身するかもしれない。
安全運転に限度はない。(2003.07.01)
次回は〔第58回〕
「教師像」(2003.07.15)
【出来事】
- 6月17日 衆院本会議で今国会の会期延長を与党3党の賛成多数で議決(6月18日までの会期を7月28日まで40日間延長)
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