◇第67回◇
辞めたくないと言った人達
今年10月、「辞めたくない」と言った人物3人が話題になった。
それは、前 日本道路公団総裁の藤井治芳氏、前衆議院議員の中曽根康弘氏と宮澤喜一氏の3人。中曽根、宮澤の両氏はいずれも首相経験者だ。
日本道路公団総裁だった藤井治芳氏は、道路公団の財務諸表をめぐる混乱を招来し、国会で追及されると答弁が二転三転する等、総裁としての適格性が問われていた。
また、7月には 道路関係4公団民営化推進委員会で 藤井総裁の更迭を求める決議が行われ、道路公団民営化のためにも同総裁の更迭は不可欠で、もはや時間の問題だと思われていた。
9月の内閣改造で国土交通相に就任した石原大臣は、初仕事として藤井総裁の更迭に取りかかった。
10月5日、石原大臣は、藤井総裁から財務諸表をめぐる問題等について事情聴取を行い、その時は、本人は 大臣が求めた辞表提出にも応じる意向を示していたのだが…。
ところが、一晩寝たら藤井氏の考えが180度変ってしまった。
帰ってゆっくり考えてみたら、何も悪いことはしていないのに、なぜ辞任しなければならないのか、納得できないと思い直したのだろう。
辞表も提出しないことになった。
予想外の進展に驚いたのは、石原大臣だけではない、小泉首相も驚いたようだし、関心を持っている多くの国民も驚いたに違いない。
やむなく、法に則って 解任手続を行うことになり、10月17日には聴聞が行われ、24日にやっと解任にこぎつけたのだが、藤井氏側は 法廷闘争などあらゆる手段を使って抵抗する構えを示している。
藤井氏の抵抗の特徴は、石原国交大臣や関係者に脅しをかけている点だ。
政治家などのイニシャルを挙げて不正を知っているぞ、バラすぞ、というわけだ。週刊誌によると 青木幹雄元官房長官や飯島勲首相秘書官の名も出たと言う。
更に 藤井氏側は、石原大臣に守秘義務は どこまであるのか、守秘義務の解除を求める等と言っているが、これも脅しの一環で、国交省や政府に揺さぶりをかけているものだ。( 守秘義務とは、公務員は職務上知り得たことを 退職後も他に漏らしてはならない義務 )
任免権を持つ所轄大臣に対し、ここまで徹底抗戦する例は前代未聞だし、民間では通常考えられない。
こんな状態では、これまでも国交省は 道路公団を、コントロールできていなかっただろうし、これからも できない。それは、天下った高級官僚達が 自由に公団を牛耳ることができるということであり、由々しき問題だ。
藤井という前総裁の場合は 特異なケースかもしれないが、この際、他の公社、公団などについても、夫々所轄の省庁が十分掌握できているのかどうか チェックしてみる必要もあるだろう。
チェックすると言っても、現役官僚が、天下った先輩官僚をチェックしても実効は挙がらないかもしれない。それなら政治が関与すべきだ。
今回の藤井氏の場合のような特異なケースをも想定して、必要なら 法改正も考えるべきだ。
自民党選対本部は 今年3月、衆院比例代表候補について 原則的に 73歳定年制を導入する方針を決定したが、この件に関して 、中曽根康弘氏(85才)と宮澤喜一氏(84才)の両首相経験者の取扱をめぐって紛糾した。( 去る11月9日の総選挙 )
小泉総裁は、73歳定年制の党内取決めについては、例外は認めるべきではないという立場を貫いた。
当初は、中曽根、宮澤両氏とも 比例代表候補にしてもらいたい意向を示していた。
小泉総裁は、両氏を 個別に訪問し、党の73歳定年制の決定に従って 立候補を辞退するよう要請した。
宮澤氏は、小泉総裁に恥をかかせるわけにはいかない、党の若返りのために協力しましょうと立候補辞退を受入れたが、中曽根氏は 頑としてこれを拒否した。
中曽根氏言い分は
@政治家として 憲法の改正、教育基本法の改正を国会議員最後の仕事として全うしたい。
A自分は 比例区の選挙名簿に終身最上位にするとの党との約束がある。これは党の公約だ。
というものだ。
@の政治家として 仕事をいつまでも全うしたいというのは、政治家の一般的な願望であって理由にはならない。
問題は、Aの比例区の選挙名簿の最上位に 終身登録するという約束があったということだ。
この約束とは、平成8年の総選挙の時で橋本総裁時代のことだ。
それは結局、自民党が安泰である限り、終身国会議員の地位を保障するということになり、有権者無視も甚だしい そんな約束自体がおかしいと言うべきである。
当時は 立候補者の地盤調整の中で、中曽根氏に 比例区にまわってもらうための苦肉の策として こんな約束をしたのだろうが、こんな理不尽な約束をした当時の総裁橋本氏の責任は 重いというべきである。
小泉総裁は、元総裁橋本氏の尻拭いをしたことになる。それでも、当時の責任者橋本氏は 沈黙していた。
終身保障するというような約束が 妥当でないことは、良識ある人なら分かるはずだ。
中曽根氏が、この約束を持ち出すのは自由だが、折角これまで築いてきた名声を 汚すことにしかならないだろう。
中曽根氏は 確かに優秀な政治家であり、国家のためにも貢献したし、現在もまだ十分政治活動はできるかもしれない。
しかし、85才と言えば もういい年だ。自民党の比例区定年制73才を12年も超えている。
もう辞め頃ではないかと多くの国民は思っているだろう。
本人や中曽根擁護派は、小泉総裁が 突然大先輩中曽根氏を訪ねて勇退を要請したのは、礼儀を欠くと主張するが、これは当たらない。
小泉総裁が、自ら わざわざ訪ねて行ったのだから、十分礼儀は尽くされている。
「小泉総裁に恥をかかせるわけにはいかない」と言って 勇退に応じた宮澤氏の態度は、当然と言えば当然だが、中曽根氏に比べれば はるかに立派だ。
党で決めた定年制については、例外を設けて 特定の人物に特権を与えるべきではないし、情にとらわれることなく 毅然として例外なしを貫いた小泉さんの姿勢は評価したい。
しかし、もとをただせば、衆院比例代表候補73歳定年制を決めた時に、中曽根氏等の例外扱いを曖昧にして、問題を先送りしてきたところに問題がある。
問題の先送りや場当たり主義は、必ず後でツケが廻ってくる。(2003.12.01)
次回は〔第68回〕
「2003年を顧みて」(2003.12.15)
【出来事】
- 11月15日 社民党 両院議員総会で新党首に福島瑞穂氏を選出 幹事長は当面空席
- 11月15日 横綱武蔵丸(32)が引退
- 11月19日 第158特別国会召集(会期は11月27日まで)
- 11月19日
衆院議長に河野洋平氏(自民党) 同副議長に中野寛成氏(民主党)を選出
- 11月19日
第88代首相に小泉純一郎氏を指名
- 11月19日 第2次小泉内閣発足(全閣僚再任)
- 11月23日 大相撲九州場所千秋楽 大関栃東が13勝2敗で優勝
- 11月29日 情報収集衛星H2A6号機打ち上げに失敗 地上指令により爆破
- 11月29日 政府の金融危機対応会議 足利銀行の経営破たんを認定 一時国有化を決定
- 11月29日 イラク(ティクリート付近)で日本人外交官2名と運転手(イラク人)がテロ襲撃に遭い死亡
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