◇第80回◇
どうなるイラク問題
イラクでは、昨2003年4月、米英による武力攻撃で フセイン政権は崩壊した。
その後 昨年7月には イラク統治評議会が発足し、来る6月末までに、イラク人による暫定政府に主権を移譲することになっている。
暫定政府は、既に6月1日に発足しており、大統領には、統治評議会議長のガジ・ヤワル氏(イスラム教スンニ派)、首相にはイヤド・アラウィ氏が就任している。
しかし、イラク人による暫定政府への主権移譲が順調に行われるか、仮に主権移譲が行われたとしても更なる混乱が予想される。
これを見越して、暫定政権側が、主権移譲後も米軍主導による多国籍軍の駐留を強く求めているのは頷ける話だ。
アメリカの思惑通りに順調にいったのは フセイン政権の崩壊までで、その後 治安が これ程までに悪化するとは、予想外だった。
治安の悪化とは、テロの続発だ。テロの標的は、米英軍に止まらず、国連施設や警察署、ホテルや車両等 広範囲に及び我々の目には 無差別的に見える。自爆テロは多発し、人質誘拐事件も起きている。
しかも テロ事件は、毎日どこかで発生し、事件がない日が珍しいくらいだ。今のイラク社会を混乱に陥れ、イラク復興を妨害する何ものでもない。
去る5月17日には、イラク統治評議会議長アブドルザハラ・オスマン氏がテロの犠牲になったが、暫定政権発足後の6月12日と13日には、政府要人( 外務次官と教育省文化局長 )が出勤途中に相次いで銃撃され、死亡するという事件も発生している。
このような治安悪化を どう見るべきだろうか。
大儀なきイラク戦争を始めた米英のイラク占領に対する イラク国民の抵抗だ。全ての悪の根源は、米英に在りと言って、テロ行為に理解や同情を示す考え方がある。
私は この考え方には、賛成できない。フセイン政権を打倒した米英のイラク戦争には、大儀があったと思う。これは(第72回)「自衛隊のイラク派遣論争」で述べた通りである。
もし、フセイン政権が今も存続していたら、大量破壊兵器を持っているかもしれないフセイン政権に対する国際社会の不安は、今だに払拭できなかったはずだ。
また、テロ行為は、目的や手段の如何を問わず、全て凶悪犯罪であり、正当性があるテロなど在り得ない。
自分の命を犠牲にする自爆テロを崇高な行為と言う者もいるが、無差別に人を殺傷することに変わりはなく、この意見には賛成できない。
イラクのテロを、第2次大戦時のレジスタンスのように捉えて、これを正当化する意見もあるが、正当化されるレジスタンスとは全く性格が異なる。
当初、イラク人の不満は、アメリカの治安対策が不十分であることにあったようだ。
それが次第にエスカレートして、単なる窃盗や強盗の類に止まらず、反米感情が高まり、テロの多発という収拾困難な事態に立ち至っている。収容所に於ける米軍による虐待なども明るみに出て、反米感情に一層拍車をかけた。
イラクの現体制破壊を狙うテロの頻発は、これまで フセイン独裁政府によって抑えられてきた各部族や集団の主導権争いが、背景にあるものと思う。
アメリカ占領下の統治評議会では、アメリカ寄りの新政権ができる。これには、蚊帳の外に置かれた部族たちは黙って見過ごすわけにはいかない。反米を掲げて、テロや武力を使ってでも阻止するということになるのだろう。
これにアルカイダ等のテロ集団が扇動介入するという図式だから、このテロを鎮圧するのは容易ではない。
アメリカも、困難な事態に遭遇したものだ。
反米感情が高まる中で、元々意見が違うイラクの全部族を 納得させるような政府を作ることは 不可能だ。
アメリカがイラクから手を引けば、対立は表面化し 益々混乱するだろうし、内乱状態になることも考えられる。これまた アメリカの無責任な行為だと 国際的な非難を受けることになるだろう。
また一方、アメリカに代って国連主導でやるべきだという声も強い。
在るべき姿としては国連主導が筋だし、今回(6月8日) 国連安全保障理事会で、イラクの主権移譲に関する新決議案が採択されたことはよかった。
しかし、新決議案が全会一致で採択されたとは言え、依然 アメリカ主導のやり方には、フランス、ドイツ等の反撥は根強いものがある。
現に、フランス、ドイツ、ロシア等は、多国籍軍には参加しない姿勢をくずしていない。
これまでの経過から見ても、これからのイラク問題に、国連が一枚岩で対応できる態勢にはない。
イラク人による暫定政府への主権移譲が治安回復に繋がるとは考え難く、逆に治安が悪化することも考えられる。
アメリカが戦後の見通しを誤ったことは事実だ。
戦死者も多数に上っているが、戦争中の死者よりも 戦後の死者の方が、はるかに多くなっており、これからも増えていく。
軍事費や駐留費も更に嵩んでいく。アメリカは最大の困難に直面していると言っていいだろう。
アメリカは、イラクに反米政権ができるのは絶対に避けたいだろう。しかし、力によって親米政権を作るのは無理だ。
アメリカは自らの国益を考えるなら、暫定政府への主権移譲を契機に、方向転換を図るべき時期に来ているように思う。
イラク問題は、できるだけ国連に委ねていく方が アメリカにとっては得策のように思われる。
しかし、そうなれば 今の国連の無力ぶりから見て、イラクの治安は更に悪化するだろう。
イラクが、やっと静かになったと思ったら、またフセインのような独裁者が強権政治を行っていたということは 十分あり得る話だ。(2004.06.15)
次回は〔第81回〕
「年金制度改革をめぐって」(2004.07.01)
【出来事】
- 6月5日 年金改革関連法 参院本会議で自民 公明両党などの賛成多数で可決成立 民主 社民両党は欠席
- 6月5日(日本時間6日) 元米大統領ロナルド・レーガン氏 死去(93才歳)
- 6月6日 関東甲信 東海 近畿地方 梅雨入り
- 6月7日 東北 北陸地方 梅雨入り
- 6月8日(日本時間9日) 小泉首相 サミットに先立ち米ブッシュ大統領と日米首脳会談 於米ジョージア州シーアイランド
- 6月8日(日本時間9日) 国連安保理 イラクの主権移譲に関する新決議案を全会一致で採択
- 6月8日(日本時間9日) G8主要国首脳会議(シーアイランド・サミット)開幕 10日(日本時間11日) まで
- 6月14日 特定船舶入港禁止特別措置法 有事関連7法 参院本会議で自民 公明 民主3党などの賛成多数で可決 成立
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